探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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探偵 vs 怪盗

 私は藤堂ニコとして指定されたVR空間内の指定されたスタジオに向かう。

 探偵系Vtuber藤堂ニコになってから、何度かこういう機会はあったが、今日ほど面倒だと思ったことはない。

 ルパンが言うところの自分たちは同じ存在だとかいうのは何馬鹿なこと言ってんだとしか思わないし、自分の秘密が暴かれる恐怖とかそういうことではない。

 別種の嫌悪感だ。

 

 指定されたスタジオは入った瞬間に屋外に出たのかと錯覚した。

 夜のカフェテラスだ。屋内席は作られていないらしい。

 屋外席の一つを選んで腰かける。

 時計塔が見える。

 ロンドンがモデルなのだろう。

 探偵と怪盗が珈琲を飲みながら夜のカフェで論争する。

 悪くない。

 視界の端には『配信中』の文字が表示されている。

 どうやら既に私の姿は全世界に配信されているらしい。

 配信画面を仮想ウィンドウで呼び出すと同時視聴は2万人を超えていた。

 先日のイケメン俳優の暴露配信で彼女のチャンネルは随分と注目されているようだ。

 

「お待たせしたね」

「いいんですけど、遅れてくるのは一般的に探偵の方だと思いますよ」

「でも遅れてこないところが君の変に真面目なところ出ているよね」

「私は優等生なんですよ。それが気に食わないんでしょうけど」

「気に食わない? まさか。ボク達は同じ穴のムジナだ。それを自覚してもらって友達になりたいだけさ」

 

 彼女が向かいに腰掛けるとウェイターが現れる。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 どうせVR上のものだ。なんだっていい。

 

「コーヒーをください」

「……えっと、ボクは……カフェオレをもらおう」

 

 本当に飲むわけじゃないんだから、スッと決めろと思うが、一応ロールプレイに付き合うと決めた以上はあまり視聴者を興醒めさせるメタ発言は控えるべきだろうと口をつぐむ。

 しかし、そもそも相手の個人情報を当て合う狂気のメタゲームなのだ。どうでもいい気もする。

 

「飲み物が届いたらゲームスタートだ。楽しく遊ぼう。どちらが先に質問をスタートするかコインで決めよう。裏と表、どちらがいい?」

「表」

 

彼女がコインを放り、手の甲で受け止める。

 

「表。ニコ、君が先行だ」

「はぁ……まぁどちらでもいいですけどね。申し訳ないですが、私はダラダラやる気はありません」

「そういうなよ。1000万払ってすぐに降参なんてしたら、君の探偵ブランドも台無しだろうし、そもそも払えないだろ? お互いにギリギリまでやろうじゃないか」

「私はさっさと降参するという意味で言っているわけではありません」

「じゃあ、なんだっていうんだい?」

 

 私が答えようとしたところでウェイターが飲み物を運んでくる。

 

「お待たせいたしました。こちらを置いたところでゲームスタートです。お互いに相手の個人情報を引き出す質問を交互にしていただきますが、その返答はイエスかノーかどちらでもないかだけ。私が嘘かどうかを判定いたします。相手の重要な個人情報3項目を明らかにするかどちらかが降参したらゲームセット。ただし、降参でゲームが終了したら1000万円の罰金です。よろしいですね?」

 

  私とルパンは黙って頷く。

 

[ニコの中身がオッサンだったら笑うな]

[ルパンこそボクとか言ってるし、中身は男じゃねーの?]

[ブスじゃなきゃいいな]

[顔写真出るわけじゃないからな]

「名前と住所わかれば、顔もすぐ特定されるだろ]

 

 コメント欄は好き勝手なことを言う者で溢れている。

 

「では、ゲームを開始してください。先攻は藤堂ニコ様」

 

 私は仮想のコーヒーを一口だけ飲む。

 嘘のコーヒーでも口の中に苦味が広がった。

 

「ひとつ……予言をしましょう」

「予言?」

「私がする質問は一つだけです。それで決着がつく」

 

 長い沈黙が流れる。

 ルパンは今私が言ったことが真実かどうかを頭の中で考えているはずだ。

 だが、彼女が何を考えようが勝負はもうついている。

 結果がひっくり返ることはない。

 

「そんなバカなことがあるかな?」

「はぁ……あなたは本当にバカですね」

「どうかな? やってごらんよ」

 

 彼女は半信半疑といったところなのだろう。

 気が進まないがさっさと終わらせてしまおう。

 

 

 

「では、私の最初で最後の質問です…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたはマッキーですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[なんだ、その質問?]

[ニコが狂ったか?]

 

 有瀬ルパン二世は何も言わず俯いている。

 しばらく経つと、ウェイターの姿をしたジャッジAIが回答を促す。

 一定時間の経過でそうするようにプログラムされているのだろう。

 

「ルパン様、ご回答を」

「……………………降参する」

「では、この勝負は藤堂ニコ様の勝利となります」

「そうですか。どうでもいいけど。あと、私はお金はいりませんよ。私が降参してもあなたもきっとそう言うつもりだったでしょう?」

「あぁ」

 

[なんだなんだ?]

[意味がわからん]

[説明しろよ!]

 

「リスナーの皆さんに対して簡単に説明しておきましょうか。要するに彼女、有瀬ルパン二世は私のリアルの友人だった、ということです。ま、要するに最初から私の正体を知った上でイカサマゲームを仕掛けてきてたんですね」

 

 マッキーは静かに顔をあげる。

 

「いつから気づいてたんだい?」

「気づいた、というか違和感を持ったのはあなたが必ず勝てると言ったからですね。このゲームに必勝法はありません。ただ、唯一の例外があります。それは最初から相手の素性がわかっているパターンです。答えから逆算すれば上手く質問内容をコントロールして相手より先に正解に辿り着くことができます。そしてどうやって事前に素性を知るかですか、私の場合は配信中やVR空間内での発言で身バレしている可能性はゼロです。私はそもそも決して身バレしないように注意してグリモワールで配信をしていますし、ミスが一つもなかったと断言できます。私の記憶力は知っているでしょう? つまりVの私の正体を事前に知るには本人から聞くかリアル側で気づく以外にありえないんですよ」

 

 そう、私はそのことに先日のリリーの正体を犯人が知った理由をそう推測したのを思い出したのだ。

 私自身は誰にも正体を明かしていない。さらに私は自分の発言の一つ一つを思い出すことができるが中の人の正体がわかるような発言は一つもしていないと断言できる。そして、私の正体にリアルで気づく可能性がある人物に一人だけ心当たりがあった。

 

「でも、どうしてボクの正体に行き着いたのかわからないな。他の知り合いの可能性もあっただろ?」

「ありません」

 

 私はきっぱりと告げる。

 

「なぜならあなたは私のたった一人の友人だからです。あなたが思っている以上に私は他人とかかわることも、会話を交わすこともないんですよ。リアル側で私の正体に気づく可能性がある人物はあなた以外にいない。私が得意にしている消去法です」

 

[なんかサラッとすごいこと言ったな]

[友達少なそうとは思ってたけど、マジだったか]

[〈¥252525〉]

[勝ったのに負けたみたいだな]

 

「思い返してみれば、最初に言葉を交わした瞬間からあなたは気づいてたんですね」

「あぁ、君の声や話し方の癖はリアルでもほとんど変わらないからね。わかるよ。僕はね、君の動画再生数が二桁の頃から観てたんだ」

 

 そういえば私はボイスチェンジャーを使っていないのだった。あまりにリアルで他人と話さないのでそんなことにも気づかなかった。

 あとこいつ、私のことめっちゃ好きだな。

 

「ちなみにですが、もしあなたがリアルで私と一緒にいる時にルパンのアカウントで生放送でもやっていればこの結論に辿り着くことはできなかったかもしれません。でもあなたにはそれができなかった」

「どうしてできないんだい?」

「わかりますよ。だって、私にはあなたしか友達がいないけど、あなたも私しか友達がいないでしょう? だから、ルパンのアーカイブに後から自分でスパチャを投げてそれを見せるくらいしかミスリードの手段がなかったんです。まぁ、あれはわざとらしかったですね。今までどんなにハマってるVがいてもわざわざ見せようとはしなかったわけですから」

「あはは、全部お見通しか。そう君はボクのたった一人の友達だ。いや、"だった"かな。ボクはこんなくだらないことでたった一人の友達を失ってしまった」

「なんで過去形にするんですか。別に喧嘩くらいすることもあるでしょう。なんでこんなことをしたのか教えてください。あと謝ってくれたら許します」

 

 彼女はハッとした表情をして、目を擦る。

 涙を拭ったのかもしれない。

 

「君と対等だと示したかった。それだけさ。君のことが好きで仲良くしたかった。でも、君は自分が藤堂ニコであることを決して告げようとはしなかった。信用されてないのが寂しかった。だから、ボクだって君と同じようなことができると示して勝ちたかった」

「メンヘラですねぇ」

「自覚はなかったけど、どうやらそうらしい……藤堂ニコちゃん、本当にごめんなさい。できればこれからもボクと友達でいてほしい」

「えぇ、私もあなたに本当のこと言わなかったの悪かったと思ってますよ。私こそ無神経でごめんなさい。これからもお友達でいましょう」

 

 よく見ていなかったが、コメント欄は「てぇてぇ」とかいってめちゃくちゃ盛り上がって、スパチャも死ぬほど来ていたらしい。

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