探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
「あ、急だけど、ジャンキーお姉さんここ来るって。昨日帰国したみたい」
私のスマホに連絡が来た。
「そもそも海外にいたんだー? VRだとリアル側がどこにいても関係ないからわかんないね」
「海外のカジノ転々としてたらしいよ」
「それでWikipediaに消息不明って書かれてたんだー」
「配信者ってわけでもないしね。大きな大会に出るわけでもなく海外のカジノのVIPルームで大富豪相手に戦ってたら、そりゃ生死不明ってなっちゃうよね」
「でもなんで帰国してくるの?」
「リンちゃんに話があるらしいよ」
リンちゃんに何か相談があるらしい。
詳しくは聞いていないが、名探偵の私にはまぁだいたい用件は予想がつく。
その提案を飲むかどうかリンちゃんを私の意見で誘導したくないので、今は何も言わないが。
「あたしさー、今ちょっと引っかかることあるんだけど言っていい?」
「なに?」
「TJはさ、リアルの姿はなるべく他人に見せないんじゃなかったの? 藍ちゃんに会うの拒否したじゃない」
「まぁ……相手による」
「ひどー。全然信用されてないじゃん」
「私はそういう奴だよ。ってか、エラ君は無理よ、マジで。嘘が吐けなさすぎる。よくあれでホストなんかやれてたと思うよ」
リンちゃんは斜め上に視線をやって、何かを考えている。
「たしかに…………。藍ちゃん、正直者だからねー。TJの言うことにも一理ある」
「今はちょっと嫌だなって思ってるけど、別に一生会わないとかじゃないよ」
「そうなの?」
「そうだね……たとえば二人が結婚するとかってなったら、エラ君に姿見せたくないから結婚式行かない、とかは言わない」
「ホントに!? 嬉しい! TJは友人代表の挨拶もしてね!」
「それは嫌だよ。そういうのは牧村由実に頼めよ」
「マッキーにも頼むよ。二人でやってよー」
「はいはい。もし本当にそんな日が来るならね」
正直、面倒くせーという気持ちが大半だが……本当にそんな日が来たらいいなとは思う。
本当にそんな日が来たら……ウェディングドレスが二人になるのか?
それとも日比谷藍はタキシードとか着るのか?
そのへんはよくわからん。
二人の関係性については謎が多い。
私もマッキーもプライベートについて無理に聞き出そうとしないというのもある。
なんだかんだコミュ障が三人集まっているような関係性なのだ。
しかも、私とマッキーに恋愛経験はない。
「あ、着いたって」
「ジャンキーさん?」
「リアルだから築地あさひさんだけどね」
「そっかそっか」
カフェテリアの入り口で辺りを見回しているのを見つけ、私は手を挙げて合図する。
おそらくリンちゃんの髪の色で気づいたのだろう。
にっこり笑ってこっちに近づいてくる。
高そうな服着てんな。
流石にチャイナドレスではないが、デキるOLって感じのアイボリーのセットアップを纏っている。
「こんにちは。ジャンキーお姉さんだよ」
「こんにちはー、リンです」
「リアルだから築地さんって呼ぼうってさっき話したところなのに……藤堂ニコこと、東城です」
私はそう言って肩を竦める。
築地さんは椅子を引いて私の隣に腰掛ける。
「わたしはどっちでもいいよ。リアルの姿隠してないから」
「はぁ。まぁでは築地さんで」
「おっけー。でもあなたたち二人並ぶと麻雀打ってた時と印象まったく変わらないね。特にリンちゃん。リアルも頭ピンクなんだ。東城ちゃんはやっぱりVTuberの姿はデフォルメというかキャラ感あるからリアルはちょっと違うね」
「トレースしたわけじゃなくて、イラストレーターさんに作ってもらったのでそうですね」
「飲み物とってきますよ」
私が築地さんの分のコーヒーを買って戻ってくる。
「で、今日はリンちゃんに用事があるんですよね?」
私は築地さんに話しを振る。
「そうそう、今日はスカウトしに来たのよ。リンちゃんを」
「えー、あたしはもうカジノでハイレートギャンブルとかやらないですよー」
「違う違う。そうじゃないのよ」
築地さんは手を顔の前でパタパタ振る。
「一緒に動画チャンネル立ち上げないかなって思って。お金賭けなくてもいいんだけど、麻雀とかポーカーとかそういったゲームを一緒に遊んだりするの」
「あたしと一緒に?」
「そう。こないだの大会の時にリンちゃんに才能を感じたのはあるんだけど、リンちゃんみたいに今までやったことなかった子が新しく麻雀始めたりするのって素敵だなって思って。もうお金いっぱい持ってるし、自分がトッププレイヤーになったらあとは、これまでプレイしてきたゲームの競技人口増やす活動とかしてもいいかなって。初心者講座から、リンちゃんが数学的視点で確率とか戦術の話とか解説してくれたりしたらすごく良いチャンネルになるんじゃないかって思うのよ」
築地さんの言うことはわかる。やりたければやればいい。
私はリンちゃんの意志を尊重する。
「いいですよー」
「え? いいの?」
「うん、いいですよー。面白そう。あたしももっと勉強したかったし」
リンちゃんは意外と判断が早いのだ。
今日いっぱいから明日中くらいに私のデビュー作『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』のカバーイラストとデザインが公開になる予定だそうです。
(今、公開用の画像をデザイナーさんが作ってくれているとかでそれ次第ですが)
こちらのTwitterアカウントで公開予定ですので、ぜひデザインだけでもご覧いただけると幸いです。
https://twitter.com/shosetsu_w