ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
美少年は自宅の玄関を開けようとしたが、本邸から連絡が来て呼び出しを受けた。
美少年の自宅は、本邸から歩いて20分ほどの距離の山の麓にある屋敷だ。
しかし、美少年は5分ほどで本邸前に到着した。
さっさと中に入って、本邸の奥にある小さなお堂に向かう。
靴を脱いで、足音も立てずに木造の階段を上がる。
そして、扉の前で正座して頭を下げる。
「
「入るが良い」
「失礼します」
静かに扉を開けて、素早く中に入る。
中は薄暗く、灯りの類は一切ない。
だが、お堂の奥に人の気配があり、もちろん咲宗はその事に気づいている。
和服を着た老練の男性。
体は細いが襟元や袖から覗く身体は引き締まっており、気配は闇に同化しているように希薄だが妙に存在感がある。
姿勢を正して、また一礼する。
「お呼びですか?」
「……此度の顛末を聞いた。先ほど十三束家、そして七草家から苦情が届いた」
「……面目次第も御座いません」
ほれ見ろ、と内心で思ったが、本当に口にするわけにもいかず、殊勝な態度で頭を下げる。
しかし、老練の男性は首を横に振る。
「お前の責任でないことは重々承知している。来てもらったのは、お前に一切の責がないとはっきりと伝えておくためだ」
「では……」
「うむ。あの愚か者は暫し謹慎とし、後継者候補から外す。……まぁ、謹慎はともかく、後継者云々は周りが勝手に言っているだけだがな」
「……」
「周りがどう言おうが、儂の、『風魔小太郎』の後継者はお前だ。それを理解出来ん愚か者が多すぎる」
風魔忍。
忍術はかつて空想の秘術、または手品の類と考えられていたが、魔法の存在が判明した今ではれっきとした古式魔法と認定されている。
咲宗は風魔忍こと『風魔党』は歴史では滅ぼされたとされているが、その真実は忍術で身を隠しただけ。
今も堂々と名乗ることはなく、〝
「……風魔の秘術は己で気づき、修練を重ねた者にのみ。致し方なきことかと」
「お前が言うと嫌味でしかないぞ?」
苦笑を浮かべる老人に、咲宗は軽く一礼するのみ。
「まあ良い。とりあえず、愚か者のしでかした事とは言え、我が家の失態であるのは事実。暫し活動は自粛することとなる。お前も第一高校に入学することであるし、まずは生活に慣れることに努めるがいい」
「はい」
「うむ。では、下がってよい」
「御前、失礼致します」
咲宗は深く頭を下げ、素早くお堂を出て本邸も後にする。
これまた5分で自宅に戻った咲宗は、うんざりした顔で玄関を開けて家に入る。
「ただいま~」
「遅い!!」
リビングに入った途端、不機嫌を隠さない声がぶつけられる。
腕を組んで頬を膨らませる、茶髪ポニーテールに
双子の妹、
「いつまで遊んでたでござるか!」
「遊んでないって。クソ叔父に呼び出されたって言ったじゃん……」
「ワンダーランドに1人だけ行くとかズルいでござる!」
「何1つアトラクション乗ってないけどね。ていうか、華凜は道場どうしたのさ?」
華凜は親戚である
「明日から学校だからお休みになった」
「なるほど。いいなぁ……こっちもそんな優しさが欲しいよ」
「無理な願いなんて持つものではないでござるよ?」
「うっさい。母さんは?」
「道場のお手伝いしてる」
「じゃあ、もうちょっと時間かかるか。でさ、いい加減語尾統一してくんない?」
「ござるは本来そっちの方だもんねぇ~。風魔忍者殿?」
「ヤダよ。ござるとか、気持ち悪い」
「それは遠巻きにアタシのこと馬鹿にしてらっしゃる!?」
「今更か」
「今更!?」
華凜は咲宗と違って『風魔流忍術』
そして、咲宗も『火天御剣流剣術』
双子の両親も共に魔法師の家系出身で、風鳶は母方の血筋で、火堂は父方の血筋だ。
ちなみに2人の苗字は『
両親が結婚した際に、両家の分家として新たな家を興したのだ。
咲宗は『忍術』に素養があり、華凜は『剣術』に素養があったため、それぞれの家で修行をしている。
「あ、そうだ」
「ほえ?」
「クソ叔父がヘマして七草家と十三束家から苦情が来た。今、一高って七草家の長女がいるんだよね? なんか言われるかも」
「え゛」
華凜が頬を引き攣らせる。
咲宗は肩を竦めて、
「文句はクソ叔父にね。呼びつけておきながら、まともな指示を出さず、部下がいなかったボクにフォローなんて出来なかったよ。今頃ニュースになってんじゃない?」
華凜は盛大に顔を顰めて、無言でテレビをつける。
そして、案の定ニュース番組では【ワンダーランド】の魔法騒動が取り沙汰されていた。
密入国してきた魔法師が無差別テロを仕掛けた、ということになっており、風鳶家のことは一言も触れられてはいなかった。
「まぁ、ボクはもちろん、結界を張っていた奴らも爺様から逃げ出した馬鹿とは言え、そこそこの熟練者だしね。カメラに映る間抜けはしてないはずさ。そんな間抜けなら爺様はもっとブチ切れてるよ」
「けど、七草家と十三束家からは苦情来たんでしょ?」
「そりゃあ、あれだけ派手に暴れられたらバレるって。あそこの警備員は十三束家が選んだ人達だしねぇ。……まぁ、ぶっちゃけボクが連絡したんだけどね」
「……えぇ~……」
「あのクソ叔父が根回しなんてしてるわけないでしょ? せめて十三束家にくらい一言言っとくでしょ普通」
「それが分かんないから、お爺ちゃんに「奴はない」って断言されてるんでしょ? 秘術とかの前に」
咲宗は肩を竦めるだけで、それ以上は何も言わなかった。
華凜もため息を吐いて、その話を打ち切った。
「明日の入学式はどうすんの?」
「そりゃ行くよ。ボクは七草よりも母さんの方が怖い」
「……オゥイエ~」
「それに風魔は本来本家以外の者は名乗れないし、知らされないことになってるしね~。分家に生まれたボクらが知ってるはずないじゃん! ってことで」
「りょ」
ソファの背もたれから仰け反りながら、咲宗にピシッと敬礼する華凜。
咲宗は苦笑して、夕食まで自室で休むことにしたのだった。