探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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エルフが知っていること、知らないこと

「えっと、すみません。なんだか変なことに巻き込んでしまって」

 

 フローラが頭を下げてくる。

 ファンタジー世界の住人がこんなシケたワンルームにいるとコラ画像のようだ。

 しかも探偵コスプレ少女に頭を下げている。

 

 ――なんか頭身高いんだよなー。フローラって。だから変な感じ。

 

「いえいえ、むしろ事件解決こそが私の本来やるべきことですからね。そもそも事件なのかどうかわからないですけど」

「事件……だと思ってます」

 

 フローラの目はアバターではあるものの確信に満ちた光が宿っていた。

 

「まぁ、私も同意です。何かがリアル側で起こってライブ継続が不可能になるトラブル自体はあるんでしょうが、機器側に強制的に弾き出されるほどのダメージが心身のどちらかにあったわけです。それでちょっとした事故でした、ご心配なく、ということはありえないかなと。しかも本人からはなんのコメントもなく」

「たしかにおっしゃる通りです。流石、探偵ですね」

「いや、このくらいは誰でも。まぁ一番手っ取り早いのは中の人の無事を確認することなんですが……ここに来たということは?」

「はい、運営はなにも教えてくれません。たぶん、グループも解散になると思います……」

 

 そうだろうとは思っていた。

 ただ逆に運営が何かを隠そうとしているということがわかっただけでも一つの収穫だ。

 

「リリーさんに何があったのか、なんで脱退ということになったのか教えてくれない、ということですか? 他に何か訊いたことはありますか?」

「そうですね。実は私たちは実際にリアルで顔を合わせたことがないので、本人のリアルでの名前や連絡先を尋ねたんですがそれも個人情報保護のためと教えてもらえませんでした。SNSや私たちが知っているメッセージアプリには一つも反応はありません。あの時からVRにログインもしていないみたいなので」

「なるほどなるほど」

 

 VRアイドルとはいえまさかグループメンバー本人に一度も会うことなく活動していたとは予想外だった。

 リリーは特殊タイプのアバターで中の人がどういった体型だったのかなど外見からのヒントも得られない。

 実際の肉体と大きくかけ離れた体型のアバターにすると現実に戻ったときに距離感――特に手足の――に混乱が生じる。

 手を伸ばしても届かないとか、階段の上り下りで踏み外すとか。

 ゆえにVR空間で活動する場合はなるべく実際の体型に近く設定するのが良いとされている。

 リリーはレアなパターンだ。ゆえに他のアイドルと差別化できていたというのはあるかもしれない。

 そういえばマッキーも現実の姿とはかなり違うが、VRカフェから外に出ても平然としていた。そのあたりは慣れやもともとの体質のようなものもあるのかもしれない。

 

「もう一人のマーメイドの子もリリーさんに会ったことは?」

「ないです。ただ、私と彼女はもともとリアルでも同じ事務所にいたので面識はあります」

「リアルでも芸能活動してたんですか?」

「鳴かず飛ばずでしたが地下アイドルをやってました。おそらくリリーもどこかの売れない地下アイドルが再起をかけて……ということだったのかなと」

「なるほど。わかりました……なにもわからないということが」

「すみません」

「いえ、フローラさんが謝ることはありません。私も何があったのか知りたいと思っています」

 

 リリーは一人だけリアルでの正体がわかっていない。そして何があったのか、事務所は隠している。

 私はリリーの正体と彼女の身に起こったことを探る。

 

「もしリリーに起こったことがわかったら……その……成功報酬というのは……」

「あー、まぁもう25000円いただいてますし、それでいいですよ。そもそも25000円で依頼受けるとか決めてるわけでもないんですけど。なんかもうそれでいいかなって」

「そんなことでいいんですか?」

「いいですいいです。もうV界隈で起きてる事件に首突っ込むのが私のコンテンツなので。別に調査費用もかからないですし、何かお金かかってもスパチャとか広告収入で回収できますからね」

「やっぱりニコちゃんって人気者ですよね」

「いや……私は人気者ってことではないんじゃないですかねぇ。さっきの生放送もご覧になってたんですよね。なんかファンのやつら、アンチと紙一重なんですよ」

「あれは愛だと思いますけど。誰にも見られないよりずっといいです」

「ですかねぇ」

「あと一つだけいいですか?」

 

 フローラはまだ何か言い忘れた情報があるのだろうか。

 

「あぁ、はい。なんでしょう?」

「ニコちゃんは私よりぴーちゃん推しなんですね」

 

 私はしどろもどろになりながら、フローラも推すと告げた。


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