ポケットモンスター・ソード ホップに敗北RTA 水統一チャート   作:まみむ衛門

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 オリヒメと別れたスピカは、わき目も振らずに、元来た道、4番道路にもどり、旅に出たばかりのジムチャレンジャーたちと戦おうと待ち構えているトレーナーたちに、片っ端から勝負を仕掛けた。そうして経験値を重ねていくと、今度はガラル鉱山内のトレーナーも倒し、続いて鉱山内の野生で頂点に立っているトロッゴンたちを一撃で叩きのめした。そしてもう満足いかないとなると、ターフタウンを挟んだ5番道路に向かい、そこでもトレーナーや野生ポケモンを片っ端から倒していく。ワイルドエリアをまたぐ橋の方では何やらトラブルが起きていたらしいが、それを気にする余裕はなかった。

 

「…………いい感じだな」

 

 開会式に出て、慣れない旅をして、慣れないジムチャレンジをして、さらに急ピッチで武者修行をした。もう太陽はすっかり沈み、のどかな農園が多く民家の少ないターフタウンですら、町明かりが眩しくなっている。そして遠くの方では、随分と久しぶりな気がする生まれ故郷のバウタウンの明かりも爛々と輝いている。

 

 当然、心身共に、酷く疲労している。そもそも、半日以上寝転がる生活をし続けてきたので、これだけ長い時間起きていたのすら久しぶりなのだ。もはや一歩も動けないレベルである。こうしてポケモンセンターでポケモンたちを回復させるのを待ってる間も、ソファの上でそのまま翌朝まで寝てしまいそうだ。漏れ出た言葉とは裏腹に、人生最悪の体調だ。

 

 だが、フレンドリィショップで買った、人間には強すぎるポケモン用の栄養ドリンクを一気飲みして、無理やり気つけにする。そうして待っていると、ついに、ポケモンたちが戻ってきた。

 

「……っ」

 

 ポケモンセンターを出て、ターフジムを睨む。

 

 のどかな農業地域の夜にふさわしくない煌々とした電灯と、バトルの爆発音と、大観衆たちの叫び声。ただ、その叫び声は、昼よりもだいぶ少なくなってきている。遅い時間になり、観客たちもぽつぽつ帰り始め、残ったもの好きも疲れてきているのだ。

 

 もうすぐ、ジムチャレンジ初日が終わる。

 

 あのダイマックスの恐怖を思い出して、一瞬足がすくんだ。

 

 今は心身共に疲れ果てている。ポケモンたちはともかく、スピカの体調は最悪に近い。今日はゆっくり休んで、明日万全の体調で挑むべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だが、震える脚に鞭を打って、ターフジムへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その足取りはまるで、電灯に惹かれる虫ポケモンのよう……とはならない。ひどく疲れていて意識ももうろうとしているのに、ワイルドエリアを闊歩する大型ポケモンのように力強い。

 

 そのまま時間制限ギリギリに滑り込みで申請をして、本日最後のチャレンジャーとして、ジムミッションに向かう。

 

 ウールーを追いかける足取りは、疲労からかやはり昼に比べたら緩慢だが、それでも迷いがなく淀みない。ウールーたちも彼女のことを覚えているのか、スムーズに言うことを聞いてくれた。

 

 そして、昼と同じように、最初の関門をミスなく越えようとしたその時。

 

「……おい、バトルしろ」

 

 スピカは、あえてジムトレーナーに話しかけた。

 

「ひっ」

 

 ジムリーダーに似て優し気な雰囲気のジムトレーナーは、小さく悲鳴を上げる。

 

 スピカの雰囲気は、昼のどこかふわふわとした様子とは違う。

 

 オリヒメにセットしてもらった髪はいつも以上にぼさぼさで、頬はたった四半日でやせこけ、元からやや鋭い目つきはギョロリと悪タイプポケモンのようになっている。その割に、着替えたばかりのユニフォームは、ピカピカで真っ白だった。

 

 そんな長身の女にいきなりバトルを吹っかけられたのだ。彼が怯えてしまうのも無理はない。

 

 そして、昼にジムリーダーとのバトルをモニターで見た時とは比べ物にならないほど成長したキャモメに、可愛がって鍛えてきたヒメンカが一撃で倒される。勝鬨を上げるキャモメは、その特性が「うるおいボディ」であるにも関わらず、同種が持つ別の特性「するどいめ」なのではないかと思うほどに、闘志に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そのキャモメが突然、強く光り輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「念には念を入れて、だな」

 

 ジムトレーナーのソウタは驚くが、十年来の相棒が突然見せた異変に、スピカは驚かない。

 

 ヤローにリベンジできると踏んだ強さまで鍛えたが、よく見ると、あと一押しで、一気に何かが変わりそうな雰囲気があった。だから、ジム内での準備運動がてら、このジムトレーナーを糧に、最後の一押しをすることにしたのだ。「いい感じ」とは、キャモメの成長具合の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャモメは ペリッパーに 進化した!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………十年以上一緒にいたのに、姿が変わっても、全然違和感ないな」

 

 そこでようやく、鬼気迫る表情だったスピカは、わずかに微笑んだ。そして、大きくなって力強くなった体を存分に堪能しているペリッパーを優しく撫でる。

 

 進化に驚きはない。「何か」とは、こういうことだと、その持ち前の観察眼で気づいていた。

 

「…………さて、『根こそぎ刈り取ってやる』か」

 

 ヤローが気合を入れる時の言葉を借りて、スピカは次の段階へと踏み出す。

 

 ソウタは、その雰囲気と声音のせいで、あのヤローですら、何か酷いことになってしまうのではないかと、不安になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お昼ぶりだなあ」

 

 スピカが姿を現した時、本日最後のチャレンジャーと言うことで、観客たちはもうひと踏ん張りとばかりに大歓声で迎えた。

 

 だが、その姿がモニターにアップで映されると、途端に歓声が収まる。

 

 その、古い時代のシンオウ地方に生息したと言われる化け狐ポケモンのごとき鬼気迫る姿は、昼の素材が光る美しいチャレンジャーとは対照的であった。

 

 だが、そんなスピカと数時間ぶりに対面し、睨みつけられているヤローは、穏やかな笑みを崩さない。とはいえ、昼の、まるで緊張する子供を相手にするかのような雰囲気はなくなり、その笑顔で腕を組む姿からは、闘志があふれ出ている。

 

 バトルをする前から、今のスピカの状態が、警戒に値すると判断した証拠だ。

 

 そしてその闘志をこの近い距離で浴びても、スピカは動じない。本当に昼とは別人のようだ。

 

「なるほどなるほど。一皮むけたんじゃな。チャレンジャーのこの瞬間を味わえるのは、一番手の特権じゃ」

 

「……」

 

 とはいえ、ヤローは結局動じてはいない。

 

 平然とスピカから目線を切り、背を向けて、所定の位置へと歩き出す。

 

(うんうん、大きく育ったなあ)

 

 ジムチャレンジ初日。お昼前から今までバトルしっぱなしだった。一番手はふるい落とされたチャレンジャーがおらずまた開会式直後しばらくにチャレンジが集中するので大忙しになるが、農業とリーグで鍛えた心身に疲労はないし、むしろ今日の中で最も調子が高まっている。

 

 この初日にジムを突破したのは六人。

 

 チャンピオンの弟・ホップ。同じくチャンピオンから推薦を受けたユウリ。ジムリーダー二位のネズの妹・マリィ。リーグ委員長ローズが推薦したビート。ベテランのチャレンジャーで過去にセミファイナル出場経験もあるテーミン。ドラゴン使いの一族・ケンギュウ。そして目の前にいる「鬼」の幼馴染で二年目のチャレンジであるオリヒメ。

 

 また、今年のチャレンジャーは特に優秀で、毎年八割程度しかこの最初の関門を乗り越えられないが、今年は全員ルリナに任せることになりそうだ。

 

 では、初日最後の挑戦者であるスピカは――「七人目」になれるか。

 

「さあ、勝負じゃあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャレンジャーのスピカが 勝負を仕掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「いけ、ヒメンカ!」

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 昼に見たころはまだキャモメで、このヒメンカとの間にすら、タイプ相性を無視すれば実力差が開いていた。

 

 だが今はどうだろう。たった四半日で大きく成長し、さらには進化までしている。初挑戦の時にこちらがつけていた以上の「格の違い」が、今は立場が逆転して発生している。

 

 昼に見た時からすでに、キャモメとの深い信頼関係を感じ、良いトレーナーだとすぐに分かった。だが、これほどだとは、さすがに予想外だ。

 

 そしてペリッパーがボールから出ると同時に、空からぽつぽつと雨が降り始め、そしてすぐに、数秒立っているだけでずぶ濡れになる程の大雨になる。ペリッパーの特性・あめふらしだ。そしてそんな豪雨に打たれてびしょ濡れになりながらもこちらを睨むボロボロのスピカの姿は、この輝かしいスタジアムにふさわしくないほどに、悍ましさと恐怖を感じさせるだろう。歴戦のヤローは全く動じないが、生半可なトレーナーだったら、委縮してしまいかねない。

 

「『つばさでうつ』」

 

「『マジカルリーフ』!」

 

 ヒメンカは何とか一太刀浴びせようとしたが、効果抜群の一撃でノックダウンする。戦いを積み重ね、さらに進化したことで、その翼の威力は、昼とは段違いだった。

 

 これはきっと、ヒメンカのみならず、最初のジムとしては強すぎたかもしれないと当初危惧していたワタシラガすら、あのペリッパーは大きく超えている。

 

 だが。

 

 こちらには、一方的なアドバンテージがある。

 

 ただただ「運命」によって持つ者と持たざる者が決まる、圧倒的な差。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、「キョダイ」な壁を乗り越える、トレーナーにとって大切な力を測るのが、このジムチャレンジなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオ! ぼくたちは粘る! 農業は粘り腰なんじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、大きな壁として、旅立ったばかりのトレーナーたちの前に立ちはだからなければならない。

 

 今日何度目か分からない、ワタシラガのダイマックス。大きくなったポケモンは一時的に体力が増大し、ダイマックスエネルギーによって、強力な技を連発できる。

 

「『ダイソウゲン』!」

 

 ワタシラガが大きくなった全身にエネルギーを迸らせ、全力の技を放つ。

 

 その範囲は余りにも大きく、また過剰なまでに威力が高い。観客たちが一体となる応援歌が一時的にかき消されるほどの爆音と地震が発生する。

 

「『まもる』」

 

 だが、その攻撃は、ほとんどが通らない。

 

 スピカは、昼の、恐らく初めて対面したダイマックスを見た時と違い、実に冷静だ。ペリッパーは全身のエネルギーを集中させ、身を丸めることで、とてつもない攻撃から身を「まもる」。それでも少しだけ、それでいて確実に、ダメージを負っていた。あの強力な守りすらも貫くのが、ダイマックスなのだ。

 

「さあ、次はどうする? 『ダイソウゲン』!」

 

 ダイマックス技は威力と範囲のみならず、その莫大なエネルギーは様々な変化をもたらす。草タイプのエネルギーがフィールドに満ち溢れ、グラスフィールド状態になる。そのエネルギーは接地しているポケモンを癒し、また草技の威力を上昇させる。

 

 一発目は「まもる」で防げた。だがさらに威力が上がる二発目は、「まもる」ではまず防げない。あの技はとても集中力を要する。連続で成功するのは、どれだけ鍛えられたポケモンでも、偶然に頼るしかない。

 

「バトルだ、チョンチー!」

 

 それに対してスピカは、拍子抜けの選択をした。

 

 最も信頼している相棒であるペリッパーを引き、チョンチーを出す。飛行タイプを持たないチョンチーに、草技は効果抜群だ。しかもグラスフィールドが乗ったダイマックス技。場に出た直後にそのエネルギーが直撃したチョンチーは、一瞬で倒れ伏した。

 

「……すまない」

 

 スピカは小さく呟き、チョンチーを戻し、今度は何も叫ばずにまたペリッパーを出す。

 

 きっと、ここでまた身を「まもる」ことでダイマックスを凌ぎ、お互いに対等の条件で戦おうというのだろう。ワタシラガは遅いポケモンなので、あのペリッパーが先行する。そうなれば、ヤローが不利だ。

 

 ならば。

 

「『ダイアタック』!」

 

 ここで、ジムリーダーとして、さらに大きな壁として、さらなる試練を与えなければならない。

 

 ポケモンバトルは、常に上手くいかないことの連続だ。それを、どう乗り越えるのか。

 

「『まもる』」

 

 スピカの声は冷静だ。「ダイソウゲン」ではないことに驚きもしない。

 

「ダイアタック」の効果を知らないのだろう。

 

 この「ダイアタック」は、相手の素早さを下げることができる。これでワタシラガはペリッパーより先に動けるようになり、グラスフィールドの恩恵を受けた「マジカルリーフ」で多く攻撃できる。物理防御に優れたワタシラガは、効果抜群と言えど「つばさでうつ」を耐えることもできる。

 

 ノーマルエネルギーの一撃はペリッパーを包み、防御を貫通してダメージを与え、その素早さを下げる。それと同時に、ワタシラガのダイマックスエネルギーが切れて、元の大きさにもどった。

 

 さあ、どうする。

 

 ヤローは高まる気持ちが抑えられない。

 

 優れたチャレンジャーたちが、それぞれの発想で、自分を乗り越えていく。本当に、一番手は特等席だ。

 

「『マジカルリーフ』じゃあ!」

 

 グラスフィールドのエネルギーが乗せられた特殊な葉っぱの刃がペリッパーに襲い掛かる。ペリッパーは特殊耐久はそこそこあるポケモンだったはずだが、「まもる」越しとはいえ二回ダイマックス技を受けて確実に削られた体力ならば、この一撃で落ちるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、スピカは、ペリッパーを見殺しにした。

 

 なんら指示を出すことはない。ペリッパーは何もできず、この一撃で倒れ伏す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤローは感心した。

 

 そう。

 

 ポケモントレーナー。人間よりもはるかに強力なポケモンを従え、ポケモンに立ち向かう。

 

 競技化されたポケモンバトルでは無縁になりつつあるが――その本質は、「何でも使って生き残る」ことだ。

 

「バトルだ、チョンチー!」

 

 スピカが使ったのは元気の欠片。ダウンしたポケモンを、ダメージは大きく残った状態ではあるが、復活させることができる。

 

「『マジカルリーフ』」

 

「『まもる』」

 

 持たざる者。

 

 ジムチャレンジャーは皆、信頼できるものによって推薦された、才能あふれるトレーナーだ。

 

 そんな優秀なトレーナーたちすらもふるい落とされるのが、このジムチャレンジ。

 

 真っ先に突破していった、ホップ、ユウリ、ビート、マリィは、ダイマックスを使えた。

 

 オリヒメは去年からさらに成長し、時間と経験という大きなアドバンテージを持って、勝利を掴んだ。

 

 テーミンとケンギュウはヤロー以上に経験豊富なトレーナーで、しかも強力なポケモンたちも持っている。

 

 だが、目の前のスピカは……目に見えるアドバンテージを、「何も持っていない」。ジムチャレンジャーの中では、「持たざる者」だ。

 

 だがそれでも。

 

「『このは』!」

 

「……私が弱いばかりに」

 

 持たざる者であることを自覚し、ポケモンたちに痛みを強いてしまう目の前の女性は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルだ! ペリッパー!!!」

 

 それでも、誰しもが持つことを許される、「道具」を使って、生き残ろうとしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『つばさでうつ』!」

 

「『マジカルリーフ』!」

 

 一度倒れてボールにもどったことにより、素早さはリセットされ、ペリッパーが先に動ける。そして返す刀の「マジカルリーフ」はグラスフィールドの恩恵が時間稼ぎによって消えたため、ダメージを残すペリッパーを倒しきれない。

 

 そして。

 

「『つばさでうつ』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度敗北して「死んだ」スピカは、また戻ってきて、ついにヤローを倒し、本格的なジムチャレンジという「大海」へと泳ぎ出し、「大空」へと羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、完敗じゃった。すっかり収穫されてしまったなあ」

 

 思わず勝鬨を叫んだあとに、疲労がどっと押し寄せ、膝から崩れ落ちそうになった。だがなんとかこらえて、ほとんどヤローから歩み寄ってもらう形で、握手をする。

 

「まさか数時間でここまで成長するとはびっくりだあ。あの作戦も、あの後考えて用意してきたのかなあ?」

 

「……すみませんね、あんな勝ち方で。ダイマックスが使えないので許してください。私はネズさんじゃないので」

 

「いやいや、ルールで認められてることだし、ぼくたちだって傷薬を使うことはあるからおあいこじゃ」

 

 ヤローはそう言ってぶんぶんと握る手を振りまわしながら快活に笑う。

 

 なるほど、これも想定内どころか、むしろ意図的に「こんな戦い方」をされるようにルールが設定されているのだろう。確かに、手加減されている手持ちとはいえ、ジムリーダーという圧倒的格上相手に大半がダイマックスが一方的に使えないなんて、ともすれば悪趣味な虐殺ショーだ。

 

「……後からではなく、最初から考えていた作戦です。だから、エンジンシティで大枚叩いて技マシンを買って、道中で元気の欠片を見つけては拾ったんです」

 

 最初から、ダイマックスへの対策は準備していた。もし道中で元気の欠片を見つけてなかったら、初日にいきなり挑むなんて真似は流石にしない。そこまで無謀ではない。

 

 ただ、いざダイマックスと向かい合うと、その絶望に、心が折れたのだ。とはいえ、そもそもあの時のキャモメとチョンチーではたとえ同じ戦術をしたとしても勝てなかっただろう。

 

 今思えば、あの通り道のポケモンセンターのショップに、いきなり「まもる」の技マシンが売っているのも、「ダイマックスを凌ぐ」ためにヒントだったのかもしれない。つくづく、このジムチャレンジのシステムは良く考えられている。伊達に一大イベントになっていないわけだ。

 

「そうなのかあ。いやあ、やっぱり今年のチャレンジャーは特に優秀だなあ」

 

 そう笑ってヤローは、ようやく握手からスピカを解放する。本人的には優しく握ったつもりだが、怠惰生活で貧弱極まりないスピカの手は、すっかり痺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその手には、いつの間にか、草バッジが握らされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい、すごいよスピカちゃん!」

 

『ッシャア!』

 

 バウタウンのポケモンセンター宿泊施設の一室。そこに備え付けられたテレビからは、なじみ深いはずの親友の、聞いたことのない声での勝鬨が鳴り響く。

 

 初日に無事ヤローを突破し、そこからは次の挑戦に備えてバウタウン周辺で鍛えていたオリヒメは、その夜、どうしても気になって、メインチャンネルで長い時間を取って放送されてるジムチャレンジ番組を開き、スピカの再挑戦を見守っていた。

 

 ズルズキンも裸足で逃げ出すような姿が映った時にはギョッとしたが、すぐに安心した。地元のさほど有名ではない安全圏大学にするりと入学するつもりが模擬試験で思ったよりも余裕がないことに気づいてスピカにしては必死になって勉強する羽目になったあの時に、今には遠く及ばないにしろ、そっくりだ。彼女が真に本気を出して追い込んだらこうなる、ということを知ってるのは、彼女の家族とオリヒメだけだろう。

 

 スピカはたった四半日で見違えるほど強くなった。経験も才能もダイマックスも、バッジの数のわりに強いポケモンも、何も持っていない。それでも、持ち前の知恵をフル回転し、道具を駆使して勝利した。この土壇場で、自分の実力を過信せず、冷静に道具を頼ることができるか。これもまた、ジムチャレンジで見られるトレーナーの資質だ。競技は別として、むき出しの大自然であるワイルドエリアでは、そうでもしないと生き残れない。この本質にオリヒメはまだ気づいていないが、その一端に、親友を通して触れることができた。

 

「スピカちゃん……良かった、本当に良かった」

 

 画面の中でヤローと握手するスピカは、無理した疲労がここに来て蘇ったのかフラフラしているしサニゴーンのような顔色だが、それでも晴れやかな笑顔が浮かんでいる。パワーのあるヤローの握手に振り回されてはいるが。

 

 そんな親友の活躍を見て、オリヒメは我がことのように泣き出す。

 

 ――スピカの才能と人格を信じて、ジムチャレンジに誘ったはずだった。

 

 だが、昼の様子を見て、つい、自分を、そしてスピカを信じきれず、後悔してしまった。

 

 だが、そのあとにスピカと話して、そして今この瞬間を見て、その後悔は吹き飛んだ。

 

「良かったね、スピカちゃん……」

 

 のちにスピカはインタビューを受けて「二度と味わいたくない。死ぬかと思った」と本気で嫌そうに答えるが、それはご愛敬だ。

 

 そうして延長したジムチャレンジ番組は終わり、ニュースの時間になる。

 

 オリヒメはテレビを消し、顔を洗うと、明かりを消してベッドに入る。

 

「……うん、あたしも、頑張るぞ」

 

 明日はいよいよ、ルリナとの戦いだ。

 

 去年もバッジは二つ手に入れた。順当にいけば勝てるはず。

 

 だが去年の二番手は、相性の良い炎タイプ使いのカブだった。

 

 そして三番手、前半の鬼門として立ちはだかったのが、去年のルリナだ。

 

 水タイプ使い同士の戦い。お互いに有利であり不利でもある。トレーナーとポケモンの実力差がはっきりと出る戦いだ。

 

 そしてオリヒメはルリナに惨敗を繰り返し、一回目のジムチャレンジを終えたのだ。

 

 彼女にとってルリナは、地元のヒーローで、憧れで、目標で、一番大好きなジムリーダーで、そして敵であり、トラウマであり、仇だ。

 

 

 

 

 

 そんなオリヒメの決意に呼応するように、四つのボールが、大きく震えた。




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