探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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V殺しの呪術師編
藤堂ニコの中の人


 大学の講義は面白い。

 自分から能動的に学ぼうと思わない新しい知識が入ってくると、今まさに教養が身についてるなという快感がある。

 私は勉強は昔から好きだった。

 だけど大学が好きかと言われると素直にうなずけない。

 

 私には友達がいないからだ。

 大学生活それ自体は楽しくはない。

 

 一人で大学に行って、一人で学食で食事を摂って、一人で帰宅する。

 

 一年生の時はさっさと在学中に作家デビューして中退してしまおうと思っていたため、空き時間は新人賞投稿用の原稿を書いていたし、サークルにも入らなかった。

 しかし作家として食っていくという目標は早々に頓挫し、残ったのは売れなかった2作の著作と一瞬話題にはなったもののあっという間に再生数が底辺のちょい上まで急降下したVtuberのデータがあるだけだ。

 就職も考えなければならないのに中退なんてしている場合ではない。

 

 千里眼オロチの事件の後は報告動画の再生数、生配信の同接も見たことのない桁数に跳ね上がった。

 でも投げ銭はちょっぴりだった。思ったより手元に来た金額は少額だったし、千里眼オロチのファンにはいまだにめちゃくちゃ恨まれており、まったく割に合っていない。

 

[インチキ占いだってよかった。俺はオロチ先生が好きだったのに]

[このニコとかいうクソ探偵気取りのせいでみんなのオロチ先生が引退してしまった]

[許さない]

[お前が引退すればよかったのに]

[〇ね]

 

 ボロクソである。

 ちなみにみんなのオロチ先生は巫女服のおみくじVtuber神宮ミコとして、ひっそり復活している。ちょっとだけボイスチェンジャーで声を変えているのでまだ中の人がオロチと同じだとは気づかれていない。

 この罵詈雑言コメントの皆さんにも転生していることを教えてさしあげたい。

 あと、ニコとミコでちょい被ってるのよ。

 ちなみに今度コラボすることになっている。実はあの事件の後もちょこちょこ連絡を取り合っていてちょっと仲良くなっていたのだ。

 ミコちゃんが私を占ってくれるらしい。

 

 あと著作はちょっとだけ売れた。

 紙の本は全然だったけど、Amazonの電子書籍版のランキングが僅かに上がっていた。

 数万円くらい印税も入ってくるかもしれない。

 

 しかし、結局のところ私はVtuberとしてのコンテンツを持っていないのだ。もうみんなが飽きてしまった人狼以外。

 継続して追ってくれるファンなんて数えるほどしかいない。

 

「早く何か探さなくちゃ……」

 

 私は大学生協の書店に足を運ぶ。

 やはりストリーマーは人気者が多く、一角にワンコーナー作ってある。

 麻雀にポーカーに株に就職活動にと様々なVtuberが執筆した書籍が並んでいた。

 本当にプロや専門家がVtuberをやっているパターンもあるが、やはりVtuberがやっているのをきっかけに始める人が多いのか入門書の類がほとんどだ。

 

「私の本、置いてあるかなぁ……」

 

 なぜか私は自らを傷つけるような行動をとってしまうことがある。

 結果なんて最初からわかっている。

 

「あるわけ……………………あった」

 

 ――うわぁ。大学に私の本がある。しかもVtuber関連書籍として。

 

 愛校心が芽生えた瞬間であった。

 

 ――大学、大好き!

 

 私はけっこう単純な女なのだ。

 

「あれ、東城さん? 東城さんってVtuber好きなの?」

 

 確実に表情筋が緩んでいる私の横に一人の女性が立っている。

 背が高い美人だ。背筋が伸びていてモデルのように見える。

 身長150センチのちっこい私と比べると大人と子供が並んでいるようでもある。

 顔には見覚えがあるような気がする。なんといっても目鼻立ちがはっきりした美人だ。

 

 ――でも、誰だっけ?

 

「誰だっけって顔しないでよ。同じ国文学クラスの牧村だよ」

「あー、牧村さん」

 

 名前を聞いてなおピンときていないが、とりあえずニッコリしておいた。


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