探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
呪井じゅじゅのライブ会場はすぐに見つかった。
確かにちょっと看板がわかりにくい。だが地下に降りる階段は一つしかないので問題なかった。
会場の中は意外にも広く千人くらいは収容できそうで既にかなり埋まっている。
少し調べたところ、VR空間とはいえ移動は手間なので多くのアイドルVのファンは配信で観るらしい。
私は仮想ウィンドウを呼び出し、今日のライブ情報を確認する。
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呪井じゅじゅ定期単独公演
じゅじゅの儀式 part.15
配信視聴待機中 12051人
チケット 予約・当日共に4500円
(VR配信チケット 3500円、動画配信チケット 3000円)
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VR上の配信チケットは立ち位置固定ではあるものの、ほぼライブ会場に来ているのと同じ状態でライブが観られるのであまり現地まで足を運ぶ理由はない。
それでも現地で観たいという人間が1000人近くいるというのはなかなかの人気者だ。
もし本当に彼女がコラボ相手を引退に追い込むような何かトリックを使っていたとして、それをあばいた暁には再び大炎上が待っているだろう。
―― 一万数千人のファンを露頭に迷わせるだもんなぁ。めちゃくちゃ叩かれるだろうなぁ。無実であってほしいなぁ。
私はちょっぴり憂鬱な気持ちになりつつ、ライブが始まるのを後方の端っこで遠慮がちに待つ。
しかし呪いというニッチなテーマのVでこれだけのファンを抱えられるまで上り詰めたというのは不思議に思える。
V殺しの噂が客寄せになっているのだろうか。
そしてライブの開演時間になる。
会場が暗転し、スポットライトの中に呪井じゅじゅが現れる。
ライブ専用衣装なのだろう。いつもの配信とは違う黒でまとめたゴシックロリータ衣装にヘッドドレスを付けている。
こうして実物をVR空間で見ると動画の印象よりも小柄で私と同じくらいに感じた。
このサイズ感は現地に来ないとわからないものだ。
「本日は私の儀式にお越しいただきありがとうございます。これは呪いの儀式ですので、呪われてもいいという方のみこのまま視聴を続けてください」
彼女がそう言うと会場がわっと湧く。
「俺のことを呪ってくれー」
「呪われてもいい!」
「じゅじゅー」
そして歓声が落ち着きかけた時、怒号が響く。
「じゅじゅ! お前を殺す! よくも俺のナオちゃんを呪い殺したな! 絶対に許さない。ステージから降りてこい! ぶっ殺してやる!」
叫んでいる男性のアバターは固有のデザイナーによって作られたものではなく、グリモワールの初期に選択できる汎用タイプのものだった。
手に拡声器を持っているということ以外にはまったくといっていいほど特徴がない。
そして案の定AI警備員に拘束され、ライブハウスの外に放り出されてしまう。
「お騒がせしてすみません。彼は呪われてしまったようです」
じゅじゅがそう言うと会場はどっと笑いが起きた。
私にはその冗談があまり面白くは感じられなかった。
「それでは最初の曲――『呪縛』」
私は踵を返し、あの摘み出された男性を追うことにした。