ショタっ子魔法師は風魔忍   作:魔法非戦士

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19.立てこもり事件…だったが

 それは達也と壬生の交渉が決裂して丁度一週間が経った日だった。

 

『全校生徒の皆さん!!』 

 

 放課後になった直後、教室のスピーカーからハウリング寸前の大音声が轟いた。

 

「な、なに……!?」

 

 ほのかは耳を押さえて突然の放送に戸惑いを浮かべる。

 

 雫も耳を押さえて顔を顰めており、深雪は遂に動き出したかと眉間に皺を寄せる。

 

 他の生徒達も突然の放送に戸惑っていると、

 

『――失礼しました。全校生徒の皆さん!! 僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!!』  

 

 改めて音量を調整して、挨拶と名乗りを上げる有志同盟とやらの男子生徒。

 

『僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します!!』

 

「……学内の差別撤廃なのに、生徒会と部活連に訴えるの?」

 

 耳から手を離した雫が首を傾げながら真っ当なツッコミを呟く。

 

 ほのかと深雪も雫のツッコミに同意のようで小さく頷いていた。

 

「咲宗くんは何か知って――あれ?」

 

 ほのかが咲宗の席に顔を向けながら声をかけようとしたが、そこには咲宗の姿はすでになかった。

 

「咲宗くんは?」

 

「……もう現場に行った?」

 

「恐らく、この騒動も風火奈くんが探っていることに関係しているのかもしれないわ。……あ、七草会長からメールだわ。私も行くわね」

 

「あ、うん……気をつけてね」

 

「ええ、また明日」

 

 深雪は駆け出して、放送室へと向かう。

 ほのかと雫は心配そうに見送るも、出来ることはなく、また邪魔になってはいけないと大人しく帰宅することにしたのだった。

 

 

 

 深雪は途中で達也と合流して、放送室へと向かう。

 

「お兄様、やはりこれは……」

 

「ブランシュ、というよりもブランシュに唆された連中だろうな」

 

「風火奈くんも動いているようです」

 

「そうか……。なら、そっちは咲宗に任せて、俺達はとりあえずこの事態を解決することに専念しよう」

 

「はい」

 

 放送室前に到着すると、すでに他の面々は揃っていた。

 放送室の扉の前には克人、摩利、生徒会会計の市原鈴音が並んで立っており、その向かいに風紀委員と部活連実行部隊が並んでいた。

 どうやら真由美やその他の生徒会の面々は学校側と話し合ってり、他に怪しい動きをしている生徒がいないか見回りをしているらしい。

 

 達也達が到着したところで、摩利が状況の説明を始める。

 立てこもり犯達はどうやってかマスターカードを含めた鍵を盗み出して、現在鍵を閉めているため突入するには鍵か扉を破壊する必要がある。現在放送は電源を切っているので出来ないようになっている。

 もっともすでに立てこもり犯達は自分達の主張は全て放送してしまったが。

 

 これは誰がどう考えても犯罪行為に該当するのだが……。

 

「これ以上彼らを暴発させないように慎重に事を対応すべきです」

 

「だが、こちらが慎重になったからといって、それで向こうの聞き分けが良くなるかどうかは期待薄だな。多少強引でも、短時間の解決を図るべきだ」

 

 鈴音と摩利で意見の対立が起きていたのだった。

 

 どちらも方針としては間違ってはいないが、非常事態としては最も避けるべき状況だ。

 実力はあるとはいえ、どちらもまだ高校生であり、プロではないのだから仕方がないと言えば仕方がない。

 

 達也はこのままでは状況が改善しないと思い、克人へと顔を向ける。

 

「十文字会頭はどうお考えなんですか?」

 

 克人は意見を求められたことに一瞬意外そうな顔を浮かべたが、すぐに真面目な顔に戻し、

 

「俺は彼らの要求する交渉に応じてもいいと考えている。元より言いがかりに過ぎないのだ。この機会にしっかりと反論することが後顧の憂いを断つことになろう」

 

 克人の言葉から、達也は咲宗からメールで送られてきた情報について思い出した。

 咲宗は以前真由美達にエガリテに汚染された者達が動き出した場合、交渉に応じられるように準備しておくように話していたことを。

 摩利もその話を聞いていたはずだが、ここまで大掛かりな犯罪行為をしでかしたとなると話が変わってくるようだ。

 

「では、この場は待機しておくべきだと?」

 

「それについては決断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは思われない。学校側に警備管制システムから鍵を開けられないかと問い合わせてみたが、回答を拒否された」

 

 学校側も大事にしたくないし、克人もそこまでするとマインドコントロールされている可能性がある生徒を庇えない可能性があるので強引な事態収拾は図りたくないということだろう。

 

 達也は先輩陣の意思を無視して解決を図るつもりはなかったので、一礼して引き下がる。

 

 摩利は不満げな顔を隠さずに達也を睨む。

 

 達也は小さくため息を吐いて、懐から携帯端末を取り出した、その時。

 

 携帯端末にメールが届いた。

 

「ん? ………委員長」

 

「なんだ?」

 

 摩利は不機嫌さを隠さず、ぶっきらぼうに返事をする。

 深雪は眉を顰めたが、達也はそれを気にすることなく、

 

「扉を開ける用意は出来ているようです。突入態勢を整えましょう。CADを持っているようですので」

 

「ちょっと待て。どういうことだ?」

 

「どうやら潜入工作が得意な奴が、すでに潜り込んでいるようです」

 

「なに?」

 

 達也の言葉に摩利は眉を顰めたが、すぐに誰の事を指しているのか理解して十文字に顔を向ける。

 

 克人も理解したようで小さく頷き、

 

「他には何かあるか?」

 

「中にいるのは二科生5人。男子4人に女子1人だそうです。刃物などの武器は所持していないようですが、警戒はすべきだと思います」

 

「合図はあるか?」

 

「俺がメールを返せば」

 

「承知した。俺を除く部活連メンバーは魔法戦になった場合に備えて野次馬を引き離して近づけさせるな。突入と捕縛は風紀委員に任せる」

 

「よし、風紀委員はCADを起動して、突撃準備だ」

 

 摩利の命令に達也を含めた風紀委員達は顔を引き締めて、CADを起動する。

 そして、部活連の面々も動き出して、野次馬達を更に遠ざける。

 

 その隙に摩利、克人、鈴音が達也に歩み寄る。もちろん深雪は達也の後ろに付き従っている。

 

「達也くん。アイツはいつの間に忍び込んでたんだ?」

 

「後で本人に訊いてください。俺もメールが来るまでは知りませんでしたよ。深雪、お前は何か聞いてないか?」

 

「いえ……私が教室で気付いた時にはもうすでに……」

 

「授業が終わるまではいたのか?」

 

「そのはずですが……。申し訳ありません、お兄様。断言までは……」

 

 深雪は申し訳なさそうに俯く。

 落ち込んだ深雪に達也は慰めるように肩を叩く。

 

「まぁ、アイツが本気で認識阻害魔法と幻術を使えば、深雪でも気づくのは難しいだろう。お前が悪いわけではないよ」

 

「お兄様……」

 

「……おい。こんな時に惚気るな」

 

 摩利は額に手を当てて呆れたように注意し、達也は一切表情を変えなかったが、深雪は顔を赤くして俯いた。

 

「とりあえず、今はあいつを信じて突入するとしよう。渡辺、司波。お前達も準備しろ」

 

「はい」

 

「分かってるさ」

 

 扉の前に達也を始めとする風紀委員が並び、扉の横に摩利と克人が待機して、深雪と鈴音は廊下の窓側で成り行きを見守る。

 

 摩利と克人は達也に顔を向けて小さく頷き、達也は視線だけで答えてメールを送る。

 

 

 その数秒後、ロックが解除された音が響き、両開きの扉が開いた。

 

 

「突撃!!」

 

 摩利の号令と共に達也達風紀委員が放送室に突入した。

 

「なっ!?」

 

「馬鹿な!?」

 

「どうやって……!?」

 

 立てこもり犯達は目を丸くして動揺する。

 

 達也は壬生紗耶香の姿を捉え、素早く距離を詰めてCADを起動しようとした壬生の左腕を掴む。

 

「っ! し、司波君……」

 

「動かないでください。これ以上罪を重ねれば交渉すらも危うくなりますよ」

 

「っ――!」

 

 壬生は冷たく自分を見据える達也の視線に委縮する。

 

 達也はその隙に素早くCADを没収し、周りの事を確認する。すでに他の4人の男子生徒達も取り押さえられて拘束されていた。

 壬生も周囲の状況を確認し、仲間が捕らえられているのを見て、更に抵抗しようとしたが、

 

「そこまでにしておけ」

 

 重く、力強い声に壬生や捕らえられた男子生徒達はビクリと身体を震わせた。

 

 もちろん、声の主は克人である。

 

 克人はまっすぐ壬生を見据え、

 

「お前達の言い分は聴こう。交渉にも応じる。だが、お前達の要求を聴き入れることと、お前達の執った手段を認めることは、別問題だ」

 

 高校生とは思えない克人の迫力に、壬生達は一瞬で攻撃性が消える。

 

 その時、

 

「それはその通りなんだけど、彼らを放してあげてもらえないかしら?」

 

 真由美がそう言いながら放送室へと入ってきた。

 

 やって来た途端に違反者を開放するように告げる真由美に、達也と克人は訝しみ、摩利は不服気に顔を歪める。

 

「七草?」

 

「だが、真由美――」

 

「言いたいことは理解しているつもりよ、摩利。でも、これから交渉の段取りを話し合わないといけないし、そのためには彼らと対等な立場でなければいけないでしょう? 当校の生徒だから逃げられるということも無いのだし」

 

「あたし達は逃げたりしません!」

 

 壬生は自分達の状況も忘れて噛みついた。

 だが、真由美は一度それを無視して、

 

「生活主任の先生と話し合いました。学校側は今回の件を……生徒会に委ねるそうです」

 

「なんだと……!?」

 

 真由美の言葉に摩利は目を丸くし、克人も僅かに驚きを顔に浮かべていました。

 達也や深雪もまさか違反者の処遇まで委ねられたことに意外感を感じていた。

 

「では、壬生さん。これからあなた達と生徒会の、交渉に関する打ち合わせをしたいのだけど……ついてきてもらえるかしら?」

 

「……ええ、構いません」

 

「十文字くん、そう言うことだから。悪いけど、お先に失礼するわね」

 

「承知した」

 

「摩利もごめんなさいね」

 

「……まぁ、いいとこ取りされた感じはあるが。お前が責任を負うと言うのであれば、文句はない」

 

「ありがとう。じゃあ、ついでに隠れてるいたずらっ子さんの方もお願いね。達也くんもお願いしていいかしら?」

 

「はぁ……しょうがない」

 

「分かりました」

 

 真由美は壬生を引き連れて放送室を後にし、風紀委員達は男子生徒達を解放するために校舎の外まで連れていった。

 達也は真由美に仕事を頼まれたので、摩利と共に放送室に残り、深雪や克人も放送室内に残った。

 

 そして、放送室には4人だけとなった。

 

「さて……風火奈、いるか?」

 

「こちらに」

 

 出入口の方から声がして全員が顔を向けると、内側に開かれた扉の陰からスゥ…と咲宗が姿を現した。

 

「お疲れ様でした」

 

 一礼する咲宗に、摩利は腕を組んで呆れた顔を浮かべる。

 

「全くお前は……どうやって忍び込んだ?」

 

「もちろん、彼らがここに入る時に一緒に。昼休み、彼らが放送室のマスターキーを盗んだのを確認していたので、タイミングを考えれば放課後かなと」

 

「かなとじゃない。分かっていたのなら言え!」

 

「以前お伝えしたと思いますが? 近いうちに彼らは行動を起こして、交渉の場を求めてくるはずだと。その時は無理に抑え込まず、要求に応じて交渉の場を設けて、堂々と彼らの訴えに反論してほしいとも。ですよね? 十文字会頭」

 

「ああ。だから、七草は学校側を話し合ってこの件を預かった、ということだろう。奴らを解放したのは、対等な立場でという要求を答えると共に、力づくで排除するという印象を取り去る為だ」

 

「これで少なくとも、生徒会は法律違反を犯した相手でも寛容に話を聞く度量の深さがあると周囲に知らしめることが出来、彼らは自分達の要求を通すためには犯罪行為を厭わない危険な連中だと認識させることが出来たでしょうね」

 

「これでいくら交渉の場を設けて、更に仲間を集めようとしてもそう簡単に引き入れることは出来ないでしょう。無理矢理引き入れる様なら、それこそ風紀委員が注意出来ますし」

 

 克人、達也、咲宗の言葉に、摩利と深雪は理解はしても納得は出来なさそうな顔を浮かべる。

 

「それはそうだろうが……」

 

「渡辺。重要なのはこれからだ。七草がいつ、どのような形で交渉の場を設けるかで、連中の動きは変わる」

 

「そうですね。差別を解消する機会なのは間違いないので……相手に時間を与えないようにしながらも、こっちも最低限準備が必要なので……2日後くらいに討論会辺りが理想でしょうか」

 

 咲宗の推測に克人達は悩まし気に眉を顰める。

 

「とりあえず、今は交渉を終えるまで生徒達を守ることを考えましょう。外のことは部下や協力者で警戒させます。襲撃の動きがあれば、今度はすぐに連絡します」

 

「頼む」

 

「達也も気をつけなよ。深雪さんもね。色々としでかし始めたみたいだし、深雪さんを人質に、なんてことも考えられるよ」

 

「ああ、警戒しておこう」

 

「では、ボクは連れて行かれた二科生達や壬生先輩、そして司甲の監視に戻ります。恐らく、今回のことを報告するはずですから」

 

「頼んだ」

 

「では、失礼します」

 

 咲宗は一礼して、放送室を後にする。

 

 

 色々と決戦の時が迫ってきた予感に、達也達は気を引き締めざるを得なかった。

 

 

 

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