探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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怪盗からの挑戦状

 藤堂ニコとしてネット麻雀の配信をしている時―― 一通のDMが届いた。

 あの怪盗Vtuber有瀬ルパン二世からだ。

 

「うわ、本当に送って来ましたよ。だる」

 

[なんだなんだ]

[何か来たん?]

[事件か?]

 

「事件っちゃ事件です。解決する気ないですが。まー、せっかくなんでここでみんなで見ますか」

 

[おー]

[楽しみー]

「(^◇^)」

「〈¥2525〉」

 

 ――なんのスパチャ? まぁ、ありがたいけども。

 

 ルパンからの挑戦状はわざわざテキストに加えて音声データで読み上げてもくれていた。

 丁寧なやつだ。

―――――――――――――

「挑戦状」

はじめまして、ボクの名前は有瀬ルパン二世という。

以後、お見知りおきを。

実は前々から君には注目していたんだ。他人の秘密を暴いて金儲けをする仲間としてね。

なのに、探偵なんて正義の味方面してるなんて恥ずかしくないのかな?

 

さて、用件を言おう。

ボクと対決したまえ。賭けるのはお互いの個人情報だ。

勝った方が相手の身分証のデータを獲れる推理ゲームをしよう。

君が参加するなら、それだけで200万円差し上げよう。

どうだい?

 

他人の秘密を暴いて利益を得ておいて、自分の秘密は暴かれたくないなんて卑怯なことは言うまいね?

勝負を楽しみにしているよ。

 

怪盗系Vtuber有瀬ルパン二世

―――――――――――――

 

「面倒ですねぇ」

 

 これは先に自分だけで見て破棄すべき内容だった。

 最後の「他人の秘密を暴いて利益を得ておいて、自分は拒否するのか」という一文が問題だ。私がどう思うかは関係ない。はっきり言って論理のすり替えである。だが、リスナーたちはその通りだと思うだろう。

 かなり勝負から逃げにくくなった。

 怪盗の挑戦から逃げるというのは負ける以上に探偵&ミステリー作家としてのブランディング的なマイナスが大きい。

 

 

【有瀬ルパン二世】

[そういうなよ。自慢の推理力を見せつけてボクの正体を暴いてみせなよ]

 

[お、本人来てるぞ]

[やれやれ]

[ニコちゃん頑張れー]

 

 本人が来てるということはあの挑戦状を私が出さなければこの場で宣戦布告するつもりだったのだろう。

 こういうゲームを仕掛けてくるということは必勝法があるに違いない。

 本当にフェアな戦いなど挑んでくるわけがない。

 そういうことを一瞬で見抜く力こそが推理力なのである。

 

「とりあえずルールだけ聞いておきますか。音声通話しましょう」

 

【有瀬ルパン二世】

「いいだろう」

 

 彼女に招待コードを送り、音声を繋げる。

 

「で、どういうことをやるんですか?」

「やる気になったかい?」

「なるわけないでしょう。乗ってきたと思ったら大間違いですよ。ただルールを聞いて本当にフェアな対決をしようとしてるのか確かめたいだけですよ。ルール聞けばだいたいどういうつもりかわかりますからね」

 

 そう。もしルール説明の段階で卑怯な手段を取ろうとしているとわかれば、ここで一気に吊るし上げてやるのだ。

 ルールに穴があればそこを突いて勝負を無効にしてやればいい。

 

「よし、じゃあ説明しよう。まず君はアキネーターというのを知っているかい?」

「知らないです」

「まぁ、詳しくは後で調べてもらうとして、要するにAIに質問をするゲームなんだが、自分が心に一人の人物を思い浮かべる。そしてAIに当てさせるというものなんだ」

 

 アキネーターとやらは知らないが、今の説明でやりたいことはだいたいわかった。

 

「なるほど……お互いに自分自身の個人情報でそれをやろうってことですね」

「そういうことだ。お互いに本名、住所、年齢、学歴、職業、家族構成といった個人情報を質問で当て合う」

「でも、嘘吐けますよね。もしあなたの本名がロドリゲスだったとして、私が『あなたの名前はロドリゲスですか?』という質問して正解でもあなたはNOと言えるわけです。ゲームとして成立してませんね」

「そこは安心してほしい。ゲームのジャッジAIに依頼する。完全中立かつ情報保護が完璧なAIにそれぞれ個人情報がわかる公的書類を提出して、質問に対して嘘を吐けばジャッジAIがペナルティを課す。どうだい?」

「まだ納得がいきません。たとえば『あなたの本名はなんですか?』という質問をすればゲームは終わりです」

「いや、そこも安心してくれ。質問はイエスかノーで答えられるもののみとする。嘘でなければ『どちらでもない』という返答もOKだ」

 

 アキネーターとウミガメのスープを足したようなルールというわけだ。

 ゲームのルール自体は今のところフェアに思える。

 

「このゲームはどうなったら終わりですか? お互いの個人情報を暴きあって刺し違えるまで終わらないんじゃないですか?」

「そうだね、それでもいいんだが……相手の個人情報を3項目先に明らかにするか……相手が降参したら終わりでいいよ。ただし、降参した側は相手に1000万円と身分証明書のコピーを渡す。降参した場合は身分証明書の情報は獲られたとしても、公開はしないということでどうだい?」

 

 相手が自分の本名をはじめとした表に出されたくない情報に近づいてきたら降参してもいいというわけだ。1000万と身分証という人質と引き換えに。

 

「なるほど……必勝法はなさそうな気はします。かなり効率がいい絞り込み方はありそうですが」

「そうだね。まぁ、実を言うとこのゲーム、ボクもやるのは初めてなんだが、最初に東京在住かという質問をしてイエスと返ってきたら一気に範囲が狭まるし、名前も鈴木や佐藤といったメジャーな苗字から潰していくということもできる。質問のやり方次第ではかなり少ない質問数で相手の名前や住所、勤め先や学校を突き止めることはできそうだよね」

「やったことないといっても、あなたは私の個人情報を暴ける自信があるわけですよね?」

「絶対に勝つ自信はあるよ。君に秘密を暴かれる側の気持ちを教えてあげよう……」

 

 絶対に勝つ、その言葉を聞いて私は決意した。

 

「その勝負受けます。もう一度聞きます。絶対に勝つ自信があるんですね?」

「あぁ、絶対に勝てる」

「わかりました。勝てるものなら勝ってみてください」

 

 私には必勝法があるとは到底思えなかったが、彼女は口を滑らせた。

 きっと何か裏があるのだ。必ずそれを暴く。

 

 化けのガワを剥がしてあげましょう。


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