ショタっ子魔法師は風魔忍   作:魔法非戦士

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今日はここまでなり!


16.勇ましき無謀

 剣道部が動き出した翌日。

 

 今日も放課後になり次第、咲宗は下校して部下と合流し『ブランシュ』の調査に出た。

 

 いつも通り高校近くの路地裏に止められた自走車に乗り込む。

 

「お頭」

 

「報告」

 

「はっ。『ブランシュ』の拠点となる場所の洗い出しは完了しました。7割近くが構成員の集会所のみの場や協力者との密会場所でしかなく、恐らく囮のダミーかと思われますが……一部の倉庫に銃器を積み込んだトラックなどが保管されていました。そして、本拠地とされているのは第一高校近くの廃工場かと思われます」

 

 部下が差し出した地図データを確認する。

 

「ここは確か……」

 

「はい。以前環境テロリストが隠れ蓑にしていたバイオ燃料工場です。今は完全な廃工場と化しており、人はほとんど近寄りません」

 

「バイオ燃料か……」

 

「内部調査はまだですが、外から確認した限りでは工場設備が稼働している痕跡はありませんでした」

 

「ってことは生体兵器などの持ち込みは無しか……。まぁ、そこまでやると本格的にテロリストとして排除されるからってだけだろうけど」

 

「恐らくは……」

 

「今夜、ここを調べる」

 

「御意」

 

「他は?」

 

「現状、連中の狙いは第一高校に絞られているようです。司一は第一高校周囲の拠点を渡り歩き、構成員を少しずつ集結させています」

 

 その報告に咲宗は顎に手を当てて考え込む。

 

「……第一高校に奴らが欲しいものがある? 確かに第一高校は関東圏で唯一の魔法科高校だけど、所詮は教育機関でしかない……ってことは、やっぱり……」

 

 咲宗はこれまで漠然と考えていた『ブランシュ』の目的に確信を抱いた。

 

「奴らの狙いは魔法研究の機密文献だ。魔法大学に所蔵されている最先端の非公開文献。それを盗み出すつもりだろう」

 

「魔法大学の、ですか? 何故それを第一高校で?」

 

「第一高校を始めとする魔法科高校は魔法大学付属だ。だから派遣される指導員などが研究を継続して行えるように図書館には特別閲覧室から魔法大学のデータベースにアクセスすることが出来る。魔法大学には警備システムも警備員も厳重だし、各高校から集まった優等生がわんさかいて、近くには防衛大学もある。何より手駒に出来るほど劣等感を持つ生徒なんてほとんどいないだろうし、そもそも差別撤廃を訴えるほどの差別なんてない。だったら、実力的にも精神的にも社会的にも未熟な魔法科高校を狙う方が合理的だ」

 

「……なるほど」

 

「第一高校の一科生二科生制度は有名だ。だから、義弟の司甲を入学させて1年かけて差別の実態を探らせながら仲間を募り、1年かけて同じく差別に苦しむ後輩を取り込んで差別撤廃活動の下地を完成させて、3年目に一気に動くってわけだな」

 

「ということは……」

 

「今集めてる銃器は第一高校襲撃のためだ」

 

「……押さえますか?」

 

「……いや、まだ奴らの背後が判明してない。大体の予想は付くけど……もう少し情報を集めたい」

 

「御意」

 

 報告を聞き終えた咲宗が制服を着替えようとした時、携帯端末が鳴る。

 

 メールを確認した咲宗はその内容に目を見開いた。 

 

『ご同輩3名がターゲットを尾行』

 

 司甲を監視させていた部下からの連絡。

 

「っ……! ああ、もう!! お前達は車をどこか止めてから来い!」

 

 咲宗は脱ごうとしていた制服を着直して指示を出しながら自走車を飛び出す。

 

 そして、送られてきた位置情報を元にほのか達と思われる信号の元へ全速力で向かうのだった。

 

 

 

 

 ほのかは後悔していた。

 

(私が余計なことを言ったばかりに……! 雫とエイミィまで……!)

 

 今3人がいるのはとある路地裏。

 目の前にはヘルメットとライダースーツに身を包んだ男達。

 

 ほのかは雫、そして校舎を出たところで会った英美の3人で下校することにした。

 

 すると、目の前を剣道部の司甲が歩いていることに気が付いたのだ。

 ちなみに英美は以前の司甲が達也を襲ったところを目撃したメンバーの1人である。

 

 ということで、やはり話題は司甲のことになるのだが、その時ほのかは今日は剣道部の活動日であると聞いたことを思い出す。

 勧誘期間が終わったばかりの活動日に部長が休むという行動に疑問を感じた3人は、咲宗の忠告も忘れて司甲の後を尾行することに決めたのだった。

 

 学校を出て行く司甲の後を追う3人。

 

 しかし、司甲は駅ではない方向へと歩いて行った。

 

 以前キャビネットに乗っていたことを覚えていた英美が違和感と不安を覚え、ほのかと雫も不安を覚えていたがここまで来て引き返すのも後悔しそうだと言うことで尾行を続行することにした。

 

 そして、学校の監視システムの範囲外に出て少ししたところで、突然司甲が路地裏に入っていった。

 

 それでも後を追った3人だが、ある程度奥に進んだところで突如司甲が走り出し、それを追おうとしようとしたらバイクに乗った男達が現れて取り囲まれたのだった。

 

「な、なんですか、あなたたちは!?」

 

 3人は動揺しながらも背中を合わせて、バレないようにCADのスイッチを入れる。

 

「ふん……こそこそと我々のことを嗅ぎ回りやがって」

 

 男達がゆっくりとほのか達に近づこうとした、その時。

 

 

 ほのか達と男達の間に真上から音もなく、影が落ちてきた。

 

 

「……え?」

 

「な……!?」

 

 現れたのは第一高校の制服を着た片膝をつく小柄な少年―咲宗だった。 

 

「咲宗……くん……?」

 

「やれやれ……昨日話したと思うんだけどなぁ」

 

 咲宗はゆっくりと立ち上がりながら小さくため息を吐いてボヤく。

 ほのかと雫は申し訳なさそうに顔を俯かせる。

 

「なんだ、お前は……?」

 

「制服見たら分かるでしょ」

 

 咲宗は呆れ顔を隠さずに一番近い男に言い返す。

 

「貴様ぁ!!」

 

 いとも容易く激情した男は咲宗に手を伸ばす。

 

 その手が咲宗の首に触れようとしたその時、

 

 

 突如咲宗の姿が消え、

 

 

ゴガン!!

 

 

 手を伸ばしていた男が突如音と共に勢いよくお辞儀した。

 

 男の頭があった場所には足を振り抜いた咲宗がいた。

 

「がっ――?!」

 

「なっ!?」

 

「なんだ!?」

 

 何が起こったのか理解できない男達が驚きの声を上げる。

 

 その隙に着地した咲宗は倒れた男の横をスルリと通って雫達の元へと歩み寄る。

 

「ほら、今の内に逃げた逃げた」

 

「でも……!」

 

「相手がただの暴漢じゃないのは昨日言ったはずだよ。何を隠し持ってるか分かんないから早く行って」

 

 反論を許さない咲宗の口調に、ほのか達は顔を見合わせてそれ以上粘ることなく言われた通りに駆け出した。

 

 男達の間を抜けようとした時、襲われることを警戒したが何故か男達はほのか達に気づく様子を見せなかった。

 

 それどころか反対の方向に顔を向けていた。 

 

「女達が逃げたぞ!」

 

「追え!」

 

 男達はナイフを取り出して駆け出す。

 

「ど、どういうこと?」

 

「……幻術?」

 

「いつの間に?」

 

 戸惑うほのか達を尻目に咲宗は両手で印を結び、最後に両手で影絵手の『犬』を模る。

 

 

「『影絵式』【黒狗(くろいぬ)】」

 

 

 咲宗が呟いた直後、足元の影から闇が噴き出し、咲宗の左右に漆黒の体毛を持つ狼のようなモノが2匹出現した。

 

「行け」

 

 黒狗達は弾かれたように飛び出し、男達のナイフを持つ腕に噛みついた。

 

「があああ!?」

 

「ぎゃあ!? な、なんだ……!?」

 

「くそっ! 魔法か!? アレを使うぞ!!」

 

 唯一無傷である男はグローブを外して投げ捨てる。

 露出した指には真鍮色の指輪が嵌められていた。

 

「あれは……!?」

 

「喰らえ、化け物!!」

 

 男が指輪を嵌めた手を突き出すと同時に、強烈なサイオンノイズ、不可聴の騒音が響き渡った。

 サイオンノイズに吹き飛ばされるかのように黒狗が消滅し、咲宗は顔を顰める。

 

「うぅ!?」

 

「な、なにこれ……?!」

 

「頭が……!」

 

 咲宗に言われた通り、その場を離れようとしていたほのか達も頭を締め付けるかのような痛みに足を止めて、頭を抱える。

 

「ははっ! どうだ、化け物! キャスト・ジャミングの味――」

 

 キャスト・ジャミングを発動しながら嘲笑おうとした男だったが、

 

 

 右肩に衝撃が走って押し飛ばされるように後ろに倒れる。

 

 

「はギャッ!! がああ!?」

 

 男の右肩には柳葉手裏剣のような刃物が突き刺さっていた。

 

 左手で右肩を押さえて悲鳴を上げる男は、いつの間にか真上に現れた人影に気づかなかった。

 

 人影―咲宗は痛みに悶える男の鳩尾に掌底を叩き込む。

 

「ごぉ……!?」

 

 咲宗は結果を見ることなく、すぐさま移動して黒狗に噛まれてナイフを落とした男の1人に詰め寄る。

 

「ひっ――!?」

 

 男は小さく悲鳴を上げながら先ほど倒された男と同じ指輪を嵌めた手を突き出そうとしたが、その手を咲宗が右手で掴んで引っ張り、左拳を男の伸びた肘に鋭く叩き込む。

 

 ボギッ!と鈍い音と共に男の腕が曲がってはいけない方向に曲がる。

 

「がああああ!? ぐぶっ!」

 

 激痛に悲鳴を上げた男の鳩尾に右掌底が叩き込まれて、男は吹き飛ばされる。

 男は背中から壁に叩きつけられて、そのまま崩れ落ちる。

 

「な……!? キャ、キャスト・ジャミングが効いていないのか……!?」

 

「魔法なんて使ってないからね。無理に使おうとしなければ、そんなモノ少し煩わしいだけのノイズに過ぎない」

 

「ぐっ……」 

 

「魔法師が魔法だけだと思わないことだね。まぁ、もう遅いけどさ」

 

 その瞬間、咲宗の姿が揺らいで空間に溶けるように姿が消えた。

 

 男は目を丸くして硬直した直後、後頚部に衝撃を感じると同時に意識が闇に落ちた。

 

 

 

 咲宗は暴漢全員を倒したことを確認すると、小さくため息を吐く。

 

「はぁ……。こいつらの回収を頼む。全員だ。アンティナイトを所持しているから、それも調べといて」

 

『御意』

 

「あ、一匹は九重寺に投げ込んどいて。公安や警察はほっといていい」

 

『御意』

 

「頼んだ」

 

 咲宗は近くに潜んでいる部下に指示を出して、ほのか達の元に向かう。

 

 そして、気まずそうに縮こまっているほのか達の前に到着すると同時に、

 

「言い訳は聞かないからね。まずはここから離れるよ」

 

「「「はい……」」」

 

 有無を言わさぬ迫力を纏う咲宗に、ほのか達は大人しく従う。

 

 表通りに出た4人は、そのまま近くにテイクアウト用のカフェで飲み物を買って近くのベンチに女性陣が座る。

 

 咲宗は3人の前に腕を組んで立ち、

 

「昨日ボクが言ったことはそろそろ思い出した?」

 

「「……ごめんなさい」」

 

 雫とほのかは心底反省した表情で頭を下げる。

 英美は昨日の話にはいなかったが、流れからとりあえず忠告されていたのだろうことは理解出来た。

 

 咲宗は小さくため息を吐いて、

 

「部下が連絡してくれなかったら、間に合わなかったかもしれない。そうならないように昨日忠告したんだけど?」

 

「……本当にごめんなさい」

 

「……はぁ。まぁ、まさかアンティナイトまで用意して襲ってくるのはボクも想定外だったからここまでにしておくけど」

 

「ねぇねぇ」

 

「ん? なに? 明智さん」

 

 これまで大人しく話を聞いていた英美が咲宗に声をかける。

 

「咲宗くんって何者?」

 

「ヘマして十師族に弱みを握られた忍術使い。悪いけど他の人には黙っててね。華凜は知ってるからいいけど」

 

「おお! 御庭番!」

 

「ボクは違います。はぁ……悪いけど、連中のことは警察に通報しない。下手に通報すれば監視システムとかでボクはもちろん、雫さん達の事もバレる。警察には連中の工作員がいるだろうから最悪家がバレて襲われかねない」

 

 咲宗の言葉にほのか達は顔を青くする。

 

 咲宗は3人の反応を無視して、顎に手を当てて考え込む。

 

(アンティナイトをあんな小物に使わせるということは、かなりの数を手にしてるはず……。でも、司甲を使ってまで罠にかけたんだ。連中が帰って来ず警察に捕まってないとなると、動きを早める可能性が高い……。でも七草生徒会長達や達也にどう報告したものか)

 

 流石にここで何も言わないと言う選択肢はないが、十師族が動くとなると展開が非常に読みにくくなる。

 それに『ブランシュ』の方も十師族が動くとなると、即座に雲隠れする可能性が高い。いつでも身代わりを用意して撤退する準備は整えてあるはずだからだ。

 

(その身代わりが二科生の可能性は非常に高い。だから、十師族にはギリギリまで動いて欲しくないんだけど……)

 

 だからと言って、嘘の報告をすればバレた際に非常にめんどくさくなる。更なる無茶振りされるのは目に見えている。

 

(とりあえず、壬生紗耶香とやらの動きを見て決めるか)

 

 再びため息を吐いた咲宗に、ほのかは思わずビクッとする。

 

「しばらくは剣道部部長には近づかず、出来る限り人の目があるところを移動するように」

 

「うん。本当にごめんなさい。……ありがとう」

 

 雫の言葉にほのかと英美はまだ礼を言ってないことを思い出して慌てて頭を下げた。

 

「「ありがとう!」」

 

「どういたしまして。じゃあ、ボクはさっきの連中の後処理やその他諸々に動くから。また明日」

 

 咲宗は呆れたような顔で手を上げて、そのまま空気に溶け込む様に消えた。

 

「……わぁお。さっきの魔法や幻術も凄かったけど。いつ発動したのか全然分かんなかった」

 

 英美の感嘆にほのか達も頷き、だからこそ自分達が犯した失敗の怖さを理解した。

 

「そんな咲宗くんが動くほどのことが起きてるんだよね……」

 

「うん……。心配だけど……今の私達じゃ足を引っ張るだけ」

 

「だよね……」

 

「とりあえず、流石に今日はもう帰ろ。まだ仲間が近くに居るかもしれないし」

 

 雫の言葉にほのか達は頷いて、すぐに帰路に就く。

 

 普段よりも足早になっていたことに気づいたのは、駅についてホッと息を吐いた時だった。

 

 

 




伏黒くんお借りします!
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