探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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VRゴースト編
ニコ&リンの日常


「TJは面白い講義受けてるんだねぇ」

 

 『書籍編集の理論と実務』という講義が終わったところなのだが、私の隣には西園寺凛ちゃんが座っている。

 所謂、モグリという奴である。

 リンちゃんは文学部の講義で面白そうなのがあったら見学したいというので、モグリ歓迎の講義に誘ったのだ。

 

「私、他にもオカルト文学とか食の世界史、映画の歴史もとってるよ」

「なにそれ! 文学部ズルいー。めっちゃいいじゃーん」

「教育学部はオモシロいのないの?」

「国文学科とか社会学科とかはそうゆー面白いのありそうだけど、数学科はあんまりないんだよー。あと教職あるからさ、教育学系で単位埋まっちゃうってのもあるしさー」

「あー、なるほどね」

 

 そりゃ、文学部の何の役に立つのかさっぱりわからない謎講義に魅力を感じるだろう。

 学部学科がちゃんとし過ぎてるというのも考えものだ。

 

 私たちは荷物を片付け、とりあえずアテもなく外に出る。

 なんとなくカフェテリアに行くような感じだ。

 二人共サークルに入っていないので、空き時間や講義終わりに時間を潰せる場所の選択肢は限られている。

 

「リンちゃんは先生になるの?」

「そうかも。あたしもさー、小説家になりたいっていう気持ちはあるんだけどね。でもやっぱりそれを仕事にするっていうイメージは湧かないかな。先生やりながら、副業でときどき本出せたらいいなーって」

「なるほどねー。でもそれが現実的っていうか普通の発想だよね」

 

 小説一本で食っていくというのはこの出版不況のご時世かなり難しい。

 

「TJはこのままVTuberやりながら小説書いて生きてくの?」

「難しい質問だね……正直、最初は小説の宣伝のつもりだったわけだから、本が売れたらVTuberは引退してもいいかなって思ってたし、逆にVTuberやってても誰も小説買ってくれないならそれはそれで続ける意味もないかなって思ってたんだけど……」

「やめないでしょ?」

「そうなんだよね。ニコちゃんのことが好きって人が増えてきて、私ももうちょっとやってみるかって気持ちになってる」

「ニコちゃん面白いからねー。あと事件が起きた時、ニコちゃんにしか頼れないっていうのもあるよね」

「運営に頼れよ」

 

 揉め事は私じゃなくて運営に通報すればいいのだ。

 売名行為のためにやってるだけなんだから。

 

「そういえば、今度出すホラー小説の予約始まったんでしょ? どう?」

「どうもこうも。全然予約入ってないよ」

 

 そう、自作の『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』は藤堂ニコ名義ではない。

 つまりVTuberとしての知名度もない状態なのだ。

 小説投稿サイトのホラージャンルでは歴代の作品の中でもけっこうな上位にランクインしているが、得体のしれない新人の本はなかなか買ってもらえない。

 

「面白いのにね」

「と思うんだけどね。大手の出版社から出るから、そのブランド力と装丁がすごくお洒落で可愛く仕上がってるからジャケ買いに期待かな」

「パッケージできたんだ、見せて見せて」

 

 私はスマホで自作の装丁をリンちゃんに見せる。

 

「表紙の女の子、TJにそっくりじゃん。めっちゃ可愛いね」

「私が可愛いんだから、私の容姿と同じ設定のヒロインのイラストは必然的に可愛くはなってしまうよね」

「ウケるー」

 

 リンちゃんはそう言って笑った。

 

「売れるといいね。あたし、予約しとくね」

「見本誌もらったら1冊あげるよ」

「ううん、自分で買う。TJにはもらってばっかりだから。本くらい買って応援したいんだ」

「そっか、ありがとう」

 

 私たちは文学部キャンパスに隣接するカフェテリアにちょうどテーブル席が空いているのを見つけ、席を確保する。

 

「そういえばさ、エラ君とはその後どう?」

 

 私はちょっと恐る恐る質問する。

 リンちゃんのことだ。

 しれっと「別れたよー。なんか合わなかったー」とか言いかねない。

 

「仲良くしてるよー。大学卒業したら一緒に住みたいなって思ってるんだー」

「あぁ、良かった。もう別れてるとかあるのかと思った」

「運命の人だよ。そんなわけないじゃん」

「いや、知らんけど。運命とかさ。まぁでもうまくやってるならよかった」

「藍ちゃんも一緒に住めるマンション借りたいねって言ってくれてるし、今は就職活動中」

 

 そういえば、エラ君は日比谷藍ちゃんというのであった。

 

「ホストはやめたんだ?」

「エラ君のアバターって、あれホストクラブ側が用意したものらしくて返しちゃったから、もうエラ君でもないんだよね。VRで仕事するにしてももうエラ君ではないよ」

「そっか。そういうパターンもあるのか」

 

 私が藤堂ニコでなくなる日もいつか来るのかもしれない。

 でも、それはずっと先のことだろうし、想像もつかない。




『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』の書籍化作業が一段落ついたので例によって見切り発車で書き始めました。
時々書かないと忘れてしまうのが怖いなと思いまして。
手が空いた時にちょっとずつのんびり更新したいと思います。

あと書籍の予約をしていただいた皆さんありがとうございます。
前回の特別編公開後にAmazonのランキングが上がって嬉しかったです。
(それでだいぶ執筆のモチベーション上がりました。)

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