探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私、リンちゃん、築地さんの三人で映画館に向かう途中……。
「で、これ何? どういう意図?」
私は面倒くさくなって、犯人の一味に正解を訊いてしまう。
「すごいなぁ、マッキー」
「ね、ホントにマッキーちゃんが言ったとおりのタイミングでこの質問きたね」
二人がキャッキャしている。どうやら私に犯行がバレるのも折り込み済みだったらしい。
なんかムカつくなー。
「マッキーが主犯なのね?」
「さて、どうかなー」
「いや、さっき二人が言ってたからね。今更そこ隠しても隠れないから。何やってんの?」
「それはあたし達の口からは言えないことになってるんだよねー」
築地さんも「ねー」って言ってる。この人、一回り歳上のはずなんだけど、完璧に大学生に馴染んでて全然違和感ないな。
「ひょっとして東城ちゃん、名探偵なのにわからないのかしら? わたし達が何を企んでいるのか」
「マッキーはここら辺で、この心霊現象についてはバレるけど、何をしたいのかはTJには絶対わからないから、そのまま映画館まで連れて来いって言ってたよー」
「え? わかる要素ありました?」
私は頭をフル回転させて今回の件に関連しそうな記憶を引き摺り出して整理していくが全然ピンとこない。
「えー、ホントわかんない。これ映画館着くまでが制限時間ってことだもんね。うわー、悔しい」
かといって、フェアな探偵はわざとゆっくり歩いたり、立ち止まったりはしないんである。
そして……。
「到着ー」
「入ろう入ろう」
「くそー、なんなのよ、一体ー」
ニヤニヤする二人に挟まれる形で映画館に入っていく。
休館日の札がかかっていて、ポスターを掲示するガラスケースにもシャッターが降りているが鍵はかかっていなかった。
そして、重い防音扉を開けて中に入ると。
スクリーンには見覚えがあるVTuberが映し出された。
「楽しんでいただけたかな? ニコ君?」
「マッキー、それ引退したんじゃなかったの?」
怪盗系Vtuberの有瀬ルパン二世ちゃんである。中の人は牧村由美。
「今日はTJにちょっとしたサプライズを仕掛けるために一日限定で復活したのさ。グリモワールのサブアカは消したけど、容姿のデータは残っていたからね」
「むー」
私は腕組みをして、スクリーンを睨みつける。
「さて、最後のチャンスだよ。今日の謎は解けたかな?」
「三人が結託して、私を連れ回して何かの時間稼ぎをしてるのはわかってる。でも、私を連れ回してる間に何をしていて、なんでここに呼ばれたかはわかんない」
「それはつまり……?」
「……むー……うーん……言いたくない」
「あれれ? フェアな名探偵じゃなかったのかい?」
「あー、もう! 降参! わかんない」
「では、正解を教えてあげよう! スクリーンに注目したまえ!」
そして、劇場内が一瞬真っ暗になる。
3
2
1
3カウントの後表示されたのは……。
「東城早菜ちゃん・藤堂ニコちゃんお誕生日&新作出版おめでとう!」
「は?」
あぁそうか。
今日は……4/24だ。
私の誕生日で、小説の発売日だ。
ライトが点くと、バースデーソングが流れ出す。
スクリーンの左右からマッキー、リンちゃん、築地さん、そして三橋真琴さんをはじめとした"ふぁんたすてぃこ"の中の人達がケーキとラッピングされた箱をワゴンで押してくる。
スクリーンが切り替わり、画面には自宅をお誕生日仕様に飾り付けたぴーちゃんが映し出させる。
私は階段を登ってステージまで上がっていく。
「お誕生日おめでとう、TJ。ビックリしたっしょ?」
悪そうな笑顔の親友が勝ち誇ったように言う。
「ビックリした。負けた」
「TJは人の善意には気づかない女だからね。誕生日当日に露骨にやってもバレないって自信あったんだ」
「なんだよ、その分析ー」
「怪盗のメンタリズム。また怪盗は引退するけどね」
みんなが口々に祝いの言葉を贈ってくれる。
「どうしたのー? TJ怒ってる? 嘘ついちゃってごめんね。パーティの準備できるまで引き留めておかなきゃいけなかったから」
リンちゃんが申し訳なさそうに言うが、別に怒ってない。
「怒ってない。嬉しい」
「でも、なんか眉間に皺寄ってるよ?」
「TJは照れ屋だからね。こういう時、素直に喜べないのよ」牧村がいらんことを言った。
うるさい。
私はちょっと泣き虫なのだ。
気を抜いたら泣いちゃうじゃないか。
でも、みんなありがとう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ひとまずこれをもって第二部一区切りとしたいと思います。
『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』の発売日が4/24に決まり、同時にニコちゃんの誕生日の設定が生まれた時に、このお話を4/24に公開したいなと思って書き進めてきました。
なんとか着地できてよかったです。
今、書店さんに行けばニコちゃんにスパチャ投げられますので、よろしければ『よみかの』をお買い上げいただけますと幸いです。
またネタを思いついたら第三部も書きたいなと思っています。
著者自身ニコちゃんや登場キャラのことを気に入っていて、まだ書きたいという気持ちはありますので、完結っていうものはなく今後もちょこちょこ手が空いたら書いていくつもりです。