ポケットモンスター・ソード ホップに敗北RTA 水統一チャート 作:まみむ衛門
今回からは好き勝手に思いついたおま〇けのコーナーです。
ジムチャレンジとローズの野望、そして新たなチャンピオンの誕生から半年ほど経ち、すっかりガラルは落ち着いた。今はメジャー・マイナーリーグそれぞれのジムリーダーによるリーグ戦が行われており、接戦・激戦の数々を繰り広げている。
「…………ずいぶんギラギラしたタワーですこと」
そんな中スピカは、シュートシティでもシュートスタジアムからさらに奥まったところにある、ガラス張りで陽光を乱反射しているタワーを見上げていた。
旧名・ローズタワー。今はリーグ委員長を受け継いだダンデにより改造され、ポケモンバトルマニアのためのバトル施設、「バトルタワー」となっている。
スピカはカバンをごそごそと漁って封筒――適当に突っ込んだからやや折れ目がついてしまった――を取り出す。シンプルながらもやたらと肌触りの良い上質な紙で出来ていて、お洒落なことに赤い封蝋がなされている。
スピカはため息をつきながらも、いつまでもここに立っていたら反射した陽光で焼け死にかねないので、さっさと中に入る。そしてメインカウンターにその封筒を見せた。
「スピカ様ですね、お待ちしておりました」
リーグスタッフも一部はローズとオリーブの陰謀に加担していたらしく、それぞれが法による裁きを受けている最中だが、スタッフのほとんどは善良だ。リーグ直轄管理のここも当然、リーグスタッフが担当している。
スタッフが封筒の中身を検める。
その中には、『バトルタワー招待状』と書かれた紙があった。外面の封筒よりもさらに上質な紙だ。
そう、スピカは、このバトルタワーに招待されたのだ。
ここはただのバトル施設ではない。各地方それぞれに似たような施設があるが、そのどれもが、猛者・強者が集まり鎬を削る、究極のバトル施設なのだ。
当然、そこに参加できる者は限られる。どの地方においても、運営者に認められたトレーナーしか参加できない。バッジコンプリートは当然として、プロトレーナーやジムリーダー経験者、果てはその地方のチャンピオンにまでなった殿堂入りトレーナー、そう言ったトレーナーのみが利用を認められる。
『オレさまが認めたんだ。お前はこのガラルで三番目に
美男子が無駄に高い背筋を伸ばしてこの招待状を押し付けてきた瞬間を思い出し、スピカは小さくため息をついた。
そう、この招待状は、キバナから渡されたものだ。ついこの間まで10年間チャンピオンに君臨し続けたダンデのライバルな上、ここ数年メジャージムリーダー最強の座を渡していない。当然彼はこの施設の利用権利どころか、これだと思ったトレーナーに招待状を渡す権限すら持っている。
「こちらの招待状ですと、ダブルバトルでしか参加できませんが、よろしいでしょうか?」
「…………大丈夫です」
ただし、認められたのは、「ダブルバトル」の腕だけだった。シングルバトルでは、各所の大会で残した結果の通り、バッジコンプリートに相応しい実力はあるものの、マイナージムリーダーにすら劣り、ジムリーダー候補と呼ばれるトレーナーとすらイーブンだ。およそバトルタワーに相応しいとはならない。
(あーあ、言っちまったよ)
スピカはほんのわずかに罪悪感が生まれる。
正直言って、「大丈夫です」は大嘘である。
半年ほど前まで、スピカは名目上は別として実質はトレーナーですらなかった。オリヒメの謀りでジムチャレンジに参加させられ、そこでトレーナーとはなったし、夢で見ることすらおこがましい成績を残したものの、そのほぼ全てはシングルバトルによるものだ。ダブルバトルは、チャレンジの終わり際、ナックルジムと10番道路のマスコミコンビだけだった。
そして当然、その後もシングルバトルが主であり、ダブルバトルの経験は少ない。キバナやそのジムトレーナー達の熱烈な
(ふん、まあいいさ。とりあえず何回かやりゃメンツも潰さないだろ)
だが、招待状を渡してきたのがキバナだったことを再確認し、罪悪感が吹き飛ぶ。悪いのはあのクソイケメンだ。天罰でいつもより幾分かきつめのSNS炎上をしてしまえばいい。
そんなことを考えながら、事前にルールはきいていたので、厳選した四匹が入ったボールを腰にセットして、バトルフィールドに入る。
ビギナー級から始まり、勝ち数に応じてランクが上がっていく。一応実績や実力が同じぐらいの相手と戦える仕組みになっているようだ。
(なら、ボロ負けはしないようにしないとな)
明らかに自分は参加者の中で最下層だ。勝てるとは思っていない。だがボロ負けは違う。こう見えても、トレーナーの自覚はあるし、「負けず嫌い」が芽生えてきつつあるのだ。
この際キバナのメンツなんかどうでもよい。
せっかく、この猛者が集まるバトルタワーに参加させてもらえるのだ。
よりハイレベルなバトルを、楽しもうではないか。
○○○○○○○
「おめでとうございます! ビギナー級・ランク3でも勝利しましたね!」
キバナには感謝しなければな。
スピカはいつもオリヒメの前以外ではほとんど浮かべない喜色満面の笑み――オリヒメ曰く「可愛いけどちょっとキモチワルい」――を浮かべながら、リーグスタッフの賞賛を受け取る。
何回かやって終わりにするつもりだったが、数戦やった結果、スピカはすっかりバトルタワーのダブルバトルにのめり込んでしまった。あれからボディガードアルバイトや大学が休みの日を見計らって足繁くここに通い、勝ちと負けを積み重ねてきた。他地方のように連勝が求められるわけではないため、負けても最悪大きな損がないのが嬉しいルールだった。
何回負けても構わない仕組みだが、勝ち負け収支はプラスだ。相手は当然のように最終進化ポケモンを使い、道具も技も戦術もハイレベルで、その全てが激戦だった。そんな中でもこの成績だ。一番下のビギナー級とは言え、中々悪くない成績だろう。
「さて、規定上、次勝てばモンスターボール級への昇格となります」
「……はい」
昇格戦。そう言われては、さすがに緊張する。
「そこで、スピカ様が昇格するにふさわしい実力を持つのか確かめたいとおっしゃる方がいます。その方との対戦になりますが、よろしいですか?」
「……誰なんです?」
「対面してのお楽しみです」
さすがかつてはあのローズが仕切っていた、ガラルトップの巨大私組織の直轄スタッフだ。浮かぶ笑みは穏やかだが、見た目年齢以上の老獪さを感じさせる。
「……まあ、いいでしょう」
スピカは、ジムチャレンジをともに乗り越えた五匹と、そのあと――ルリナの強引な招待でオリヒメと一緒に連れていかれた――ヨロイ島とカンムリ雪原で捕まえた二匹、合計七匹の中から、改めて四匹を吟味する。一番対応範囲が広い上にパワーもある四匹だ。
「それでは、こちらにどうぞ」
スタッフに促され、エレベーターを昇る。一体だれなのか。口ぶりからして、もしかしたらジムリーダーレベルが出てくるかもしれない。スピカは石のような固唾をのみ込む。ジムチャレンジ中に買ってから愛用している傘を持つ手の震えが、どんどん大きくなっていった。
(やばいぞ、これは)
決して武者震いではない。どんどん近づいてくる「強者のオーラ」が、スピカを本能的に恐れさせている。
いったい、誰なんだ。
スピカは意を決して、相手が待つバトルフィールドへと足を踏み入れた。
○○○○○○○
「やあ、久しぶり。バトルタワー管理人のダンデだ」
「……………………ポケモントレーナーって、ドッキリがお好きなんですか?」
想像以上の人間が来た。
最上級でキバナ自身が登場のマッチポンプドッキリ、上の方で引退ジムリーダーのポプラやネズが登場、どちらにせよジムリーダークラスだろうと予想していた。
だが出てきたのは、元チャンピオンである。しかもついこの間まで無敵のチャンピオンとして10年間君臨した、現状史上最高の成績を収めてきている「生ける伝説」だ。そしてこのバトルタワーのトップであり、今のリーグのトップでもある。
このガラルのトレーナー界で一番の大物。
それがスピカの前に、いきなり姿を現したのだ。
最後に会ったのは、一か月前のガラルトーナメントの控室だ。一回戦からキバナとの激戦を繰り広げて勝利し、そのまま勝ち進んで決勝でユウリにリベンジマッチを仕掛けて準優勝となった。ちなみにスピカは一回戦は新戦力の力でケンギュウに勝ったが、二回戦でビートに叩きのめされた。
「もう察していると思うが、ランク昇格戦の相手はこの俺だ」
チャンピオン・元チャンピオンとして衆人環視の前に出るときは、特徴的なユニフォームに広告がたくさんついた分厚いマントだった。だが、リーグ委員長やバトルタワーの管理人として表に出るときは、今着ているようなやや個性的な正装である。初めてテレビで見た時は新鮮だった。
ビギナーからモンスターボール級に上がるには、ダンデに勝たなければならない。
「……バトルタワーって、この上は全員チャンピオン級なんですか?」
「ん? ああ! いや、勘違いしないでくれ。昇格には必ず俺に勝つ必要があるけど、各ランクに合わせて一応手加減はしてるぞ。ジムチャレンジみたいなものだ」
なるほど、そういうことか。
スピカは安堵する。もし彼女の想像した通りであれば、ビギナー級を抜け出せるのは片手で収まる範囲になりかねない。流石にそのあたりはちゃんと考えているようだ。
「とはいえ、ジムチャレンジ程甘くはない。トレーナーである俺自身は本気だし、使うポケモンも俺が普段連れているベストメンバーだ。ただ、ポケモンたちの全力が出しきれないようになっているし、戦術に多少の制限は加えている」
ダンデは朗らかに笑いながら、まだまだ出来たてで不安定なバトルタワーの制度を説明してくれる。
そういうことなら問題ない。スピカは当初予定していた通りの二匹が入ったボールを手に取る。そしてスピカの覚悟が決まったのを見て取ったダンデもまた、いつの間にかボールを手に取っていた。
「それじゃあ…………いくぜ、元・チャンピオンタイムだ!」
ポケモントレーナーのダンデが、勝負を仕掛けてきた!
「っ!?」
一瞬にして膨れ上がった覇気に、スピカは思わず怯んでしまう。
先ほどからずっと放っていたオーラ。あれはダンデからすれば抑えたものに過ぎなかったのだ。物理的な力を持たない、その存在すら精神的な錯覚とされる圧迫感。その迫力は、もはや急流の様だ。
「――バトルだ! ペリッパー、キングドラ!」
だがスピカとて、ジムチャレンジやトーナメント、さらにはそれ以外でも、幾度となく強者と戦ってきた。力を増したジムリーダーたち。それに呼応するようにレベルアップしたオリヒメたち。新参なのにすでに頭一つ抜けた実力を持つビート。完全に吹っ切れ「伝説」まで従える格を持ったホップ。さらには、あのユウリや、本気のダブルバトルのキバナとすら戦ってきた。ダンデとはマッチングの都合で今回が初めてだが、動けなくなるようなことはない。
スピカは準備していた傘を放り捨てながらボールを投げ、一番の古参にして相棒にして代名詞であるペリッパーと、新戦力のキングドラを出す。
このキングドラは水・ドラゴンタイプで、そのタイプの通り、生態系の頂点に君臨する「竜」だ。ルリナに連れられて無理やりヨロイ島に修行に行かされたときに雷雨が急にひどくなった海上で偶然遭遇し、激戦の末に捕まえた。後で分かったことだがかなり珍しいポケモンらしく、ルリナがそのあといくら探しても気配すらなかったらしい。
「いけ! ゴリランダー、ギルガルド!」
対するダンデが出してきたのは、チャンピオン決定戦であのユウリのインテレオンと激戦を繰り広げたゴリランダーと、いつも先頭を任される頼れる切り込み隊長・ギルガルドだ。
「ダブルバトルはあまり経験ないからな。キバナにも一回も勝ったことはないし引き分けすらない。お手柔らかに頼むぜ!」
「キバナさんの名前が出る時点で初心者扱いは無理があるでしょうよ!」
自身もキバナから直々にスカウトされ無理やり色々教えを受けているのは棚に上げ、スピカは叫び返す。思わずジョークが飛び出すほどにテンションが上がっているダンデは、いざバトルになり、先ほどまでの朗らかなものではなく、嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべていた。
そんなダンデを目の前に、スピカもまた狂暴な姿を露にする。ペリッパーの力で屋内だというのに雨が降り注ぎ、スピカのくせっ毛気味の長髪を濡らして垂れ下がらせる。そしてその隙間から、鋭い眼光がダンデとそのポケモンを睨みつける。その姿を見たダンデは、本能的な恐怖と強者と対面した興奮で、激しく背筋を震わせ、より闘志をみなぎらせる。
「キングドラは『だくりゅう』! ペリッパーは『ぼうふう』だ!」
先に指示を出したのはスピカだ。
どちらに攻撃する、とは指定しない。「だくりゅう」は敵全体に攻撃する技だし、ペリッパーはバトルも慣れたもので、この状況なら明らかにゴリランダーを攻撃するべきだと分かっている。
そして元無敵のチャンピオンのポケモンを前にして、圧倒的先手を取るのは間違いなく、新参のはずのキングドラだ。ポテンシャルが全体的に高くまたそのタイプも攻守ともに優れている海の覇者である「ドラゴン」。その特性は「すいすい」であり、雨の中だと素早さが倍加する。草タイプに強いドラゴンタイプも入っているため、スピカのパーティにこれ以上ないほどにぴったりだ。そして雨戦術の大エースを張れるドラゴンということで、キバナもとても興奮して欲しがっていた。なお彼もルリナと同じく空振りを連続し、サメハダーに襲われる日々を過ごす羽目になったのは余談だ。
キングドラが先制攻撃を仕掛け、雨で強力になった『だくりゅう』を敵にぶつける。
――そのはずだった。
「『ねこだまし』!」
倍の速さになっているはずのキングドラよりも先に、遅くはないが速くもないはずのゴリランダーが動く。太い腕を素早く起用に動かしてペリッパーに接近し、しかしその速さには似つかわしくないほどの軽い攻撃。だがそれはペリッパーの意識の空白を的確について驚かせ、怯ませて行動を止める。
キングドラの「だくりゅう」が届いたのはそのあと。ギルガルドはシールドフォルムなら非常に硬く、ゴリランダーはタイプ半減のはずだが、雨で威力が増しさらに潮のお香も持たせているので、それなりのダメージになった。
そしてその頑強な盾でしっかり攻撃を受け切ったギルガルドはシャキンと鋭い金属音を立てながらブレードフォルムに変化し、「シャドーボール」をペリッパーに放つ。盾を捨てて全てを切り裂く剣となったギルガルドは、耐久力こそ大幅に減るが、その攻撃力は物理・特殊共にポケモンの中でも随一だ。
(ちっ、『ねこだまし』があったか!)
スピカは内心で舌打ちする。
「ねこだまし」はシングルバトルの場合は時間稼ぎと様子見と小さなダメージにしかならない。しかし、ダブルバトルの場合、相手のポケモン一匹を確実に止めるアドバンテージが大きい。その間にもう一匹を動かせるからだ。キバナはあまり使わないが、ナックルジムのトレーナーの中には使う者もいた。
「『かげうち』!」
「両方『ぼうふう』だ!」
小技とはいえ確実なダメージになる「ねこだまし」とギルガルドのとてつもない威力の「シャドーボール」、これを受けたペリッパーはすでに苦しい。ギルガルドのその出の速さに見合わない威力の「かげうち」で倒される。だがそのお返しにキングドラの「ぼうふう」を通せた。ゴリランダーは「ドラムアタック」をしようとしたが、何もできず倒されてしまう。
「なるほど、キバナの推薦は間違いじゃなかったみたいだな!」
「こっちは相棒が倒されたんだ! そう言われても喜べませんね!」
スピカの立場は苦しい。何せ一番の相棒であるペリッパーが早々に倒されてしまったからだ。
ペリッパーは精神的支柱のみならず、戦術の軸でもあった。
雨を降らせることができるし、苦手な草タイプ相手に「ぼうふう」の選択肢がある。「おいかぜ」で仲間の素早さを倍加させることもできる。だが、あっという間に戦闘不能にさせられた。しかも「おいかぜ」を使う前に。
ギルガルドの「かげうち」は予想出来ていた。ペリッパーは「まもる」を選んで攻撃を凌ぎ、その間にキングドラが「だくりゅう」で脆くなったギルガルドを倒す、という考えも当然あった。
しかしそれを読まれて得意の「キングシールド」で防がれ、ゴリランダーが「ドラムアタック」でキングドラを大きく削りつつ素早さを下げる、という流れになったら最悪だ。
そして何よりも、後続を考えると、ゴリランダーはここで倒さなければならない。草タイプは天敵だ。結果、ギルガルドが「キングシールド」してくれるのを願いつつ、最悪ペリッパーが倒されても構わないとして、確実にゴリランダーだけは倒せるよう、両方に「ぼうふう」を指示したのだ。
(オリヒメのコネに感謝だな)
まだまだ新人アイドルだが、可愛い妹のような親友・オリヒメの人気アップは止まらない。ジムチャレンジ中早々に声をかけてきた企業以外にもいくつかCMやスポンサー契約がついたし、仕事も増えてきている。その中には、ジムチャレンジ後大幅に普及した技マシン・技レコードを生産する会社もあり、そのつながりで、貴重かつ強力な技レコードをスピカが割安で購入できるようになったのだ。これがなければ、キングドラに「ぼうふう」を覚えさせられず、ゴリランダーを倒せなかっただろう。
(予想以上だ! キバナが信じただけはある!)
だが、スピカに言い返されてもなお、ダンデは彼女を尊敬に値する「強者」とする想いを曲げない。
確かにスピカは苦しい。「おいかぜ」を使うことなくペリッパーが倒されたのは事実だ。
だが、スピカによって作られたこの状況は、ダンデにとっても苦しいものだった。何せ水タイプ使いに対して抜群の相性を誇り、ルリナのポケモンを何回も沈めた実績のあるゴリランダーが、ほぼ何もできず倒されてしまった。ペリッパーは雨を降らせるという最低限にして最高の成果を残したし、ダンデの手札にこの天候を覆すすべはない。
――そしてスピカは与り知らぬことだが、ダンデは「ルール違反」をすでに犯していた。
スピカが思っている以上に、バトルタワーの制度は整っている。昇格戦にダンデが出張る場合、その制限内容も厳しく規定されている。特に厳しいのは、ポケモンの手加減具合と技の制限だ。
このモンスターボール級昇格戦において、ゴリランダーは、特にダブルバトルで強力な技である「ねこだまし」は禁止されているし、それは使おうとした「ドラムアタック」も同様だ。それにギルガルドの「シャドーボール」も禁止されている。それに本来手持ちはおおむねランダムなはずだが、相手がスピカということで、ゴリランダーを意図的に選んだ。
こんなにもルール違反をして、スピカと戦っている。だというのに、現状はお互いに苦しい、いわば「イーブン」の状況だ。
キバナはダブルバトルにおいてはガラルどころか世界最強とすら言われる存在だ。そんなキバナから肝いりで推薦を受けたのがスピカである。ダンデは一刻も早く戦いたくて仕方がなく、そして戦う上で、モンスターボール級昇格戦の制限はあまりにも歯がゆくてもどかしかった。だからこそ、バトルタワー管理人の強権を発動し、多くのルールを破ったのだ。このあと始末書は確定である。
「いけ、オノノクス!」
「バトルだ、ラプラス!」
だが今はそんなことは気にしない。この勝負を全力で楽しむ。
ダンデが出したのは強靭な巨体を誇るオノノクス。非常に狂暴かつ好戦的な「ドラゴン」であり、ワイルドエリアでもギャラドスやバンギラスなどと並んで一帯のボスとして君臨することが多い。
一方スピカが出したのも、また非常に強力なポケモン・ラプラスだ。大人しく好戦的ではないが、そのタフネスは高いし、特殊攻撃力も優れている、水・氷タイプだ。キバナに連れられて無理やりカンムリ雪原に連れていかれた時に捕まえた新戦力である。常に厳冬の雪原に住まうポケモンはその全てがワイルドエリアの荒れている日並みに強力であり、その中でも水辺ではひときわ強い影響力を持つ種族だ。
「ギルガルドは『シャドーボール』、オノノクスは『ドラゴンクロー』!」
「ラプラスは『フリーズドライ』、キングドラは『まもる』だ!」
キングドラとオノノクスはドラゴン同士、相性が良いし悪い。キングドラが確実に先手を取って打撃を与えられるが、あのタフなオノノクスを倒すことは叶わないし、その反撃で倒されかねない。だからこそ、その身を「まもる」ことを選んだ。
シングルバトルにおける「まもる」は時間稼ぎ、またはダイマックス技をしのぐぐらいしか使われず、ジムチャレンジのようなシチュエーションでもない限り用途は限定的である。だが、ダブルバトルにおいては、その間にもう一匹が動ける。ダブルバトル人口が少ないゆえにあまり知られていないが、「ねこだまし」も「まもる」も、ダブルバトルにおいては非常に強力な戦術なのだ。
その判断は正しかった。オノノクスは猛然と強靭な爪で切りかかるが、キングドラは周囲に水のバリアを展開してそれを受け流して「まもる」。その間にラプラスの「フリーズドライ」がオノノクスを凍り付かせ、効果抜群のダメージを与えた。代わりにギルガルドの強力無比な「シャドーボール」をラプラスが受けるが、特殊面でのタフネスは水ポケモン随一であり、まだまだ元気である。
(上手く決まったな)
ラプラスもまた、スピカのパーティの穴にぴったりはまるピースだ。水技はドラゴンに通じにくいが、ラプラスは氷タイプが入っているし技も豊富である。また水タイプ同士の有効打が少ないマッチングにも強く、相手の水技は「ちょすい」で無効にできるし、こちらからは水タイプにも抜群になる「フリーズドライ」がある。
キングドラとラプラスという新戦力によってスピカのパーティはより強力になり、苦手な相手への選択肢も増えた。オリヒメとの戦いも、ジムチャレンジ直後はイーブンかやや優勢程度だったが、今は大きく勝ち越している。
そして今も、想定通り、苦手なドラゴンに打撃を与えることに成功した。さしものオノノクスと言えど、この一撃はかなり効いたはずだ。これならば十分。
「キングドラは『だくりゅう』! ラプラスは『フリーズドライ』!」
最初に動けるキングドラの『だくりゅう』は未だ降り続く雨によってとてつもない威力である。ダメージは半減にされるし、ダメージも多少分散されるとはいえ、効果抜群の氷技で満身創痍のオノノクスを倒しきれる。しかも同時にブレードフォルムのギルガルドも流し去れるだろう。「キングシールド」で凌がれたとしても、今は問題ない。
「『ワイドガード』!」
だが、ダンデの戦術はそれを上回る。
その技はスピカの予想していた「キングシールド」と同じく身を守る技だ。
だがギルガルドはシールドフォルムになることはなく、ブレードフォルムのままだというのに、不思議な力で障壁を「広く」展開する。その壁は薄く、集中した攻撃を守れないが、分散された攻撃を退けるのには十分だ。
ゆえに、キングドラの放った勢いの増した奔流もまた防ぎきる。ブレードフォルムのまま脆いギルガルドのみならず、ギリギリのところで耐えているオノノクスすらも、「だくりゅう」に飲み込まれることはない。
「なっ!?」
スピカは動揺する。
「ワイドガード」という技の存在自体は知っていた。だが、今この瞬間は頭になかった。
何せこの技はダブルバトルでしか効果を発揮しないためそもそもマイナーである。そして相手の範囲攻撃しか防げないことから、活躍の場面は限定的で、なんならダブルバトルですら見る機会はさほど多くはない。覚えるポケモンすら認知されておらず、スピカも、ギルガルドがそれを覚えるのを知らなかった。
攻撃を防がれたキングドラが目を見開いていると、ダメージを受けなかったオノノクスが襲い掛かってきて、今度こそ「ドラゴンクロー」を決められ、キングドラがダウンする。その間にラプラスが一応放っていた「フリーズドライ」がオノノクスにオーバーキル気味に止めを刺すが、状況は一気に苦しくなった。
(……気が抜けていた!)
スピカは悔しがる。
ギルガルドは強力なポケモンだ。シールドフォルムで攻撃を受け、後からブレードフォルムで攻撃、相手の反撃はシールドフォルムに戻りながらの「キングシールド」で受ける。この攻防一体の戦術は、場に一匹しかいないシングルバトルにおいては理不尽ともいえる強さがある。
だが、ダブルバトルにおいては、相手にはもう一匹いるため、弱点をさらしやすい。ゆえに、採用はためらわれるはずだ。だが、ダンデはこの場に出してきた。その意味を考えるべきだった。
それにそもそも、ギルガルドは見た目のまんま、「盾」に関する技をよく覚える。「ワイドガード」を覚えられて当然だ。
これだけの判断材料があったのに、それを予想できなかった。あのダンデとの戦いということで、冷静でいられなかったのだ。
「さっきのお返しだ。よく効いただろ?」
ダンデは勝ち誇った笑みを浮かべてスピカに語りかける。キングドラの的確な「まもる」のせいで明確に不利になったが、これで取り返した。なおこんな表情をしているが、この「ワイドガード」採用もルール違反である。だが、ダンデはすっかりバトルに夢中で、もはや全く気にしていなかった。
「ええ、おかげで目が覚めましたよ」
スピカは自嘲気味の笑みを浮かべながらキングドラを戻し、最後の一匹のボールを構える。
そしてダンデもまた、最後の一匹だ。
だが、どちらも「追い詰められた」という意識はない。
「イッツチャンピオンタイム! いけ、リザードン! キョダイマックスだ!」
「バトルだ! ガマゲロゲ!」
ダンデは水タイプ使いのスピカを相手にすると分かってもなお、炎タイプであるはずのリザードンを、最も信頼できる相棒として選んだ。
スピカは幾度も強敵を打倒してきた雨の王・ガマゲロゲを満を持して場に出す。
そして「選ばれしもの」であるダンデは、リザードンをキョダイマックスさせ、その威容を従える。白光放つ巨体から漏れ出す業火は降り注ぐ雨を蒸発させている。
一方、「ただの人」であるスピカは、ポケモンを巨大化させることができない。
だが、これで今まで戦ってきた。あの強力なジムリーダーたちのミッションを乗り越えてきた。トーナメントでお互い本気を出した時も、ごくたまにだが、ジャイアントキリングを成し遂げたこともある。
たとえ相手がダンデでも、負けるつもりはない。
「ガマゲロゲは『ウェザーボール』、ラプラスは『ハイドロポンプ』だ!」
たとえあのチャンピオンのリザードンだろうと、雨が降る中のガマゲロゲよりは絶対に遅い。確実に上から雨が降りしきる中の全力の「ウェザーボール」をぶつけられる。たとえダイマックスして体力が倍加していても、効果抜群もあって、ダンデのリザードンは一撃で倒されるだろう。
この勝負、スピカの勝ちだ。
「『ダイウォール』!」
だがかつての無敵のチャンピオンは、その先を行く。
チャンピオンだったころは、その立場故に、戦術に自然と制限があった。
観客を、見てくれる人を、全ての人を、対戦相手すら、沸かせ、楽しませ、興奮させるために。華やかで派手でエキサイティングな戦いが求められた。
だが、今は違う。
もはや自分はチャンピオンではなく、なんならジムリーダーなどのように、「トレーナー」としての肩書はゼロ。リーグ委員長でかつバトルタワー管理人ではあるが、一方で、「ただのトレーナー」でもある。
だからこそ、「ワイドガード」や「ダイウォール」のような、相手の全力を否定する、その場しのぎのような戦術も使える。
チャンピオンではなくなった。
では、彼は弱くなったのか。落ち目なのか。
違う。
チャンピオンという「枷」から解き放たれたダンデは、目の前に数多の可能性が開け、そこからさらに大きく成長したのだ。
ガマゲロゲの強力無比な「ウェザーボール」は、巨大な障壁によって退けられた。ギルガルドにはその隙に「シャドーボール」を使うよう指示しておいたが、ラプラスの「ハイドロポンプ」が脆いブレードフォルムに突き刺さって先に倒されてしまう。本当はギルガルドも生き残らせるために「キングシールド」をしたかったが、「ワイドガード」の直後なため失敗する可能性が高く、選びたくても選べない。スピカもそこが分かっているようで、あくまでも冷静かつ冷徹に、確実にこちらの痛いところを的確に突いてきている。
それでも、問題ない。この最強の相棒・リザードンさえ残れば、逆転できる。
(これで、雨は終わりだ!)
今まで数多の猛者と戦ってきた。
その中でも特に多くの激戦を繰り広げた相手がキバナだ。
だからこそ、ダンデは天候操作を主軸とするトレーナーとの対戦経験が豊富であり、自分はあまり使わないが、この戦術に詳しい。
故に、激しいバトルの中でも、体感でおおむねどれぐらいに天候が止むのかがわかる。いくら超常の力を持つ不思議な生き物・ポケモンとはいえ、バトルフィールド全体に影響を及ぼし続けるのは限界があるのだ。
ダンデは確信している。この直後に、間違いなく雨は止む。
そのために、リザードンに「ダイウォール」を指示したのだ。
まだまだ雨が降る中で切り札のリザードンを引きずり出された。それでも「チャンピオンタイム」を宣言した理由。それは、この守りの直後に、自分たちのターンが来ると確信していたからだ。
この後は、これまたルール違反で採用した「ソーラービーム」をベースにした「ダイソウゲン」を連打してお終いだ。この勝負、ダンデの勝ちである。
だが、天井を覆う分厚い雨雲や、それが降らせる雨が、一向に晴れる様子はない。
獄炎を身にまとう炎の竜が顕現してもなお、雨は降り続けている。
「湿った岩か!?」
その理由に、ダンデは即座に気づいた。
不思議な力を持った岩で、それを持たせたポケモンが降らせた雨は、より長く持続する。
キバナはあまり採用しない。一回の戦いの中で複数種類の天候を目まぐるしく変えて状況をややこしくして相手の判断力を奪う戦いをするから、一つを長続きさせる意味が薄いのだ。
だから、この可能性を忘れていた。
「ご明察。あいにくながら、湿った性格なんでね」
スピカは口角を上げ皮肉に自嘲する。
ダンデのような光り輝くチャンピオンであり立派な大人とは違う。ダウナーでニヒルで悲観的で怠惰が、スピカのパーソナリティーだ。「鬼雨」なんて名前を付けられる雨女にはぴったりだろう。
チャンピオンタイムはまだ訪れない。
まだまだ雨は降り続く。
雨の中に現れる「鬼」は未だ、ダンデの前に立ちはだかっている。
この瞬間初めてダンデは、闘争心よりも、「恐怖」が上回った。
ジムリーダーたちからスピカの評判は聞いている。
数多くのトレーナーと鎬を削り、ワイルドエリアではむき出しの野生に立ち向かい命の危機に瀕して乗り越えてきた彼ら・彼女らは、口をそろえた。
「スピカに恐怖を覚えた」、と。
フィールドに雨を降らせて無理やり自分の戦いに引きずり込み、その向こうから恐ろし気に睨みつけてきながら、容赦なく、冷徹に、限りなく最適解で追い詰めてくる鬼気の化け物。
ダンデはそれを過大評価とは思っていないし、当然ジムリーダーたちを軟弱とも思わなかった。そう言われるだけの説得力はある。
だが、今この瞬間まで、「実感」はしなかった。
「それでも、俺たちは負けない! リザードンは『ダイソウゲン』!」
そして、その恐怖はすぐに克服した。そうでなければ、10年間無敵のチャンピオンとして君臨し続け、他地方のチャンピオンたちと戦うなんてことは出来ない。
「ガマゲロゲは『ウェザーボール』! ラプラスは『かみなり』だ!」
ガマゲロゲの『ウェザーボール』がリザードンに直撃する。その一撃に巨体を暴れさせて悶え苦しむ。
この一撃は、ガマゲロゲの命も削っている。技威力が大幅に上がる代わりに体力を代償とする命の珠を持たせているからだ。
雨、水タイプ、「ウェザーボール」、命の珠、効果抜群。
これだけの要素が重なった、特大の一撃。
たとえキョダイマックスしていようと、間違いなく、リザードンは倒れる。
「――――だがそれでも、俺のリザードンは耐えられる!」
攻撃を受ける直前、リザードンはその懐に隠し持っていた、巨体にはあまりにも似つかわしくないほどちっぽけな木の実を食べる。そして渾身の「ウェザーボール」をぶつけられ、もだえ苦しむが――かなり辛そうではあるが攻撃をしっかりと耐え、お返しとばかりに「ダイソウゲン」をガマゲロゲに食らわせる。水・地面には四倍のダメージ。耐えられる道理はない。
「イトケの実だと!? なんてピンポイントな!」
スピカは叫ぶ。
イトケの実は自生する木の実の一種だ。
その効果は絶大で、効果抜群の水技を一度だけ半減にすることができる。リザードンが受けた場合、抜群ではなくなる、ということだ。
それぞれのタイプに応じた木の実があり、そのどれもが珍しく、手に入りにくい。なにせワイルドエリアや孤島や雪原のような厳しすぎる大自然でしか自生せず、ガラルでの人工栽培は成功していない。その性質上市場に出回ることはそうそうないし、一タイプにしか効果がないからピンポイントすぎて採用されることも多くはない。それこそダンデのような強者または立場のある人間でなければ、手に入ることはないだろう。
「申し訳ないが、これも勝つためだ!」
この堂々とした口ぶりからは想像できないが、こればかりは本当に申し訳なく思っている。
何せ、これはこれまでをはるかに超える、特大のルール違反だからだ。
本来ここでリザードンに持たせるのは、四倍弱点である岩技を抑えるヨロギの実と決まっている。だが水タイプ使いのスピカが来ると分かっていたので、彼女の言う通り、完全にピンポイントで、イトケの実を持たせたのだ。
バトルタワーの趣旨は、事前に決めたポケモンたちで、ランダムな対戦相手と戦い、どんな状況でも勝てる強さを示すことだ。当然、相手に合わせて事前にピンポイント対策を組むなんてことは出来ない仕組みになっているし、出来たとしてもしてはいけない。ましてやその長であるダンデはなおさらだ。
それでも。
あのキバナが、ダブルバトルで、これまでの長い付き合いの中で、初めて猛プッシュしてきた相手だ。
そんな相手に対して、意味のない道具を持たせるなんて、「バトルジャンキー」たるトレーナーのお手本のようなダンデが、出来るわけがなかった。
リザードンは「ウェザーボール」を耐え、さらにラプラスの強力な電気技「かみなり」すらも倒れそうになりながら耐えた。覚えさせている水技「ハイドロポンプ」はとてつもない威力を持つが、コントロールが難しく命中しにくい。イトケの実を想像していなかったスピカは、仮に耐えられたとしても、雨雲により必中になっている「かみなり」で十分だと踏んでいた。
「かみなり」もまた大技であり効果抜群。スピカの判断は間違いではなかった。だが、やはり自身のタイプの技ではないので威力は上昇せず、その差のせいで、ほんのわずか、あと少しで耐えられた。
「これで終わりだ! 『ダイソウゲン』!」
効果抜群のダイマックス技。いくら特殊面が特にタフなラプラスとはいえ、ギルガルドの「シャドーボール」のダメージもあるし、耐えられないだろう。
今度こそ、この勝負は、数多の反則を重ねた結果だが、ダンデの勝ちだ。
「『まもる』!」
だがスピカは諦めていない。ラプラスはその身が持つ未知のサイコパワーで障壁を形成し、草エネルギーの塊を凌ぐ。その絶大な力は一部貫通してラプラスに軽くないダメージを与えるが、耐えることに成功した。そして辛くなったラプラスは、たまらずオボンの実を食べて、体力を回復させて元気になる。
「くっ!」
ダンデはこのバトルで何度味わったか分からない悔しさを再び体感する。
ラプラスにまで「まもる」を覚えさせていた。それでダイマックス技を防ぎ、さらに木の実で体力を回復させ、相手のダイマックスを終わらせる。ジムチャレンジの前半で彼女が見せた戦法だ。状況に合わせて、事前に用意していた技と道具を的確に噛み合わせて相手を追い詰めるその姿が、多くの人々の尊敬と恐怖を集めた。
――スピカがジムチャレンジをクリアしてセミファイナルトーナメントに出場できたのは、多くの要因がある。
本人の技選択や観察眼。ペリッパーを中心とした手持ちポケモンの圧倒的な噛み合い。そして本人が普段口にするように、偶然や運に助けられた節もある。
そうした中に挙げられるものの一つが、道具の使い方だ。
リアルタイムで激しく戦況が変化する中で、ポケモンへの指示や攻撃を我慢して道具を使う判断をするのは難しい。ましてや、適切な道具を選ぶことができるのは、バッジをいくつか持つ者ですら少ないだろう。
そんな中でも彼女は、全くの初心者だったころから、適切に道具を準備し、ベストなタイミングで使用して、格上のダイマックス使いであるジムリーダーたちを下してきた。
どの技を覚えさせるか、どのポケモンを出すか、どの技を使うか、どの道具をいつ使うか……彼女のバトル中の選択は、事前準備の精密さもあり、そのほとんどが「最適解」である。
その「最適解」で、最高効率で、敵を冷酷に追い詰める。
ダンデは今、完全に追い詰められていた。
「『ぼうふう』!」
スピカの雨を利用しようと反則上等で覚えさせておいた「ぼうふう」をぶつける。とてつもない威力の飛行技はラプラスの巨体すら巻き上げ、さらに激しく床にたたきつける。
だが、ラプラスは、全身傷だらけで息も絶え絶えだが、確かに耐えきった。
オボンの実が有効に働いた。それだけではない、「ダイソウゲン」によって展開されたグラスフィールドによる回復もある。
「『フリーズドライ』!」
ダンデのリザードンはもはや気力だけで保っていた体力を完全に消滅させられ、氷漬けになり、戦闘不能となった。
○○○○○○○
「よう、どうだったよ、リーグ委員長サマ」
スピカとのバトルとそのあとの手続きを終え執務室に戻ったダンデを出迎えたのは、来客用のふかふかのソファーに座るライバルにして親友のキバナだ。彼の見た目と態度からして膝立てで座りそうなものだが、意外とお上品に、それでいて堂々と座っている。
「想像以上だ。やっぱりキバナの目は確かだな」
「だろ?」
仕事のための執務机の椅子ではなく、キバナの対面のソファーにドカリと腰を下ろす。リーグ委員長になってから雑な動作は頑張って控えていたが、キバナの前ならば遠慮は不要だ。それに、疲れている。
「アイツはオレさまが見込んだトレーナーだ」
ジムチャレンジやトーナメントで見せている通り、スピカは強いトレーナーだ。
だが、そこではほとんど見ることがなかった才能に、キバナは気づいた。
「アイツ、とんでもねえダブルバトルトレーナーになるぜ」
初めて戦い、敗北した時に気づいた。
スピカは、自分すらも超えうるダブルバトルトレーナーになる。
ダブルバトル発祥の地・ホウエン地方出身で、多少それをたしなむベテランジムリーダーのカブのことは、もうすでに超えたと断言しても構わない。
大した経験もないのに、今のスピカは、このガラルで、ユウリとキバナに次いで、三番目に強い。無敵のチャンピオンであったダンデを超える、という確信がある程に。
キバナはその話を伝えたうえで、ダンデにスピカを推薦したのだ。
「ああ、俺もそう思う」
トレーナーとしてバトルを本格的に始めてからまだ一年経っていない。それなのにジムバッジをコンプリートした。
いや、それならまだここまで話題にならない。偉業には違いないが、ダンデやキバナ自身、もっと幼いころに初参加でコンプリートし、キバナはジムリーダーに、ダンデはチャンピオンになっている。ルリナやマクワやネズといった同世代はもちろん、メロンやカブやサイトウやオニオンのような他世代のジムリーダーも、初挑戦でバッジコンプリートを達成した。いわば「ありふれた偉業」である。
だが、「ほぼ本気を出したダンデを打ち破った」となったら、話は別になってくる。ダンデ自身もダブルバトルは専門外だが、少なくともスピカに比べたら10倍は経験がある。それなのに、スピカが勝利した。果たしてジムチャレンジ初挑戦のころのキバナが、今のダンデにダブルバトルで勝てるだろうか。「否」と答えざるを得ない。
ユウリやホップほどではないにしろ。
スピカは、本人が思っている以上に、それに次ぐような実績を挙げたのだ。
「このガラルに、とんでもねえ風が吹くぜ」
温厚なキバナが、バトルの時のように目を吊り上げ龍のような笑みを浮かべながら、気炎を吐くように言葉を漏らす。
ホップとマリィとビート、そして何よりもユウリと戦った時、キバナは確信した。ガラルのバトルはここを特異点として、大きく変わり、進化していく。
そして、ダブルバトルにおけるシンギュラリティを、スピカに見出した。
「これから、もっと楽しくなりそうだな」
そんなキバナと同じような表情を、ダンデは自然と浮かべていた。
ガラルのトレーナーたちがもっと強く。
キバナの言う通り、ガラルに風が吹き、それがトレーナーたちの闘志の炎をより強くするのだ。
○○○○○○○
「キバナさん、また炎上してる」
「もうハローぐらいのもんだろ」
翌日、仕事の移動中にSNSチェックをしていたオリヒメが苦笑いを浮かべていた。スピカも呆れ顔である。
キバナはSNSを最も活発に利用するジムリーダーだ。そしてトップの有名人であり、その一挙手一投足が多くの人々から賞賛と中傷の対象となる。そしてインターネットの性質上、悪意を向けられることが多い。理不尽なものも多数だ。
だが、中には自業自得なものもある。例えばナックルジムのダブルバトル合宿に無理やりスピカを参加させて撮影した集合写真をアップロードした結果、「ジムリーダーの模範が特例を行使しすぎだ」と叩かれ、トーナメントの控室で同じジムリーダーのカブからもやんわりと苦言を呈されていた。なおスピカは無理やり参加させられたことが周知されており、被害者として同情されている。
オリヒメのスマホロトムを覗き込む。今回はどんな炎上だろうか。
オリヒメが開いていたのはニュースサイトだ。珍しいことに、炎上沙汰を好んで扱う下世話なものではなく、それなりにお堅い新聞のネット版である。
「リーグ委員長・ダンデ氏、バトルタワーにて不正を働く」
先代チャンピオンであり現リーグ委員長でバトルタワー管理人のダンデ氏は、先日、バトルタワーでのバトルにて、複数の不正を働いたことをSNSアカウントで告白し、謝罪した。
ダンデ氏がバトルする場合、その手持ちや戦術には様々な制限が加わっているが、あるバトルにおいて、意図的にそれをいくつも違反したという。謝罪文の書きこみには、大量の始末書を背景に深々と頭を下げるダンデ氏の写真も添えられていた。
なお、この書き込みとほぼ同時に、キバナ氏が、始末書に向き合って暗い顔をしているダンデ氏を背景とした自撮りを投稿しており、彼がこの不正を容認・加担、さらには計画したのではないかと、非難の的となっており、釈明に追われている。
また、どのバトルにおいてどのような不正を行ったのかは、対戦相手のプライバシーに配慮して公開しない方針だという。
「もうあいつSNSやめろ」
「あ、あはは……」
スピカが吐き捨てる。オリヒメも苦笑しているが、間違いなく呆れ果てているだろう。アイドルである彼女にとっては対岸の火事とはいかないが、キバナに比べたら無難な投稿しかしていないからまだ安心だ。キバナは一度、彼女からSNS講習を受けるべきだろう。
きっと、ダンデが困ってる姿が、親友として面白おかしくて仕方なくて、ついやってしまったのだろう。バカな話だ。ドラゴン使いや強力な炎ポケモンを従える彼らも、この炎上にはさすがに参っただろう。
「それにしても、この時の対戦相手は可哀想にな」
あのダンデが不正までしたのだ。きっと散々な結果だろう。
スピカは、誰だか知らぬ対戦相手に、ほんの少しだけ同情した。
筆者はランクマそれなりにがっつりやってますが、シングルではなくダブル勢です。なお実績はない模様。
そういうわけで、今ダブルバトルは面白いぞという勧誘のお話でした。
ご感想、誤字報告等、お気軽にどうぞ