ポケットモンスター・ソード ホップに敗北RTA 水統一チャート   作:まみむ衛門

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モンハンに夢中であれだけ夢中でやってた剣盾1週間以上触ってないので初投稿です


5-3

 ラテラルタウンについたスピカは、もう疲労困憊に近かった。

 

 ワイルドエリアではいきなり吹雪に遭い、そこからも雨やら雷雨やら砂嵐やらで大変だった。ナックルシティでポケモン回復と技マシン購入のために立ち寄ったポケモンセンターでしばらくぐったりしてしまったほどだ。タチの悪いことに、目的のポケモンであるシズクモは雨の中しか出現しない。砂嵐や吹雪はともかく、雨は「運が良かった」証である。

 

 これでついにスピカは傘を購入し、使う決心をした。そしてそれは、さっそく役に立つことになった。

 

 ラテラルタウンの道中・6番道路はカンカン照り。まさかの初仕事が「日傘」であった。

 

 当然、待ち構えるトレーナーや野生ポケモンとの戦闘は、水ポケモンばかりのスピカには不利だ。

 

 だが彼女は結局ここまででペリッパーを出して天候を一時的に雨にしたりはしていない。

 

 理由は簡単。強い日差しと雨が頻繁に入れ替わったら、体調を崩してしまいかねないからである。いくら一番の相棒と言えど、迷惑なものは迷惑だ。主にランターンと新加入したばかりのオニシズクモに頑張ってもらった。

 

 そうして満身創痍の末にたどり着いたラテラルタウンは、遺跡が多く残る歴史の古い町だ。何やら昨日、チャレンジャーの一人がその遺跡をぶっ壊して処分されたというニュースが流れていたが。

 

 それはさておき、ポケモンセンターでゆっくりと休み、ジムに挑もうとする。

 

 

 

 

「ん? おー、あの時のお姉さんじゃないか!」

 

 

 

 

 だがその手前の長い長い階段で、聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。

 

「……おま……君か」

 

 いつものくせで「お前か」と言いそうになるが、一応20歳越えの自覚はあるので、子供に「お前」は使ってはいけないと抑える程度の常識はある。

 

 声をかけてきたのはホップだ。相変わらず元気そうで何よりである。だがどうにも、あの時に比べたら元気がない。それでもスピカのマイナス二倍――スピカの元気は0未満である――ぐらい元気だが。

 

「よし、目と目が合ったらバトルだ! 準備はいいか?」

 

「……今からジム戦に挑む予定なんだがな」

 

 そう言いつつも、スピカはボールを構える。断ったら「じゃあ待ってるぞ!」とか言い出しかねない。ジム戦後に戦うのはしんどいので、準備運動がてらに相手するのが一番だ。

 

 

 ポケモントレーナーのホップが、勝負を仕掛けてきた。

 

 

「いけ、ウッウ!」

 

「バトルだ、ランターン」

 

 

 ウッウは比較的珍しいポケモンだが、水タイプ故に、バウタウン育ちのスピカでもよく知っている。水・飛行タイプだ。対するこちらは電気・水ポケモンのランターンで、非常に有利だ。ただし、意図したわけではない。特性・蓄電と、弱点が少なく技が豊富なランターンは初手にぴったりと判断しただけである。

 

「くそ、戻れウッウ!」

 

 ホップは苛立たしげにウッウを戻す。やはり、あの時と調子が違う。何か嫌なことでもあったのだろうか。

 

「いけ、スナヘビ!」

 

 続いて出したのは、新戦力の地面ポケモン・スナヘビだ。相変わらず水ポケモンであるランターンに不利だが、電気には有利。ウッウを狙った電気技は受けられる。

 

 

 

 

 

 だが場に出たばかりのスナヘビにいきなり突き刺さったのは、「バブルこうせん」だった。

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「見えてたぞ」

 

 初めて戦った時に分かった。彼は色々なタイプのポケモンを連れられる、飛びぬけた才能があるトレーナーだ。故に、交換の選択肢も豊富である。仮にウッウに居座られても問題は薄いし、電気技を受けられるポケモンを出すと判断して、「バブルこうせん」を指示していたのだ。そしてそれが、どんぴしゃではまった。

 

 容赦なく追撃して、スナヘビは何もできずダウンする。

 

「さ、さすがだぞ! ここまでできるなんて!」

 

 ホップの動揺は激しい。完全に読み切られ、何もできずに一匹ダウンした。非常に悔しそうだし悲しそうだし、どこか苛立っている様子も見える。だがそれでも、スピカの見せたファインプレーを、心の底からの笑顔で賞賛してくれた。あまりにも性格が良い。元気すぎて少し話しただけでも疲れるが、スピカですら、ホップを嫌うことはできない。

 

「なら、いけ、エレズン!」

 

 出てきたのは知らないポケモンだった。

 

 だが、目つきが悪く紫色で、またバチバチとエネルギーが漏れ出ているから、毒、電気、悪あたりが入っているだろう。とりあえず電気技を選んでくれるならラッキーだが、おそらくそれはしてこないだろう。

 

 エレズンの技は「ようかいえき」と威力が低く、元気なランターンのダメージにならない。また「バブルこうせん」二回で倒した。エンジンジムのジムミッションの時から思っていたが、バウタウンで購入した潮のお香による威力アップの恩恵が著しい。市場でバイトした時にこんなのがあったことを覚えておいてよかった。

 

「くっ……こうなったら……いけ、ラビフット!」

 

 ホップの焦りは激しい。そんな中で選ばれたのは、あの時のヒバニーの進化系であろう赤いポケモン・ラビフットだ。恐らく炎タイプなのには変わりない。ランターンには不利だ。

 

 だというのに、スピカは思考のギアを一段階上げる。

 

 ラビフットを出した時のホップの特に信頼した様子。出てきた直後の立ち居振る舞いと威圧感。そしてかつてヒバニーのころに大逆転されそうになった経験。

 

 こうした知識と観察眼が重なって、「最も警戒するべきポケモン」として、即座に判断できた。

 

「戻れランターン! バトルだ、ペリッパー!」

 

 炎技の威力を減退させる雨を降らせるため。ランターンはウッウや予想後続に残しておくため。そして何よりも、最も信頼できるパートナーに任せたいから、ペリッパーを出し、同時に雨対策で傘をさす。ようやく本来の使い方だ。

 

 ランターンを狙って出された「にどげり」がペリッパーに突き刺さる。効果今一つだというのに、すさまじい威力だ。

 

「『りんしょう』だ!」

 

「『しおみず』!」

 

 炎も格闘も駄目。ならばノーマル技とばかりにホップが指示を出す。対するスピカも、覚えさせたばかりの技で対抗した。

 

 ラビフットの方が格段に素早く、ペリッパーはすさまじい威力の「りんしょう」で脳を揺るがされる。もう体力は半分も残ってないだろう。だがしっかりと「しおみず」を返し、ラビフットを一撃で沈めた。

 

「っ! いけ、ウッウ!」

 

「もう一度だ、ランターン!」

 

 スピカの判断は早かった。再び圧倒的に有利なランターンを出し、そのままとても効果抜群の電気技で止めを刺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、負けた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウッウをボールに戻しながら、ホップが崩れ落ち、悔しそうに地面を叩く。その姿に、スピカは二重の驚きを覚えた。

 

 敗北を、ここまで思いつめるような子だっただろうか。

 

 何よりも。

 

 

 

 

 

「おい……あの時の、ウールーとココガラはどうした?」

 

 

 

 

 初めて会った時のあの二匹がいない。

 

 どちらも旅の初期に連れていた仲間だろう。タイプ的にも外す理由はない。それなのに「負けた」ということは、今は連れてないということだ。

 

「…………ユウリにも、ビートにも何度も負けて、負け続けて…………アニキの、チャンピオンの名前に恥じないように、負けないように、色々メンバーを考えてるんだ…………」

 

「そ、そうなのか……」

 

 ビートはよく分からないが、ユウリは話題になってるから知っている。あのチャンピオンから推薦状を貰い、そしてジムチャレンジをすべて一発で、そして最速一番手でクリアしている。連れているポケモンもタイプは様々で、10年前のダンデの再来と騒がれていた。

 

 だが、ホップにとっては、どんなに「すごいやつ」でも、幼馴染なのだ。

 

 それに何度も負ける。その苦しみは、果たしてどれほどなのか。

 

 バトルの面で、きっと対等に過ごしてきたのだろう。いや、ダンデの影響のぶん、少し先輩だったかもしれない。それが、トレーナーとして旅立ってからは一度も勝てず何度も負けている。彼のショックや苦悩は、「チャンピオンの弟」という立場もあって、大きいものになっているのかもしれない。

 

 スピカのように、早々にオリヒメが才覚を表わし、一方自分は自他ともに認める怠惰だったら、最初からあきらめはつく。五歳ほど年下の妹のような存在だが、恥も外聞もなく甘えっぱなしだ。ホップの気持ちをわかることはないが、なんとなく、「そうかもしれない」のような予想はつく。

 

「あー、そうか。……私からは何も言えないけど…………その、あまり無理するなよ。ポケモンたちも、お前の判断を尊重してくれるはずだ」

 

 おそらく、ラビフット以外の三匹は、直前に加入した新入りだろう。それでも、ホップのことを信じ、彼の言うことをよく聞いていた。運よく相性や初手の差でスピカが勝ったが、もう一度やったら分からない。ポケモンの育て具合や練度は、ホップの方が上である。彼もまた、飛びぬけた才能がある。

 

 そういうわけで、気まずくなったスピカは、そんな、自分でも「わかったようなことを」と思うようなことを言い残して、そのままジムへと向かう。

 

「ああ、ありがとな……」

 

 しょげていたホップは立ち上がれずまた顔も下げたままだが、それでもお礼を絞り出した。どこまでも律義で良いやつだ、とスピカは感心する。そしてそんな彼ですらこうなるのだから、「チャンピオン」という存在がいかに重いのかを思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 

 

 

 

 

 スピカがジムの扉を開く直前、ホップの叫び声が、背中にわずかに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コーヒーカップに乗って斜面を滑り降りてゴールを目指す。

 

 コーヒーカップは自ら回転させることが可能で、回転方向に応じて進行方向が変わる。

 

 また斜面の壁にはところどころにパンチンググローブマシーンが仕込まれていて、それに弾き飛ばされることもある。

 

 コーヒーカップには、自分が滑り降りている斜面をリアルタイムで俯瞰できるモニターが付いていて、それを見ながらチャレンジする。

 

 ラテラルタウンのジムミッションはおおむねこのような感じだった。

 

 

 

 

「頭おかしいだろ!!!」

 

 

 

 

 一つ目のミッションをクリアし終えたスピカは、コーヒーカップからなだれ落ちるように降りる否や倒れ込み、跪きながら、人生最大の大声を出した。

 

 そう、乗り物に乗って斜面を滑り降りるだけでもかなり大変だ。それに加えて、自分が乗っているコーヒーカップを状況に応じて自ら高速回転させなければならず、さらにパンチンググローブに弾き飛ばされたときの勢いは強いためとんでもない慣性がかかる。

 

 自分が乗る乗り物が高速回転し、さらに急加速や急な衝撃を繰り返す。しかもそれにただ揺られるアトラクションなら良いが、自らそれを操作してゴールを目指さなければならない。

 

 はっきり言って、ただの地獄だった。

 

 ジム側もその自覚はあるようで、ゴール直後には、観客モニターからは死角になっているスペースがあり、そこで休憩が――または何かしらを「出す」ことが――可能になっていた。ご丁寧に排水溝の広い洗面台まである。

 

「あー、やっぱそうなりますよねえ」

 

 ジムミッションでトラブルがあった時に対応するため控えているスタッフも苦笑いだ。

 

「一応、コンセプトはあるんですよ。場のみならず体のコンディションも悪い状態でもまともにバトルできるかっていう。ほら、ワイルドエリアでは何が起きるかわかりませんから」

 

 少なくともこんなことがワイルドエリアで起きるわけないだろ! と言い返したいが、あいにくながらそのような元気はない。

 

 そして、スピカは知らぬことだが、実際のワイルドエリアではそのような事例がたまにある。毒ポケモンなどのガスによって酷い酩酊状態にいつのまにか陥り、その状態で襲われたベテラントレーナーが大怪我を負って命からがら逃げ延びたのだ。サイトウはそのような事例を知ったうえで、この楽し気ながらも身体的に一番つらいミッションを用意したのだ。

 

 そうしてしばらく休憩したスピカは足取りがおぼつかないながらもなんとか休憩スペースから這い出て、ジムトレーナーに挑みかかる。

 

 

 これがあと二回、しかもさらに長く難しく激しくなることに気づき絶望するのは、この数分後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペリッパーに頼りたいのはやまやまだが、他ポケモンの育成もしたい。幸いここはワイルドエリアではなくジムであり、多少手を抜いても死にはしない。そこで、あえてペリッパーほど育っていない他ポケモンを育成することにした。

 

 そうしてなんとか、本当にやっとこさ、実にギリギリのところでジムミッションを乗り越え、ついにサイトウに挑むところまでたどり着く。何とは言わないが、出さなかったのは奇跡というほかない。

 

 対面するのは、オリヒメと同じころかやや年下くらいの、浅黒い肌の少女。これでも、格闘タイプ担当ジムリーダーでは、過去にチャンピオンの座にいたころのジムリーダーに次ぐ天才と言われている。「この若さなのに」という言葉に、一切の同情や驚きや侮りはない。ただただ、その天才性と努力と実力に対する畏怖が籠められるのみだ。

 

「ようこそ、ジムチャレンジャー。わたしはサイトウです。あなたたちの心、どんな攻撃にも騒がないのか……わたしが試すとしましょう」

 

 あいにくながら、今のスピカはメンタル的に絶不調だ。何せジムチャレンジで徹底的に体力と気力が削られた。未だに慣れないこの大観衆の中での戦いのプレッシャーと視線はヤローに初めて挑んだ時並に強く感じてしまっているし、激しく容赦ない攻撃で有名なサイトウの攻めにも耐えられるか、今から不安だった。

 

 そんな不安を振り払うように、腰のボールが揺れる。新品ばかりの中で一つだけ経年劣化している、長年連れ添った相棒だ。

 

 そう、今までは我慢していたが――

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけっ! カポエラー!」

 

「バトルだ! ペリッパー!」

 

 

 

 

 

 ――この大一番で、出し惜しみはしない。

 

 ペリッパーが出ると同時に、バトルフィールドに雨が降り注ぎ、あっという間にスピカたちを濡らす。そのスピカの代名詞としていつの間にか認識されるようになった雨に、会場の歓声が爆発するが、スピカの耳にはもう入らない。ただただ、サイトウとカポエラーを、恐ろし気な目つきで睨むのみだ。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

 ペリッパーの得意な特殊飛行技で、カポエラーには効果抜群。その一撃で、すでに満身創痍になっている。だが、カポエラーは全身にエネルギーをみなぎらせ、すさまじいパワーでペリッパーを殴りつけた。

 

「『リベンジ』。わたしたちは相手の攻撃に耐え、それを自らの力にする術を心得ています」

 

 飛行タイプだから格闘技はさほど効かないはず。それなのに、ペリッパーはもうだいぶ苦しそうだ。相手の攻撃を受けた後に放てば威力が二倍になる「リベンジ」は、タイプ相性の壁を越えて、確かなダメージを与えていた。

 

 だがその代償に、カポエラーはペリッパーの「しおみず」で倒される。雨で威力が増し、体力も半分以上削れていたから威力も倍加している。オーバーアタックに等しいダメージがカポエラーを襲い、当然のようにダウンさせた。

 

「チッ、厄介だな」

 

 だが「リベンジ」の直後、その攻撃の勢いを活かして、素早い追撃を差し込んできていた。「でんこうせっか」だ。ペリッパーはもうだいぶ苦しそうである。あのカポエラーは、小技が得意で強く攻撃できる、いわば「テクニシャン」なのだろう。

 

「いけ、ゴロンダ!」

 

 続いて現れたのは、筋肉質で目つきの悪い毛むくじゃらの獣、ゴロンダだ。あのガラの悪さからして悪タイプが入っているかもしれない、とスピカは見当をつける。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

「『つじぎり』!」

 

 どちらにしてもやることは変わらない。ペリッパーはほんの少しゴロンダより素早く動き、先に『エアスラッシュ』を叩き込む。それに負けじとゴロンダも、鋭い爪でしたたかに切り裂いた。

 

「急げゴロンダ! 『バレットパンチ』!」

 

 相手の方が少し素早い。もう一度悠長に普通の攻撃をしていたら、何もできずに倒される。水タイプのペリッパーに効果今一つだが、拳を鋼のように固めて放つ素早いジャブを指示する。

 

「『おいかぜ』だ!」

 

 だが、スピカの指示はそれを上回っていた。ペリッパーはダメージが限界と見て大きな口の中に隠していたオボンの実をむしゃむしゃ食べて回復しながらその横っ面に鋼のジャブを受けるが、それに構わず大きな翼を振り回して風を操る。この風に乗れば、しばらく素早さが大きくアップするだろう。

 

「やりますね! もう一度『バレットパンチ』!」

 

 安易に先制技を選んでしまった。サイトウは自らの未熟を戒め、そしてスピカを褒めたたえながらも、初志貫徹とばかりに同じ技を指示する。

 

「『しおみず』だ!」

 

 スピカも今度は普通に攻撃を選んだ。ペリッパーは「おいかぜ」に乗って素早く動くが、ゴロンダの拳が確かに突き刺さる。それに対してペリッパーは痛そうにしながらも、至近距離で威力の増した「しおみず」をぶつけ、先ほどのカポエラーのように、ゴロンダを戦闘不能にした。

 

「どんどんいきます! いけ、ネギガナイト!」

 

 続いて出てきたのは、凛々しい顔をした純白の鳥だ。その両手には、植物でできた立派な盾と太くて長いランスを持っている。「ナイト」の名にふさわしい。

 

(鳥……飛行タイプ? だが手にネギを持っている。草タイプもあるか? だが、ここはジムだ。別タイプを使う例外はいくらでもあるとはいえ……それにあの立ち居振る舞い)

 

 その立ち姿は「武人」と呼ぶにふさわしい。サイトウと似た精神性がある。ただしサイトウは、明鏡止水の「静」とすべてを壊す荒々しい「動」が同居する格闘家タイプなのに対して、このネギガナイトは、力ある者に与えられる責任を全うする紳士然とした騎士タイプで、違う面もあるのだが。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

「『みきり』!」

 

 とにかく、格闘や草を含んでいそうなら、どちらにせよ飛行技は効果抜群だ。一撃目はその大きな盾で防がれてしまうが、そのまま指示した追撃は、「おいかぜ」に乗って素早く動いたことでネギガナイトよりも先に大打撃を与えることができた。

 

「『ぶんまわす』!」

 

 だが、攻撃もここまで。ネギガナイトはそのランスを力強く「ぶんまわす」。その直撃を受けたペリッパーは、途中栄養豊富な木の実を食べて体力を回復させたものの、度重なるダメージによってついにダウンした。

 

 これで「おいかぜ」は止み、いつの間にか雨も止んでいる。サイトウのポケモンを二匹倒し、ネギガナイトもかなり削ったが、スピカはフィールドの理と、一番信頼している相棒を同時に失った。

 

「――バトルだ、オニシズクモ!」

 

 そしてスピカは少し迷った末、新たに加入した強力な仲間・オニシズクモを場に出す。バウジムでのオリヒメのオニシズクモを見て、自分のパーティにぴったりだと考え、ワイルドエリアで捕まえたのだ。

 

「『ぶんまわす』!」

 

「『バブルこうせん』!」

 

 サイトウの指示に、スピカはひっそり胸をなでおろした。あの見た目だ、飛行タイプが入っている可能性はぬぐえないし、ランスを使って疑似的嘴にして「つつく」ような攻撃もあり得た。オニシズクモを出すのは怖かったが、どうやら杞憂だったらしい。

 

 オニシズクモは勢いよく振り回されるランスをどっしりと受け止め、反撃に泡の光線をぶつける。タイプ一致に加え、さらに特性・水泡によって威力が増し、さらに水タイプのパワーを活気づける潮のお香も持たせている。「エアスラッシュ」も食らっていたネギガナイトは、たまらずダウンした。

 

「素晴らしいです。このコンディションだというのに、その戦術、その闘志、その迫力、その観察眼、その勇気! わたしは心の底から、あなたを尊敬します」

 

「それはどうも」

 

 バトル中のジムリーダーにこれを言われるとはすなわち、一切手加減をしない宣言だ。嬉しく、誇らしくはあるが、チャレンジャーとしては素直に喜べない。

 

 サイトウが出したポケモンはカイリキー。ワンリキーの時点でもパワフルだが、そこからゴーリキーになって格段に体も筋肉も大きくなって、そこからさらに大きくパワーアップした、格闘タイプの中でも特にポテンシャルの高い種族である。

 

「もう! 全部、壊しましょう! 尊敬をこめて――キョダイマックス!」

 

 ボールを突き出して、カイリキーをまた戻す。それを握る手に込められた万力の握力は、丈夫なハイパーボールすらきしませている。

 

 そしてそのボールは巨大化し――小さな体のどこにあるのかというほどのパワーで、高く高く放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして現れたのは、四本の太く隆起した腕を持つ巨人、否、巨神であった。

 

 

 

 

 

 

 

 その全身に満ちたエネルギーはすさまじく、血管のように全身を流れているが光が漏れ出ている。その目からもエネルギーは漏れていて、太陽のように爛々と輝き、スピカとオニシズクモを見下ろして睨んでいた。

 

「『ダイアタック』!」

 

「『まもる』!」

 

 だがこれも予定通り。あちらが一方的にダイマックスできるのだ。観客は巨大ポケモンによるパワフルなバトルを望んでいるが、それはジムリーダー同士や「選ばれし者」の戦いで存分に楽しんでくれればいい。自分は泥臭く戦うのみ。

 

「『ダイアタック』!」

 

 さらなる「ダイアタック」をオニシズクモは身を「まもる」ことなく、主を信じて全身で受け止め、潔く散る。その間に主は、栄養たっぷりの植物・復活草を煎じた薬を倒れたペリッパーに無理やり飲ませ、戦線復帰させていた。信頼するペリッパーが吐きそうな顔をしてスピカを恨めし気に睨むが、容赦なく無視してボールに戻す。

 

 古参のペリッパーも、一番新入りのオニシズクモも、この扱いに不満がないわけではない。だが、何よりも優先するべきは、自分たち「群れ」の勝利だ。そのために、あの強力な「群れ」を相手に、なりふり構っていられないのも事実。思うところはさておきとして、自分たちが認めた「群れのボス」を信頼して従うのみだ。

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 続いて出したのはランターン。スピカの手持ちの屋台骨だ。とびぬけた取柄はないが、全体的にまとまった能力と優秀なタイプと手札の多さで、その戦術を支えている。

 

「『キョダイシンゲキ』! わたしのカラテとパートナーの技を重ねるっ!」

 

 そしてついに、サイトウの得意な技が飛び出す。

 

 その巨大な拳型のエネルギーを放つ攻撃は、全身の「気」をみなぎらせ、これからの攻撃がより相手の辛い所に刺さりやすくなるのだ。今まではオニシズクモが虫タイプを含んでいたため我慢していたが、ここがチャンス。

 

 それと同時に、サイトウに疑念がよぎる。

 

 ここで復活させたペリッパーを出せば、この恐ろしいパワーアップは防げたはず。一体なぜランターンを……?

 

 そんな疑問の答えはすぐに返ってきた。

 

 元の大きさに戻ったカイリキーは、気合こそ十分だが、全身の筋肉が痙攣して苦しそう震えている。

 

 攻撃らしい攻撃はなかった。

 

(なるほど、『でんじは』ッ!)

 

 キョダイマックスの強力な一撃の余波に隠れて「でんじは」を流し、筋肉への神経伝達を悪くしたのだ。これにより、カイリキーは少し気を抜いてしまえば力が抜けて動けなくなるし、そもそも全身が上手く動かなくて鈍くなる。

 

 スピカの戦術は、ルーキーとは思えないほどにクレバーだった。

 

 闘志をみなぎらせて恐ろし気に睨んでくる「怪物」は、その実冷静で、冷酷に「敵」を打ち破り、負かそうと――つまり「殺そう」としている。

 

 刈り取ろうとするヤロー、押し流そうとするルリナ、燃やし尽くそうとするカブ、破壊しようとするサイトウ。トップトレーナーたちの暴力的ともいえる勝利へのメンタリティが、スピカなりの姿で形成されているのだ。

 

「『バブルこうせん』!」

 

「『リベンジ』!」

 

 どうせ動きが鈍くなるなら、相手の攻撃を受けるためにあえて行動を遅らせる「リベンジ」のデメリットはないも同然。カイリキーは苦しそうにしながらも極彩色に輝く泡の光線を耐えきり、溜め込んだパワーを解放してランターンを殴りつける。

 

 その威力はすさまじく、巨大化したカイリキーの背丈の半分ほどの高さまで打ち上げられた。カイリキーのパワーで得意の格闘技、しかも威力が大幅に上昇しているうえに、クリティカルヒットまでしたのだ。

 

「すまない、ランターン」

 

 そんなランターンが、ぐちゃぐちゃに乱れたフィールドにしたたかに打ち付けられる直前、スピカが慌ててボールを構えて戻す。殴られた時点で、審判の判断がなくとも一瞬で気絶していた。さらにあの高さから落ちて打ちつけられるのを待つなんて、スピカにはできない。

 

「さあ、バトルだ、ペリッパー!」

 

 そうして満を持して再び登場したのがペリッパー。

 

 最初の雨と「おいかぜ」でぬかるんだうえに乱れ、さらに巨大化したカイリキーの攻撃の余波でぐちゃぐちゃになったフィールドに、再び激しい雨が降る。

 

 スピカの代名詞が、またこの場面で現れた。

 

 雨の中に現れる修羅が、サイトウを追い詰める。観客のボルテージは、サイトウがキョダイマックスを披露した時をさらに越えて盛り上がっていた。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

 だが、当人たちにそれは関係ない。

 

 ペリッパーは空気の刃をカイリキーに浴びせ、その鋼の肉体を切り裂く。カイリキーは「リベンジ」で対抗しようとしたが、麻痺からか、はたまた攻撃に怯んだからか、膝と一つの拳を地面について跪いてしまう。

 

「『しおみず』だ!」

 

 そしてそこに、今日三度目の、弱った相手をさらに傷つけ止めを刺す無慈悲で冷たい水の奔流が襲い掛かり、大きくたくましい体躯を飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイトウは目を閉じ、小さく呟く。観客の大歓声と雨音と「しおみず」の水音でよく聞こえないはずなのに、スピカにはやけに響いて聞こえた。

 

 審判の判定を待つまでもない。

 

 サイトウは戦闘で乱れた道着風のユニフォームを結びなおして整え、ゼンリョクを尽くして戦い合った相手に感謝をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

「カイリキー、戦闘不能! よって勝者、チャレンジャーのスピカ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイトウが頭を下げて一番の大声で挨拶をし、審判が試合の結果を宣言し、観客が今日一番の大歓声を上げる。

 

 それらがほぼ同時に起こる中、スピカは、頑張ったペリッパーを撫でようとしたが、絶妙に我慢できる程度の強さで突かれて、先ほどの所業の抗議を受けるのだった。




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