ショタっ子魔法師は風魔忍   作:魔法非戦士

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18.計画始動

 達也と壬生の交渉が破談して3日。

 

 今夜も『ブランシュ』捜査に出向いていた咲宗は自走車の中で調査した結果が書かれた資料を見つめて顔を顰めていた。

 

「ホント……手の込んだ計画を立ててると思ったら、蓋を開けてみれば馬鹿馬鹿しい事この上ないな」

 

 判明したのは『ブランシュ』リーダー司一のくだらない手品。

 

 意識干渉型系統外魔法『邪眼』。

 

 それがブランシュが行っていると思われていた洗脳の正体だった。

 

「頭領。己が無知を恥じるばかりなのですが……その『邪眼』とはどのような魔法なのですか?」

 

「端的に言えば、光の点滅による催眠術だ。系統外魔法と言われてはいるが、結局のところ光波振動系魔法でね。催眠効果を持つパターンの光信号を相手の網膜に投射することで相手に暗示をかける。ぶっちゃけ魔法を使わずとも映像で再現が出来るんだが、利点としては人間の知覚速度を超える間隔で明滅させることが出来るし、大掛かりな設備も要らないから楽と言えば楽なんだけどね」

 

「……要は手品のようなものですか?」

 

「そうだね。魔法とも呼べない小手先の技だけど……だからこそあんまり知られてないんだよね。司一はそこを利用したんだろう。おかげで奴らの背後にいる奴らが分かったけどさ」

 

「大亜連合ではないのですか?」

 

「大亜連合もだけど、奴らならこんな時間かけないさ。あくまでスポンサーだね。『邪眼』はかつてベラルーシが開発した魔法と言われてる。だから今回ブランシュの背後にいるのはベラルーシ、正確には『ウクライナ・ベラルーシ再分離独立派』だな」

 

「なるほど……」

 

「剣道部は司一の強い暗示下にあると考えておくべきか……。こうなると司甲も操られている可能性が高くなってきたなぁ……」

 

「身内ならば何度でも暗示をかけることは出来ますしね」

 

「家族だからこそ、義兄の思想に同調しても不思議に思われにくい。はぁ……この手の暗示は対策は簡単だけど、解くのは難しいんだよなぁ……」

 

 『邪眼』は相手の思い込みや思考を誘導するのが精一杯ではある。

 だが暗示にかけられていなくとも、人の思い込みというのはかなり厄介なものだ。

 

 それを利用してくる辺り巧妙ではあるが、やはりどこか三流感が否めない。

 

(まぁ……パトロンとスポンサーがいなければ何も出来なかった連中だし。三流と言えば三流か)

 

 『邪眼』も武器も資金も全て再分離独立派と大亜連合から齎された物。

 司一はおもちゃとお小遣いを貰っていい気になってる小物でしかないのだ。唯一褒めるべきは、我慢強い計画を立てたことくらいだろう。

 

(時間があれば、連中が動き出す前に公安や十師族を動かすだけの証拠を集められるが……今回は無理、だな)

 

 確実に『ブランシュ』を捕えるならば、第一高校を囮にするのが最善だと咲宗は確信した。してしまった。

 

 そうしなければ、洗脳下にある剣道部や二科生を犯罪者にしてしまう可能性が高い。犯罪者にしなくとも、恐らく魔法師としての未来は潰されるだろう。周りからも、本人の罪の意識からも。

 

 流石に咲宗はそこまで冷酷になるつもりはなかった。

 

(壬生先輩が選ばれたのはマスコットと剣道の腕。学生側の駒は剣道部が主体と考えるべきだろうな。どこかのタイミングでブランシュの工作員を一高に引き込む必要がある。そのためには生徒や教員の目を逸らす必要がある。となると、やっぱり一番可能性が高いのは壬生先輩が言っていた『学校への直談判』。……そうなると、七草生徒会長達には全部伝えるわけにはいかない。……達也達にも)

 

 これ以上気取られてはいけない。待ち構えていることを。待ち構えようとしていることを。

 これからは達也も三巨頭も、ブランシュやエガリテの監視体制が強化されるはずだ。そこで下手に先回りすれば、作戦がバレていると司一に知られてしまい、二科生をスケープゴートにされかねない。

 

 司一に上手くいっていると思わせて調子に乗らせなければならない。

 そのためには……まず味方から騙さなければならない。

 

「はぁ~……(終わったら色々と言われるだろうなぁ)」

 

 咲宗は大きくため息を吐いて、資料を放り投げる。

 

「しばらく『ブランシュ』の監視のみに留める。恐らく近々大掛かりに動くはずだ。ボクは校内の動きを警戒するから、外はお前達に任せる」

 

「御意」

 

「もし【今果心】の手の者が接触して来たら、敵対せず協力しろ。公安に関しては無視して構わない」

 

「御意」

 

 気が滅入るも一度引き受けた仕事を放り出すつもりは一切ない。

 

 咲宗は着々と迫る決戦に備えるのであった。

 

 

 

 

 翌日。 

 

 咲宗は遥の元を訪れていた。もちろん先んじてアポイントメントは取っている。

 

「ブランシュの狙いは図書館の機密文献、ね……」

 

「これは生徒会長達にもすでに伝えていますが、手出しはさせないようにしています。下手に動きを見せると、エガリテに汚染された生徒達を囮に逃げる可能性が高いので」

 

「……そうね」

 

「ちなみに先日九重殿にブランシュの構成員と思われる男を捕えて預けたんですが、何か聞いていますか?」

 

「残念ながら碌な情報は持ってなかったそうよ。ただ、計画を詳しく聞かされていたわけではなさそう」

 

「でしょうね。あの程度の雑用に使われる奴らが情報を持っているわけがないですから」

 

「アンティナイトは持たせてるのに?」

 

「それだけ調達する伝手があるってことでしょう。警察に逮捕されたのであれば、潜ませている工作員が回収できるようにしていた可能性もありますが」

 

「……そうね。で、本題は何?」

 

「壬生先輩達のことです」

 

 壬生の名前に、遥は顔を引き締める。

 その理由を咲宗はよく理解していた。

 

「……あなたがカウンセラーとして、教員として、壬生先輩を心配していたことは知っています。そんなあなたにこんな提案するのは心苦しいですが……」

 

「……何をする気なの?」

 

「これは知っているでしょうが、壬生先輩は司波達也をエガリテ、またはブランシュへの勧誘に失敗しました。それはもう覆せない形で」

 

「……ええ」

 

「その中で壬生先輩は学校や生徒会に直接交渉の場を持ち、待遇改善を訴えると言っていました。決定事項として告げていたため、恐らくエガリテメンバーを中心に何かしら行動を起こすつもりと思われます。そして、十中八九ブランシュがその裏で暗躍するでしょう」

 

「……」

 

「そこでミズ・ファントムであるあなたに提案するのは、ただ1つ。『連中が動くまで手は出さないで欲しい』」

 

「……本気で言ってるの?」

 

「ええ」

 

「理由は教えて貰えるのよね?」

 

 遥はもはや敵意を隠すことなく咲宗を睨んでいた。

 しかし、

 

「壬生先輩達を警察や公安に逮捕させないためです」

 

 咲宗の言葉に遥は目を見開く。

 

「先んじてブランシュの計画を潰すということは、エガリテである二科生も共犯として一度逮捕する必要があります。そうなれば例え学校がどう庇おうと前科者であることは隠せなくなります。間違いなく、壬生先輩達は魔法師としての未来は潰える。ただ利用されているだけの彼女達にそれはあまりにも酷です」

 

「……でも、計画を実行させればどっちみち――」

 

「いえ、一高が襲撃されれば十師族の権力が使えます。特に十文字家の」

 

「……十師族の権力で警察や公安を介入させないつもり?」

 

「正確には洗脳された生徒達を被害者として匿い、ブランシュの襲撃の際に負傷したということで病院で検査や治療を受けさせます。逮捕されなければ学校も退学させたりは出来ないでしょう。学校が二科生制度を放置していたことが原因なんですから」

 

「……」

 

「それに十師族が生徒達の対処に責任を持つならば、警察や公安は無理に逮捕する必要もないでしょう?」

 

「……そうね」

 

「ブランシュ逮捕の功績は公安に譲ります。十師族も情報は欲しがるでしょうが、功績までは求めないでしょう。現在我らが集めた情報はご提供します。それで十分交換条件になりますよね?」

 

「……あなたの情報と協力、ブランシュ壊滅の手柄を貰う条件に、壬生さん達を無関係の被害者とし、全てブランシュの仕業にする…でいいのね?」

 

「はい」

 

「…………一日頂戴」

 

「もちろんです」

 

 思い詰めた顔を浮かべる遥に、咲宗はそれ以上追い込むことはしなかった。

 

「この件は風魔と公安だけの秘密に。七草生徒会長に十文字会頭はもちろん、司波達也にも知られないようにしてください」

 

「……分かったわ」

 

 咲宗は頭を下げて、カウンセラー室を後にした。

 

 

 

 その後は校内を回り、エガリテの情報を探ろうとしたのだが……咲宗の携帯端末にメールが届いた。

 

「ん? ……十文字先輩?」

 

 まさかの克人からの呼び出しに咲宗は眉を顰めるも、呼び出し場所が第二小体育館であることがすでに答えに等しかった。

 

「……バ華凜」

 

 咲宗はため息を吐いて、第二小体育館に向かうのであった。

 

 5分とせずに第二小体育館に到着して中に入った咲宗が目にしたのは……死屍累々と言わんばかりに床に横たわる藍色の剣道着を着た男子生徒達だった。

 

「うぅ……」

 

「ぐっ……」

 

「ってぇ……」

 

 腕や腹を押さえ呻く剣術部員達。

 そのすぐ傍で同じく剣術部の道着を着た華凜が退屈そうな顔を浮かべて竹刀で肩を叩いていた。

 

 その周りを克人を始めとする男子生徒数人が取り囲んでいた。

 

 克人はやってきた咲宗を見つけると、眉を顰めたまま歩み寄ってきた。

 

「説明はいるか?」

 

「いえ、必要ありません。こうなることは予想してたので」 

 

「……」

 

「骨折をした部員はいるんですか?」

 

「いや、そこまではいない。全員打ち身だ」

 

「なら、別に謹慎とかではないですね?」

 

「……そうだな。一応、喧嘩などではないことは確認している」

 

 経緯は単純。

 入部した華凜が勧誘期間で騒動を起こした2年生の桐原武明を筆頭に、達也に負けた部員達を馬鹿にしたのだった。

 

『達也くんに手も足も出ずに負けたくせに、まだ二科生を馬鹿にするとか頭悪過ぎ。だから剣術の腕も伸びないのよ』 

 

 と。

 

 その挑発にまんまと乗った男子部員達は一斉に攻めかかるが、結果は御覧の通りであった。

 

 ちなみに桐原は騒動を起こした責任を取って練習には参加していなかったので、華凜に挑むことはなかった。今も頬を引き攣らせて、倒れている部員達を見つめていた。

 

「うちの馬鹿は剣術のことになると見境と礼儀が無くなるんですが、一度暴れればもう大丈夫だと思います。……まぁ、のされた先輩方は当分華凜に見下されると思いますが」

 

「……それはそれで問題だろうが」

 

「いいんじゃないですか? これでしばらくは達也や二科生とか気にする余裕なんてなくなるでしょう。まぁ……今はとりあえず……」

 

 咲宗はすぐ近くに落ちていた竹刀を手に取り、足音も立てずに背を向けている華凜へと歩み寄っていく。

 

 華凜は未だに咲宗のことに気づいていないのか、周囲の状況を気にもせずに倒れている剣術部員達に向かって話しかけていた。

 

「あのさぁ……その程度の腕で何で他の人を見下せんの? 魔法も別に上手くも速くもないし、剣だって平凡の平凡。全然剣道部とか二科生とか馬鹿に出来るほど差を感じないんだけど。これなら達也くんとか、あの剣道部の壬生先輩に挑んだ方が有意義だったわ。っていうか? この程度なら剣術部入る価値な――」

 

 

スッッパァァン!!

 

 

 咲宗が華凜の後頭部に竹刀を鋭く叩き込んだ。

 

「イッッタアァ!?!?」

 

「いい加減にしなよバ華凜。父さんと母さんに言いつけるよ」

 

「ちょっ! 今の本気で打ったでしょ!?」

 

「そこそこだよ。ったく……別に暴れるのはいいけど、加減を覚えろって父さん達に言われただろ? 十文字先輩達に呼びつけられたじゃないか」

 

「だってこっちが手加減してあげてるってのにそれに気づかずにさぁ、剣術も碌に使わずに馬鹿みたいに何度も突っ込んでくるんだもん」

 

「はぁ……」

 

 咲宗は大きくため息を吐いて、克人に振り返る。

 

「妹が迷惑をおかけしました。今日はこれで連れて帰るので」

 

「今後はやり過ぎないように注意しろ。怪我人が出れば流石に処罰は免れんぞ」

 

「はぁ~い」

 

 華凜は気の抜けた返事をし、克人や他の部活連メンバーは眉を顰める。

 そこに咲宗が、

 

「言っておきますが、司波達也と違ってボクは妹の尻拭いとか今後する気はないので。華凜のことで文句がある場合は火天御剣流剣術道場まで連絡してください」

 

「ちょっ!?」

 

「こいつはボクよりも師範代達の説教の方が効くので」

 

「……覚えておこう」

 

「なんてこと言うのよ! バカサキ!」

 

 華凜は怒鳴りながら持っていた竹刀で素早く薙ぎ払いを繰り出す。

 咲宗は涼し気な顔で屈んで躱し、その後も繰り出される華凜の剣撃を最小限の動きで軽やかに躱し続ける。

 

「逃げるな、この!!」

 

「いーやーでーすー…よっ!!」

 

パァン!!

 

 咲宗は華凜が竹刀を振り抜いた瞬間、高速で両手を動かして華凜の顔の目の前で叩く。

 

 猫騙しである。

 

 華凜は目を閉じて動きを止めてしまい、その隙に咲宗は自己加速魔法を発動してあっという間に小体育館を出て行った。

 

「あっ!? 待ちなさい!!」

 

 華凜も自己加速魔法で出入り口まで一つ跳びで移動し、咲宗を追いかけて行った。

 

 あっという間にいなくなった風火奈兄妹を、克人達は唖然と見送った。

 

「……なんて素早い」

 

「CADを操作したようには見えなかったぞ?」

 

「非接触型CADなんじゃないか? それでもサイオンがいつ動いたのか分からなかったが……」

 

「……(あの兄にして、あの妹あり、か。妹も只者ではないようだな)」

 

 克人は腕を組んで、兄妹が去って行った出入口を鋭く見つめていた。

 

 

 

 

 それから数日後。

 

 遂に事態は大きく動く。

 

 

『全校生徒の皆さん!!』

 

 

 その日の授業が終わり、放課後に入った直後、それは始まった。

 

 

『僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!!』

 

 

 

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