探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私達は並んで歩き出す。
といっても、本体はVRカフェのふかふかの椅子に横たわっているだけだ。
軽くフットペダルを踏み込んで、アバターを移動させているだけなのだが、なんとなく歩いているような感覚はある。
「で、今日はどんなアイドル観るの?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
聞いてない……はず。
私はちょっと前の記憶を引っ張り出すがやはり聞いていない。
そもそもVR上でのライブであることすら知らされていなかったのだ。知るわけがない。
「聞いてないねぇ」
「そっかそっか。今日観るのは三組の対バンなのよ。"ふぁんたすてぃこ"っていうファンタジー系アイドルグループと、サイボーグアイドルのP2015、ナイトメアリーズっていうホラー系アイドルグループ」
「なんか聞き覚えあるグループあるな……マッキーの推しはどれなの?」
「めっちゃマイナーだけど知ってるの?」
「いや、知ってるというか聞いたことあるような……」
「絶対気のせいだと思うよ。今日みたいな平日だとVR空間と配信あわせて30人とかしかファン来ない子たちだからね」
何故人気がないということをそんな胸を張っていえるのか。
――いや、でも知ってると思うんだよなぁ。なんで知ってるんだろ……。
「ってか、説明聞いてもわかるようなわからんような感じなんだけど、どんなグループか教えて? ファンタジー系とかホラー系とか言われてもさ」
「えっとね。VtuberでこうやってVR空間でアイドルやるっていうのは現実のアイドルじゃできないことをやるためにこうしてアバターを纏うわけじゃない?」
「まぁ、そうだね」
「今日観るのは実在の人間だとどれだけお金をかけて整形してもその姿になれないような特殊な見た目とか演出のステージパフォーマンスする子たちなのよ。"ふぁんたすてぃこ"はアバターがエルフとか妖精とかマーメイドで、P2015は身体がほとんど金属のロボットみたいな見た目、ナイトメアリーズはキョンシーとか吸血鬼とかって感じ」
「あー、わかった。私、"ふぁんたすてぃこ"知ってるわ」
「なんで知ってるの?」
「エルフの子見たことある」
というか、話したことがある。
呪井じゅじゅのライブに行く途中に声をかけてくれた子だ。
ライブハウスの場所教えてくれたエルフの子が所属しているグループが”ふぁんたすてぃこ”だったはずだ。
ライブ行くという約束をしていたのに、なかなか行けずにいたがちょうどよかった。今日その約束を果たすことができる。
――でも、今日の私って藤堂ニコじゃなくて、TJなんだった。
「ライブとかも観たの?」
「ううん。道教えてもらった。その時にアイドルやってるって言ってた。フライヤーデータもらって今度ライブ行こうと思ってたんだよ。ちょうどよかった」
「そんなことあるんだねぇ」
私もビックリだ。半分忘れかけていたし、もう私の人生において登場することはない人物だとすらちょっと思っていた。
「もうそろそろ着くよ。この坂上ったところにあるネオグラッドっていうライブハウスなんだ」