探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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アイドルV殺人事件編
藤堂ニコの日常


 ――なんか、最近マンネリなんだよなぁ。

 

 藤堂ニコとしての収入はそれなりの額にはなっている。

 大学に通い、夜にちょこちょこ配信をすればバイトをせずとも余裕で生きていける。

 奨学金も前倒し返済できそうだ。

 ただここ一ヶ月ほど大きな事件もなく、小説のネタになるような出来事もない。

 小説を書いていないのだから、Vtuberとしての活動もあまり意味がないような気がする。

 

 とりあえず『人狼』や『ウミガメのスープ』といったVR推理ゲームで自分の推理力が他のVよりも優れていることを証明できるパフォーマンスで呪井じゅじゅの事件からの新規ファンには喜んでもらえているし、勝った時にはスパチャももらえる。

 

 ――でもなぁ、このままでいいのかなぁ。ほどほどの事件でも起きないかなぁ。

 

 私は大学に行く準備をしながらそんな不謹慎なことを考える。

 準備といっても手抜きの化粧をして着替えて、タブレットと財布を鞄に放り込んだら終わりだ。

 今日は紙の教本が必要ない日なので鞄は軽い。

 

     ※

 

「あ、TJ」

 

 大教室の端っこで気配を消していると牧村由実に話しかけられる。

 だいたいいつも彼女の方から話しかけてくる。

 私はいるのに気づいても自分からはあまり話しかけない。

 そして東城だからという理由でTJなるあだ名をいつの間にかつけられていた。さらに彼女のこともあだ名で呼ぶことを強制されている。

 

 ――こういうとこだろうな。コミュニケーション強者たるゆえんは。私にゃ無理だ。しかも美人ときた。

 

「うん……おはよう。マッキー」

「TJもこの授業とってたんだ」

「それ私の台詞でしょ。私は出席率100%だし、今日初めてマッキーいるの知ったわ」

「この授業って出席点あるんだっけ? テスト一発勝負じゃないの?」

 

 めちゃくちゃ大学生みたいなことを言う。

 テストで60点以上獲れば、評価はともかく単位はもらえるのだから出席する理由などないと彼女は言っているのだ。

 

「出席は単位取得自体には関係ないよ」

「じゃあ、なんで毎回こんな午前中の講義出てるの?」

「いや、別に単位が欲しくて講義受けてるわけじゃないから。私、勉強したくて大学来てるし」

「TJってそんな真面目なんだ」

「なんで正しく学問に励んでいる方がそんな蔑んだ感じで見られなきゃいけないのよ」

 

 私はちょっとムッとしまう。

 

「全然蔑んでないよ。なんか周りにそういう子いなかったからちょっとビックリしちゃって」

「勉強したくないなら大学なんて来なきゃいいじゃん」

 

 マッキーは心底驚いたという顔をしている。

 当たり前のことを言って驚かれるこっちの方がビックリだわ。

 

「なんだろう……そうだよね。親に高い学費払ってもらって何してんだろうな、わたし」

「いや、知らないけど。遊んでるんじゃないの? あと私は学費も自分で払ってるから。奨学金だけど。この講義、出席とらないから代返はしなくていいし……ノートとかレジュメほしいなら後で送ってあげるよ。興味ないなら遊びにでも行けば? 時間の無駄だと思ってるんでしょ?」

「ううん、いい。ちゃんと自分で勉強する。自分が恥ずかしくなってきた。最初に単位登録した時はこの講義面白そうって思ってたんだ」

 

 私はちょっと厳しいことを言い過ぎたかもしれないとも思うが、大学に対しても、この大学に入学したくても落ちてしまった人達に対しても彼女の言動は失礼だと思うので謝ることはしなかった。

 これで嫌われるなら構わない。

 勉強好きなのに学費を払うのが辛くて作家としてやっていけるならと、中退を覚悟していた身としては親に学費を払わせて授業をサボるだなんてとても許せることではない。

 

「隣座っていい?」

「……いいよ」

 

 彼女は居眠りすることもスマホをイジることもなく真面目に講義を最後まで熱心に聞いていた。

 

 講義後――。

 

「TJ、この後ヒマ? カフェ行かない?」

「マッキー、立ち直り早いね。あんだけ叱られて気まずくないの?」

「別に。だって友達じゃん。それにわたし今日から講義全部出てフル単獲ることに決めたし。勉強以外の時間にしっかり遊べばいいんだもんね。そう決めちゃったんだから落ち込む理由もうないじゃない?」

「いやー、そのポジティブさ羨ましいよ」

「わたし奢るからさ。行こ行こ」

 

 こうして私たちは学内カフェテリアへと向かうのだった。


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