ポケットモンスター・ソード ホップに敗北RTA 水統一チャート   作:まみむ衛門

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 四つ目のジムバッジを手に入れたスピカは、幻想的なルミナスメイズの森を抜け、アラベスクタウンに到着していた。ポケモンセンターに寄って、カラナクシもトリトドンに進化し、いよいよ全員進化済みという非常に頼もしい手持ちになってきたことを実感する。

 

 10何年もキャモメ一匹だったのに、たった三日間でこれだ。もういっぱしのトレーナーであり、ポケモンを使った仕事にはさほど困らない程度の実績と手持ちである。よその地方のジム巡りは、トレーナーなら全員に参加資格がある一方で、大体の場合が年単位、場合によっては半生かけてバッジを集めるという。それをたった数日間でこなさなければならないガラルのジムチャレンジは、他地方のものと違って「旅」ではなく「旅行」「スタンプラリー」レベルで道が舗装されているとはいえ、ポケモンバトルという一点に限れば別格のハードさである。

 

 そんな感慨深さとともにアラベスクジムに足を踏み入れようとしたスピカの背中に、聴きなれた声がかけられた。

 

「スピカちゃん!」

 

 スピカは即座に振り返る。今朝に会ったばかりであり、まだ半日どころか四半日も経っていないが、ずいぶん久しぶりなような気がする。

 

「オリヒメか」

 

 太陽の光は木々に覆われて差し込まず、わずかな木漏れ日と電灯と不思議なキノコが放つ光で生活している町だ。そんな幻想的ながらも薄暗い町だというのに、オリヒメは相変わらず華やかで可愛らしい。道行く人も、この静かな雰囲気の町で大声を出したこともあるだろうが、オリヒメに注目していた。

 

「ふー、やっと追いついた!」

 

 スピカの傍に子ワンパチのように駆け寄ると、両ひざに両手をついて息を整える。昔からダンスが得意でそれなりに体力もある方だが、あのルミナスメイズの森を駆け抜けたとなれば、相当疲れただろう。

 

「スピカちゃんったら、寄り道とかほとんどしないでどんどん行っちゃうんだもん! 追いつくので精いっぱいだよ!」

 

 スピカとしては、オリヒメが「後から追いついてくる」のは予想外だった。

 

 何せ今朝は、スピカはエンジンシティからワイルドエリアでシズクモを捕まえながらナックルシティに向かった。一方オリヒメは列車を使ったはずだ。自分の方が先行しているのが、不思議でならない。

 

「多分ラテラルタウンについたのはあたしが先なんだけど、そのあとあたしは一旦ワイルドエリアでポケモンを探してたの! 多分それでスピカちゃんに抜かされちゃったのかな?」

 

「それなら私と一緒に最初からワイルドエリアに来ればよかったのに」

 

「アーマーガアタクシーがあるんだから、後からでも全然大丈夫でしょ?」

 

「…………確かに」

 

 スピカは愕然とする。

 

 そうすれば、ラテラルタウンのポケモンセンターにいらない荷物を預けてから身軽にワイルドエリアでポケモンを探せる。起きて早々、一日の初めにあの地獄天候を長距離移動しないでもよかった。

 

 ……まあ、ラテラルタウンまでの道中でオニシズクモに育てられたから、ジムを速く突破できたのだし、それで良しだ。そういうことにしておこう。

 

「スピカちゃんはもうすぐにポプラさんに挑戦するんだよね?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「じゃあ…………どっちが先に挑むか、勝負で決めよう!」

 

「まじか」

 

 ポケモントレーナーはやはり血気盛んだ。スピカは呆れながらも、オリヒメの楽しそうな様子につい口をほころばせつつ、ボールを投げる。

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 オリヒメは水ポケモンしか持っていないはず。ランターンを初手で出すのが安定だ。

 

 そして、オリヒメが出したポケモンは、しっかり予想通り水タイプで――

 

 

 

 

 

 

 

「ペリッパーちゃん、オンステージ!」

 

 

 

 

 

 ――その一方で、予想外だった。

 

 出てきたのはペリッパー、見慣れたポケモンだ。だが、オリヒメの手持ちにいるのは知らなかった。先ほどワイルドエリアに行ったと言っていたが、そこで捕まえたのだろう。

 

「ほうでん!」

 

 こんなところでずぶ濡れになっては困る。頭上に小型の雨雲が即座に形成されるのを見たスピカは即座に傘を開きながら、ランターンの新技をぶつける。水・飛行のペリッパーには大きくダメージが入り、その一撃でダウンした。

 

 そこからの戦いは一方的だった。オリヒメの残りは、見慣れたオニシズクモと、見慣れたポケモンたちが進化したカマスジョーとギャラドスだ。

 

 オニシズクモはランターンより遅いがその耐久力で一発耐えて、カマスジョーとギャラドスは先に動いて攻撃してきたが「ほうでん」の一撃で倒れた。つまり、その三匹からの攻撃に一発ずつさらされた。三匹とも強いパワーを持ったポケモンであり、ランターンもかなりボロボロだったが、力の根っこのおかげもあってか、ランターンで四タテに成功する。

 

「すごい! やっぱスピカちゃんは強いよ!」

 

 負けたというのに、オリヒメは満面の笑みで心から喜んで拍手している。一方勝者、それも圧勝したはずのスピカのほうは、反応が鈍かった。

 

「オリヒメ……ペリッパーなんていつの間に捕まえたんだ?」

 

「サイトウさんに挑む前だよ! 格闘タイプならこの子! て思って」

 

 確かに理に適っている。ギャラドスは飛行タイプこそ入っているが、それは宙に浮き「そらをとぶ」または「とびはねる」、ないしは空力を操って「ぼうふう」を起こす力ぐらいしかなく、翼を持たないため、現段階で有効な飛行技は覚えないだろう。それならば、ペリッパーを採用しても不思議ではない。

 

「その、スピカちゃんとペリッパーちゃん、すごくかっこよかったから!」

 

 少しためらいがあったが、思い切って顔を赤らめながら、そんなことを言ってくれる。要はスピカに「憧れて」マネをしたのだ。スピカのオニシズクモもマネと言えばそうだが、単純に戦略的に参考にしたに過ぎない。オリヒメがペリッパーを新たな仲間として迎え入れたのは、参考にしたトレーナーへの感情もある。オリヒメもそれは自覚してるのだろう。

 

「そ、そうか……」

 

 スピカも照れくさくなって、目を逸らしながらぶっきらぼうに答える。オリヒメのこういう真っすぐな好意は、昔から何度も体験しているが、眩しすぎて未だに慣れない。

 

「それじゃあ、あたしは回復してくるから! スピカちゃん、頑張ってね!」

 

「あ、ああ」

 

 オリヒメはもう気を取り直しているが、スピカはまだ照れくささが残って、曖昧な返事しかできない。大きく手を振ってポケモンセンターへと去っていくオリヒメの姿を見送ったスピカは、その姿が見えなくなると、緊張の糸が解けたように、ため息を漏らす。

 

 なんだか、元気をもらってしまった。

 

(それにしてもオリヒメ、強くなってたな)

 

 手持ちが進化済みポケモンばかり。自分だけでなく、彼女もそうなっていた。きっとここまで進んだチャレンジャーは、みんなそうなのだ。

 

 そしてそんなチャレンジャーたちと競い合わなければならないし、さらにいえば、そんなチャレンジャーたちですら突破できない難敵がジムリーダーだ。

 

 ジムチャレンジは、やはり難しい。

 

 オリヒメに元気をもらい、このチャレンジの厳しさを改めて教わった。スピカは珍しく気合を入れて、アラベスクジムへと改めて足を踏み入れる。

 

 

 

 

 ――背中を向けた時のオリヒメの表情に、彼女が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラベスクジムのチャレンジャー用通路を通る。いつもだったらここで大層なジムミッションが待ち構えている。今回はどんなびっくり設備が飛び出すのか、ラテラルジムのトラウマもあって身構えていたスピカは、拍子抜けと驚きを同時に味わうことになった。

 

 まず、たどり着いたのは、派手さの欠片もない武骨な舞台裏。証明は暗く、大道具やパイプなどが整然と置かれ、壁はコンクリートがむき出しだった。

 

「来たね」

 

 そして特大の驚きが、いきなりジムリーダー・ポプラがそこで待ち構えていたことだった。

 

 スピカが目を丸くするのをよそに、ポプラは説明しだす。

 

 曰く、ここはクイズがジムミッションとのこと。バトル中にクイズが出され、その答えに応じて賞罰があるらしい。

 

「ああ、それと、今回は見学の子がいるけど、気にしないでおくれ。後継者探しも兼ねたミッションだが、ようやく見つかったよ」

 

 そうして指で示されるのは、ムスッとした顔をしてテーブルに頬杖をついてそっぽを向いている、見覚えのある少年だ。確か開会式にもいた気がする、ジムチャレンジャーだ。そして先日ラテラルタウンで起きた遺跡破壊事件の犯人として、大々的にニュースにもなっていた。

 

 訳アリか。

 

 そうすぐに勘づくが、気にするなと言われたからには気にしないことにした。

 

(クイズか)

 

 気にするなら、自分のことだ。

 

 お勉強が苦手なわけではないが、別に特別得意というほどでもない。

 

 どうやらポケモントレーナーたる者、ルリナのジムで試された論理的思考力だけでなく、こうして知識も試されるらしい。――この勘違いが正されるのは、十数分後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか滅茶苦茶なジムミッションだった。

 

 ポプラへの挑戦権を得たスピカは、通路で入場合図を待ちながらげんなりしていた。

 

 最初のクイズからツッコミどころ満載だ。何せ二択のどちらもが正解である。だがこれはポケモンに関する知識だからまだ良いとすらいえる。

 

 二人目のクイズは「さっきのジムトレーナーの名前は?」だった。ポケモンに何も関係ない。対戦相手の名前を覚えるのがトレーナーとしての礼儀なのか、はたまた些細なこともちゃんと覚えてなければ生き残れないということなのか、分からなかったが、トレーナーとしての知識が問われていないことは確かだった。

 

 そして三問目「朝食は何を食べた?」で確信に変わる。知るか。適当にオムレツと答えたら正解で、ポプラが驚いていたのが印象的だったが、もういろいろひっくるめて心底どうでもいい。

 

 頭痛をこらえているうちに、入場の合図が出た。なんだか緊張感がすっかり抜けてしまったが、興奮する大観衆の前に出れば、つい数日前までただの一般人だった彼女には大きなプレッシャーとなる。

 

「ここまでのクイズは全問正解。ルリナが言っていた、観察眼に優れるっていうのは本当みたいだね」

 

「さあ、どうだか」

 

 ジムリーダー同士である程度そういう話はしているらしい。スピカとしては未だに実感がわかないので、適当にはぐらかした。

 

「ピンクじゃないねえ。まあいい。ちょっとばかし、おばあちゃんがお灸をすえてあげよう」

 

 スピカは実際の態度はともかくとして、口先だけは礼儀正しいふるまいは出来る。勤怠評価の接客面は最低ラインぎりぎりではあるが、こう見えてもアルバイトで市場の店員とレストランのウェイトレスという接客業をやってきたからだ。

 

 だが、今から戦う相手にそんなのは不要だ。いや、スポーツマンシップ的に考えると最もリスペクトするべきではあるのだが、そもそもあちらからふっかけたようなものである。ならば買うのが逆に礼儀だ。

 

「さあ、あんたのピンク、見せてみな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムリーダーのポプラが勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルだ、ペリッパー」

 

「出番だよ、マタドガス」

 

 腰の曲がった老人だというのに、いやだからこそか、相変わらずジムリーダーの放つプレッシャーはすさまじい。だがもうこれで六回目だ。怯むことなく、事前の作戦通り、最も信頼できる相棒を出す。

 

 対するポプラが出したのは、ガラル特有の生態を持つマタドガスだった。

 

 そして、アラベスクスタジアムの上空が暗雲で包まれ雨が降り出し、整えられた芝生と、お互いを濡らす。期待通りのスピカの代名詞の登場に、会場は大盛り上がりだ。

 

「『ヘドロこうげき』」

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 だがそんなペリッパーをすぐに下げて、スピカはランターンを出す。マタドガスの「ヘドロこうげき」はさほどランターンへのダメージにならなかった。

 

 そうして次のやり取りに進もうとしたとき、首元につけられたマイクを通して、スタジアムにスピーカーからポプラの声が響き渡った。

 

 

 

「問題!」

 

「ここでもクイズなのかよ!」

 

 

 スピカのツッコミは黙殺される。

 

「あんた……あたしのあだ名、知っているかい? 魔法使いか、魔術師か」

 

「なんだそれ……メルヘンというよりかは悪女っぽいな、魔術師だ」

 

「ピンポーン! お見事、正解だよ」

 

 魔女が選択肢にあればそれ一択なんだけどな、という憎まれ口を叩く間もなく正解判定が出され、ポプラが何かの瓶をランターンに放り投げる。その液体がランターンにかかると力がみなぎり、素早さがぐーんと上昇した。

 

「ステータスアップアイテムか」

 

 なんでもありすぎる。とりあえず美味しいが、逆に不正解はかなり酷いことになりそうだ。やる気にはならないが、慎重に答えなければならない。

 

「『バブルこうせん』!」

 

 何はともあれ、相手が塩を送ってくれるなら利用しない手はない。素早くなったランターンは機敏に動いて「バブルこうせん」を浴びせ、特殊防御の弱いマタドガスと、それに続いて出てきたクチートを一方的にダウンさせる。

 

「いきな、トゲキッス」

 

 そうして出されたのは、丸みのあるボディに可愛らしい翼の生えた白いポケモンだ。

 

(飛行タイプ、だと思うが)

 

 見た目でタイプの判断はある程度はつくが、全部が全部当てはまるとは限らない。

 

 それに、このポケモンの放つ雰囲気が、スピカの警戒心を刺激する。

 

 一見可愛らしく平和の象徴のようなポケモンだが、種族としてとんでもないパワーを秘めていそうなのだ。

 

 だが、怯えてばかりもいられない。

 

「『ほうでん』!」

 

「『げんしのちから』」

 

 予想通り飛行タイプだったようで、「ほうでん」はかなり効いた様子だった。一方で反撃の「げんしのちから」は岩タイプの技でありなおかつ威力が低いため、ランターンにさほどの打撃にならない……と思いきや、それなりのダメージになっている。やはり、強力なポケモンのようだ。

 

 

 

 

「問題! あたしの好きな色は? ピンクか、パープルか」

 

「服を見ればパープルだな」

 

「深い紫……いいじゃないか」

 

 

 

 

 じゃあ口癖のピンクは何だというのだ。

 

 そんなツッコミも今は入れている余裕がない。ランターンの耐久力が大きく上昇するのを感じながら「ほうでん」を指示し、トゲキッスを倒しきる。

 

「ふうむ……ヤンチャな若者に、特大のピンクを見せてやろうじゃないか」

 

 いつの間にか雨は止んでいる。それでもぐしょぐしょになったスピカは、そのくせっ毛気味でボリュームのある長髪が濡れて垂れ下がっていることもあって、悪鬼のように見える。ヤンチャしているバッドガールのように見えても不思議ではないだろう。最も、ポプラの口調は、スピカをその手の不良とは思っておらず、いわば言葉遊びのような感じであったが。

 

 ただ、マホイップを出してからすぐ戻すときのその貌には笑顔が浮かんでいる。見開かれた目と裂けるよう吊り上がった口のせいで、スピカとはまた違った恐ろしさだ。

 

「今は後継者が見つかって気分がいい! 特別仕様のピンクの大舞台さ! 『キョダイダンエン』!」

 

 本人の言う通り、とても機嫌がよく、そして調子が良いのだろう。かつてガラルどころか世界の人気をかっさらった大女優のその立ち居振る舞いは、相手を飲み込み場を支配する力がある。キョダイマックスしたマホイップの威容も相まって、生半可なトレーナーならこのまま倒されるだろう。

 

「『まもる』」

 

 だがこんなプレッシャーは、スピカには慣れっこだった。未だに一番怖かったのは、初めてヤローに挑んだ時。あの時に、スピカの中の何かが弾けたのだ。

 

「問題!」

 

 そしてこんな時でもクイズを出すのは変わらない。未だに慣れないが、ペースをつかませるつもりはさらさらない。

 

「さてと……あたしの年齢は? 16歳? 88歳?」

 

「はあ?」

 

 覚悟に反して案の定見事に乗せられたスピカは素っ頓狂な声を上げて思考停止してしまう。そのせいでランターンも戸惑い、その隙にマホイップが攻撃準備を始める。

 

 答えなければポケモンに指示も出させない。そんな迫力を感じた。

 

「あー……まだまだ若いと思いますよ、16歳ぐらいですかね」

 

 こんなババアがオリヒメと同年代なわけあるか。

 

 ひねり出したジョークはあまりにも酷い。自分でツッコミを入れてしまう。

 

 まったく、多少若く言う分には良いが、ここまでサバ読みしては逆に失礼だ。これは不正解だな。ペースを握られたせいでそれに逆らおうと変な答えを出してしまった。

 

「あんた……いい答えだよ!」

 

「正解なのかよ!」

 

 この老人の言うことは分からない。スピカが頭を抱える中、ポプラが瓶をランターンに投げてその中身を浴びせると、攻撃力がぐーんと上がる。

 

「大団円は何度も望まれるのさ! 『キョダイダンエン』!」

 

「あーもう、『でんじは』!」

 

 そして息つく暇もなく攻撃だ。

 

 予定ではここでランターンが倒され、ペリッパーに戻して最終ターンを「まもる」で凌いでから勝負にする予定だった。だが予想外のクイズで、ランターンの耐久力は大きく上がっている。これなら耐えられると踏んで、自信を持って「でんじは」を選んだ。

 

 そしてそれは、まさしく大正解だった。ランターンはかなり苦しそうながらも耐えて、「でんじは」を浴びせて麻痺させる。特殊なキョダイマックスなせいで「ダイフェアリー」の状態異常無効がないのがポプラにとって逆に仇となった。

 

「さあ、アンコールだ! 『キョダイダンエン』!」

 

「回復だ」

 

 スピカは「でんじは」の指示を出した直後にもう準備をしておいた力の根っこを煎じた薬をランターンに飲ませる。とても苦しそうにしているのと裏腹に、体力がみなぎってくるし、みるみる傷が塞がっていく。ポケモンの生態は不思議だ。

 

 当然、「キョダイダンエン」も余裕を持って受け止めることができた。そしてマホイップは元の大きさに戻っていく。

 

 

 

 そこからはまた一方的だった。

 

 ステータスが大きく上昇したランターンを止められるはずもなく、マホイップは成すすべなく倒される。

 

 こうしてスピカは、初挑戦で、五つ目のバッジ・フェアリーバッジを手に入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱすごいなあ、スピカちゃんは」

 

 次なる挑戦者として控室モニターで試合を見ていたオリヒメは、明るい声で一人で呟く。

 

 クイズに心を乱されていたが、結果的に全問正解で、そのご褒美のアドバンテージをしっかり活かして勝利を収めた。

 

 バトルが始まるとともに雨を降らせ、それでずぶ濡れになって恐ろしい見た目になりながらも、闘志をみなぎらせてジムリーダーを睨みつけ、冷徹ともいえる戦術で攻略していく。

 

 その姿は人々の間で一躍話題となり、いつのまにか「鬼雨(きう)」とあだ名がつけられていた。

 

 水ポケモンを操る可憐な姿と純真な性格が現れる振舞いから「リトルマーメイド」「竜宮の乙姫」などの可愛らしいあだ名がつけられたオリヒメとは対照的である。

 

 恐らくスピカに自覚はないだろう。列車や控室など時間が空いたらエゴサーチをしているオリヒメと違い、スピカは「自分が注目されている」とは全く考えていない。「戦うトレーナー」として自覚を持っているが、このイベントの「主役」だなんて、未だに思ってないのだろう。

 

「……よし、あたしも頑張るぞ!」

 

 もうすぐ出番だ。

 

 胸に走るわずかな痛みと虚しさを押さえつけ、可愛らしい顔を柔らかな両手でパンパンと叩く。チャンピオン・ダンデのルーティーンの真似だ。

 

 スピカはヤロー以外ここまで全部一発でバッジ獲得している。自分も負けていられない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんな気合とは裏腹に、オリヒメは、この後、今年のジムチャレンジで初めての敗北を喫した。




全快の本編にあったクイズの解答は感想に、と思っていましたが、考えてみれば感想で展開予測みたいなの禁止だった気がするので、こちらの活動報告を解答欄にしてください
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=282960&uid=57173

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