ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
前代未聞の放送室占拠事件から一夜明け。
生徒会から更なる前代未聞の通告がなされた。
それは『明日の放課後、講堂にて公開討論会を開催する』というもので、議題は『学内に置ける一科生と二科生の差別について』などと普通であれば討論するはずはないもの。
学校側代表はもちろん生徒会。そして、二科生側代表(勝手に名乗っているだけ)は『学内の差別撤廃を目指す有志同盟』―通称『同盟』である。
この通告は昨日の夜に全校生徒にメールで連絡がされている。そのため、朝から同盟の面々が校門前、二科生の教室の前で待ち構え、賛同者確保に動き出していた。
その手首にはエガリテの証である青と赤で縁取られた白のトリコロールのリストバンドが巻かれている。
本来風紀委員の活動はCADが返却される放課後がメインであるが、同盟が勧誘活動を行う事は容易に予想出来、立てこもり事件を起こしたことから強引な勧誘を行う可能性が否定出来ないため、朝から風紀委員は腕章を着けて校門前や駅前に待機していた。
校内まで厳しく取り締まるのは流石に妨害行為と難癖付けられる可能性がある為、そこまでは行わなかった。
もちろん、風紀委員が駅前や校門などを見回ることは同盟側にも伝えている。同盟側は不満げだったが、放送室の立てこもりが犯罪である自覚はあり、それを見逃して貰ったのも事実。故に同盟側はその条件を呑むしかなかった。
それでも休み時間や昼休みなど時間があれば、賛同者を募ろうと声をかけていた。
「やれやれ……国際テロ組織の勧誘活動を見逃さねばならんとは、なんとも歯痒いな」
昼休み。
摩利がため息を吐きながら弁当を食べていた。
その隣では真由美や鈴音も同意するように頷いており、その向かいでは達也と深雪がいた。
達也は口に含んだ物を呑み込んでから口を開く。
「同盟に参加している生徒のほとんどはリストバンド……ブランシュやエガリテの意味を知らないのでしょう。政府の情報規制が裏目に出た、ということでしょうね」
「そうね……。でも、今それを直すように訴えれば、その生徒達は間違いなく逮捕されちゃうわ」
「明日の討論会で彼らの誤解が解ければいいのですが……」
「それとブルームとウィードという差別意識に楔を打てるかどうかだな。いきなり解消まで行くのは期待しすぎだろうから」
「ちょっとリンちゃんに摩利も、妙なプレッシャーをかけるのは止めて頂戴よ」
真由美は鈴音と摩利の言葉に可愛らしく抗議する。
明日の公開討論会では生徒会から出るのは真由美だけだそうだ。
これには流石の達也も驚きを隠せなかったが、準備に余裕が無いのは生徒会も同じ。なので、ほぼ全てを一通り管理している生徒会長である真由美が全て答える方が回答にズレや齟齬が出ないというのは間違っていない。
しかし、少なからず犯罪行為を辞さない同盟の前に1人で出るのは危険だということで、副会長の服部が傍に控えることになっている。
もちろん、風紀委員会も舞台袖や講堂内各所に待機する手筈になっている。
「講堂以外の場所は部活連が?」
「ええ。でも、部活連は風紀委員とは違ってCADの使用許可は持ってないから。あくまで念のため、だけどね」
「出来れば講堂以外にも風紀委員を配置したいが……流石に同盟が多く参加すると思われる講堂を手薄にするわけにはいかんだろうな」
「一応、十文字くんにはブランシュが狙っている可能性が高い図書館周囲を見回ってもらうようにはお願いしてるけど……」
「公開討論会は出席を義務付けてはいないから、興味がない一科生とかは普通にクラブ活動を行うと予想される。だから、ブランシュが襲撃してきた場合、クラブ活動をしている生徒達を狙う可能性もある。機密文献を盗まれるのも問題だが、生徒達の安全を無視するわけにもいかん。恐らく襲撃があった場合、十文字は生徒優先で動くはずだ」
「そうねぇ……。だからってクラブ活動を中止させるわけにはいかないし。はぁ……やっぱり手が足りないわね」
悩みどころなのは教師に手を借りにくいというところ。
教師であったとしても、十師族や政府が隠している情報を知っているわけがない。つまり、教師の多くが他の生徒達同様ブランシュやエガリテの存在を知らないのだ。
なので、いくら真由美や克人であっても、軽々しくブランシュ襲撃の可能性を教師に知らせるわけにいかなかった。
政府が情報規制している事実を、真由美や克人、摩利達がブランシュの正体を知っていることが本来おかしいのだから。
「達也くん、深雪さん。あれから風火奈くんから何か連絡はあった?」
「いえ、特には」
「私もです」
「今日は学校には来てるのよね?」
「来てはいますが……休み時間の度にどこかに行ってしまうので……」
「彼もいっぱいいっぱい、ってことか……」
「恐らくは。校内は咲宗1人で動いているらしいですし、校外は校外で捜査範囲が広すぎるでしょうからね」
「だろうな……」
「一応うちの人間も怪しまれない範囲で動かしてはいるけど、やっぱり風火奈くん達のようにはいかないわね」
そもそも真由美が動かせるのは七草家でも限られた人員だけだ。
十師族の長女であっても次期当主ではないし、次期当主であっても現当主を無視して家の権力を使うことなど出来はしない。
残念ながら父親に一高へのエガリテ、ブランシュの工作について説明したが、確証が少なかったためあまり人手を貸して貰えなかったのだ。
そして、十文字家は情報収集能力に長けた人材はいないに等しい。
そのために真由美と克人は、咲宗を引き込んだのだ。
「結局、肝心要の部分は風火奈に懸かってるわけか。……信用してないわけではないが……どうにも信用しきれん」
摩利の歯も着せぬ本音に全員が苦笑した。
真由美は何度も揶揄われ、鈴音はその話を聞かされたから。達也と深雪はもちろん師匠である寺の住職(疑惑)と同類だからである。
「信用しきれないことに関して庇うことは出来ませんが……」
「出来ないんだ……」
「咲宗も一高の生徒であることは事実ですし、実家も素性もバレているんですから、ここで仕事をサボったり我々を騙すことはしないでしょう」
真由美の呟きを無視して、達也は言葉を続けた。
「流石に二度も七草家と十文字家に弱みを握らせないと思いますよ。流石の風魔忍も十師族から睨まれて安寧に過ごせるとは考えないでしょう」
「だと、いいがな……」
「それに咲宗には妹の華凜がいます。華凜は風魔ではないそうなので、風魔の事情に妹や家族を巻き込むようなことはしないでしょう」
達也の言葉に摩利はまだ納得出来ない様子だが、流石のそれ以上不安を煽るようなことは言わなかった。
「とりあえず、私達は私達でやれることをしましょう」
「分かってるさ。ただ……三巨頭や風紀委員長とか言われながら、この手の絡め手にはほとんど無力なことに情けないと思っただけさ」
「それは高校生なんだから当然じゃない。十師族の長女って特別視されてる私だって、結局立場以上のことはこれまで出来てないし。風火奈くんがいなかったら、ここまで調べられなかっただろうし。あなたが無力なんじゃなくて、風火奈くんがおかしいのよ」
「おかしいって……お前な」
摩利は真由美の咲宗に対する評価に自分を差し置いて呆れる。
2人の雰囲気的にこのままでは話が脱線しそうだと思った達也は、口を挿んで無理矢理話を戻すことにした。
「問題は明日警戒に当たる事情を知らない風紀委員や部活連にどう説明するかだと思いますよ? 真っ正直にブランシュやエガリテのことを話すわけにもいかないでしょう」
「そう、だな……」
「別働隊がいるかもしれないと言うしかないでしょう。昨日の放送室立てこもりの手段から誰かに唆されたのかもしれないと疑惑として伝えるだけでも十分かと」
鈴音の言葉に真由美と摩利は悩まし気に眉を顰める。
下手な情報を与えれば、解決後にブランシュに騙されていた生徒達を助けても、新たな偏見と差別が生まれる可能性があるからだ。
「……誤解されるような情報を与えるのは止めておきましょう。厳しい事を言うけれど」
真由美の言葉に摩利は小さく頷き、達也と深雪も悩まし気に眉を顰める。
残念ながら、昼休みが終わるまでに良い案が浮かぶことはなかった。
その夜。
咲宗はブランシュの拠点の近くに潜んでいた。
樹の枝に登り、両手で印を組んで目を閉じている。
目を閉じた咲宗の視界に映るのは、拠点内の映像だった。
精霊を介して、離れた場所を観ることが出来る精霊魔法【五感同調】の1つ『視覚同調』だ。
現在、拠点の中では『ブランシュ』リーダー司一が立っており、向かい合うように司甲や壬生、そして他にも剣道部員や様々な年齢の男達が並んでいた。
何やら演説している司一に全員が真剣な表情で聞き入っており、司一の前には長テーブルが置かれていて、そこには大量のアンティナイトの指輪が収められたアタッシュケースが置かれていた。
残念ながら、咲宗はまだ1つまでしか【五感同調】が使えないので話までは聞こえなかった。
(……まぁ、討論会前夜に一高関係者集めて演説してんだから。明日の襲撃作戦についてだろうけど)
時折、わざとらしく右手で眼鏡を触り、その直後怪しく眼が光った。
その度に壬生達の表情が弛緩するので、何度も『邪眼』を使っているのが窺えた。
(……あ~あ、完全にしてやられてるなぁ……。あんなにチョコチョコ眼鏡触ってれば怪しさしか感じないんだけど……。まぁ、そこらへんを気にしないように暗示をかけられてるってとこかな?)
司甲や壬生がアンティナイトの指輪を受け取り、その後は役割ごとのチームに分かれて打ち合わせを始めた。
(……ん? 壬生先輩がいるチームに成人が混ざってる?)
壬生に男子生徒2人、そして成人男性が5,6人。
しかも、その内の1人の成人男性が手に持っているのはハッキングツールだった。
(壬生先輩は図書館襲撃チームってことか……。それに、放送室を占拠したメンバー側にも成人がいるってことは、彼らも討論会には出ないのか? 1人も参加させないなんて他にも何か企んでるって教えるようなものじゃないか……)
咲宗は術を解除して目を開ける。
「やれやれ……これ、解決後に色んな人に怒られそうだなぁ」
ため息を吐いた咲宗。
その時、
「いやはや……いつの時代も、忍びは憎まれっ子だよねぇ」
突然間近で聞こえた声に、一瞬目を見開くも、すぐに声の主を理解してもう一度ため息を吐く。
「あなたの場合は自ら憎まれようとしているように思われますが? 今果心殿」
顔だけで振り返ると、咲宗よりも細い枝に、剃髪に墨染の衣を着た左目に切り傷がある細身の男―八雲が屈んで座っていた。
八雲は胡散臭い微笑みを浮かべたまま、顎を手で撫でる。
「これは手厳しい。それにしても、流石は風魔党の神童だねぇ。幻術に天狗術だけでなく、精霊魔法もお手の物とは恐れ入ったよ」
「あなたに言われたくないですよ」
「おや、これまた一本取られた」
「それで、ボクに何か御用で?」
「君に挨拶をね。この前のお土産を貰ったお礼も言いたかったのもある」
「……つまり、ブランシュの掃除に関しては手伝う気はない、と?」
「第一高校内に関してはないかな。校外の拠点に関しては、手伝ってあげるつもりだよ。そろそろ周りをうろつかれるのもうんざりだからね」
「それは助かります。そして、丁度良かった」
「丁度良かった?」
「これを」
咲宗は懐から折りたたまれた紙を取り出して、八雲に投げ渡す。
八雲は難なくそれをキャッチして、
「これは?」
「
「それはありがたい」
「お弟子さんには伝えてますがね」
「今回の件、彼女にはちょっと酷だったかもしれないねぇ。カウンセラーとしても、公安としても」
「そこはそちらと公安でしっかりとフォローしてあげてください。ボクは身内のことで手一杯なので」
「大変だねぇ。やっぱり分家を増やし過ぎたのは失敗だったんじゃないかい?」
「そうかもしれませんが、そのおかげでボクは生まれてますからね。今更悔やんだところでって話ですよ」
「まぁね」
「
「叔父上の派閥は一般企業にも就職してる家も多いようだね。下手に消すのも難しいか……」
「術式を回収したくとも、すでに会得した魔法式まで消すのは無理ですので……」
「それこそ、洗脳でもしないと無理だろうね」
「古式魔法の家系はこうなるとメンドクサイことこの上ないですね」
「風魔はエレメンツにまで手を出しちゃったからねぇ……」
「まぁ、そこらへんの清算はあの暗躍者気取りを潰したらしますよ」
「手が欲しければ相談してくれていいよ。君となら、今後もいい関係を築けそうだからね」
「ありがとうございます。もっとも、お手を煩わせないようにするつもりですが」
互いに苦笑する咲宗と八雲。
直後、どちらとも挨拶することなく、ほぼ同時にその場から姿を消した。