探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
「でもさー、モデル事務所辞めたって卒業したらどうすんの?」
私はタブレットから目を離し、身体を起こす。
マッキーは座椅子ごとこちらに向き直った。
――しかし、こいつ脚長いな。
「普通に就職する……かな。もともとモデルなんてずっとやれると思ってないからね。毒舌タレントに転向とかするのも嫌だし」
「しかし、就職ねぇ。向いてなさそー」
「でも就活は楽勝だと思うのよ、わたし」
「まぁ、それはそうだろうね。内定強盗みたいになりそう」
「コミュ力検定と第一印象検定あったら十段だと思う」
「でも大手に就職しても勝手に裏切って辞めるからね、あんた」
「あはは、それは否定できない」
雑誌の表紙を飾れるような大手モデル事務所をさらっとなんの未練もなく辞めれる女だ。
一流企業とか関係なく飽きたらすぐさま辞めると思う。
「就職するにしても別にやりたい仕事ってのがあるわけじゃないからなぁ。適当にフラフラするか。婚活するか……」
「婚活ぅ?」
「いや、婚活も楽勝だと思うのよ」
「婚活における楽勝ってなによ。相手選ばなきゃ楽勝なんだろうけど、そういうもんでもないでしょ」
「社長とか医者とか外資系のエリートサラリーマンとかそういうの相手でも楽勝だと思う」
私は自信過剰極まったこの女をまじまじと眺める。
たしかに彫りが深い端正な顔立ち、新雪のような白い肌、色素の薄い茶色がかった瞳、手入れの行き届いた夕焼けに輝く小麦畑のような長い髪、すらりと長く綺麗な手足。
まぁ、言うだけのことはある。だが、それを言ってしまうから友達が少ないのだ。
「でも、そういう人と結婚したいわけではないんでしょ?」
「そうなのよ。別に結婚願望があるわけでもないのよ。困ったもんだね」
「なにに困ってんのよ」
「すべてが楽勝過ぎて。世界がイージーモードでつまらない」
「お前ぶん殴られたいのか?」
わたくし東城、人生初めてのグーパンをお見舞いすることになるかもしれない。
「冗談よ。でも実際に将来の夢がないってのも困ったもんなのよ」
「小学校とかで将来の夢について書きなさいとか課題あったでしょ? なんて書いてたの?」
「ないって書いてた」
「そういうの怒られるでしょ」
「ところがどっこい。"ない"と書くにもコツがあってさ、私の未来は無限大に広がっていてなんにでもなれる可能性があるのだから今それを決めることはできない。先生の教えによってもっとその可能性を広げていきたいって書くの。そしたら褒められる」
「先生喜ぶの? そんな小賢しいので?」
「喜んでくれたねぇ。私は子供時代から愛らしい美少女だったからねぇ」
「うざ」
私はなんだかマッキーと話すのが面倒くさくなってきたが、彼女は意外と繊細というか私のこと大好き女なので無視とかするとメンヘラかまってちゃん化するのでお喋りに付き合ってあげることにする。
どうせ暇だし。
「TJは?」
「私はずっと小説家」
「叶ってるじゃん」
「すでに廃業しかかっておるがな」
「こないだのは売れたんじゃないの?」
「重版一回かかったくらいを売れたとは言わんのよ。まぁ首の皮一枚繋がったって感じかな」
「やっぱさー、マッキーの登場シーンが少ないのよ。人気キャラなんだからもっと出してよ」
「相当出したでしょ。日常パートなんかあんたしか出てないでしょうよ」
「でも全然足りないの。次は怪盗Vバージョンで一冊書いて」
「あんたのやってたこと、ほぼ反社だから。無理だから。それこそ訴えられるわ」
「つまんないのー。別に他に書くこともないでしょ? 最近事件もないし」
つまんなくないのよ。
しかし、事件起こらんもんかね。
と思っていたら――。
【P2015】『突然のご連絡失礼いたします。いつもライブにお越しいただきありがとうございます。実は一つ依頼があるのですがよろしいでしょうか?』