ポケットモンスター・ソード ホップに敗北RTA 水統一チャート 作:まみむ衛門
中にはアラベスクタウンからナックルシティまで徒歩で戻るもの好きなチャレンジャーもいるらしいが、スピカは当然アーマーガアタクシーを使用した。そしてポケモンセンターで新入荷した技マシンを買うと、まっすぐにキルクスタウンを目指していく。
その道中の8番道路は切り立った岩場で、ドッコラーやタイレーツといった力強い野生ポケモンが多く生息する、危険な環境だった。かろうじて、人間が通れるように各所に梯子が設置されているし、ここを修行場とするトレーナーも多くいるため、さすがにワイルドエリアほどではない。だが、果たしてここに「道路」と名付けるのはどうなのか。野生ポケモンに気をつけながら慣れない梯子の上り下りを何度もさせられて疲労困憊のスピカは、そこに疑問を覚えないでもなかった。
そうして到着したキルクスタウンは、年中雪が降り注ぐ厳しい環境だ。つい先ほどまで、カンカン照りで渇いたラテラルタウン周辺と、うっそうとした森の中であるラテラルタウン周辺にいたスピカとしては、この雪と寒さはギャップがありすぎる。とはいえ彼女は朝一番に吹雪と雷雨と砂嵐の三連コンボをワイルドエリアで味わったわけだが、それはそれ、これはこれである。
ポケモンセンターでポケモンを回復させたスピカは、さっそくキルクスジムに挑戦した。
ジムミッションは、落とし穴が仕掛けられた人工荒野を抜けるというもの。他地方では現役バリバリの所もあるらしいがガラルでは使われないダウジングを使って、落とし穴を探知することが可能らしい。おそらく落とし穴の縁に機械が仕掛けられていて、それにダウジングを真似したセンサーが反応する仕組みなのだろう。
最初は穴に落ちて這いあがってやり直し、という面倒と無様が無いように慎重に進もうとしたが、ダウジングの反応が思ったより良いし、よくよく見れば落とし穴らしき場所は少しだけ周りとは違う。そのためスピカはサクサクとミッションをクリアしていった。そして途中と途中に挟まるジムトレーナーとのバトルで、ガマガルがガマゲロゲに進化した。
「マクワといいます。……落とし穴の場所、事前に知っていたんですか?」
そんなスピカと対面したマクワは困惑していた。
落とし穴の整備にはかなり気を遣っていて、周囲と見比べても見分けがつかないレベルにしている。ダウジングの感度はかなり良いが、手に伝わる振動は当然多少遅れるわけだから、ずんずん突き進んだら間に合わずに落ちる可能性が高い。
今年初めてのジムチャレンジ。最初のヤローで躓いたが、そこからは全部一発でクリア。バウタウン出身らしく水ポケモン使い。観察眼に優れている。相棒のペリッパーが降らす雨とその時の姿と戦い方から、「鬼雨」と異名がつく。
その見た目の通り芸能人としても活躍するマクワは、世間の反応に敏感だ。そんなガラルの注目を集める目の前の女性の異様さに、改めて感服させられる。
「いや、知りませんでしたよ。よく見ればわかっただけです」
何事もないように、本当に当たり前のように、謙遜も誇張もなく、スピカはそう思っているらしい。
仮に彼女の言うことが本当だとしても、後半の砂嵐は恐ろしい密度のはずだ。そんな中でも「見えた」というのは、恐ろしいの一言に尽きる。
「……まあいいでしょう。あなたには申し訳ありませんが、僕のポケモンたちの強さをアピールするいい機会です」
マクワはこうして六番目を任される、つまりガラルのトッププロであるジムリーダーの中で三番目に良い成績を残すほどの実力者だ。ただし強さにムラがあり、去年はマイナージムリーダーに甘んじていたのも事実。同世代のダンデがチャンピオン、キバナがジムリーダートップ、そしてルリナは今年最下位ながらも安定してメジャージムリーダーとして在籍し続けている。彼ら・彼女らに比べたら、一回り格落ち扱いされかねない。そして事実、「今回の活躍は偶然」という心無い評判もあった。
だからこそ、このジムチャレンジは気合を入れていた。だが現実は非情で、すでに三人も通してしまっている。ジムリーダーの妹・マリィ、一番の才覚を見せていて不覚にも対面した瞬間少しだけ足がすくんでしまったユウリ、そして一度は退けたが再チャレンジで一皮むけて突破してきたホップ。
スピカは水ポケモン使いであり、マクワはとても不利だ。しかもトレーナーとしての活動歴がほぼゼロで初挑戦ながら初回以外一発突破。自分の実力を示すのに申し分ない。
「さあ、崩せるものなら崩してみなさい!」
「……そうですか。なら、ありがたくそうさせてもらいましょう」
チャレンジャーのスピカが、勝負を仕掛けてきた!
「いけ、ガメノデス!」
「バトルだ、ランターン!」
水ポケモン使いへの先発として適性があるガメノデスを先頭に据えたが、読まれていたようで、初手はランターンだった。これまでほとんどペリッパーが初手だっただけに、マクワの驚き、そして観客の拍子抜けは大きい。マクワも観客も、「鬼雨」が降ると思っていたのだ。
「『ほうでん』!」
「負けるな! 『がんせきふうじ』!」
タイプ的には不利だが、こちらのポケモンの方がよく鍛えられている。ガメノデスは素早く動いて岩石を巧みにぶつけてダメージを与えつつランターンの素早さを奪うが、やはり放たれた電撃は痛い。結局小技の「がんせきふうじ」を二回入れただけで、ガメノデスは倒されてしまった。
「まだまだ! いけ、ツボツボ!」
素早さも攻撃力もポケモンの中で最低クラスだが、圧倒的な防御力が特徴のツボツボ。そしてその弱点を補い、強みをさらに活かせる戦術も用意している。
「バトルだ、ペリッパー!」
そして「鬼雨」が降り注ぎ、鬼が現れる。
観客たちの興奮をよそに、マクワは口角を吊り上げた。
「『パワーシェア』!」
スピカは、今までのバトルの立ち回りからして、間違いなくポケモンの知識が豊富だ。きっとツボツボの耐久力を考えて、雨で水技の威力を上げようと、エースを出したのだろう。だがそのエースのパワーは、あまりにも低いツボツボと折半される。
これで相手の攻撃力は大幅ダウンし、ツボツボは大幅アップする。圧倒的耐久力を持つツボツボによるこの戦術は、ガラルや他地方のトップ、さらにはあのチャンピオン・ダンデすらも苦しめた実績がある。ましてやこのような搦手、トレーナー歴の浅い彼女には効いただろう。もしかしたら、何をされたのかすら分からないかもしれない。
「面倒なことを。まあいいか。バトルだ、ガマゲロゲ!」
だが、スピカは何か厄介なことをされたことは間違いなく分かっている様子だ。惜しげもなくペリッパーを戻し、ガマゲロゲを出す。ツボツボに指示した「ストーンエッジ」は強力な技だが、地面タイプを含むガマゲロゲにはあまり効かない。
「『ウェザーボール』!」
雨が降る中の水タイプからの攻撃。強力な水技が来る!
ルリナと戦い勝利したこともあるマクワは、当然そのことは予想していた。
だが、水タイプのエネルギーが凝縮された玉は、そんな予想を超えるほどの威力だった。耐久力に優れるツボツボが、効果抜群とはいえ一撃でダウンした。
「そんな技まで使うのか!?」
驚きで動揺し、サングラスがズレる。それを慌てて直しながら、新たにイシヘンジンを出しつつ叫ぶ。そのイシヘンジンもすぐに「ウェザーボール」を食らって一瞬でダウンした。
「ウェザーボール」は、バトルフィールドの天気に合わせてタイプが変わる技だ。しかも、威力も二倍になる。マクワもまた、岩ポケモン使いとして、「すなあらし」と組み合わせたこの技のお世話になっている。貴重な特殊の岩技だ。
しかしながら、天気を操作する必要があるうえ、状況次第では思った通りのタイプ・威力にならない、使い勝手の悪い技である。採用されることは少ないマイナーな技だ。そんな「ウェザーボール」すらも、このルーキーは知っていて、使いこなしている。
マクワは何も言わずに、イシヘンジンを戻し、エースのセキタンザンを出した。そして観客が望む通り、キョダイマックスさせる。だがその瞬間すら、いつもの観客を沸かす言葉を叫ばない。
――「まだ崩れさっていない」とは、もはや言わない。
最後まであきらめず、巨大な岩壁のようにどっしりと戦う、トップトレーナーらしい諦めない性格だ。だがさすがに、この状況では、そんなことは言えない。
全ての攻撃を退ける「ダイウォール」で粘る気すら起きない。完敗だ。
巨大化したセキタンザンは、雨が降りしきる中、その体からするとあまりにも小さい水タイプエネルギーの塊をぶつけられ、大爆発しながらダウンした。
○○○○○
タイプ相性のおかげで、三番目のジムの次の鬼門と扱われる六つ目のバッジも手に入れた。
いや、タイプ相性だけでなく、その中でもさらに手持ちの相性すら良かった。カブの時以上に感じる。例えば、スピカの仲間にペリッパーとガマゲロゲがいなかったらタイプ相性を覆す実力差のせいで厳しかっただろう。
だがそれでも、すんなりとクリアできた。雨でずぶ濡れになった身体をチャレンジャー用のシャワールームでしっかり洗って着替えてから、次なるジムへと向かう。
とはいえ、ワイルドエリアを駆け抜けたあとにさらに三つもジムを回ったからか、もう日が落ちて暗くなっている。これはスパイクタウンでジムに挑む前に宿泊になりそうだ。
キルスクタウンには高級ホテルがあり、チャレンジャーはそこも無料で使える。さびれたスパイクタウンのポケモンセンターに泊まるよりかは、今日はここでとどまっておいた方が良い。
だが、いつの間にやらジムチャレンジに熱が入るようになり、居ても立ってもいられないスピカは、逸る気持ちが抑えられず、今日のうちにスパイクタウンに向かうことにしたのだ。およそいつもの彼女では考えられない。両親やオリヒメ、および数少ない友人が聞いたら、びっくりしてそのままゴーストポケモンの仲間入りをしてしまうかもしれない。
「おお! お姉さん、昼ぶりだな!」
だが、そんなスピカに、高い少年の元気そうな声がかけられる。
「ホップか」
ジムを三つも挟んだからか、彼の言う通り昼ぶりなのに、これまた久しぶりに感じる。
「よーし、昼のリベンジするぞ! バトルしてくれ!」
「ああ、いいとも」
ジムで戦ったばかりで「少し」消耗しているが、イージーウィンだったのであくまでも「少し」でしかない。ポケモントレーナー同士、いつでも「目と目が合ったらバトル」なので、この程度は言い訳にならないのだ。もっとも、本当はバトルしたくないし時間的にも遅いのでさっさと先に進みたいのだが。トレーナーの文化には、怠惰なスピカもそうそう逆らえない。
「バトルだ、ランターン」
マクワとの戦いから先頭にしていたランターンをそのまま出す。
「いくぞ、バイウールー!」
そして出てきたポケモンを見て、スピカは「絶望」した。
「なっ!?」
人間の本能が、急成長したトレーナーの経験が、未だ自覚してない優れた観察眼が、警鐘を鳴らす。
あの時のウールーが進化したものだろう。昼の時と違ってホップは何か吹っ切れた様子だったので、こうして手持ちに戻ってきたのだ。
問題は、その――――生物としての「格」。
鍛え上げられた、そのパワー、スピード、タフネスは、見ただけでも、スピカの手持ちではどれも敵わないことが分かる。強い・弱いの次元ではない。ワイルドエリアのボスや、ジムリーダーの
自分はこのジムチャレンジを通して急成長した。そして実績もこうして出せている。その自覚はある。自分が実力あるトレーナーになったという確信だ。
その成長と確信があるからこそ分かる。
勝てない。
ジムリーダーと戦う時のように、道具とタイプ相性を駆使して、なんて小手先すら通じない。ホップの放つオーラから、このバイウールーが最高戦力なのではなく、この同格があと四匹いることが分かってしまう。
結局その予感通り、また突きつけられた格の差に打ちのめされて精神的に最初から負けていたこともあり、ヤローに初めて挑んだ時以上の完敗を喫した。
スピカは目の前が真っ暗になり、意識があいまいなままポケモンセンターでペリッパーたちを回復してもらい、無料で使えるはずの高級ホテル・イオニアに向かう元気もなく、ポケモンセンターの簡易宿泊施設で、現実から逃げるように眠った。
「ワイルドエリア生存競争編」
ワイルドエリアに生息するポケモンとなって、生態系の頂点を目指すモード。
他ポケモンを倒し、捕食して成長して強くなっていき、そのステータスを見つけた仲間と子供を残して引き継いでいき……を繰り返していく。要はトーキョージャングルと同じシステムだし、ゲーム性もおおむね同じ。
ポケモンの殺し合いと捕食を明確に描写し、ポケモン同士の交尾をほのめかす描写もあるので、賛否両論がありそう。
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