これでも無意味な暴力というものは好きではない。ひとを殴って痛む良心は確かにもちあわせていないが、かといってそれに愉悦を覚えるほどの変態でもなく。どちらかといえばただの作業、俺にとっては必要がないならわざわざする気もない労働と言えた。
だから相手が堅気か否かということ以上に、やらなくていいならやりたくないのだ、こんな面倒なことなど。拳についてしまった血を払いながら、大人しくしてねと黒髪の少年に笑いかける。
「逃げないなら痛いことはしないって言ってるのに何で暴れるかな。実はそんなに賢くなかったりする?」
そもそも後ろ手に縛られているのに逃げられるつもりでいるのかと。仕方なく軽く拳で撫でてやった顔には、いくらかの痣と血が見えた。
「もうすぐ客が来るから、そいつらが来たらちゃんとお話しよう。再三言うけど、俺は堅気にはなるべく手を出したくないんだよ、しかも年下の子相手に」
「今さら、説得力、ねーっつの……!」
「その程度で済んでることに感謝してほしいな」
喋りにくそうに呼吸をした彼は、口の中の血をぺっと吐き出す。嗚呼、畳が汚れた。自分で汚したからには自分で綺麗にしてもらわないといけない。乱れた黒髪をひっつかみ、額を畳に叩きつける。がつ、という鈍い音とともにまた畳に血が散った。これはキリがない。
血で汚れた顔を持ち上げ、その切れ長の瞳を覗き込む。まだ眼が死んでいなくて安堵した。そう、それくらいでなくてはここに呼んだ意味がない。
「そろそろ来るはずだから。もう少し待っててね、九井一くん」
*
彼らがうちの敷居を跨ぐのはこれで二度目だった。
こちらの様子を見て間髪入れず飛び込んでこようとした片方を咄嗟に蹴り飛ばしたイザナ、その反応速度には素直に感心する。じたじたと暴れ叫ぶひとりを踏みつけ、何なんだよと面倒くさそうな視線を俺に向けた。
イヌピー、と叫んだ九井くんを押さえ込み、はは、と軽く笑って答える。
「いきなり呼んで悪かったね、イザナ」
「面白えことすんなら最初から呼んどけよ。途中から来てもわけわかんねーだろが」
「この状況見て面白いだなんてさすがイザナだね」
「ンで、そいつは何だよ。堅気には手ェださねェんじゃなかったのか」
「度を超すなら躾は必要とも言ったでしょ?」
まずは紹介しようか、と長い黒髪を掴んで顔を上げさせた。反動で畳に血のしずくが落ちる。
「こちらは九井一くん、俺たちの二個下かな? そこにいる乾青宗くんの幼馴染みで、近頃多発してる少年グループによる窃盗事件の首謀者だよ」
へえ、とイザナは片頬をあげる。乾くんは大きな目を見開いて動きを止めた。どうやら彼は幼馴染みの犯罪を知らなかったらしい。
「ついでに金だけ持ってるクズから依頼を受けて犯罪コーディネーターみたいなこともしてたみたい。感心するよ、確かに少年犯罪なら捕まっても刑期は短く済む。それなら儲けを優先して協力する馬鹿なガキも多かっただろうね」
まあ、今頃それを死ぬほど後悔しているだろうけど。
それを聞いたイザナは愉快そうにハ、と笑う。九井くんと一緒に引きずってきたアタマの足りないガキどもは、残念なことにウチの地下室行きだ。まあ迂闊に殺すような真似はしないし、何なら傷つけてもいないだろう。
彼らに必要なのは血や傷でなく、ただ純粋な「恐怖」だ。
「俺は
「残念だけど健全な青少年に見せていいものじゃないかな~。悪いけど少し付き合ってよイザナ、少し九井くんと話がしたいんだけど、乾くんにも聞いてほしくてね」
「乾連れてこいっつーから何だと思ったら、へえ、こいつも関係してんの?」
「いや、乾くん自身は無関係。関係あるのは乾くんのお姉さん」
九井くんの身体が大きく揺れた。ココ、と乾くんの口から声にならない声が落ちた。
動かない首を必死にまわして俺を見る九井くんの瞳には、初めて動揺と恐れが見える。俺はにっこりと表情を動かして彼の頭を畳に落とし、這いつくばる血まみれの顔を覗き込んだ。
「助けたいんだよね、九井くん。乾くんのお姉さんの乾赤音さん。全身火傷で昏睡状態だって?」
治療に必要な額は四千万。一般家庭の乾家では到底融通できる金額ではなく、今も必死で働いているそうだが努力むなしく眠り姫は茨の中。
今は昏睡状態でも、いつ彼女の体力が尽きるとも知れない。少しでも早く金を作らなければという焦りから九井くんは非合法な手段に手を染めた。
いや全く、無謀もここまでくると感心してしまう。
「俺は結構真剣に感動したんだよ、九井くん。好きな子を助けるために四千万て正気の沙汰じゃない。けど君は一生懸命勉強して危ない橋を渡って、四千万には足りなくてもそこそこの小金は稼いだんでしょ? きみ、お金儲けの素質あるよ」
ただ、それをこちらの世界で発揮するのは頂けない。
「きみみたいのに領分を荒らされると何かと面倒でね」
「っアンタ、方喰一家の方喰伊織だろ!? アンタらのシマには手ェ出してねえはずだ!!」
「あれ、そういえば自己紹介忘れてたけど俺のこと知ってるんだ?」
「方喰はそういうのにうるせえうえに今若いくせにやべえのがいるって聞いてた! だから方喰一家のシマには手ェ出すなって、俺は……!」
「ふはっ完全にバレてんじゃねえか。何だよやべえのって」
「心外だなあ、俺は自分とこのシマの平和と秩序を守ってるだけなのに。ああそうだね九井くん、確かに君は方喰のシマには手を出さなかった。賢明だ」
だけど、確かに俺に喧嘩を売ったんだよと笑いかける。
なるほど、うちのシマに手を出してきそうで来なかったのは、ちゃんと弁えてくれていたからだったらしい。お気遣いを頂いたのに申し訳ないが、遠慮なく手を出せる「建前」を調えるためにこちらから罠を張った。
方喰のシマではないが、少しばかり縁があって融通を利かせられるジュエリーショップ。この日、この夜、この時間ならこの店に金や高級品が山とある。そして警備はヌルいぞと、わざわざその界隈に顔の利く灰谷兄弟を使って情報を流した。
そしてその店には
「オヤジの形見をさ、預けてたんだよね」
視界の端で、イザナの肩が揺れたような気がした。
「だいぶ汚れてたからそろそろ綺麗にしてもらおうと思って。それを盗もうとしたんだから俺には落とし前をつける権利がある。そうでしょ?」
こんな罠にも気づかないなんて可愛いねと言ってやれば、九井くんはぐっと歯を噛みしめた。実際、灰谷兄弟やその配下が相当上手いこと情報を流してくれたからこその結果だろう。彼が相当に神経を張り詰めて周到な計画を練っていたのは知っている。
さて、と俺は立ち上がり、部屋の隅に置いておいたケースを手に取る。別に俺は本当に九井くんを苛めるつもりはなかった。手を出す口実だけあれば、あとはオハナシがしたかっただけ。
彼が二度と、こちらの領分に手を出すことのないように。
「結局のところ、九井くんは別に犯罪行為が楽しいわけでもお金が好きなわけでもないんでしょ? 好きな女の子を助けるためにお金が必要、ただそれだけ」
かちりとケースのロックを外し、蓋を開ける。中を見た九井くんの眼が、これ以上なく見開かれた。
「手術以外にもいろいろお金が掛かるだろうから、ちょっと上乗せして五千万円。俺の個人的な資産だから後ろ暗くない綺麗なお金」
「あ、んた、……!」
「これ、貸してあげようか?」
好きな女の子のために手を汚すことも厭わなかった九井一くん。
彼に
*
数秒放心していた九井くんは、乾くんのココ、という囁くような声ではっと我に返る。手足を縛られ満足に動けない芋虫のような身体を必死にもがき、膝をついて額を畳に打ち付けた。ガッと俺が押しつけたときより大きな音が響く。
そのまま額をこすりつける彼の肩は、強く震えていた。
「かしてください」
声には涙が混じっている。もはや全身が震えている彼は、言葉を話すのもやっとのように思えた。
「ぜったいにかえします。りしも、……いくらになってもかえします。なんでも、いうことをききます。おれのことをすきにしてくれてかまいません、だから」
そのおかねをかしてください。
よせ、やめろ、と喚く乾くんの声など耳には入っていないらしい。涙ながらの懇願など見慣れたものだが、我が身でなく他者を想って頭を地面に擦りつける姿を見ることは少なかった。まして自分よりも年下の少年が、好きな女の子のために、などと。
俺は極道ではないが、それでも極道の跡取りだ。そんな俺から借金をするリスクを、この賢い子がわかっていないはずがないというのに。
一切の迷いなく土下座をした彼の肩に、そっと手を置いた。顔を上げさせ、赤くなってしまった切れ長の目を覗き込む。
「条件交渉なしに土下座した心意気は買うよ、九井くん。いいよ、貸してあげる」
「……!」
「利率とか返済についての話は後にするとして、まず大前提だけど。五千万は貸してあげるけど、俺は善意や同情で申し出たわけじゃない。きみの将来性とこちらの社会の秩序を考えて、つまり俺のために言っている」
「わ、かって、ます」
「うん、だから条件。せっかく綺麗な金を貸すんだから、きみも綺麗な金で返すこと。まっとうに働いて五千万返すのは相当大変だけど、それでも一線は決して越えないこと。そういうやつらと手を組むことも許さない」
かといって返済が遅れるのも許さないけど、と俺はにこりと笑う。
「きみの金を稼ぐ才能を見込んでの投資だと思って欲しい。きみはまっとうに、ほんの少しも後ろ暗くない方法で金を稼ぎ、利子を含めてちゃんと俺に金を返す。泣き言は聞かないし遅れるのも許さない。ただし、返済が順調であれば俺はきみやきみの周囲に手を出すことはしないし、きみの邪魔をするやつの排除くらいは手伝ってあげる」
これを甘いと見るか厳しいと見るかは当人次第だろう。
五千万なんて法外な金を彼がまっとうに生み出すことができるか、それによって全てが変わる。きちんと返済が進むなら俺は彼の切り札にすらなり得るが、彼の
「わかるね?
この返済は、どこかの可哀想な女の子に頼むとしよう。
ゴクリ、と目の前の彼は息を呑んだ。しかし、目の奥の覚悟は消えていない。じゃあ契約成立だ、と彼の肩を叩いた。
そのまま視線を踏みつけられたままの子犬に向ける。
「そういうことだから乾くん、きみのお姉さんは助かるよ。良かったね」
「て、めえ……!!」
「イヌピー、いい! あとは俺が稼げばいいだけだ。まっとうに稼げって言う以上は学生の間くらいは手加減してくれるよな」
「むしろ大卒くらいなってもらわないと困るしね。きみをどう売ってもたいした金になるとは思えないし、頑張って完済して欲しいから相談には乗るよ」
「十分だ。やってやるよ、利子まできっちり返してみせる」
いい心掛けだと笑いながら彼の拘束を解いた。
イザナに目配せをして乾くんを押さえていた足をどかさせたが、まっすぐ殴りかかろうとするのだから本当に犬か猪のようだ。しかし乾くんを止めようとした九井くんがよろけたのを見て、慌ててその身体を支えにいく。
最近は少し疎遠ぎみだったと聞いていたが、ちゃんとまだ仲が良いようだ。うんうん、そのまましっかり九井くんの金儲けも支えてあげて欲しい。
襖の外に控えていたやつに声を掛け、肩を貸し合う二人に笑顔を向けた。
「じゃ、ウチのに車出させるから早く病院へ。もう手術始まってるよ」
「……は?」
「しゅじゅ、……え?」
「せっかくお金貸してあげるのに赤音さんが助からなかったら意味ないでしょ。こうなることはわかってたし、医者も一日でも早いほうがいいって言ってたからすぐに手術しろって話通しておいたんだよ。表向きは彼女の境遇を不憫に思った金持ちの寄付ってことになってるから、わかってると思うけど俺のことは誰にも言わないように」
院長が出迎えると思うからこれで払ってね、と九井くんの手に金の入ったケースを握らせた。まだ呆けた顔のふたりの肩をパンとはたいて、ほらしっかり、と檄を入れる。
「借用書の作成や細かい話は手術が終わってからでいいよ。赤音さんの一日でも早い快復を祈ってるね」
ケースをしっかりと抱き込んだ九井くんと、複雑な感情が入り乱れているらしい乾くん。もう、どんな顔をしていいのかわからないという様子だった。まあ無理もない、冷静になる隙を与えないよう性急にことを運ぶのは極道の常套手段だ。
とにかく行っておいで、と背を押してふたりを追い出す。赤音さんが助かる確証が出るまでどうせまともに話なんかできないだろう。囁きのように落とされた「ありがとう」は聞こえなかったふりをした。正直、礼を言われる筋合いなんてない。
ふたりが去った部屋は妙に静かだ。じっと成り行きを見ていたイザナが、ようやく口を開く。
「……随分とお優しいな、伊織」
「そう見えた? 俺としてはこれで九井くんの荒稼ぎもなくなるし、すぐ使う予定のなかった金が利子付きで返ってくることになったからホクホクだよ」
九井くんが悪い子にならないっていう確約も出来たしね、と微笑めば、イザナは不機嫌そうに鼻を鳴らした。内心では「金稼ぎが上手いやつなら黒龍に欲しかった」とかそんなことを思っているんだろう。残念、これで彼のバックには俺がつく。黒龍だろうが何だろうが、誰にも手出しをさせるつもりはない。
それで、と眉間に皺を寄せたままイザナは一歩俺に歩み寄る。
「結局、俺はただの乾の押さえ役ってわけ? 使ってくれんじゃん」
「まさか。ただ、イザナはコッチのことに興味あるみたいだから見たいかなって。社会科見学だよ」
こういうのが見たくて俺に近づいたんじゃないの、と続ける。イザナの宝石のような目がまっすぐ俺を貫いた。その顔には何の表情も浮かんでいない。
今回のは確かにあんまりないケースの「オハナシ」だけど、と前置いて俺は笑う。
「九井くんの才能は今後脅威になりそうだったから、早めにコッチの世界からご退席頂いた。ついでに俺の資産を増やしてもらう手伝いを頼んでね。五千万なんてまっとうに稼げるやつはほんの一握りだけど、こんな若いうちから金稼ぎのことばっか考えてた子なら出来るかもしれないでしょ?」
「出来なかったら?」
「九井家や乾家、そのほか親しい皆々さまにご協力頂いて搾り取るよ? でももちろん九井くんがまともに返してくれるのが一番楽だから、身近に事情知ってるひとがいたほうがいいと思って乾くんに来てもらった。心身ともにサポートしてあげてほしいからね」
俺だって誰彼構わず金を貸すような真似はしないが、今回はこのやり方が一番いいと思った。九井くんの金を稼ぐ能力というのももちろんだが、何よりも大きかったのはその当人に「弱点」があったこと。
「九井一は、乾赤音の存在がある限り俺から逃げられない」
好きなひとのために犯罪にすら手を染めた少年。俺からすればひどく哀れで愚かしい。そんなわかりやすい「弱点」を堅気に残してこちらの世界を荒らそうなんて片腹痛い。俺が手を出さなくても、いずれその「弱点」をつかれて可哀想な目にあっていたことだろう。といっても、そうなるまえに彼女のほうがもたなかったかもしれないけれど。
こちらの世界は、もうどこにも居場所がないやつの掃きだめだ。どこにも居場所がないやつしか来てはならないし、まして堅気に未練のあるやつなど。自分に残った大事なもの全部を引き込むくらいの覚悟がないと生きてはいけない。
にこり、とイザナに笑いかけた。
「堅気に大事なものを残してるくせにコッチに飛び込んでくる人間はさ、コッチじゃただの餌なんだよね。そういうやつを食い物にするのはウチの筋に反するんだけど、最近じゃそういうの気にしない半端者が増えてきてる。だから俺は堅気に未練のあるやつは堅気にいてほしいし、筋も通さねえクズの半端者なんか死ねばいいと思ってるよ。本当に迷惑だから」
そこまで言うと、ハ、とイザナが嘲るように嗤った。回りくどいんだよテメェは、と俺の真ん前に立ち、額がつきそうなほどに顔を寄せられる。
「はっきり言えよ伊織、何が言いてえ?」
「じゃあはっきり言うよイザナ、堅気に未練があるくせに観光気分でコッチに来るのはやめてもらえるかな」
「ねえよ未練なんざ。俺にはこれしかねえ」
「強がってるのか自覚がないのかどっちかな。きみを慕っている鶴蝶くんも確実に巻き込むよ?」
「鶴蝶は俺の下僕だ。王についてくンのは当然だろ」
俺が鶴蝶くんの名前を知っていることにもイザナは怯まなかった。しかもこの確信した口ぶり、まあそうだろうとは思っていたけど鶴蝶くんはイザナの「弱点」ではないらしい。
じゃあこちらはどうだろうと、その名前を口にした。
「佐野真一郎くんも?」
イザナの顔色が一瞬で変わった。
あえて柔らかい声のまま、もうひとつの名前を告げる。
「それに妹さん、エマちゃんだっけ」
大事なふたりなんじゃないの、と言い終わる前に胸ぐらを締め上げられる。イザナは完全に血走った目をしていて、よくこれで未練がないなんて言えるなあと軽く苦笑した。
口の横から泡でも噴かんばかりのイザナは、叫ぶように言い放つ。
「血も繋がってねえんだから兄貴でも何でもねえ!! 俺を騙してたやつだ、アイツに未練なんかあるわけねえだろ!! エマだって……っ!!」
調査によればある時期から佐野真一郎と一切接触をしなくなったそうだが、どうやら原因は血の繋がりがなかったことがわかったかららしい。
盃交わせば家族になる世界で生きてるせいかイザナの気持ちはわからないが、施設で過ごしていた彼からすれば大きなショックだったのかもしれない。血の繋がった家族なんて俺もいないけどね、と内心だけで呟き、まあ落ち着いてと喉元にあるイザナの手をぺちぺちと叩いた。
「そっかそっか、俺の勘違いか。いやあごめんね、そういうことなら確かにイザナはコッチに向いてるかもしれないね」
は、とイザナが息を吐く。力が緩んだ瞬間を見計らって腕を外した。にこにこと笑ってみせながら襟元の乱れを整える。
確かにイザナは本当に堅気なのかと思うくらい頭がイカれている。他人に興味がないせいか倫理観もないし、何をしても罪悪感を抱かない。そのくせ妙なカリスマ性で他者を惹きつけ、意外と頭もまわるし腕も立つ。誰か裏社会のルールを教えてやれば、それを利用してのし上がるくらいのことは出来る素質だと思う。
イザナはコッチの社会に適した人間なのだろう。そして俺と組めば、おそらくそれは実現する。
「勘違いしてたお詫びに、イザナに手を貸してあげてもいいよ」
失礼なことを言っちゃったもんね、とイザナの肩に手を置いた。わずかに息を切らせたイザナの肩が、呼吸にあわせて揺れている。
こちらの社会の渡り方や人脈のパイプ。黒龍の薄汚い商売。俺が手を貸せば、黒龍は今までの比ではないほどの力をもつことが出来るだろう。
俺と手を組みたかったんでしょ、と笑顔で語りかける。
「でも、やっぱり堅気に未練はないって証拠は見せてもらわないとだから―――」
肩を引き寄せ、イザナの耳元に口を寄せる。
「
佐野真一郎を。佐野エマを。未練を疑わせる存在をその手で抹消しろ。
どうせ放っておいても、コッチの世界でイザナが暴れれば彼らは無事では済まない可能性のほうが高い。それならイザナの手でさっさと引導を渡してやれ。
「堅気の繋がりを清算できたら、何でも手伝ってあげる」
さあ、どうする?
そう語りかけると、イザナの耳元の花札がカランと揺れた。