探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
「はじめまして、ソフィアです」
「あ、あの……はじまして、藤堂ニコです。カッコよかったです。これからも応援します!」
「ありがとうございます。藤堂ニコさんってあの名探偵のですよね。こんな有名人がファン1号になってくれるなんてすごく嬉しいです」
「いえいえ、私なんて炎上で目立ってるだけなんで。有名ではあっても人気者ではないんですね。でも、あなたの加入でふぁんたすてぃこ売れますよ、絶対」
「今度、ニコさんの配信でも宣伝してくださいね」
「もちろんです!」
と私が言ったところでタイムアップだ。
「はい、お時間です」
「はーい」
咥えタバコでちょっと斜に構えた感じのステージパフォーマンスとのギャップが良い。礼儀正しいし、ファンサもしっかりしている。
――売れるでぇ。
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「お待たせー。ありゃ、売れるわぁ」
マッキーがソフィアとチェキを撮っておしゃべりするのを待っていたのである。
もちろん、フローラとも撮っている。
私が最初にソフィア、マッキーがフローラで交代したのだ。
3グループ同時並行で特典会を行っているので、そんなに並んではいない。
そもそも集客力としては微妙なグループが集まって対バンをしているというのもある。
「じゃ、楽屋行こうか」
「サムライメイドとかはいいんですか?」
「まぁ、ビジュアルは良かったけど、歌唱力とダンスがなー」
「あれVR上のアシスト使わずにほぼキャプチャー通りなんでしょうね」
「それ差し引いてもよ。下手過ぎるでしょ」
「これからの成長を見守る青田買い大好きマッキーにしては辛辣ですねぇ」
「わたしは伸びシロに投資してんの」
「伸びなさそうって判断なんですか」
「そうだね。他にも理由はあるけど、それは楽屋スペースで話す」
「ん?」
私たちは楽屋ドア前でパスを使用して中に入る。
楽屋スペースはセキュリティが強固でカメラや録音禁止は勿論だが、ヘッドセット越しですらそれができないようにヘッドセットの生体モニターとも連携している。
つまりVRヘッドセットを身体から外して録画モードを起動したスマホを画面やスピーカーに近づけようとすると追い出させる仕組みなのだ。
アイドルや芸能人がプライベートな会話をすることもあるのでそのくらいは当然らしい。
もちろん、最もセキュリティが強いのはリアルということになるのだが。
楽屋スペースは白い廊下の左右に出演者用の個室が配置してあるというもので、いつぞやテレビで見たテレビ局の楽屋に似ている。
「あ、私たち用の部屋がとってありますよ。『藤堂ニコ様、マッキー様』だって。多分、もともとぴーちゃんが使うはずだった部屋をもらえたんですね」
「ふぁんたすてぃこの楽屋に呼ばれてるのかと思ったね」
「ですね」
私たちが楽屋に入ると窓のない真っ白な壁に四人掛けテーブル、椅子だけの簡素な部屋だった。
「Vtuberはお化粧しないからドレッサーもないし、仮眠も摂らないから座敷やベッドもないし、飲食もないから冷蔵庫もないんですね」
「あとトイレもね」
「当然っちゃ当然ですけど、やっぱりリアルとは違いますね」
「意外とつまんないね」
そんなことを言いながら私たちは椅子に腰を下ろす。
リアルでは私はベッド、マッキーは座椅子に腰掛けたままである。ライブがはじまる前からずっと。
「そういえば、サムライメイド推せないもう一つの理由ってなんですか?」
「彼女たちはフリーじゃなくて事務所に入ってるんだけどね……その事務所っていうのがけっこう胡散臭いのよ。前にわたしが怪盗Vとして楽屋でドラッグ捌いてたアイドル暴露したことあるんだけど、そのアイドルが所属してたのがサムライメイドのとこなのよ」
「あー、なるほど」
「たぶん、そのドラッグのバイヤーやってたアイドルの子……引退したんじゃなくてVになったんだと思う」
「サムライメイドのメンバーの誰かがそうなんですかね」
「多分ね。だから仮にパフォーマンス良くても推してなかったかも。後で裏切られそうだし」
「へー」
なんて雑談をしていると待ち人来る。
「お待たせしました」
フローラである。