探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私とマッキーは岩場に臥せて、探していたぴーちゃんことP2015の様子を伺う。
こちらには気づいていないようだ。
海岸の方から入り口に向かって歩いてくる。
無数のアバター達の間を縫っているのだが、さほど歩きにくそうではない。
久々に見る彼女は相変わらずの美少女で、メタリックなパーツでできた身体の一部もそのピッタリと張り付くボディスーツの煌めきもあのステージで観てきた姿と変わらなかった。
彼女には特にこれといった異変は感じられない。
とはいえ、遠目にもどこか上の空には見える。
「ここから出るのかな?」
「いや、違うんじゃない?」
まだ私たちの声が届くような距離ではないが、それ以降は口を開かずじっと彼女を見つめる。
ぴーちゃんは入り口近くに配置された新しい魂が抜けたアバターを一通り見て回り、何かしらを呟くとまた海岸に向かって踵を返してしまった。
直立不動のアバター達の中に紛れても、全く動かない者達の中をたった一人移動しているので見失うことはない。
「ぴーちゃんは新しく来た、放置アバターを見に来たんだね」
「うん、でもまだその理由はわからない」
私たちはさらに高いところによじ登る。
リアルの運動不足の私なら到底登ることができない高さだ。
だいぶ広範囲が見渡せる。
しかし、建造物もなければ草木もない。もともと何に使うつもりだったのかまるでわからない場所だ。
「ぴーちゃん、海辺でウロウロしてるね」
「そうだね。別に何をするわけでもなくうろうろしてる」
「TJさ」
「なに?」
「お腹空いた」
マッキーに言われて、私も自分の空腹を自覚してしまう。
「何か食べに行こうか」
「いいの?」
「ヘッドセットじゃなくて、私達の視覚データをタブレットに映して、ご飯屋さん持っていけば大丈夫でしょ」
「確かにね。ずっとVRで見てなくてもいいもんね」
私達はヘッドセットを外すと、操作をタブレットとスマートフォンに変更する。
「やってること、ストーカーと一緒よねぇ」
「でも、ぴーちゃん本人から探してくれって言われてやってるわけだからね」
「そっか」
そうなんである。
しかし、お腹空いた。ずっと飲まず食わずだ。
外もすっかり暗くなってしまった。
「わたし、行ってみたいお店あるんだよね」
マッキーにリクエストがあるらしい。学食ではないようだ。
「学食じゃなくてもいいけど、あんまり高いお店は無理だよ」
「学食みたいなもんだよ。大学の正門前にある定食屋さん」
「あぁ、キッキンまんぷく?」
「そう、あそこ入ってみたい」
キッキンまんぷくは学生の強い味方だ。なぜなら学食より安い。そして多い。
唐揚げとチキンカツには店主が捕まえてきたカラスの肉が使われているという噂がある。
だが、私は雑食のカラスの肉が食用に適さないことと、そんな手間かけるより安い鶏肉を大量に仕入れる方がコストがかからないことを推理力で見抜いているため、店を信用している。
「マッキー、まんぷく行ったことないんだ?」
「女子一人だとめちゃくちゃ入りにくいじゃない、あのお店」
まんぷくはお世辞にも小綺麗な店とは言い難い。数年前に改装してマシになったらしいが、改装してあれってことは改装前はどんなんだったんだよというレベルだ。
とはいえ、不潔な感じがするわけでもない。
雑多で貧乏学生がひしめいているのだ。
「まぁ、そうかも。私はちょこちょこお世話になってる」
「すごいね」
「いや、学食より安くてお腹いっぱい食べられるからね。入りにくいとかどうでもいい。コスパ最優先」
「TJらしいなぁ」
「ま、いいや。行こうか」
「オススメなに?」
「メンチカツが一番人気らしいけど、私はチキンカツ」
「じゃあ、チキンカツにしよ」
※
「しかし、ぴーちゃん、ずっといるね」
マッキーは巨大なチキンカツと普通盛りなのに学食の大盛りくらいあるご飯でパンパンに膨らんだお腹をさすりながら、タブレットの向こうのぴーちゃんを見て言う。
「確かにね」
「私たちみたいにアバターだけ置いてリアルで休憩してる感じでもないし、何してるんだろうね」
「あ、私ちょっとわかったかも」
「ぴーちゃんが何してるか?」
「うん。いやー、でも……もうちょっと見てたらわかるかも」
「もうちょっとってどのくらい?」
「今晩中くらい」
「マジかー」
「マッキーは家帰りなよ。本当にわかったら連絡するから」
「うーん、気持ち的には一晩中付き合いたいんだけどね」
「いや、引退したとはいえ元モデルにこんな大量の揚げ物食べさせた上に徹夜させらんないから。ここまで付き合ってくれて嬉しかったよ」
「気遣ってくれてありがと。じゃあ、ちょっと帰って寝ようかな。また来ていい?」
「いいよ。進展あったら連絡する」
そして私たちは店を後にした。