探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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解決編 ぴーちゃんの正体(中編)

「ライブイベントやるんだ?」

「そういうと大げさだけどカラオケ大会ね」

 

 私とマッキーは工学部のキャンパスに向かって一緒に歩いていく。

 二人とも、入学してから一度たりとも工学部のキャンパスに足を踏み入れたことはない。

 

「でも、みんなオリジナル曲とか演るんじゃないの?」

「そこは空気読むでしょ。私のカラオケ大会のゲストよ?」

「あぁ、もうそういう趣旨でいくのね」

「そりゃそうでしょ。藤堂ニコのファン感謝祭だよ。ライブイベントとか大々的に言うの変でしょ」

「しかし、本当にやるとは思わなかったな」

「そう? さすがにもらいすぎだからねぇ。探偵エンタメとして妥当な対価を超える収入って気持ち悪いんだよね」

「ファンとかあんま大事にしてるイメージない」

「ずばっと言うね。まぁちょっと前まではそうだったよ。炎上ネタ観に来る野次馬しかいないって思ってた。別に私のことが好きで観に来てるわけじゃないって」

「でも、違うってわかったんでしょ?」

「うん。私のことけっこう好きだよね、みんな」

「気づくのおせーよ」

 

 マッキーはそう言って、私の頭をコツンと小突いた。

 

 工学部キャンパスは本部キャンパスからちょっと離れていて、サークルにでも入っていないと理系学生と出会うことはあまりなさそうだ。

 坂道を二人しててくてく上っていく。

 

「私の推理力をもってしても見抜けないほどのみんなのアンチ素振りよね。見事な演技力というかコメント力だわ」

「言うほどアンチいなかったって、最初から。みんなちゃんとTJのこと好きだったっての」

「じゃあ、ニコちゃん大好きーみたいなコメントしたらいいじゃん」

 

 私がそういうとマッキーは大きなため息を吐いて言った。

 

「そういうコメントしたら、類稀なる推理力を遺憾なく発揮して、『これは私に好意があるかのように見せかけた巧妙なアンチコメントです。このコメントによって私を調子に乗らせてから、真のアンチコメントでガッカリさせるための布石に違いありません。ふふん、そんなのこの名探偵にはお見通しですよ』とかなんとか言って信じないじゃん。ファンもそれがわかってるからストレートにそういうの書きにくかったんでしょ」

「なんだよ、お前ら"私"マニアかよ」

「そうかもね。TJのことが好きだから、TJに対する推理力が磨かれたんじゃない?」

「気持ち悪いなぁ」

「照れるなよ」

 

 ぶっちゃけ照れてる。

 なんかフローラとかマッキーが私のこと好きなのは直接話したりするからわかるけど、あまりリスナーに好かれていると感じたことはなかったのだ。

 リスナーはリスナーであって、ファンとは違うと思っていたが、ファンってことでいいのかもしれない。

 

「さ、着いたよ」

「だだっぴろいなぁ」

 

 工学部キャンパスがある理系キャンパスエリアは思っていたよりも敷地面積が広大だった。

 ここに農学部とか理学部とか医学部もあるらしい。

 

「めっちゃ広いね。なんでこんな広いんだろうね」

「たまに爆発とかするからじゃない? 建物の間隔広めにとっておかないと、一気に他の学部も燃えちゃうじゃん」

 

 私は半笑いで言いながら、キャンパス案内図の看板の前に立つ。

 

「ツッコミたいところだけど、そう言われるとそうとしか思えなくなってくるね」

「意外と本当にそんな理由なのかもねー」

 

 案内図は液晶でタッチパネルと音声認識AIが付いている。

 

「工学部キャンパスの先進情報技術研究室に行きたいんだけど」

 

 私が言うと、案内看板にスーツの女性が現れる。

 

「どういったご用件でしょう? アポイントは取っておられますか?」

「アポはないけど……そうね、2015年プロジェクト、プロジェクト2015かな、の話がしたいって教授に伝えて」

「承知しました。少々お待ちください」

 

 私が腕を組んで立っていると、肩をつつく者がいる。

 

「なに、プロジェクトなんとかって」

「P2015ってなんなんだろうってずっと考えてたの。なんの意味があってそんな名前なんだろうって。2015が製造年月日なんじゃないかっていうのはすぐ思い当たったの。で、次にPよね。これがよくわかってなかったんだけど、ぴーちゃんの口座を見た時にピンときたんだ。これ、研究室のプロジェクトの一環だったんじゃないかって」

「なるほど」

「私たちが来るのを待ってた可能性もあると思ってる」

 

 そんな話をしていると案内板AIが話しかけてくる。

 

「お待たせしました。瀬戸教授が是非お話を伺いたいそうです。教員用カフェテリアの個室Aまでお越しください」

 

 案内板に理系キャンパスの教員専用カフェテリアまでの道順が3Dで表示され、スマートフォンをかざすように指示が出たのでかざすと、入場チケットがスマートフォンに付与された。

 

「なんでカフェなんだろうね?」

「研究室の他の人には聞かれたくないことがあるのかもね」

 

     ※

 

 教員用カフェテリアは想像の10倍豪奢だった。

 

「ふざけてるわー。わたしたちから巻き上げた高い授業料でこんなもん作ってんのね、大学って」

「ソファ、ふっかふかだし。シャンデリアぶら下がってるもんね」

「環境が良すぎて腹立つわ。タダだし、カフェオレお代わりする!」

「私も!」

 

 こうして、ふざけた女子大生がタダなのをいいことに、ドリンクをがぶ飲みしていると目的の人物がやってきた。

 

「お待たせしたね。瀬戸だ」

 

 瀬戸教授は初老の人物で髪は総白髪でどこかやつれて見えた。


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