探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
ぴーちゃんのライブは大盛況だった。
瀬戸先生は誘っても楽屋には来なかったし、ぴーちゃんも別に待ってはいなかった。
自分に会ってしまうとリアルで亡くなった本物の娘さんとの違いが気になってしまうかもしれないし、改めて罪悪感を抱いてしまうかもしれないからと。
お互いにとってこれでいいのだと彼女は笑った。
――大人過ぎるでしょ。
ともかく依頼も完遂したし、ぴーちゃんは新しい家を手に入れて引っ越していったし――といっても別に荷物があるわけじゃないけど――今回の事件はこれで解決だ。
※
私はベッドに転がって、床に転がっているマッキーに向けて言う。
「めでたしめでたしであるな」
「いや、待ちなよTJ。なんか忘れてるでしょ?」
「何か忘れてる? ぴーちゃん見つけ出して、AIであることを見抜いて、開発者を見つけて、さらには親子の対面まで御膳立てして今回は100点満点でしょ」
「よく思い出してみなよ。その類稀なる記憶力でさ」
「いやー、ちょっとわっかんないねー」
座椅子を枕に寝転がっていたマッキーが身体を起こし、私を覗き込んでくる。
「覚えてるのに面倒くさいから忘れたフリしてるでしょ?」
「なんのことやら」
「藤堂ニコファン感謝祭。ライブイベントやるんでしょ?」
「…………面倒くせえ」
「調査費用に加えて、報告配信でも相当な金額もらったでしょ、あんた。ちゃんとファンサするって決めたんだからやらなきゃダメだよ。ファンサ大事!」
「マッキー、こないだ道端で話しかけてきたファンだって子の写真断ってたじゃん」
「わたし、もうただの一般人だからね。ちょっと肌のコンディションも微妙だったし。それに写真は断ったけどサインはしたでしょ。ほら、イベントの準備やるよ」
やらなければならないとは思っている。
だけど、事件が解決したのだ。ちょっと休憩したい。
「わたしがオファーとかスタジオの手配とかやったげるから。歌う曲選んで!」
「え、手伝ってくれるの?」
「当たり前じゃん。友達でしょ」
――マジかよ。超いい奴じゃん。
「ありがとー」
※
「どうしてこうなった……」
私――藤堂ニコのファン感謝祭は映画館で上映されることになっていた。
とはいえ、シネコンとかではなく大学近くの名画座なのだが。
今回、私のファン感謝ライブはVRライブハウスではなくスタジオからの配信だ。
目の前にお客さんがいると緊張するからという理由でそうしてもらったのだが、なぜかマッキーが配信だけでなく、ファン有志に声をかけて映画館を押さえてしまったのだ。
「おぇ、緊張で胃が痛くなってきた」
ちなみに私は今リアル側で全身の動きをトレースできる最新鋭のスタジオにいる。
「ほら、せっかくのイベントだからさ」
「私、ほぼ引きこもりのコミュ障よ。アバターあってもさ。自分の下手くそな歌が映画館に鳴り響くと思うと気持ち悪くなってくるのよ」
私がお腹押さえながらいうと、優しいお姉さんが背中をさすってくれる。
「ニコちゃん、そんなに卑下するほど歌下手じゃなかったよ。自信持って」
フローラの中の人、三橋真琴である。
リアルでもアイドルをやっていただけあって可愛い。
彫りが深くて北欧の血が混ざってそうな雰囲気のマッキーとはまた違った系統の美人で黒髪ロングの和風清楚系だ。
フローラにはあんま似てないなーと思ったけど、VTuberとしての姿とリアルの姿が似ていないのが普通であって、私の方が異端なのだった。
「ありがとうございます」
「でも、ホントにニコちゃんにそっくりなんだね。東城ちゃんって」
改めてフローラの中の人が言うと、ふぁんたすてぃこのメンバーの中の人達も「普通もうちょっと変えるよね」とか「コスプレみたい」「ニコちゃんが中の人に寄せてるから逆だけどね」とかワイワイしている。
この人たち、みんな美人なんだからなんでわざわざアバター作ってVtuberやってんのかよくわからない。
ソフィアにいたっては本当に北欧系の外国人だった。
「自分に似てるからこその緊張かもしれないですね。まったく自分と違う存在になりきるとかだったら違ったと思います」
自分に似せたことでVの姿でも感覚があまり変わらないのはこういう時にデメリットが大きい。
「ニコちゃん、ワタシも一緒に歌いますから。大丈夫ですよ」
ぴーちゃんもいる。
彼女はリアルに存在しているわけではないので、裸眼立体ディスプレイに表示されている。
みんな生身の姿でも彼女だけリアル側でもVの姿だ。
ぴーちゃんはリアルな人間に寄せた姿を作ろうかと本気で悩んでいたが、こんな機会はもうないので止めておいた。
「今から歌とダンスは上達しないので、緊張しないおまじないしてあげますよ」
「ニコちゃんの運勢は大吉です。うまくいきますよ」
じゅじゅとミコの中の人もいるけど、別にお前らはリアルでキャラ守らんでええやろって思った。
しかし、私はこれまでリアルの姿を見せないで来たし、みんなもそうだと思ってたけど、誘ったらこうしてみんな来てくれた。
ありがたいことだ。
みんながいてくれることで勇気が持てた。
私は不安に思っていたけど、みんなはもう私のことを仲間だと思っていてくれたらしい。
「さ、そろそろライブ配信始めるよ」
「はーい」
気がつけば私の胃の痛みも手の震えも止まっていた。
一応、P2015編は次で完結の予定です。
その次はまだ未定ですが、メモを見ながらVR側で死ぬとリアルで人が死ぬ殺人事件を探偵VTuber数人が推理対決で暴く探偵VTuber決戦編か、ジョーカー再登場のVR闇カジノ編か、VRドラッグのバイヤー対決編かVR心霊現象編かそのあたりで書けそうなのをやろうかなぁ、どうしようかなぁという感じです。
なるべく早めにまた連載再開できるように構成考えます。