ショタっ子魔法師は風魔忍   作:魔法非戦士

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13.最高の囮じゃない?

 クラブ勧誘期間5日目の昼休み。

 

 達也と深雪は今日も生徒会室で昼食を食べていた。

 向かい側には真由美と摩利の2人。

 

 残りの生徒会役員は普段はクラスメイトと食べている。

 

 4人が弁当を食べ終わって、ゆったりと食後のお茶の時間にしようとしていた、その時。

 

「失礼致しまする」 

 

「ひぃっ!?」

 

 突然咲宗がテーブル下座に現れた。

 

 真由美は悲鳴を上げて一瞬椅子から飛び上がり、摩利と深雪は目を丸くして驚き、達也も僅かに目を丸くしていた。

 流石に油断していたのだ。

 

「い、いつの間に……? というか、どうやって中に?」

 

 真由美が胸を押さえながら訊ねると、咲宗は胡散臭い笑みを浮かべて、

 

「企業秘密です。達也にはまだバレたくないので」

 

「いや、単純に生徒会室に忍び込まれるのは困るのだが……」

 

「忍術使いを招き入れたのは七草生徒会長ですので。苦情はそちらにお願い致しまする」

 

 摩利の苦情をサラリと責任転換した咲宗は、達也に顔を向ける。

 

「放課後は大人気だね、達也」

 

「全く嬉しくないがな」

 

「けど、おかげでボクらの仕事は捗るよ。深雪さんには申し訳ないけど、達也は最高の囮だね」

 

 深雪の目が険しくしたが、

 

「達也、昨日校庭の植木側で誰かに襲われたでしょ?」

 

 降参するように両手を上げながら言った咲宗の言葉に、怒りが吹き飛んだ。

 

 しかし、達也は一切表情を変えることなく肩を竦める。

 

「確かに襲われたが、昨日どころか毎日襲われているからな。だが、それがどうしたんだ?」

 

「昨日のは剣道部主将の司甲の仕業だよ。狙いはわざわざ言うまでもないよね?」

 

 司甲の名前に真由美と摩利も顔を鋭くする。

 

 達也は咲宗の問いに小さく頷く。

 間違いなく達也のキャスト・ジャミングを確かめようとしていたのだ。

 

「司甲は間違いなく『ブランシュ』の手の者。引き込む側の人間ですね」

 

 真由美達にも聞かせることを意識しているので敬語で話す咲宗。

 

「他の剣道部部員はどちら側かはまだ不明です。ですが……司甲と3年生の数名が『ブランシュ』の拠点に入るところを確認しています」

 

「……そう」

 

「ただし」

 

 悲し気に目を伏せる真由美に言い聞かせるように、咲宗の声が僅かに力強くなった。

 

「司甲以外の一高生ですが、少々気になる証言が出ています」

 

「気になる証言?」

 

「確認出来たほぼ全員が、ある日を境に魔法師の差別撤廃を強く口にするようになり、それまで仲が良かった魔法師の友人や知人、家族親戚と突然疎遠となった。更に今まで興味がなかった剣術に興味を持ち始めたり……武器や兵器に関する資料を読む様になった、と」

 

「なんだと……? それでは本当にテロ組織に入ったみたいじゃないか」

 

「ですが、全員が一様に『差別を消し去るためだ』と言っているようです」

 

「……何か違和感を感じるわ。達也くんはどう思う?」

 

「同感です。差別撤廃を訴えるようになったのは一高の環境故と言えると思いますが……全員が家族や親戚まで疎遠となったのは偶然にしては多すぎる気がします。思想教育が行われたとしても、誰一人それをおかしいと思わず、耳を貸さないというのはあまりにも違和感が大きすぎます。まるで――」

 

「洗脳を受けているかのよう、でしょ?」

 

「ああ」

 

 先回りして達也の答えを奪った咲宗に、達也は怒ることなく頷いた。

 

 女性陣はまさか洗脳までされている可能性に顔を強張らせていた。

 

「『ブランシュ』の構成員の多くは、差別撤廃や魔法排斥思想に異様なほど狂信的です。ですが、逮捕された者のいくらかは、これまたある日を境に人が変わったかのように反省の弁を述べるそうですよ?」

 

「つまり、『ブランシュ』は洗脳を利用して勢力を増やしているというわけか……」

 

「勢力というよりかは手駒って感じだけどね。捕まった連中の経過からすると、暗示や催眠術による思想誘導が正しいかも。だからこそ、『変わった』とは思っても『変えられた』とは気づかれにくい」

 

「それは同時に正気に戻しにくいということでもある……。あくまで思想を歪められただけだから、現実や事実を突きつけても戻らない可能性がある」

 

「その通り。それに、元々本気でそう考えてた可能性もあるからね」

 

「どうやって判別すればいいの?」

 

「まず不可能でしょう。汚染されている一高生の思想誘導の方向性は『差別撤廃』。この一高の制度が変わらない以上、判別は難しいでしょうね。それに、判別出来るなら、総合カウンセラーの先生方がすでに気づいているでしょうし」

 

「……確かに、な」

 

「今問題にすべきは、『ブランシュ』の目的です。正直、二科生を全員思想誘導するなど非現実的ですし、かといって一科生を取り込むことも出来ないでしょう。つまり、一高生を取り込み始めたのは何か目的があると考えられます」

 

「そうね……。『ブランシュ』の目的が、洗脳された生徒達の目的と矛盾していれば、洗脳を解く糸口が見えるかもだけど……」

 

「連中がそれを考えていないとは思えんがな」

 

「……よねぇ」

 

「そちらも数日中にはご報告出来るかと。とりあえず、今日来た理由は今後達也への接触、勧誘が予想出来るからです」

 

 全員の視線が達也に集中する。

 

 もちろん達也はその程度で表情が変わることはない。

 

「理由は?」

 

「もちろん、君が一科生と二科生の差別解消に繋がる可能性があり、一科生十数名を1人で相手取れる実力者だからじゃない? 更に言えば今年度主席の兄で、生徒会長や風紀委員長に最も近い二科生だ。引き込めれば、色々な意味で有能な工作員になるよね? まぁ、引き込めれば、だけど」

 

 咲宗は達也が『ブランシュ』や『エガリテ』の言葉程度に靡くとは欠片も考えていなかった。

 その程度で引き込まれるのであれば、そもそもここに入学さえしていないだろう。

 

「洗脳しているとしても、学校内では使えないと思う」

 

「出来るなら、もっと汚染者が多いだろうからな」

 

「その通り。そうなると、考えられるのは剣道部への勧誘かな? 勧誘期間初日の騒動でお礼が言いたいとかで近づいてくるんじゃない? 誰が来るかまでは分かんないけど」

 

「俺が剣道部に入ると本気で思っているのか?」

 

「そこまでは分からない。でも、君を取り込んで旗印にでもして、何かしでかす気なんじゃない? 風紀委員として活動出来ている司波達也が二科生だなんておかしい! これはまさに学校による差別の象徴だぁ! 今こそ彼と一緒に僕達の価値を一科生や学校に認めさせよう!! とか?」

 

「……ありえそうだな」

 

 摩利は顎に手を当てて納得したように頷いているが、もちろん達也や深雪は違うと思っている。

 それもないわけではないだろうが、連中の本当の狙いは達也のアンティナイトを使わないキャスト・ジャミングだと理解している。

 

「というわけで。達也、何かアクションあったら教えてね。校外で接触することになったら、ボク達が護衛に就くから。陰から、だけどね」

 

「分かった。だが、こんな話をして、校外で会う気になるとは思えんがな」

 

「それならそれでいいよ。連中も焦ると思うから、尻尾を出すかもしれないし。深雪さんの護衛はいる?」

 

「いや、必要ない」

 

「了解」

 

「断っておいて悪いんだが、風魔は護衛は引き受けないんじゃなかったのか?」

 

「護衛メインでの依頼は引き受けないね。今回のはあくまで調査を続けるにおいて必要なことだからさ。達也の周りを警戒させてもらうついでって奴だよ」

 

「なるほどな」

 

 咲宗は軽く肩を竦めて、真由美達に顔を向ける。

 

「お二方もお気をつけて。『ブランシュ』にとっては一番邪魔な存在でしょうからね」

 

「分かってるわ」

 

「十分に留意しよう」

 

「七草生徒会長はともかく……渡辺風紀委員長は護衛はどうされますか?」

 

「必要ないよ。自分の身くらいは自分で守れるさ」

 

「左様ですか。まぁ、渡辺風紀委員長には頼りになる剣聖様がいらっしゃいますからね」

 

「なっ……!? や、やはりお前!!」

 

 摩利は動揺を露にして顔を真っ赤にし、真由美は噴き出して口元を押さえ笑いを堪える。

 

 咲宗は悪戯な笑みを浮かべて一礼する。

 

 それに真由美は今日こそ幻術に引っかからないように、咲宗に意識を集中させる。

 だが、咲宗はそのまま何事もなくドアに向かい、普通に開けて出て行った。

 

「……あれ?」

 

 真由美や落ち着いた摩利は何もないことに首を傾げる。

 

 そして扉が閉められるも、やはり何も起きなかった。

 

「……今日は何もしないのかしら? せっかく色々と見破る方法を考えてきたのにぃ」

 

 

《それはそれは、申し訳ありませんでした》

 

 

「「「!!?」」」

 

 突然真由美と摩利の中間後方から響いた声に、真由美、摩利、深雪の3人は目を丸くして驚きに体が跳ねる。

 

 真由美と摩利は弾かれたように振り返るが、もちろん誰の姿もない。

 

「ど、どこから?」

 

「お兄様、今のは一体……?」

 

「恐らく精霊魔法だ。風の精霊を介して一度だけ声を響かせたのだろう」

 

「今のが精霊魔法……? お兄様は気づいておられたのですか?」 

 

「いや……妙な気配を感じてはいたが、それが何かまでは分かっていなかった」

 

 正確には何か存在しているのは視えていたが、それが何かまでは分からなかったのだ。

 

 精霊魔法は古式魔法にカテゴリーされており、現代魔法が一般的になった今では滅多に見かけない代物だ。

 

 八雲も使えないわけではないのだろうが、八雲はあくまで体術の師でしかないので古式魔法まで教えて貰えることは滅多にない。

 

「こ、今度は精霊魔法……?」

 

「CADを使わずに……恐ろしく多才な奴だな……」

 

「古式魔法は元々CADを使ってこなかった術式だもの。古式魔法は隠密性に特化してるとも言われてるしね。ていうか……人を驚かせるだけにどこまで手を込むのよ……」

 

 真由美は呆れと疲労感が混ざった表情でテーブルに突っ伏す。

 

 摩利も疲労感を漂わせて、真由美のボヤきに頷くのだった。

 

 

 

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