探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私は自宅に戻り、考えをまとめ始める。
――たぶん、とんでもない思い違いをしていたんだ。でも……。
おそらく推理は外れていないはずだが、それでもなぜリリーがこんなことになったのかはわからない。
もう少しだけ調査をする必要がある。
だがその前に私の元に集まったリリーのVR側での情報を精査する。
メンバーシップ限定だと集まる情報量自体は少ないが、課金するほどのファンからの情報提供ということもあり信ぴょう性が高いものが集まる。
やはり推しに貢献したいという気持ちはありがたい。
私は情報処理能力は高い方だと思うが、それでも一つ一つ真偽をある程度判断しながらだと読むにも時間がかかるし、精度の高い嘘が多数混ざってくると推理にも支障が出る。
今回はそもそもリリーがメンバーとすらあまりリアルについて話していなかった上に、VR上でもアイドル活動以外に何か大っぴらにするというタイプではなかったため、想定通りに情報は少なかった。
ただ一つ気になるものがあった。
今夜、リリーのファンが有志で本人不在のお別れ会を開催し、それの様子を配信するというものだった。
本人に直接別れを告げることができなかったため、そういった形をとるらしい。
通常、リアルにしろVにしろアイドルの引退の際は、卒業公演のようなものがあり、それを儀式としてお互いに新たな道へと進むものであるが今回は突然のことだったので開催できなかったのだ。
お別れ会はフローラやコーネリアのファンや、これまでライブに来たことがなかった在宅ファン――といっても、そもそもVのライブなど客も全員肉体は在宅なのだが――も遠慮なく来ていいということなので私はサブアカウントで向かうことにした。
※
お別れ会といっても、小さな会場でライブ映像を流しながらファン同士で雑談をするくらいのものだった。
認知されているファンは個別にマイクの前でリリー宛てのコメントを読み上げたりはしているが、特に強制されるようなこともない。
私は他のファンに混ざって聞き耳を立て、情報を収集していく。
「タムラさん、最後の日来なかったな」
「まさかあんな対バンがいきなりラストになると思わないじゃん」
「それな」
「やっぱあの人がリリーに何かしたんじゃねーかな」
「しー、みんな思っててもそれ言わないんだから」
「いや……でもさ」
「タムラさん、リリーの中の人がどんな人かすげー知りたがってたからな」
「ストーカーじゃん」
「でも、リリーもそんな迷惑そうな感じでもなかったからなぁ」
「でも前のライブではなんかちょっとモメてなかった?」
「ちょっと無神経なこと言ったのかもな。タムラさん、アバターはイケメンだったけど、中身おっさんだったじゃん」
「デリカシーはないタイプだったよな。まー、俺たちもだけど」
リリーについての情報をまとめると――。
・非常に真面目でアイドル活動に対しては真摯的だった。
・ファンサービスも熱心でファンの満足度は高かった。
・ただし、ファンの数自体は少なかった。
・そして少ないファンの熱量は高く、中でも一人のファンであるタムラは常に"ふぁんたすてぃこ"のライブに来ていて、リリーの熱烈な追っかけだったが、あの事件があったライブの日は見ていないし、それ以降も見た者はいない。
・その前のライブの特典会で二人は何やら口論をしていたようだったが、周囲に内容は聞こえていなかった。
・周囲のファンははっきりとは言わないが、熱狂的なファンが何かしたとは思っているとのことだった。
――なるほど。
結局のところ消去法でしかないのだが……私はおそらく真相に辿り着いた。
私の推理ではリリーの行動、そして事務所がとった選択のすべてに説明がつく。
だが、事務所がなぜあのリリースを出し、フローラとコーネリアにちゃんと真実を伝えなかったのかにも理由がある。
それを私の一存で依頼主だからといって伝えていいのだろうか……。
リリーとフローラ、どちらに寄り添うかで私自身の行動も変わってくる。
「あまり気は進みませんが……彼女の化けのガワをはがすことにしますか」