探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私は一晩中、彼女を観察し続けた。
といっても、途中でシャワーを浴びたりとか、飲み物飲んだりとかちょっと課題やったりとか細々したことをこなしながらだし、なんならベッド上でだが。
※
「もしもし、マッキー?」
私は通話アプリでマッキーに繋ぐ。一応、言っておくことがある。
『おはよ。私も家帰ってからもちらちら捨てアカの視界見てたんだけど、ぴーちゃん特に何をしてるでもないけど、ずっといるっていう感じだったね』
「まぁ、そうだね」
『私、思ったんだけどさ。ぴーちゃんってもともと別のアバターだったんだけど、それをネットマフィアとかスラムに潜伏してる犯罪者に盗られちゃったんじゃない? それでアバター墓場でずっと待ってるんじゃないかって思ったんだけど』
マッキーはなかなか鋭い。物事を論理立てて考えられる人間だ。
だが、私の考えは少し違う。
普通に考えればマッキーの言うことの方が筋は通っているように思えるが、それだと明らかにおかしなことがある。
「私も最初はそうじゃないかって思ったんだけどね」
『っていうことはそうじゃないんだ?』
「私の推理ではね。っていうかさ、それなら最初からそう言えばいいんだよね。でもなんで曖昧な言い方したかっていうとぴーちゃんにも解決の終着点が見えてないからじゃないかなって」
『ふーん。で、どうするの? わかったんでしょ?』
「荒唐無稽な推理だからね。間違ってるかもしれない。でも、ぴーちゃんに会う準備はできたから……メガネTJをホームに戻して、ニコちゃんとして会いに行こうかなって」
『わたしはお留守番しとく。どうなったか後で教えてね』
「うん。ここまで付き合ってもらったしちゃんと話すよ」
『頑張って。またぴーちゃんがステージに立てるといいね』
「うん、行ってくる」
※
一回メガネアバターの方をログアウトポイントまで運んだあと、藤堂ニコでログインしなおして、タクシーでもう一回アバター墓場まで行くというなんだかグダグダした感じのことをしてから再びの到着である。
所狭しと並べられたマネキンのようなアバターたちを掻い潜って、海岸の方へと向かう。
スラムエリアの端の海辺だ。
キレイな砂浜なんてものはない。
灰色とも茶色ともつかないごつごつした岩でできた島――橋のような地面で繋がっているので正確には半島か――だ。
そして私は一人、海に向かってしゃがんでいる推しに声をかける。
「お待たせしました」
「ニコ……チャン。キテ、クレタンデスネ」
「カタコトで喋らなくて大丈夫ですよ。ここはステージじゃありませんから」
私が隣に腰掛けると、ぴーちゃんは少し気まずそうに微笑んだ。
「じゃあ、普通に喋りますね」
「はい」
データの海はもちろんホンモノの海水ではない。だけど、私たちの目の前に広がるそれはとても冷たそうに見えた。
「よくここがわかりましたね」
「大冒険でしたよ。普通に言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさい」
スラムに来て怖い思いをして、カジノに行って大金を賭けたギャンブルをして……本当に大変だった。
でも、その冒険や彼女の様子を遠目に観察していてわかったこともあった。
「とりあえず、私の推理聞いてくれますか?」
「はい」
「ぴーちゃん……あなた、生きてませんね?」
「……どうして?」
波の音だけが私のヘッドセットから流れていく。
口が渇く。
でも言わなきゃいけない。
「あなた自身も自分の状態がよくわかってなかったんじゃないかと思いますが……なぜ、そう思ったか。それは……ぴーちゃん、あなた……いつログアウトしてるんですか? リアルでの食事は? トイレは?」
「わかりません」
「私の推理……予想ですが、あなたはAIなんじゃないかと思ってます」