探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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再会、そして――

 私がマッキーから色々とレクチャーを受けているとライブハウスが暗転し、ステージ上が光輝いた。

 アイドル本人が光っている。宇宙人が降臨したかのようだ。

 

 ――あれがP2015か。2051だっけ? いや、2015よね。

 

「ピーちゃん!」

「カッコいいー」

「今日もイカしてるー!」

 

 ステージ前方で数人が声を張り上げ、私とマッキーも拍手をする。

 客は少ないがフロアの熱量は高い。

 熱狂的なファンはいるようだ。

 

 私は配信の方の画面も視界の端に呼び出す。現地のライブチケットを購入した人間はライブ配信とアーカイブも見れるのだ。さらに動画の一部を切り抜いて公開することまで許可されている。

 いくら地下だからといってサービスしすぎだと思うがまずは拡散してもらってなんぼということだろう。

 わからないでもない。Vtuberとしての活動も小説もまず知ってもらうところからだ。誰にも知られなければ存在しないのと同じだ。

 

[≪¥2015≫Pちゃんがんばれー]

[ポンコツロボット、かわいいぞー]

 

 視聴者数は少ないが、配信で観ているファンもいるし投げ銭も来ている。

 

 ――2015円かぁ。2525円の私としては親近感覚えちゃうなぁ。P9999とかにしておけばよかったのに。

 

「ミナサン、コンニチワ。ピーニーマルイチゴーデス。ピーチャンとオ呼ビクダサイ」

 

「ぴーちゃーん!」

「うわ、ビックリした」

 

 隣の金髪ロリが最前列のファンと一緒に声を上げたことに思わず驚いてしまう。

 

「私はナイトメアリーズのオタクだけど、他のグループの時もちゃんと盛り上げたいからさ」

「あぁ、なるほど」

「お決まりの文句とかコールとかは知らないけど、ステージ上からこう呼んでとか、こうしてっていうのがあったらちゃんとやるの」

 

 そういうものらしい。

 ちょっと恥ずかしいが、今の私はモブだ。

 使い捨てのVRカフェアカウントの名無しであって、探偵Vtuber藤堂ニコでも女子大生の東城でもない。

 設定から声もちょっと変えてハスキーにしておく。

 これなら声を出しても恥ずかしくない。

 

「ワタシガ『ハイ』と言ッタラ『ピーチャンカワイイ』デスヨ」

「はーい」

 

 私は他のオタクに混ざって元気よく返事をする。

 そして、彼女は絶妙なロボット/サイボーグ感を醸し出しながら歌う。

 けっこう上手い。

 

「ハイ!」

「「「「ぴーちゃん可愛い!」」」」

 

[ぴーちゃんかわいい]

[〈¥2015〉ぴーちゃん可愛い!]

 

 フロアもコメント欄も今まさに一体感で包まれている。

 楽しい。

 可愛い。

 これはハマりそうである。

 ………………………

 ………………… 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 しっかりP2015の持ち時間30分を堪能し、余韻に浸っている中ステージチェンジが行われる。

 

「楽しいっしょ?」

「楽しい。ぴーちゃんのSNSフォローした」

「ぴーちゃんは本当に中の人とかいないAIじゃないかっていう噂あるんだよね」

「ホントに?」

「噂ね。キャラ作りしっかりしてるのと、あのピュアさがね。彼女、絶対売れると思うのよね」

「ぜったい売れるわぁ」

 

 私はすっかりぴーちゃんのファンである。

 あと2組もこんな楽しいライブがあるなんてここは夢の空間だろうか。

 

「次は”ふぁんたすてぃこ”なんだ」

「エルフのフローラちゃん知ってるんだよね」

「あー、そうそう。ちょっとだけね」

 

 ステージに森のような木々と小さな泉が現れる。

 こういうVR視覚効果が使えるのはグリモワールならではだ。

 

 ――ぴーちゃんは自身がメタリックで派手だからあえて凝った演出を使ったりはしなかったのかな。

 

 そして三人のアイドルが現れる。

 エルフ、マーメイド、妖精だ。妖精は身長50センチ程度で空中を飛んでいる。

 

 ――なるほど。あーゆーのも有りなのか。

 

「みなさん、こんにちはー。わたしたち……」

「「「ふぁんたすてぃこです!」」」

 

 ステージがわっと盛り上がる。

 

「美しい森のエルフ、フローラです。今日はみんなを癒しちゃいます!」

「フローラ―」

 

「輝く海のマーメイド、コーネリアです。魅惑の世界へお連れします」

「コーネリアー」

 

「透き通る空のフェアリー、リリーです。みんなの心をふわふわさせちゃうぞ!」

「リリー」

 

 みんなで名前を呼ぶのだなーということに気付いてコーネリアからはしっかり名前を呼ぶことができた。

 さて、どんなパフォーマンスを見せてくれるのかと心躍らせていたのだが……私が彼女たちのパフォーマンスを観ることはなかった――。

 

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 アイドルの一人が悲鳴を上げ、苦悶の表情を浮かべたまま固まってしまったのだ。

 VRヘッドセットの向こう側で何かよくないことが起こったことだけはライブハウスの全員が感じ取っていた――。


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