ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
話を終えて、のんびりと昼食を食べた咲宗は再び深雪を連れて教室へと戻った。
すでに雫達も教室に帰って来ており、雫の席で談笑していた。
教室に入ると同時に術を解除する。すると教室にいたほぼ全員が深雪の存在に気づいて顔を向ける。
咲宗はさっさと自分の席に座っていた。
その素早さに深雪は思わず呆れるが、言うだけ無駄なので何も言わずに席に座る。
10分としない間に授業が始まり、何事もなく授業を終えて放課後を迎えた。
今日の放課後もクラブ勧誘が行われることになっている。
深雪は本日も生徒会室で業務。
雫とほのかはすでに入部を決めたので、今日は帰ることにした。
咲宗は今日も諜報活動を行おうとしていたが、雫に誘われたので途中まで付き添うこととなった。
正面口に下りたところで華凜と合流し、帰ろうとしたところで、
「うわぁ……」
ほのかは目の前に光景に頬を引き攣らせた。
正面口から校門までの道を上級生が埋め尽くしていたからだ。
正確には道の左右に行列を作って陣取っていた。まるでスーパースターの出待ちのように。
まだ入部を決めていない新入生を逃がすまいと目をギラつかせて鼻息荒く、いつでも飛び掛かれるように構えている。
あまりの熱気に他の新入生達もほのか達の近くで怖気づいていた。
もっとも、これは新入生でなくても恐怖を覚えても仕方ないかもしれないが。
すると、そこに咲宗達に背後から歩み寄ってくる者がいた。
「どしたの?」
「ひぃっ!?」
ほのかは驚いて悲鳴を上げるが、雫、咲宗、華凜は気づいていたので驚くことなく顔を向ける。
「あ、エイミィ」
現れたのはルビーを思わせる長髪の少女。
華凜に似た雰囲気を纏っており、背丈も華凜とあまり変わらないので双子の姉妹と言われても納得する者がいるかもしれない。
彼女は明智英美。
イギリス人の血を引くクォーターで、フルネームはアメリア・英美・明智・ゴールディ。
ゴールディ家はイングランドでは名門と呼ばれる家系である。
英美は華凜のクラスメイトなので、すでに華凜とは仲が良い。
そして、雫とほのかは昨日の放課後、つまり部活勧誘中に色々あって英美と自己紹介を交わしていた。
英美は咲宗に顔を向けて、
「あ。君が華凜のお兄さん?」
「そうだよ。明智英美さんだよね? ボクは咲宗。咲宗でいいよ」
「じゃあ、私はエイミィでいいよ」
パチンとウィンクして言う英美に、咲宗は本当に華凜によく似ていると苦笑しながら頷く。
ちなみに雫とほのかは、
((3つ子みたい))
と思っていた。
3人共小柄。髪の色はバラバラだが、ルビー色の英美、赤茶の咲宗、茶髪の華凜と咲宗が間に入ることで妙に血の繋がりを感じさせる。
この場合、一番の要因は咲宗が小柄で少女にも見える顔立ちをしていることだろう。
男子制服を着ているからまだ男だと分かるが、私服や女子制服を着させたら間違いなく美少女3つ子の誕生だ。
「で、なにしてんの?」
「あれ」
華凜が表を指差し、英美が覗き込んで納得したように頷く。
「なるほどねぇ。これはヤだね」
「英美も帰るの?」
「うん。私もクラブ決めたし」
「了解。じゃあサキ、ヨロ」
「だよね」
華凜が笑みを浮かべて兄の肩に手を置き、咲宗は苦笑する。
それに雫とほのかは納得の表情を浮かべ、英美は首を傾げる。
「なにするの?」
「サキは認識阻害の魔法が得意なの」
「おぉ!」
英美は何やら目を輝かせる。
どうやら英美は忍術系に憧れがあるようだ。
この時代になっても『忍び』に憧れる子供はいるらしい。
もっとも、魔法が使えない者達にとって『忍び』は今でも空想の存在に近いが。
「流石にこの人数だと意識を逸らすので精一杯だからね。あまり騒ぎ過ぎないでよ?」
「分かってるって」
「信じられません」
「酷くない!?」
「自分の記憶に訊き直せ」
「ヤダ」
「だから信じられないんだよ。バ華凜」
咲宗は呆れた目を向けながら、呪符を取り出してサイオンを流す。
華凜は頬を膨らませるが、流石に術の発動を邪魔することはせず、英美とほのかは2人のやり取りに微笑んでいた。雫も僅かに笑みを浮かべていた。
そして、術を発動して周囲から意識を逸らした咲宗達は、集団の後ろの植木側を歩いていた。
すぐ横の道では無理矢理特攻しようとした新入生が捕獲されていた。
「「「うわぁ……」」」
華凜、英美、ほのかがその光景に頬を引き攣らせる。
咲宗と雫はやや半目で上級生達の熱気を見つめていた。
「あれを見てると、芸能人って良くあれに耐えられるよねぇ。いくらファンだからって言ってもさ」
「愛想を振りまけばお金が入るからじゃない?」
「だとしても、怖くない? あの中に襲撃者がいたらと思うとボクは無理だな」
「普通の一般人はいるとは思わない。全く考慮してないわけじゃないと思うけど」
「まぁ、魔法師だからってのはあると思うけどね」
「君達はもう少し夢をお持ちになろうよ」
「「芸能人に興味ない」」
華凜がジト目でツッコむも、雫と咲宗は表情を一切変えずに言い放つ。
英美はそれにクスクスと笑い、
「まぁ、咲宗くんはアイドルって柄じゃなさそうだよねぇ」
「ちっこいからね」
「うっさいよ」
「あ、達也さんだ」
ほのかが突然嬉しそうな声を上げる。
達也という名前に咲宗達も意識を向ける。
道の真ん中で掴み合いを始めた上級生2人に、達也が駆け寄って止めようとしていた。
その時、達也の背後から『空気弾』が放たれた。
ほのかが声を上げようとしたが、達也は見えていたかのようにそれを躱した。
それに英美が感心した顔を浮かべる。
「お~! 今のを躱すんだ! 凄いね、彼!」
「今のって……!」
「わざとだね」
ほのかは顔を強張らせ、雫も真剣な表情で魔法が放たれた方を睨みつけていた。
もちろん、咲宗と華凜も気づいていた。
「サキ、見えた?」
「見えたけど、反対側に逃げた。ここからじゃ援護出来ないね。喧嘩してた2人とその近くにいる奴らもグルみたいだね。早速昨日の御活躍に嫉妬した連中が出たか……。大変だねぇ、達也も」
昨日の達也の大捕り物を聞いた一科生の上級生達が、生意気な二科生を凝らしめてやろうと動き出したのだ。
わざと達也の近くで騒動を起こし、近づいてきた達也に誤爆のフリをして魔法を放ったり、今のように死角から攻撃する。
『空気弾』ではあるが当たり所が悪ければ、それなりに大怪我を負う可能性もある。
それをただのやっかみで行うなどあまりにも幼稚だった。
「……それが才能ある一科生様のやることなのかしら?」
「本能的に達也に怯えてるんじゃない? ほら、窮鼠猫を嚙むっていうしさ」
「噛まれちゃダメじゃん」
「達也があの程度で噛まれるわけないよ。まぁ、噛まれたら噛まれたで、そいつらは停学か退学になるって理解してないようだけど」
「……そういえばそうね」
今はCADの携行を特別に認められているが、だからと言って不適切使用を見逃されるわけではない。
むしろ、普段以上に厳罰を科されることになるのだが、それを理解していないようだ。
恐らくは昨日の騒動で停学まで行かなかったからなのだろうが、昨日はまだ被害者がいなかったからこその判断であって、被害者が出れば真由美達も庇うようなことはしないだろう。
「とりあえず、騒ぎが大きくなって術が破られる前に離れようか」
「は~い。行くよ皆~」
「でも……」
「達也なら大丈夫だよ。ここで更に攻撃すれば、流石に周りに捕まるって」
「……そう、だよね……」
やはりほのかの顔は晴れることはない。
今日は大丈夫でも、明日以降が安全だとは限らないからだ。
もし明日達也が傷つけば、深雪も悲しむ。
それがほのかには心苦しいのだ。
「ほのか、ここで悩んでてもしょうがないよ」
「うん……」
雫が声をかけて、ほのかは渋々移動を始める。
女子陣はほのかを元気づけようと声をかける。
そのせいで、咲宗が移動をしながら携帯情報端末を素早く操作していたことに、誰も気づかなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
達也は妙にしつこかった騒動を宥め、先ほど攻撃してきた者が逃げたと思われる方へと早足で歩いていた。
もちろん、見つけることはもう不可能だろうと思っているが。
流石にここで闇討ちを仕掛けてくることはないだろう。普通に考えれば、今日は警戒されていると考えると思われるからだ。
しかし、達也は思いがけない光景を目にした。
1人の一科生が大の字で倒れていたのだ。
達也は駆け寄って声をかけようとしたが、その一科生の胸の上に携帯情報端末が置かれていることに気が付いた。
声をかけながら端末を確認すると動画の画面が展開されており、訝しみながら再生を押すと、なんと先ほど達也に魔法で攻撃していた瞬間の映像だった。
攻撃の直後、逃げ出す姿も映っており、それは間違いなく倒れている一科生だった。
(一体誰が……?)
ここまで手の込んだことをする必要はないはずだ。
この動画があれば生徒会か風紀委員に通報すればいいだけだ。学校には公益通報窓口というものがあるのだから。
だから、このような手間をかける必要はない。
(つまり、それを知らない新入生か……
達也は後者である可能性が高いと判断するも、それが何者なのか判断出来なかった。
一科生の倒され方を見る限り、一撃で昏倒させていることからかなりの手練れであることが窺える。
(これだけの手練れが忍び込んでいるということか……。……まさか九重寺の……いや、風魔か?)
咲宗の部下かと推測するも、結局どれも証拠がないため、この場での推理は諦めることにした。
とりあえず、今は全く起きないこの一科生に保健委員を呼ばなければならない。
達也はやるなら最後まで面倒見てくれと思いながら、保健委員に連絡を入れる。
翌日。
その動画が公益通報窓口に何者かから通報があり、その生徒は『明確な傷害目的による魔法行使』により校則違反にて停学処分となったのだった。