彼と最初に会ったのは彼がここの街に転校してきてからすぐだった。家が隣同士で、彼のお母さんと私のお母さんが仲良くなったところから始まる。
「……雷狼竜……よろしく」
「あ……えっと……く、倉田……ましろ……です」
「……おう」
最初はお互いにあまり話さなかった。後から聞いたら、人見知りだったらしい。
彼は料理が得意だった。生まれて物心ついてからお母さんに教えて貰っていたらしくて、小さい時の私は彼の作る料理に興味津々であった。
「……できた、サーモンのカルパッチョ」
「うわぁ、何これ見た事ない……どんな料理なの?」
「知らない……でも、母さんが得意。美味しいから作った」
「へぇ、お母さん料理人なの?」
「大会で優勝したらしいよ」
「え!? 凄いね!」
「俺は優勝してないけどね」
後から調べたけど、彼のお母さん
狼君は人見知りが激しい方では無かったので、少し会話したら割と打ち解けた。
しばらくして、私と狼君がかなり仲良くなった時。中学時代に狼君から聞かされたのは……狼君はそもそも望んで産まれた雷狼家では無かったと言う事だった。
「俺は、俺の母さんが知らない人に襲われて出来た子らしい。そいつは捕まって罰せられてるけど、母さんは俺に罪はないと言って産んだんだとよ」
そんな他人事のように笑う彼に私は目を見開いてしまった。そんな過去、普通は言えないはずなのに。彼はそんなの気にしないように話していたからだった。
その時ましろは聞いた、どうして笑っていられるのかと。すると彼は
「……確かにショックだ。本当の……というか望んだ家族じゃねぇんだから。でも、俺の母さんは雷狼剣ただ1人なんだよ。だから、受け入れるしかねぇだろ」
そう、あっけらかんと言った。まぁ、俺がその場にいなかったから実感が無いのもあるけどと、付け加えて。
「……どうして、そんな話を私にしたの?」
「遅かれ少なかれ言いたかったんだ。お前には、ましろには伝えたかった。何を思われようが、俺はどんな形であれましろの側にいたいから」
その時から、私は決意した。私は狼君のお母さんにはなれないけど、対等な関係で、側にいて支えてあげたいと。なんならもう狼君の嫁になろうと、そう思ってたのに……
♪♪♪
「ねぇ竜兄! あこに料理教えて!」
「アタシも教えてほしいな。いいよね?」
「分かったから抱きつくな特にリサ色々当たってる」
「当ててるんだよ」
「そういうのは好きな人にやりなさい。あのオネエの弟さんとか」
「アタシまだ紗夜に殺されたくないし、なんならアタシギャルだけど、それでも好きでもない男の子にこんな事しないよ」
「あー、聞こえないなぁー」
「さて、今井リサの3分クッキングの時間だよ! まずは包丁を用意して竜を刺したらドラゴンの肉が手に入るね!」
「ドラゴンの話ですよね? なんでこっち見んの? しかも今さりげなく俺を刺すって言った?」
「それを焼いて食べるんだねリサ姉!」
「シチューにしようよあこ!」
「うん!」
「あのリサさん、勘弁してください貴方の持ってる包丁が俺の首筋切ってます。いやもう切れてるなんならちょい血が出てる痛い助けて」
「「鈍感は死のうね」」
「やめてね?」
雌どもが狼君にこびりついてます。滅したい。
「ダメ! 狼君は私に料理を教えてもらう予定なの!」
「ましろにだけじゃなくて、3人まとめて教えてやるよ」
「「「4(ピー)なの!?」」」
「あれ? 料理の話だよね? っていうかあこさん?」
「おーい! 竜テメェ、私の
「自分で買ってきて。どうぞ」
「なんだよつれねぇな、誰がお前の世話してきたと思ってんだ、必死に面倒見て育てた息子が女3人侍らせるタラシの源氏になった心境答えろや!」
「記憶にござらんのですけどお母様」
「しかも1人以外そこそこ胸あるし! 誰がパッド料理人だ畜生!」
「言ってないです」
「サラッとあこ馬鹿にされてない?」
「雷狼剣さん……申し訳ないんですけどサイン貰って良いですか? アタシの弟がファンなんです」
「弟とはいえガールズバンドの頂点であろうRoseliaのベーシストに気に入られるとは嬉しいねぇ! いいよ、その代わりリサちゃんのサインと交換しようぜ!」
「アタシなんかで良いんですか!?」
「当たり前だよ! あ、あこちゃんも頂戴ね! ましろは……前から貰ってるから良いや」
「辛辣なんですけど」
さらに言うと、彼の母親、雷狼剣も料理大会を終えて帰ってきてました。ナニコレカオス。
因みに雷狼剣さんは黒髪の彼とは違う茶髪にウェーブがかかったリサさんみたいな髪色で、身長は狼君と同じくらいでかなり高い方。なお、おっぱいは私の方が大きい。いや、まさかこのひとあこちゃんと同じ……?
「優勝記念に買ってきてくれ、大会10連覇も疲れるんだよ」
「世界のトップ抑えて10連覇って化け物じゃねぇかよ」
「せめて努力家と言えバカ息子」
「なんで戻ってきた?」
「大会終わって次まで暇あったから顔見に来たんだよ悔い改めろ」
「喜ぶので拳しまってください」
「ってか、竜のお母様めっちゃ美人なんだけど、あ、初めまして雷狼リサの予定の今井リサです」
「そんな予定あったっけ?」
「雷狼あこの予定です。宇田川あこです」
「そんな予定あったっけ?」
「雷狼ましろです。お久しぶりです。剣さん」
「1人予定じゃなくて確定してない?」
「リサとあこか……雷狼の名を継ぐにはいい呼称だな。ましろは相変わらずだが、昔より逞しくなったな、後胸デカイ、滅べ」
「私だけ辛辣!?」
「セクハラの母がごめんねましろ」
「まぁ、アレだこんな料理バカでも仲良くしてやってくれ。私じゃこいつの理解者にはなれねぇからよ!」
「おい、母さん!」
「「……ん?? どういう事?」」
その瞬間ましろはまずいと思った。だが、
「私は望んでこいつを産んだ親じゃねぇのよ。私が男にレイプされて出来た子供。だから、コイツは言い方悪いけど私が望んだ息子じゃねぇんだ」
「「……え??」」
「「……」」
時すでに遅く、竜とましろは頭を手で押さえて俯いたのだった。