ポケットモンスター・ソード ホップに敗北RTA 水統一チャート   作:まみむ衛門

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 ペリッパーで雨を降らせたせいで本日二度目のびしょぬれになった髪を乾かして下着を替え、ぐしょ濡れのユニフォームも追加され、湿った荷物が二倍になった。これからはジムに挑む前に色々考えなければならないかもしれない。野良バトルでは傘の使用も要検討だった。

 

 そんな後始末が必要だった、スピカのルリナへの挑戦を、オリヒメは見ていてくれたらしい。憂鬱な荷物を抱えてぐったりしながら挑戦者用出口から戻ってきたスピカを、オリヒメが出迎える。

 

「スピカちゃん、かっこよかったよー!」

 

「ああ、ありがとう。オリヒメも……あれはすごかったな」

 

 当然、オリヒメのコイキングや、彼女との関係については、スピカもよく知っている。一番仲が良いポケモンだが、最近のバトルではめっきり出番はなく、一番最後に出てほぼ敗戦処理めいた役割しかしていない。

 

 だが、あの土壇場でついに、コイキングが溜め込んだ気持ちと経験が解放され、「龍」になった。

 

 コイキングを長いこと連れ、ギャラドスにまで育て上げ、しかもお互いに信頼関係を築いて従えている。ドラゴン使いも驚くような存在に、オリヒメはなったのだ。

 

 あれに比べたらスピカの戦い方は泥臭い。有利なポケモンで最初の二匹を倒し、ダイマックスは数と道具の力で誤魔化し、最後は雨でびしょ濡れになりながら勝つ。理論的で効率が良いという点ではスマートともいえるが、感情面でのスマートさは欠片もない。

 

 とはいえ、ルリナの仕掛けた論理パズルをぶっちぎりの歴代最速・最短手でクリアし、まるで作戦通りと言わんばかりにルリナを追い詰め、そして豪雨に打たれぐしゃぐしゃになりながらも鋭い眼光でバトルに挑んだスピカもまた、ヤローに勝った時の姿も記憶に新しく、大きく話題になり始めている。本人は知らないが。

 

「オリヒメ、スピカ」

 

「「ルリナさん!?」」

 

 そうしてバウジムから出ようとしたところで、二人はユニフォーム姿のルリナに呼び止められた。まさかの、憧れであり地元の名士でありトッププレイヤーの彼女にここで呼び止められるとは、思ってもいなかった。

 

「直後にも言ったけど、さっきの戦いは、本当に素晴らしかったわ。二人を推薦した私の目に、狂いはなかったね」

 

 スピカはもちろん、オリヒメも今年はルリナから推薦されていた。二人のこの勝利は、ある意味では「恩返し」とも言える。

 

「それで、さっきのバトルを見て感動した人がいてね。私を通して、オリヒメに正式にスポンサー契約の話が来てるのよ」

 

「え、うそ!? やったあ!」

 

「おめでとう、オリヒメ」

 

 この話を聞いたオリヒメは飛びあがって涙を流しながら喜び、スピカは祝福する。

 

 バッジも初ジムチャレンジで二つ集められる程度には実力があり、見た目や立ち居振る舞いに華があって、そこそこ人気もあり、アイドル的活動をしている。そんな彼女にとって、大会ごとの一時的なものではなく、正式なスポンサーがつくというのは悲願であった。スピカもそれは知っているので、バトル中の恐ろしげな顔が嘘みたいに、柔らかい笑顔で祝福する。

 

 ジムチャレンジはガラルで最も人気なイベントの一つである。その主役ともいえるジムチャレンジャーは、ガラル全土から、そして他地方のマニアから、注目を集める存在だ。そんな彼女ら・彼らのスポンサーとなって宣伝をしようという企業は多い。スポンサー紹介料としてリーグ委員にそれなりの金額を出す事にもなるが、それでもしょせんアマチュアへのスポンサーなのでスポンサー料は安く、宣伝効果のコストパフォーマンスがとても良いのである。

 

 そして、アマチュアトレーナーであると同時に交渉初心者である本人という「弱者」に直接交渉して甘い汁をすするのではなく、百戦錬磨のプロであるジムリーダーを通して話そうということは、「わかっている」スポンサーでもある。大手、もしくは優良スポンサーだろう。

 

 しかも、トップモデルでもあり芸能界をよく知るルリナが話をこちらまで通すということは、彼女のお眼鏡にもかなうスポンサーということだ。まずはほぼボランティア価格の地元町会や互助会から……と考えていたオリヒメにとっては、ひっくり返る程の話である。

 

 そういうわけで、オリヒメは一旦ジム内に設けられたスペースでスポンサーと面談することになった。ルリナに可愛がってもらえてるからか、彼女の紹介した代理人まで傍にいてくれるらしい。一方スピカはまだ初参加だし今までの活動歴もゼロということもあって、そのような話は来ていない。そのまま次のチャレンジへと進むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ! 僕が炎タイプのジムリーダー・カブだ」

 

 しれっと自然にチャレンジャー用入場口で横に立っていて、一緒に並んで入場するという奇妙なファーストコンタクトをしてきたくせに、平然とこんな挨拶をしてくる。バトルの前から精神攻撃だろうか。スピカは妙に気疲れさせられた先ほどのミッションを思い出しながら、「はあ、どうも。スピカです」と気の抜けた返事をする。

 

「草タイプのヤロー、水タイプのルリナをしりぞけよくぞここまできたものだ!」

 

 それは自分でも思うことだ。一週間前の自分にここに立ってるなんて伝えたら、変な夢を見たと思って二度寝を決めこむだろう。

 

「ミッションは……トレーナーとしての覚悟が決まっていたね。迷わず、あそこまで自分の得意を貫き通せるのは、良いトレーナーの素質だ」

 

 スピカはゲットでの二点に目もくれず、ジムトレーナーの繰り出す妨害も気にせず、ただひたすらに、水ポケモンの水技で淡々と炎ポケモンを倒して一点ずつ稼ぎ、ミッションをクリアした。結果的にこの方法で最後までやったから、妨害もほとんど受けていない。

 

「自分を曲げてしまうと、いざという時に自分もポケモンも信じられなくなる。スタイルが馴染まなくて、調子が出ないこともある。だけど、それを乗り越えた先には、また新しい世界が開けるはずだ。君はそちらにも傾きそうだから、老人としてアドバイスさせてもらったよ」

 

 スピカは押し黙る。

 

 衝撃的な初対面のわりに、あまりにも刺さる言葉だった。

 

 ジムミッションでは初志貫徹したが、今までのジムリーダーとのバトルでは、事前に策をこねくり回して手を変え品を変えやってきたイメージが自分でもある。最も得意なスタイルから外れることもあろう。

 

 そしてそれは、カブのトレーナー人生と重なるものだった。

 

 彼は勝ちへの執念のために一度自分を曲げ、挫折し、そしてかつての感情と新しい戦術を融合させ、こうしてメジャージムリーダーとしてまた活躍している。

 

 何も返さないスピカに対し、カブは何も反応しない。聞いてないのではなく、何か思うところがあって黙ってしまったのが見透かされたのだろう。

 

(いや、今は考えるな。ここは鬼門の三つ目。事前に用意した作戦でとりあえず進むべきだ)

 

 背を向けて所定の位置へと歩きながら、額に手を当て、ゆっくりと首を横に振る。それと同時に会場のボルテージがどんどん上がってきた。バトルが近づいてるのが分かったのだろう。

 

 そしてトレーナー用スペースにつき、振り返ってまたカブと対面する頃には、もう気持ちも切り替わっていて、闘争心が湧き上がり、目の前のカブを睨みつける。

 

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 

 炎の聖地に豪雨が降り注ぐ。それによってすぐにびしょぬれになり、ぼさぼさ気味の長髪もあってその姿はあっという間に乱れていく。だがそんな自分を気にせず、バトル相手を睨んで冷徹に戦いを進めていく。

 

 観客の中にはその姿に、雨の中に現れるワイルドエリアの容赦ない野生ポケモンたちの姿を重ねる者もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、スピカは一日にワイルドエリアであえて雨の中に突っ込んだのと二回のジム戦を行ったのとで、三回もびしょぬれになった。エンジンジムの控室にあったチャレンジャー用急速乾燥機で乾かしたユニフォームも、またぐしょぐしょになっている。私服や下着ともども、ホテルスボミーインのサービスに期待しよう。

 

 そして翌朝、ゆっくり寝たスピカが再び旅立つ頃。早朝一番にエンジンジムに挑み、一発でクリアしたオリヒメが、スピカに抱き着くように飛びついてきて、そのことを報告してくれた。彼女はついに、前回の自分を越えたのだ。

 

 タイプ相性の差が大きかった。二人の感覚としてはそんな感じだ。二人とも、自分を曲げず、彼我の相性差を押し付ける戦術を選んだのだ。それにしたって、スピカの戦い方はどこか容赦のない印象があり、オリヒメのは華やかで応援したくなる印象があるのだから、つくづく性格が出るものだな、とスピカは自嘲する。

 

 そうして再会した二人はすぐに別れた。スピカはワイルドエリアで新たな戦力を探すのである。

 

 そして、普通に列車でナックルシティに行ってからラテラルタウンに行こうとしたオリヒメは――

 

 

 

 

 

 

「やあ、先ほどぶりだね」

 

 

 

 

 

 

 ――駅の前で立っていたカブに声をかけられた。

 

「お、おはようございます! 先ほどはありがとうございました!」

 

 オリヒメは慌てて挨拶を返す。芸能界の一端に触れた彼女はとても礼儀正しく、腰が一瞬で直角に折れ曲がり、頭は深くまで沈んでいる。

 

 このガラルでトップクラスの有名人にいきなり道端で会ったのだ。こうなるのが普通であろう。カブは慣れているから――ではなく彼特有の天然が発動して――オリヒメのこの行動を止めず、ただ見守っていた。

 

「おお、来ましたかあ」

 

 そして、駅の入り口からヌッと現れた巨体は、ジムリーダーのヤローだ。

 

「や、ややや、ヤローさんも!? お、おはようございます!」

 

「うん、おはようございます」

 

 オリヒメの驚きと緊張は限界に達した。どちらもジムバトルでは本気の本気で倒しにかかったが、憧れのトップトレーナーであることに変わりはない。いきなりこんなところで会えばこうもなる。それに対するヤローは、その鷹揚な性格から、のんびりと挨拶を返すだけだった。

 

「お、おお、お二人とも、これからどこかへお出かけですか?」

 

 もう大方の挑戦者が抜けたヤローはともかく、カブはこれから挑戦者が集まるタイミングだ。それなのにここにいるのは不思議である。

 

「実は君と、スピカ君に用があったのだが……」

 

「え、っと、スピカちゃんはワイルドエリア経由でナックルシティに向かうそうです……そ、それで、何か、ご、ご用、と、は……?」

 

 この二人がわざわざ自分なんかを駅で待ち構えるなんて。一体何の用だろうか。まさか、何か粗相やルール違反があったのか。オリヒメの脳内を嫌な想像が渦巻く。ルリナ経由のスポンサーがついて、さらについ先ほど鬼門の三つ目を突破してウキウキ気分だったのが、一気に半狂乱へと変わっていく。

 

「ジムバッジを三個集めるというのはとても難しい。ここで諦めるトレーナーは数多くいる。だから……せめて僕に勝った者は、みんな見送ることにしているよ」

 

 オリヒメの緊張具合を見て、カブはゆっくり語りかけるように、用件を説明する。

 

「そ、そんな、あたしなんかのために……」

 

 オリヒメは畏まって委縮してしまう。ヤローとルリナがともかく、カブに対しては相性差と運の差があった。きっと列車の中ではもうウキウキ気分が消え、次のジムこそが本番だ、と心臓が早鐘を打っていただろう。

 

 そんなオリヒメの心中を、多くの若者を育て見送ってきたカブは、すっかり読み取っている。

 

「何か勘違いしているようだけど。僕は相性が悪いからといって簡単に負けることはない。ルリナ君やマクワ君にだって大きく負け越してはいないよ」

 

 確かにそうだ。とんでもない失礼をしでかしたと、オリヒメはまた慌ててしまう。

 

「ルリナ君から聞いているけど、スピカ君は仲の良いお友達らしいね? あの子も同じことを思ってそうだから、これは伝えておいてほしい。君たちが勝ったのは、まぎれもなく実力だ。バッジを三つとれず諦めてしまった多くのトレーナーのためにも、胸を張って欲しい」

 

「は、はい……はい!」

 

 ジーン、と、胸に温かいものが染み渡る。

 

 燃える漢・カブの言葉は、オリヒメの心に暖かな火をともした。

 

「いつもならルリナさんも来るんだけど、今日はいろいろ立て込んでて来れないらしいんだな。まあ、二人ともルリナさんとお知り合いらしいし、きっと昨日にお話してるでしょう」

 

 和やかな笑みを浮かべて、ヤローが本題に引き戻す。そう、目的は、オリヒメと、そしてもったいないことに不在のスピカの見送りだった。

 

「そういうわけで、エールを送ることにする。ここにいないスピカ君にもきっと届くよう、いつもより気合をいれるよ」

 

 そう言ってカブは、大きく息を吸うと――目を見開いて、大きく叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけいけオリヒメ! やれやれスピカ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのスピカはというと、エンジンシティを出たばかりのワイルドエリアのキバ湖・西で、不運にもいきなり猛吹雪に見舞われ、やるせない気持で必死にロトム自転車をこぎ進めていた。

 

 当然、炎の漢・カブの燃え盛るエールなど届いているはずもなく、心はすっかり冷え切ってしまっていた。




「ポケモンスローライフ編」
他モードと異なり、ガラルに住む一般人として生活する日常シミュレーション。ポケモンたちと一緒にお仕事をしたり遊んだり家事をしたりして生活する。ゲームシステムや画面はおおむね「どうぶつの森」「牧場物語」あたり。

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