探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
[メンバーシップ限定配信]
「えー、メンバーシップの皆さん、こんばんは」
実は私は自分のYouTubeチャンネルのメンバーシップ特典として、クローズドでの捜査の進捗報告と情報提供の呼びかけを行っている。
まだ今ほど注目される前はオープンでの情報提供を呼び掛けていたが、プライバシー保護のためであったり、万が一にも冤罪が発生してしまう可能性を考慮しなければと思ってのことだ。
この限定配信はVR空間グリモワール側からのVR機器制御で情報漏洩――録画、録音――が防げるので、被害者や加害者のためにも都合がよかった。
当然、KADOKAWAには相応の金額を抜かれている。
だが私のチャンネルの特性として他人のプライバシーや犯罪に近しい行為にも踏み込むのでそういった秘密を共有できるということで、これまで特に事件らしい事件も起こっていないのにそれなりの人数の加入と課金があるので、メリットの方がはるかに大きい。
どうやらみんなゴシップが大好きらしい。
私はフローラとの約束をもとにリリーと思しき殺人事件の被害者の身辺調査を行うことをメンバー限定で告げ、情報提供を呼び掛ける。
「この記事を見てください。リリーが消えたあの日に起こった事件です。ふぁんたすてぃこは売れなかった地下アイドルを集めて結成されたグループだそうなのですが、リリーが消えた日に殺害された元地下アイドルのキャバクラ嬢の方です。記事によると中野区在住の日高つばめさん、25歳と書かれています」
私は記事のデータを画面の端に追いやり、話を続ける。
「彼女が本当にリリーなのか。そして、そうだとしてなぜ殺されなくてはならなかったのか……その真実を突き止めたいと思っています。なので、もしVR上でのリリーの知り合いやリアルでの日高さんの知り合いに取り次いでくれそうな人がいたら教えてもらえると助かります。あとはどんな些細なことでも構わないのでなにか情報があれば随時DMいただけると助かります」
[任せとけ]
[俺の情報網を駆使する時が来たようだな]
[〈¥2500〉俺には資金提供くらいしかできない]
「よろしくお願いしますね」
※
――さて……私はもう一個やらなきゃいけないことがあるんだよなぁ。
情報が集まるまでの間に私は調査用のもう一つの姿を作らなければならない。
ファンの皆さんが聞き込みを手伝ってくれているとはいえ、自分の目と耳で確かめなければならないことや、自分のアイカメラで証拠を抑えなければならないことも出てくるだろう。
――どういう姿にしたものかな。
性別から体型からリアルな自分や藤堂ニコとかけ離れた姿にするという手もあるが、喋り方や仕草から女性だとバレる可能性もある。
――やっぱベースは女の子にしとくのが無難かな。
VR上でも女性の姿をしているとナメられやすいというデータもあるのだが、逆に話を聞きだしやすいというメリットもある。
不思議なことに中の人が男性でも女性タイプのアバターだと少し弱気になるし、女性が男性アバターを使うと歩き方も堂々としてきたりするらしい。
人間は見た目に精神状態も左右されるということなのだろう。
なんとなくわからないでもないというか、想像に難くない。
容姿の違和感によって、精神状態がフラットでなくなり、推理という一番の武器の切れ味が悪くなることは避けなければならない。
私はリアル寄りのイラストレーターのデザインの女性という方針を固め、自分の新たな捜査用の姿を作っていく。
――よし、こんなもんかな。けっこう可愛く出来た。
黒髪ロングヘアに少し彫りが深めの美人系の顔立ちだが、身長はそこまで高くしなかった。少し引き締まった感じの体型でシルエットはなかなかバランスがいい。
アンダーリムの眼鏡もオプションでつけておいた。
――ちょっと優等生っぽいかな。眼鏡はシチュエーションにあわせて外したり、変えたりしよう。
そうこうしているうちに情報も集まってきたようだ。