ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
ようやく勧誘期間が終わり、CADの携行制限が復活する。
この一週間で達也は完全に良くも悪くも噂と注目の的になっていた。
達也は予想以上に目立ってしまったことに内心ため息を吐いていたが、深雪がどことなく上機嫌で、自分はただ職務に忠実だっただけなので諦めることにした。
そもそも演技だろうがなんだろうが、魔法の不適切使用を放置するわけにはいかないのだから。
だが、とりあえずこれでようやく少なからず落ち着くことが出来る。
そう思っていたのだが……その日の放課後に剣道部2年の壬生に声をかけられた時に、偽りの平穏すらも淡く砕け散ったのだと嘆息したのだった。
(……まさかここまで咲宗の予想が当たるとはな。感心していいのかどうかは分からんが)
深雪を生徒会室に送り届け、待たせていた壬生との会話を終えた達也は呆れながら図書館に向かっていた。
そこに突如出現した気配に達也は足を止める。
現れたのは咲宗だった。
「お疲れ様。いやはや……まさか勧誘期間終わってすぐに声をかけてくるなんてね」
「全くだ。しかも、思っていたより直球だったのもな」
「そうだねぇ。予想はしていたけど他の部活にも結構手を伸ばしてるみたいだし。まぁ、おかげである程度実行できる段階まで来ているのが分かっただけでも収穫かな」
咲宗は肩を竦めながら、達也と横並びで歩き始める。
「……外の方はどうなんだ?」
「例の倉庫は公安に通報して張ってるけど動きはない。他も特に大きな動きはなし。あっちも警戒を強めてる感じだね」
「……近々動く可能性は高い、か」
「かもね。問題は非魔法系クラブの動きに合わせてくるのか、敢えてズラすのか」
そもそも第一高校を狙う理由がはっきりしていないのだ。
なので、第一高校への介入自体が陽動の可能性がある。中々にタイミングの見極めが難しいのだ。
「ま、そろそろそこらへんも分かると思うよ。九重殿はもう掴んでるかもしれないけど」
「……それは否定しないな」
「それにしても、達也。中々に意地悪なこと訊いたねぇ。壬生先輩、かなり戸惑ってたよ?」
「俺としては訊かれて当然の疑問だと思うんだが……」
「そうなんだけどさ。傍目から見てると、達也が一方的にイジメているように見えたんだよね。変な噂、流されないように気を付けなよ」
「もうすでに流されているようだがな」
「ああ、魔法否定派に送り込まれた刺客って奴? 馬鹿馬鹿しいよね。徒手空拳が優れているからって魔法否定派にされちゃあ、ボク達やマジック・アーツ部の人達とか『じゃあどこからの刺客よ?』って話じゃないか」
「信じる者などいないことを願うばかりだな」
「まぁ、これで喧嘩を吹っ掛ける馬鹿はまだ出なさそうだよ。あれだけ逮捕者が出たから、当分はビビッて動くに動けないさ」
「だといいが……」
「で、話を戻すけど……さっきの壬生先輩の感じだと、人を集めて大々的に動こうとしてる割りには目指してる展開の具体性はあまりなさそうだったねぇ。部活連とは違う組織を作って学校に訴えれば終わるなんて、仲間の誰もツッコまなかったってのは考えづらいとボクは思うけど」
「そうだな。その程度で変わるなら七草会長や十文字先輩がとっくの昔に学校に訴えて改善されているだろう。これまで誰も二科生の待遇改善を訴えなかったというのも考えにくい」
「だよね。少なくとも1年以上暗躍しときながら、そこらへんを詰めてないってことは……やっぱり二科生への汚染は陽動、もしくは工作員作りかな?」
「その可能性が高そうだな」
「やれやれ……次の壬生先輩の答えと達也の対応次第では一気に事態が進みそうだ。あまり時間はないと思った方が良さそうだね」
「人を起爆剤みたいに言わないでくれないか」
「十分起爆剤でしょ。完全に達也はロックオンされてるし。達也が完全に敵に、一科生との仲を取り持つ存在になったら『ブランシュ』はこれまでの活動が水の泡にされるんだから」
差別撤廃という理念を利用しているので、それを解消する芽が他の場所から出るのは絶対に阻止したいはずだと咲宗は考える。
そして、達也はその意見には賛成せざるを得なかった。
「さて、ボクも外の調査の方に合流するよ。達也、気を付けてね」
「そっちもな」
咲宗は手を上げて、曲がり角で達也と別れる。
足早に学校を後にしようとしたところで、雫から『ちょっと会いたい』とメールが届き、小さくため息を吐いて無視も出来ないので渋々ながら会いに行くことにした。
呼び出されたのは校門の前。
咲宗が到着すると、そこにいたのは雫、ほのか、華凜が立っていた。
「どしたの?」
「ちょっと訊きたいことがある」
「なに?」
「剣道部の部長が達也さんを魔法で攻撃しようとしていたのを見た」
「……なるほど」
まさかの目撃者に咲宗は思わず右手で顔を覆って項垂れる。
その様子に雫達はやはり咲宗は何か知っていると確信した。
「先週謹慎や停学者出しまくったのサキでしょ? なんでその人だけ見逃してんの?」
華凜がズバッと核心を突いてくる。
「……色々あるんだよ。今はその人を泳がしときたいんだ」
「色々って?」
「生徒会長のお手伝い関係。達也には忠告はしてるよ」
「でも……」
ほのかが明らかに納得していない顔を浮かべる。
ほのかの様子と血統的にあまりいい予感がしなかった咲宗は大きくため息を吐いて、
「場所を変えて話そうか……」
ということで4人は移動して、小さなカフェに入った。
周囲に人がいない席を選んで座り、飲み物を注文して届くまでは世間話で場を和ます。
そして、飲み物が届いて一口飲んだところで、本題に入る。
「あの剣道部部長、正確にはそのお兄さんが反魔法国際政治団体の幹部であることが判明したんだ」
咲宗の言葉にほのかは目を丸くし、雫と華凜は目を細める。
「剣道部は非魔法系競技。部員の比率は二科生が多くて、その部長も二科生。しかも、勧誘期間初日には剣術部と諍いを起こしはしたけど、魔法を使った際には達也に助けられてる。望む望まないに関わらずね。なのに、達也にちょっかいをかけた。同じ二科生で、助けてくれた風紀委員である達也にね。普通に考えてありえない。何かあると思うのが当然でしょ?」
「そのお兄さんが何かしてるってこと?」
「それを探ってる最中ってわけさ」
「……七草生徒会長は動かないの?」
「動けないんだよ。その反魔法国際政治団体は国から情報規制が掛けられていて、公安がマークしてるほどの過激派組織。第一高校の生徒会長として動く以上学校や国の方針を無視出来ないし、十師族でも当主じゃない七草生徒会長達がそれこそ公的機関を無視して動くのはかなりのリスクを伴うと思う」
「そっかぁ……」
「反魔法国際政治団体幹部の弟だからってそう簡単には退学に出来ないしね」
「でも、その兄の方は潰せるでしょ?」
「まだ無理。一気に仕留めないと雲隠れされる恐れがある。公安もまだ逮捕に踏み切れないみたいだしね。思ったより隠れ家多いんだよね~」
「あ~……だから、最近あちこち動いてんの?」
「そういうこと。ということで、下手に刺激したくなかったの」
咲宗の言葉に華凜と雫は理解の表情を浮かべたが、ほのかは未だ不安が拭えていなかった。
公安に睨まれてる組織の所属している家族がいる者に狙われたとなれば不安になるのが当たり前ではある。
だが、そのターゲットとなった達也は普通ではない。
「大丈夫だよ。達也の周辺はボクや部下が警戒してる。少なくとも学校ではこれ以上下手な手は打てないよ。今日からはCADは使えないし、隠し持って使っても監視カメラの計測器に記録残るしね」
「うん……」
「でも、なんで達也さんを狙ったの?」
雫の問いに咲宗は顎に手を当てて、
「それは部長さんがどの立場で動いてるか次第かな?」
「どの立場って、まだ他にも何かあんの?」
「剣道部を中心に二科生の中で差別撤廃を学校に訴えようとする動きがあってね。部長さんはその旗頭の一人なのさ」
「差別撤廃って……」
「まぁ、ブルームとウィードだね。残念だけど差別があること自体は公然の事実で、一科生がそれを理由に馬鹿馬鹿しい魔法力主義思想に陥ってるのも事実。七草生徒会長達はそれを解消しようとしてるけど、結局二科生からすれば一科生の同情にしか見えてない。ぶっちゃけ、一科生と二科生の差別なんて指導員の有無と生徒会役員の指名だけなんだけどね」
「そうなの?」
「うん。カリキュラムも実習内容も、それに使う機材も全部同じだし、施設の利用に一科生や二科生で制限なんてされた場所もないよ。クラブに関しては、九校戦でも分かるように第一高校は粒揃いだから活動実績が非魔法系に比べて良いってだけ。でも、クラブ時の施設利用時間や場所の広さは基本的に平等だね。もちろん人数によって違いはあるけど、それは違って当然でそこを差別って言うなら、まずお前らが人数増やせって話で終わる。それを皆分かってないんだよね」
咲宗の言葉に華凜はもちろん、雫とほのかも感心するような表情を浮かべる。
「結局、差別が蔓延してる一番の理由は生徒側にあるってことさ。一科生は二科生を見下して大手を振るい、二科生は一科生に変に遠慮して自分達で勝手に場所を明け渡す。それでまた一科生が調子に乗って『自分達は優遇されるべき存在だ』って勘違いする悪循環ってわけ」
先日の森崎達により食堂での騒動がまさにそれを証明している。
その事実にほのかはその流れに自分も乗りかけていたことに落ち込み、雫や華凜も納得したように頷いていた。
「だから、二科生ながら風紀委員になって活躍しちゃった達也は七草生徒会長達にはもちろん、部長達側からしても良い宣伝になる逸材ってわけさ。ボクからしたらぶっちゃけ目標は同じなんだから、とっとと腹割って話し合えよって思うんだけど……まぁ、二科生側は残念ながら必要以上に一科生や生徒会を敵視しちゃってるみたいだね」
「ありゃりゃ……達也くんもかわいそ」
「で、その反魔法国際政治団体と差別撤廃を訴える二科生集団が繋がってないか調査中ってわけ。繋がっていた場合はただの学校の問題じゃなくなる可能性が高いからね」
「なんで?」
「その反魔法国際政治団体の
「……? 別におかしなことじゃないんじゃ?」
「連中が訴えてるその差別ってのは『魔法師と非魔法師の平均収入の差』なんだよ。魔法を使えるだけで、一般サラリーマンより収入が上なのはおかしいってことだね」
「なにそれ……!?」
「全くもって馬鹿馬鹿しいんだけど、問題はそこじゃなくてね。連中の一番の目的は『国防力の低下』なんだ。差別撤廃と言う名目で誤魔化しながら、魔法と言う技術を否定し、評価を貶めることで技術の進歩や国防に魔法師を関わらせないようにしたいんだよ」
「……でも、なんでそれに二科生を巻き込むの? 二科生だって魔法を捨てられるわけないじゃん」
「二科生はそこまで気付いてないだけ。ただただ校内の差別を解消したいだけさ。厄介なのは奴らの表向きの訴えが今の一高で蔓延してる差別に、物凄く魅力的に映るってことだね。『魔法師と非魔法師』ではなく『才能豊かな魔法師と才能が劣った魔法師』と言葉を置き換えれば、連中の主張はいかにも理想的な差別撤廃を目指す組織に見える。……その才能豊かな魔法師の業務実態と背負わされる責務を理解することもせずにね」
「それって騙されてるってことじゃ……」
「そうとも言えるけど……ただただ自分に都合のいい部分だけ見て正当性を訴えても、結局道化でしかないよ」
辛辣な咲宗の言葉に華凜は大きく頷く。
「まぁ、達也がボクと同じことを見抜けないわけないから、連中に靡くことはないだろうけどさ。ぶっちゃけ連中の仲間になると大事な大事な妹君の努力と才能を踏み躙ることになるんだから」
「ああ、そっか」
「ってことで、今は剣道部部長は泳がせといてくれると嬉しいな。変に探ろうとか、尾行とかも止めてね」
咲宗は華凜をまっすぐ見つめながら釘をさす。
華凜は大人しく両手を上げて肩を竦める。
「流石にそんな状況じゃあ突っ込まないわよ」
「信じとくよ」
「でも、そんな連中が周りにいるとか鬱陶しいから早めに終わらせてよ」
「努力してます」
双子で言い合う中でほのかが妙に気合を入れた表情を浮かべたのを、咲宗は見逃さなかった。
ほのか爆進!