ショタっ子魔法師は風魔忍   作:魔法非戦士

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21.『悪者』はどっち?

 討論会当日。

 

 咲宗は陽が昇ってすぐに、家を出る仕度を整えていた。

 

 自室を出てリビングに下りた咲宗。

 リビングにはすでに人の影があった。

 

「あら。おはよう、サキ」

 

「おはよう、母さん」

 

 うなじ辺りで茶髪を結んでいる小柄な女性。

 

 風火奈 柚香。

 

 咲宗と華凜の母親である。

 

「随分早いけど、どうしたの?」 

 

「今日は例の討論会だからさ。早めに学校に入って、色々と備えをね」

 

「……大丈夫なの?」

 

「流石に絶対とは言えないけど、十師族が2人もいるから大丈夫だと思うよ」

 

「ごめんなさいね。何も手伝えなくて」

 

「仕方ないよ」

 

 柚香は團蔵の娘で、風魔党宗家の人間である。

 しかし、彼女は魔法力や魔法師の才能はあったが、風魔忍として活動する適性がなかったのだ。

 

 柚香は一人娘だったので、宗家の後継ぎが不在となった。それが叔父が『革新派』を創ったきっかけとなったのだ。

 

 咲宗の誕生によって、その目論見は崩壊したが。

 

「華凜はどうするの?」

 

「華凜はいつも通りでいいよ。ただ、鉄刀を持って来るように言っといて。あいつが暴れないわけないから」

 

「……はぁ、分かったわ。本当に気をつけてね」

 

「分かってる。行ってきます」

 

 咲宗は途中まで用意されていた朝食を掻き込んで、家を飛び出した。

 途中にあるコンビニで足りなかった分の朝食を買って移動中に食べ、咲宗はまだ校門が開いたばかりの学校に足を踏み入れる。

 

「さて……とりあえず、図書館だな」

 

 咲宗は一直線に図書館に行き、中に入る。

  

 図書館は教員も、というか教員が一番使うので開門と同時に鍵が開けられる。

 

 事務員があちこちで掃除や整頓をしていた。

 その横を咲宗は無言で素通りし、周りも誰も咲宗に気づかない。咲宗はそれを良いことに手早く壁や天井など人目に付きにくい場所に符を貼っていく。

 それを数回繰り返し、咲宗は図書館を後にした。

 

 その後も校内をあちこち回って、色々と準備をしていく。

 

「……とりあえず、昼休みまでは授業に出るか」

 

 咲宗が教室に向かう頃には、いつも通りの登校風景となっていた。

 移動しながら部下達に今後の動きについて記した暗号メールを送って教室に入る。

 

 教室にはすでに深雪や雫、ほのかも来ており、全員がどこか緊張した表情で話していた。

 

「あ、咲宗くん。おはよう」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはよう。随分と緊張してるみたいだけど……今日の討論会のこと?」

 

「うん……深雪や達也さんは生徒会や風紀委員として参加、というか講堂に行かないといけないから」

 

「私とほのかは部活に行く」

 

「あれ? 聴かないの?」

 

「別に私達は二科生だからって思うことないし、二科生でも達也さん達みたいに自分より優れたところ持ってるって分かってるから。結果が分かり切ってる討論会にわざわざ参加する意味はない」

 

 無表情ながらもどこか熱が入ったような言葉に、咲宗は苦笑を浮かべて、

 

「なるほどね」

 

「咲宗君はどうするの?」

 

 雫が僅かに眉尻を下げて、心配そうに訊ねてきた。

 

「ボクも講堂には行かないよ。他の奴らが入り込みそうなところに網を張るつもり」

 

「……そう」

 

「無茶しないでね」

 

「大丈夫だよ。色々と仕込みはしてるから」

 

 咲宗は安心させるように笑みを浮かべながら言うが、それでもやはり雫達の顔が晴れることはなかった。

 

 授業が始まってからも、生徒達はどこか落ち着きなく過ごしていた。

 A組は特に生徒会の深雪と風紀委員の森崎がいると言うのも大きい。森崎に関しては朝からずっと眉間に皺を寄せており、休み時間になる度に教室を飛び出て、巡回をしていた。

 森崎が成長したところは、以前のように二科生だからと侮辱を口にしなくなったこと。ただし、これは事態が事態で、悪態をつく余裕が一切ないだけであったのだが。

 

 咲宗は昼休みに食事を食べた後から姿を消した。

 

 雫が『どこにいるの?』とメールをしても『大丈夫だから』としか返信が来なかった。

 

 雫とほのかは休み時間に華凜の元に行ったが、

 

「サキがこの手の事でアタシに連絡することなんてほとんどないよ。邪魔されたくないだろうから」

 

 と、全く役に立たなかった。

 

 結局咲宗は放課後まで授業をサボり、雫やほのかは心配しながらも部活に行くことにした。

 

 そして、深雪は討論会のために講堂へと向かった。もちろん、達也と合流してから、だが。

 

 続々と生徒達が講堂へと向かう中――咲宗は図書館に潜んでいた。

 

 認識阻害魔法で誰にも見られることなく中に入り、二階の手すりの上に乗って吹き抜けになっているエントランスを見下ろせる場所に陣取る。

 まだ中には職員や警備員、生徒がいるが、いつもより訪れる人は少ない。

 

 ほとんどの生徒が公開討論会に行っているということなのだろう。

 

 ただ静かにその時を待っていた咲宗だが、胸内ポケットに入れていた携帯端末が震えたことに顔を引き締める。

 

「……来たか」

 

 届いたのはメールで、送り主は部下。

 ブランシュの実働部隊が動いたら連絡するように伝えていたのだ。同時に公安や八雲達にも連絡が行き、司一がいる廃工場以外の拠点を全て押さえることになっている。

 

 咲宗は素早く両手で印を結び、朝に仕込んだ仕掛けを発動した。

 

 

 

 時は少し戻る。

 

 公開討論会は真由美の独壇場だった。

 元々同盟は具体的な解決策や明確な改善点を有することなく、達也に突っつかれ、雫達が司甲を尾行し、咲宗が構成員を捕えられたことで、背中を押されたように行動を起こしたに過ぎない。

 故にこれまでのようにただ不満やスローガンを叫ぶのではなく、具体的さと根拠を求められる論戦の場に追い立てられたことで、いとも容易く同盟の訴えの空虚さが露呈したのだった。

 

 真由美は具体的な数字やデータを出すことで、同盟の訴えを悉く論破した。

 

 しかし、同盟が、二科生がここまで追い詰められた差別が存在するのも事実。

 

 だが、それすらも真由美は改善するために全力を尽くすと、差別意識の克服の象徴として、制度上で唯一残っている差別『生徒会役員の指名制限』の撤廃を生徒会長改選時に開かれる生徒総会で改定することを公約とすることを表明した。

 

 今までは魔法力に優れた十師族直系の一科生と何重もの色眼鏡で見られていた真由美だが、普段浮かべているどこか蠱惑的で、穏やかな笑みや、余裕に溢れている雰囲気を封印し、凛々しく、どこまでも誠実み溢れている真由美の言葉と姿は、一科生二科生関係なく、多くの生徒の胸に響いたのだった。

 

 それは本来同盟にとっては喜ぶべきものであったはず。

 だが、彼らは『()()()()()()()()()()』ことに固執しており、同盟の胸に込み上げる感情はただただ敗北感だった。

 

 故に彼らは()()()()()()()()()()()()際の作戦に移すことに戸惑いはなかったのであった。

 

 討論会―という名の真由美の演説会―が終わったと同時に、爆発音が響き、講堂の窓を揺らす。

 

 更に連続した炸裂音に生徒達が驚き戸惑う中、風紀委員は怪しい動きを見せた同盟のメンバーをあっという間に拘束した。

 その後、窓からガス弾が撃ち込まれたが、服部が即座に魔法で対応してガスごと外に放り投げ、直後にガスマスクを装備して突入してきたブランシュの実働部隊を摩利がマスク内に窒素を充満させて行動不能に追い込み、即座に拘束した。

 

 生徒会と風紀委員の迅速な対応に混乱していた生徒達は落ち着きを取り戻す。

 その様子を確認した達也は一度爆発が起きたと思われる実技棟の確認に向かうことにし、もちろん深雪も同行することになった。

 真由美と摩利は流石に大勢の生徒を放り出すわけにもいかなかったので、達也達を信じて送り出すことしか出来なかった。

 

 実技棟に向かった達也と深雪は、襲撃者と戦っていたレオとエリカと合流し、実技棟を襲った者達は教師達によってほぼ鎮圧されたことをエリカから聞くことが出来た。

 

「派手に攻撃しておきながら簡単に鎮圧されたことを考えると、やはり狙いは図書館か」

 

「そのようですね、お兄様」

 

「やはりって、達也。連中のこと知ってたのか?」

 

「咲宗からな。と言っても、ここまで本格的に襲撃してくるとは聞いていなかったが」

 

「お兄様……もしや討論会は陽動だったのでしょうか?」

 

「いや、少なくとも生徒達は本気だったと思う。咲宗も言っていたが、利用されただけの可能性が非常に高い。討論会に七草先輩や渡辺先輩達はもちろん、大勢の生徒達が集まるのは簡単に予想出来る。そこに攻撃を仕掛ければ、生徒達を講堂に押し込めることで一高内の戦力を低下させることが出来るからな。俺でもこのタイミングを狙う」

 

「で、どうするの? 図書館に行く?」

 

「そうだな。実験棟の方も狙われていないか気になるところではあるが……」

 

 実験棟には教員や生徒達の研究のための最新鋭のCADや装置、試料が保管されている。もし破壊されれば、数年単位で研究が遅れる可能性も否定できないのだ。

 

 しかし、そこに割り込む存在が現れる。

 

「彼らの主力は全て図書館に集中しているわ」

 

 現れたのは真剣な表情を浮かべている遥だった。

 

「小野先生?」

 

「彼らはすでに図書館に侵入しています。壬生さんもそっちにいるわ。風火奈君が対応しているはずだけど……内部の状況は分からないわ。図書館の前は生徒と侵入者で乱戦状態になってるから……」

 

 咲宗の名前が出たことに、達也はもちろん深雪達も遥がただのカウンセラーではないことを理解した。

 

「後ほど、ご説明して頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「却下します、と言いたいところだけど、そうも行かないでしょうね。私が自分から話すのは問題だから、風火奈君にでも訊いてちょうだい」

 

「……分かりました」

 

 今の遥の言葉で、達也は遥の正体をある程度察することが出来た。

 

「では、俺達は図書館に向かいます」

 

「ええ。……壬生さんを、助けてあげて」

 

「申し訳ありませんが、そこは約束しかねます」

 

 達也は遥の懇願に近い呟きを容赦なく切り捨て、図書館に向かって走り出す。

 それに深雪も遥に小さく一礼して追いかけ、レオやエリカは達也の言い方に顔を顰めるが、今は達也を追いかけることに集中した。

 遥はとことん無力な自分に俯くが、だからこそこの窮地を乗り切った時のために出来ることをするためにすぐに走り出したのだった。

 

 図書館に向かった達也達はすぐに前方から怒号や悲鳴、銃声に爆音が聴こえてきた。

 

 図書館の前では生徒や教員と、ナイフや銃器を構えた侵入者達が完全に入り乱れて完全に乱戦状態だった。

 

「主力はすでに侵入しているということだったが……」

 

「見た感じ、拮抗しているように見えるわね」

 

「ってこたぁ、図書館に侵入した連中も追い出されたってことか?」

 

「いや、それにしては図書館の入り口が壊されていない。恐らく防衛している生徒達は中に侵入されたことに気づいておらず、防衛しているようで実はあそこに足止めされているのかもしれない」

 

「ということは……」

 

「ああ。人数はもちろん、それなりに手練れが紛れている可能性もある」

 

「じゃあ、とりあえず大暴れして良いってことだなぁ!!」

 

「レオ!」

 

「うおおおおおおお!!」

 

 レオが雄叫びを上げながらスピードを上げ、乱戦の中に突っ込んで行った。

 

「パンツァァー!!」

 

 咆哮を上げながら左腕のプロテクターを構えて、拳を振り抜く。

 プロテクターから起動式が展開され、魔法が発動したかと思うも特に変化は現れない。

 

 しかし、確かに変化は起きていた。

 

 レオの得意魔法は収束系の『硬化魔法』。

 

 レオはCADや制服に硬化魔法をかけて、疑似鎧を身に纏っていた。

 

 硬化された拳は移動術式や加速術式を使ったかのような破壊力を秘めており、対して侵入者の棍棒やナイフは悉く弾かれ、魔法による石礫や氷塊も砕かれる。

 

 その様子を確認した達也はレオにこの場を任せることに決めた。

 

「レオ! 先に行くぞ!」

 

「おうよ! ここは引き受けた!」

 

 レオは一切文句を言うことなく、むしろ快く応えたのであった。

 

 

 

 最短距離で敵を排除しながら、図書館に侵入した達也、深雪、エリカは中に入った瞬間に足を止めた。

 

 何故なら図書館であるはずのそこは、まるで日本の城のように和式の廊下や襖が迷路のように広がっていた。

 本来なら奥に見えるはずの階段がなく、長い廊下がただただ続いていて奥は見えない。

 

「えっと……ここ、どこ?」

 

「お兄様、これは……」

 

「咲宗の幻術、なんだろうな」 

 

「こ、これが?」

 

 

『ようやく来てくれた』

 

 

「「!?」」

 

 目の前の光景に混乱していたところに、どこからか響いてきた咲宗の声にエリカと深雪は驚きに目を見開く。

 

「咲宗か。こっちの声は聞こえるか?」

 

『一応ね。あ、声の大きさには気をつけて。お馬鹿さん達は達也達が思ってるよりも近くに居るから』

 

「ということは、全員幻術に捕らえているのか?」

 

『そうだね。それぞれに都合のいい夢を見てるよ。ちょっと待ってね』

 

 直後、『パン! パン!』と近くの襖が独り手に勢いよく開き始めた。

 

 そして、現れたのは3つの大部屋。

 だが、その中は和室ではなく、それぞれに異なった風景を構成していた。

 

 1つは達也達が良く知る図書館のエントランス1階部分。

 2階に上がる階段の下に、侵入者と思われる2人の男が警戒するように立っていた。

 

 もう1つもこれまたよく知る光景だった。

 1つ目の男達がいる階段を上がった場所に同盟と思われる武器を携えた男子生徒が2人。こちらも周囲を警戒するように立っていた。

 

 最後は薄暗い部屋に巨大なコンソールがある部屋だった。

 コンソールの前には侵入者である男達が3人。ハッキングツールと思われる端末や記録用のソリッドキューブを用意していることから、特別閲覧室であると達也達は理解した。

 男達から少し離れた壁際に、壬生が物憂げに佇んでいた。どうやら目の目で行われている男達の作業に違和感を感じているのだろう。

 

「これは……本当に幻術なの?」

 

『一応ね。あぁ、壬生先輩は悪いけど、ブランシュ達の方の願望を優先させて貰ってるよ。今なら達也達の言葉も届くんじゃない? 大分戸惑ってる、というか混乱してるみたいだからさ』

 

「……なるほど」

 

『で、悪いんだけどさ。流石にこの規模の幻術となると他のことに手を割く余裕がなくて、撃退や捕縛まで手が回りそうにないんだよね』

 

「俺達がやれと?」

 

『せめて階段で待ち構えてるつもりの連中だけでも気絶させられない? 4人減れば、かなり楽になるから』

 

「……仕方な――いや、咲宗、ハッキングしている連中以外の幻術を解いてくれ。あと、俺達のもな」

 

 一瞬ため息と共に頷こうとした達也だったが、突如否定して壬生達の幻術を解くように言ってきた。

 

 深雪やエリカが驚きの顔を達也に向ける。

 

『……それはボクも助かるけど。いきなり5人も対処できるの?』

 

「大丈夫だ」

 

『頼もしいねぇ。分かった。ただ、壬生先輩はアンティナイト持ってるから、それは外させるよ』

 

「助かる」

 

 達也が礼を言った直後、壬生の右手から火が噴き出した。

 

「えっ!? なに!? あ、あつっ!」

 

 壬生は慌てて右手を振るも火が消えることはなく、むしろ火の勢いは増す。

 

「いやあ!? なに!? 何が起こったの!? 助けて!!」

 

 壬生は目の前で作業していると思い込まされている男達に助けを求めるが、男達は見向きもしない。

 

「そんな……!?」

 

 壬生は絶望に顔を染めながらも右手に目を向けると、燃えているのはアンティナイトの指輪であることに気づいた。

 

 壬生は無我夢中で左手を火の中に突っ込んで、指輪を引き抜きざまに放り投げた――その時。

 

 

パァン!!

 

 

 と大きな柏手の音と共に、壬生や警戒に当たっていた男子生徒や男達のいた場所がガラスのように砕けて、光景が変わった。

 

「………え?」

 

「な、なんだ!? 何が起きた!?」

 

「い、いつの間に1階に? って、壬生!? なんでお前がここに?」

 

 何が起こったのか理解できず困惑する壬生達。

 いつの間にか場所を移動しており、更に重要な作戦についているはずの壬生が目の前にいれば驚くのも無理はない。

 

 だからこそ、迫り寄っていた人影の存在に気づくのが遅れてしまった。

 

 警棒を振り被ったエリカがスタンバトンを持つ侵入者に高速で詰め寄り、男達が気付いた時にはエリカはすでに警棒を振り下ろしていた。

 

 エリカの警棒が男の1人の首筋に打ち込まれ、すぐ傍にいた仲間の男が敵が現れたと理解した時には、すでにエリカが身を翻して警棒を己に向かって振り抜こうとしていた。

 

「ぎゃっ!」

 

「うごっ!?」

 

 あっという間に2人の敵が沈黙し、壬生と男子生徒2人は唖然と固まってしまうが、

 

「そこまでだ」

 

 拳銃型CAD『シルバーホーン』を構えた達也が冷たく言い放ち、その隣に鋭く壬生達を見据える深雪が立っていた。

 

「……司波、君……?」 

 

「壬生先輩、すでにあなた達の企みは潰えています。これ以上の抵抗はお勧めしません」

 

「なんだと!?」

 

「ふざけたことを!」

 

 男子生徒2人が達也の言葉を受け入れることが出来ず、1人は左手を上げてCADを起動しようとし、もう1人は抜身の脇差を構える。

 

 直後、CADを起動しようとした男子生徒の後頭部に何かが直撃して崩れ落ち、脇差を構えた男子生徒にはエリカが再び高速で詰め寄って鳩尾に鋭く重い突きを叩き込まれて後ろに吹き飛び、そのまま起き上がることはなかった。

 

「なっ……!?」

 

 壬生は唖然とあっという間に倒された仲間を見つめる。

 

 エリカは目に見えぬ血を払うように警棒を振り、壬生に目を向けることなく、とある方向に顔を向ける。

 

「流石だね、咲宗くん」

 

「エリカも流石だね。剣術の名家は伊達じゃないってわけだ」

 

「……まぁ、ね」

 

 壬生は2階の手すりにいる咲宗にようやく気付いて、驚きに目を見開く。

 

「これで、残ったのは壬生先輩だけです。まぁ……まだ夢を見させられている連中もいますが」

 

「……これは、司波君のせいなの? さっきまでの光景や火も……」

 

 壬生は先ほど燃え上がったはずの右手が火傷一つないことに、何かされたことは理解できていた。

 

「いえ、俺じゃありませんよ。後ろにいる咲宗の幻術です」

 

「あれが……幻術だなんて……」

 

「人間って言うのは、あなたが思っているより単純なものでして。五感を支配されれば道化に成り下がるんですよね」

 

 咲宗は2階から飛び降りながら、サラリと酷い事を言い放つ。

 

「あなた達にはここに入って来てから、ずっとこのエントランスをグルグル回って頂きました。ちなみに職員や警備員、生徒達にも幻術で襲撃者を見せて、非常口から避難して貰いましたから、怪我人は1人もいません」

 

「……」

 

「そして幻は、人の本性を容易に引き出すことも出来るんですよ」

 

 咲宗は何もないカウンターに向かって気持ち悪い笑みを浮かべている男達に顔を向けて、右手で印を切る。

 

 すると、男達が突如驚愕の顔を浮かべながら後ろを振り返り、更に仁王立ちする達也が浮かび上がった。

 それに達也達はもちろん、壬生も幻術であることを理解し、男達が惑わされている幻の中に達也が登場したことを示していた。

 

「なっ!? 扉が壊されただと!?」

 

「あれは複合装甲の扉だぞ!?」

 

「くそっ!! 」

 

 唯一何もしていなかった男が拳銃を構え、銃口を仁王立ちする達也に向けた。

 

 それはCADではなく、本物の実弾銃。

 明らかな殺意の表明に、壬生は仲間であるはずなのに顔を強張らせる。

 

 深雪がCADを操作しようとするが、本物の達也がそれを手で制止する。

 

「死ねぇ!!」

 

 男は一切の戸惑いを見せずに発砲し、達也の胸に弾丸が突き刺さる――が、幻である達也に銃弾が効くはずもなく、達也の幻は何も変わることなくそのまま仁王立ちしていた。

 

「なっ……!?」

 

「銃が効かないだと!?」

 

「くそっ!! 死ねぇ、化け物が!!」

 

 男は連続で発砲するが、弾丸は全て幻をすり抜ける。

 しかし、壬生は仲間と思っていた男が、差別解消のために一緒に戦ってくれていたと思っていた男が、仲間にしようと勧誘した後輩に向かって何度も発砲する光景と銃声に頭を抱えて耳を押さえる。

 

「そんな……! いくら魔法師だからって銃弾が効かないわけが……」

 

「これも魔法だ! 幻か何かだ!」

 

「くそっ! っ!? おい! 壬生はどこ行った!?」

 

「なに!?」

 

「まさか逃げ出したのか!? くそっ! だから、あんなガキを頼るのは嫌だったんだ! どうせここで切り捨てる予定だったってのに!」

 

「……え?」

 

 壬生は耳を疑う言葉に固まる。

 

 男達は壬生がすぐ傍にいることに気づくこともなく、言葉を続けた。

 

「どうする!? 強行突破するか!? 早くしないと、本当に魔法師達が押しかけてくるぞ!」

 

「……そうだな。突破して急いで司様の元に戻らねば」

 

「機密文献のデータを他国に売り、この国から魔法を、魔法師を貶めることが出来るんだ。ここまで来て失敗なんて許されるものか……!」

 

 遂にトドメとなる言葉が飛び出した瞬間、咲宗が両手を叩く。

 

 直後、男達の顔が困惑へと変化し、周りを見渡して顔を真っ青にしている壬生や倒れている仲間達、そして達也達を見て、目を丸くする。

 

 咲宗は軽い拍手をしながら、男達に作り笑いを向ける。

 

「素晴らしい喜劇だったよ、ブランシュ代表の道化共。動画でも撮って、どこかの低俗バラエティ番組にでも送り付ければよかった」

 

「な……何が、どうなって……」

 

「何もどうも、お前達が見てきた全部が幻だったんだよ。お前達は図書館に入ってからず~~っと、エントランスを走り回って、そこの何もないただのカウンターに向かって気持ち悪い笑みを浮かべながら、指をタップして、ハッキングツールを挿して、記録用キューブをカウンターの上に置いただけ。機密文献どころか幼稚園生の作文すら盗めてないよ」

 

「「なっ……!?」」 

 

「この手のテロリストは暗躍している時は面倒なのに、いざ動くと途端に欲や本性を隠せなくなって小物になるんだからホント嫌になるよ」

 

 そう本音を交えながら貶めてわざとらしくため息を吐いた咲宗を、達也は苦笑し、エリカや深雪は呆れた顔を浮かべて見つめる。

 

「なんか……どっちが悪者なのか分からなくなってきたわ」

 

「酷いなぁ。そもそも達也が最初の幻術を解かせなければ、こんなことにはならなかったんだよ?」

 

「おいおい……俺が悪いのか?」

 

 壬生はもはや何を、誰を信じていいのか分からず、呆然と立ち尽くしていた。

 

 そして、貶められた男達は怒りに顔を歪める。

 

「粋がるなよ、小僧がぁ!!」

 

 叫びながら実弾銃の銃口を咲宗に向ける男。

 

 弛緩しかけた緊張感が再び張り詰めたと思われたが。

 

 男が引き金を引こうとした直前、達也とエリカは銃口に何かが高速で入り込んだのを見逃さなかった。それが咲宗から放たれたことも。

 

 引き金が引かれた拳銃は達也とエリカの予想通り暴発した。

 

「ぎゃあああああ!! がっ!?」

 

 右手を押さえて悲鳴を上げた男は、突如顎を跳ね上げ、後ろに倒れて頭を打って気絶した。

 

 咲宗は先ほどまでの胡散臭い笑みを消して無表情で苦しむ男を見据えていた。

 

「撃つのに時間かけ過ぎ」

 

「相変わらず、見事な指弾だな」

 

「そりゃ本職だからね」

 

 達也の褒め言葉に咲宗は振り返って肩を竦める。

 

 その隙を見逃さなかった男2人は同時に咲宗に殴りかかった。

 

「咲宗くん!」

 

 エリカが飛び出しながら叫ぶも、すでに男達は咲宗のすぐ後ろに迫って来ていた。

 

「くらえっ!」

 

 男の1人が咲宗の後頭部に向かって右腕を振り抜いた。

 

 しかし、その拳はなんと咲宗の頭をすり抜けて、咲宗の姿が煙のように消えた。

 

「なぁ!?」

 

「あのさぁ、さっきまで誰の幻術に騙されてたのか忘れたの?」

 

 背後から聴こえた声に男は目を丸くした直後、後頭部に衝撃が走って意識を失った。

 倒れ伏していく男の背後には呆れた顔の咲宗が手刀を構えて立っていた。

 

 ちなみにもう1人はエリカが警棒を叩き込んで撃沈させていた。

 

「さて、これで残るは1人だね」

 

 エリカは警棒で軽く肩を叩きながら、壬生の前に立つ。

 

 そして、達也も壬生をまっすぐに見据え、

 

 

「壬生先輩。残念ですが、これが現実です」 

 

 

 




咲宗マジ鬼畜
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