探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私が外に出るとフローラからDMが来ていることに気付いた。
『フローラです。実は先ほど事務所と話をしたのですが、やはりリリーは亡くなっているそうです。リリーが無事かどうかわからないままだと活動を続けられないと言ったところ、彼女は自分の意思で脱退したのではなく亡くなったと。ただ、それ以上は彼女のご家族の意向もあり私たちにも言えないし、それで納得できないなら残念だが解散だと。彼女がもうこの世にいないということはとても残念で悲しいことですが、それでも私はまだ彼女のことを知りたい。亡くなる前にわかってあげられなかったことを少しでも拾い集めて、納得したいんです。事務所には内緒で捜査を続けてもらえますでしょうか?』
私は彼女のメッセージを読むと、すぐにこのまま調査を続けると返答した。
そしてリリーが実際に亡くなっているということで捜査の範囲がやはり急激に狭まった。
あのVR機器からの強制ログアウトのダメージ、そして死――。死亡ニュースに最初に目をつけたのは間違ってはいなかったらしい。
もちろん彼女の死を否定できる材料を探したいとは思っていたが、事務所がそのような嘘を吐く可能性は低いように思われた。
逆ならありえた。
本当は亡くなっているのにフローラやコーネリアにショックを受けさせないために実は生きているがもうアイドルを続けられるコンディションではないと一時凌ぎの嘘を吐くという可能性は十分に考えられる。
もちろん、お見舞いに行きたいと言われたり、今回の依頼のように調査されてバレるリスクも大きい。
だが生きているのに死んでいるという嘘は事務所側にメリットがないように思われる。
本当に亡くなっている前提で調査は続行すべきだろう。
※
”ふぁんたすてぃこ”のライブやトーク配信の動画を観ながら電車に揺られていると、あっという間に中野に着いた。
思っていた以上にショーとしての完成度は高く、あのまま活動を続けていたら売れていたかもしれない。
そんなことを考えながら店へと向かう。
メイドコンカフェ『冥途の土産屋』は意外にも中野駅から近い好立地にあった。
テナントが入っているビルも入るのに抵抗がない程度には新しい。
とはいえ、私は血液のリズムが狂っているかのような錯覚を覚えるほどには緊張していたし、脚にも力が入らない。パフォーマンスは明らかに低下している。
とはいえ、今日一日限りの社会科見学だと自分に言い聞かせ、なんとか勇気を絞り出してエレベーターに乗った。
たかがバイトの体験入店程度でこんな状態になるとは思いもしなかった。
自分がコミュ障である自覚はあったが脚が震えるほどだとは。
これでは就職活動時の面接にも支障がありそうだ。緊急ではないがいずれは対策を考えなくてはならない。
それがわかっただけでも収穫はあった。
エレベーターが開く……ともうそこは店内だった。
――廊下とかお店のドアとかなく、エレベーターがそのまま店につながってるのか!
私はその造りに衝撃を受けた。
さらに――メイドたちから一斉に「おかえりなさいませ、お嬢様ー」と声をかけられ後ずさる。
一瞬、手が『閉じる』ボタンに伸びかけたが、意外とメイドたちが可愛くないというかはっきり言ってイマイチのレベルであることに気付き、一気に冷静になった。
マッキーというプロのモデルを近くで見過ぎたせいか、ここのメイドたちを見て『あ、こんなレベルでかわいいってちやほやされるんだ。じゃ、私でもいけんじゃね?』とかいう、失礼極まりない考えが浮かび、その自分の性格の悪さに思わず『どんだけ失礼なんだよ、私は!』とかいうツッコミが浮かび、自分で笑ってしまったのだが、その笑顔を愛嬌ということにしてヘラヘラしながら「バイトの面接できましたー」と言えたところで緊張は消え去った。
「あ、体験入店の子だ。こっちですよー」
メイドの一人に控室に案内される。
店は思いのほか狭く、カウンターが8席とテーブル席が2つでギリギリだった。
奥の控室もあまり広いとは言えない。
控室にはスーツの男性が一人座っていた。やせ細っているが温和そうで嫌な印象は受けない。
ヤクザのような店長が出てくるのだと思っていた。
「体入の子連れてきましたー」
「ありがとうございます。では、ホタルさんはお仕事に戻っていただいて大丈夫ですよ」
「はーい」
案内してくれたメイドさん――ホタルさんは戻っていく。
「では、お掛けください」
「はい」
私は勧められるがままパイプ椅子に腰かける。
「店長の高林です。本日はよろしくお願いします。えーっと東城さんですね」
「はい、よろしくお願いします」
「早速ですが、今日は体験入店ということであそこのロッカーにメイド服が入ってますので……Sサイズで大丈夫そうですね。Sサイズを着て
カウンターに入ってください。一応、2時間くらいで声をかけますので、もうちょっと働きたいなと思えばいていただいて結構ですし、もうわかったということであればお帰りいただいても結構です。明日以降も働きたいと思っていただければ、入れる曜日と時間の相談をしましょう」
「えーっと」
「あぁ、あとこれですね。今日の体験入店のバイト代は先に渡しておきます」
店長に封筒を渡される。私は中身も確認せずに手に持ったまま首を傾げる。
「なんというか、面接ってこういうのなんですか? もっと志望理由とか訊かれて、やる気なさそうなら帰らされたりするのかなって……」
「まさか。猫の手も借りたいくらい忙しいですからね。基本的には全採用です。まぁ……あまりこういうことは言いたくないですが、よっぽど容姿がひどくない限りは」
「そういうものなんですね」
「えぇ、そういうものです。でも、一応聞いておきますか。どうしてうちの店で働こうと思ったんですか?」
私は意を決した。今だ――。
話を引き出すための嘘も電車の中でしっかり練ってきている。緊張さえ解ければ私は冴えた人間なのだ。
「地元の先輩がここで働いてるって言ってたんですよ。それでお店の名前覚えてて……」
「へぇ、どの子ですか? まだ働いてるのかな」
「最近、連絡取れなくてちょっとどうしてるかわからないんですけど、日高さんっていう」
「え?」
店長は明らかに狼狽している。
私はその顔をじっと見つめる。
「大変言いにくいんですが、彼女は亡くなったんですよ……」
「え?」
私は絶句する……フリをする。
――知ってる。
「それは……その……なんでかご存知ですか?」
「ニュースにもなったのでご覧になったら詳しく書いてあると思いますが、交際相手の男性とのトラブルで刺されたそうです」
「そうですか……」
「どうしますか? 体験入店やめておきますか?」
「いえ……それは先輩の働いていたお店なので体験だけはしたいと思うんですが……先輩のお話もう少しだけ聞かせていただいてもいいですか?」
「もちろんです」
私はひとまず想定通りに話が進んでいることに安堵した。
ここでの会話次第ではカウンターで同僚のメイドや客に訊くというリスキーな行為をパスできる。
今、自分がやっていることは最低なことなのかもしれない。死者の知人を騙ることが良いであるわけがない。
だが、これからを生きるフローラのためにも必要なことなのだと自分に言い聞かせる。
「あなたがどのくらいの仲だったのかはわかりませんが……あまり面白い話ではないかもしれません」