探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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他界

「しくったわ」

 

 私は待ち合わせ前に寄ったトイレの鏡を見て独り言ちた。

 

 化粧が適当すぎた。

 というか眉書いたくらいである。

 別に人に会わないならそれでもいいのだが……いや、フローラこと三橋さんだけでも別にいいのだが。

 まさかソフィアまで連れてくるとは。

 私は可愛いので(断言)、すっぴんでも平気で外を歩ける。いや、マジで。

 しかし、一応レディとしての身だしなみってもんはあるわけよね。

 今は全力100%のメイク後と比べるとかなりすっぴん寄りだ。

 ぶっちゃけ中学生みたいである。

 黒髪ボブも"おかっぱ"寄りに見えてくる。

 しかも、服も色褪せ気味でちょっと毛玉も出てきている。

 

「やっちゃった……」

 

 もう一度言うが、別にフローラだけならどうでもいい。

 奴はどんな私だろうと好きでいてくれるだろう。

 しかし、ソフィアの前にこの中学生フェイスとこのちょっとボロい服を晒すのはいかがなものかと思っているわけ。

 

「いやしかし……今から自宅に戻るにはもう時間が……くそぅ。フローラめ、余計なことしやがって!」

 

 純度百パーの逆恨みである。

 絶対私が喜ぶと思って連れてきている。

 純度百パーの親切心でこんなに怒られるとは夢にも思わないだろう。

 

「ええぃ、もう知ったことか。私はもう素で勝負するしかない。逆に素の可愛さが際立つ! ということにする」

 

     ※

 

「東城ちゃん、今日もかわいいね!」

「うるせー」

「え?」

 

 フローラの中の人がいきなり泣きそうである。

 

「あぁ、ごめんない。思わず素が……」

 

 そっちの素出してどうすんねんっていうか、素じゃないし!

 

「じゃなくてですね、私今日ほぼすっぴんみたいな顔かつ服も適当なので出てきちゃったんで可愛くないんです。ポテンシャルは発揮できてないので」

「いや、でも本当に可愛いと思うから自信もって」

 

 金髪碧眼のこっちの方がエルフじゃんって感じのソフィアさんが慰めてくれる。

 

「ありがとうございます! そういってもらえてうれしいです!」

「ちょっと! 東城ちゃん! 私とソフィアと対応違いすぎじゃない?」

「そんなことありませんよ。私はふぁんたすてぃこ箱推しですから」

 

 かなりソフィア推し寄りの箱推しだが、まぁ嘘ではない。

 

「ささ、学食行きましょう」

 

 私たちは合流した正門から学食の入っている生協ビルに向かって歩き出す。

 

「大学って初めて入る」

「私もー。緊張するなぁ」

 

 二人がきゃあきゃあしている。喜んでくれてなによりだ。

 

「別に自由に入っていいんですよ。生協とか学食は一般の人も使えるので」

「え! そうなんだ。知らなかった」

「じゃあ、今度からあそこのスタジオ使った時はここ寄らせてもらおうよ。東城ちゃんに会えるかもしれないし」

「そうしよ」

 

 ソフィアがちょくちょく来るならもう大学来るのに手抜けないじゃん。

 そして、私たちは食堂でそれぞれ定食を頼む――というか、二人は初めてなので今回は私と一緒でいいということで同じものになった。

 小鉢とかデザートとかは各自で好きなものをチョイスしていく。

 

「すごい、ケーキとかソフトクリームとかもあるよ」

「しかもすごく安いね」

「安いんですけど、質はまぁ金額なりですよ」

 

 実際、私は学食よりも大学近くの学生向けの定食屋さんの方が好きだったりする。

 

「そういえば、前から気になってたんですけどソフィアさんはご本名なんておっしゃるんですか? 別にソフィアさんとお呼びしてもいいならリアルでもそうするんですが」

「あ、名乗ってなかったわけじゃなくて、私は本名もソフィアなの」

「マジですか!?」

 

 ――マジかよ! 正気か?

 

 いや、ふぁんたすてぃこのプロデューサーとかVR上でリアルと同じような取引する人たちは本名登録とかも珍しくないけど、アイドルだぞ?

 

「VR空間でいきなり違う名前で呼ばれても咄嗟に返事できないじゃない?」

「まぁ、それはそうなんですけどね。私もそれが理由で東城を藤堂にしてるんですけど。まったく一緒はヤバくないですか?」

「全然身バレしてないから大丈夫」

 

 この日本語うますぎる外人のソフィアはそう言ってあっけらかんと笑った。

 

「今のところは大丈夫かもしれないですけど……いや、フラグになっても嫌なのでもう言いませんが、けっこうヤベー奴なんですね、ソフィアさん」

「うふふ」

 

 ――うふふ、じゃねーわ。

 

「そういれば、ぴーちゃんとのコラボ観たよ」

「あぁ」

「反応うっす。私に対して塩過ぎだって」

「そんなことはないです。私は箱推しなので」

「そう言ってれば騙せると思ってー。まぁ、いいけど、今度私たちともコラボしようよ」

「えー、面倒くさいです」

 

 面倒くさい。マジで。

 

「またやろーよ」

「だって、私に得ないんですもん」

「あぁ、私が加入する前はやってたんだよね。じゅじゅとかミコと一緒に。私もニコちゃんと一緒にコラボ動画撮りたいんだけどな」

「ソフィアさんが言うなら……でも歌はしばらくNGですよ」

「なーんでソフィアが誘うとOKするかなぁ。嬉しいけど釈然としないなぁ。今度メンバーで企画考えて送るね」

「はーい」

 

 和風美人の三橋お姉さんがほっぺたを膨らませているが、この人だいぶ年上なんだよなぁと思うとあんま可哀想な感じもしない。

 

「ぴーちゃんとのコラボで思い出したんですけど、グリモワールの神様って聞いたことありますか? なんか最近流行ってるって聞いたんですけど」

「あー、聞いたことは……あるかな」

「なんですか、その歯切れの悪い感じ」

「うーん、私たちのファンの人から神様がいるらしいっていう話は聞いたんだけど、その人急に他界しちゃったんだよね」

 

【他界 たかい】

アイドル業界用語で、ファン活動をやめること、または現場に来なくなること。生死を問わず消息がわからなくなること。


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