ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
ほのかと雫はSSボードバイアスロン部の練習に参加していた。
ユニフォームに着替え、部活の備品である猟銃型CADの点検と整備を行った雫達は、先輩達と共に【演習林】へとやってきていた。
演習林は校舎裏手にあり、多くの部活が使用したがるため2週間に一度の頻度でしか使えない。
ほのかは討論会の様子が気になっていたが、雫はすでに割り切っておりいつも通り部活に参加していた。
ちなみに咲宗は『家庭の事情』ということで休みまくっている。
雫の強い要望で入部を取りやめることが出来なかったというのもあるが。まだ償いのワンダーランドに行けていないことを盾にした形である。
そして、いよいよ演習林で練習を始めようと部長が声をかけた、その時。
ドオォン!!!
突如校舎の方角から爆音が響いてきて、その方角を見ると大きな煙が立ち上がっていた。
「な、なに……!?」
「みんな、むやみに動かないで! 今端末で調べるから!」
女子部長が素早く我を取り戻して、部員達に声をかける。
そして携帯端末を取り出して学内ネットにアクセスする。
「……っ! みんな、落ち着いて聞いてね。当校は今、武装テロリストに襲撃されています!」
女子部長の言葉に絶句する部員達。
雫とほのかもまさか本当に襲撃されたことに驚きを隠せなかった。
「護身のために一時的に部活用CADの使用が許可されたわ! でも、あくまで身を護るためだからね!」
女子部長の言葉に部員達が顔を強張らせたまま頷き、手に持つCADを握る手に力が入る。
その時、
「いたぞ!!」
「「「「!!」」」」
襲撃者と思われる男達が、雫達の元へ駆け迫って来ていた。
先頭を走る男の手にはナイフが握られており、男はほのかを捉えていた。その男の後ろからはスタンバトンや脇差を持った男達が続いていた。
ほのかはまさかの自分に迫ってくる男とナイフに、以前襲われかけたことを思い出してしまい、身体が竦んでしまった。
雫は猟銃型CADを構えて、魔法を発動しようとする。
しかしその時、ナイフ男の横から高速で迫る小柄な人影を――風に靡く茶髪を、ほのかと雫は捉えた。
「――火天御剣流」
ナイフを構えてほのかに突っ込んでいた男は、真横まで近づかれてようやく迫り来る存在―剣道着を着た華凜に気づいた。
「な――」
「【竜翔閃】!!」
下段に構えていた鉄でコーティングしたような木刀を、技名を叫ぶと同時に高速で振り上げながら跳び上がる。
鉄刀は男の顎に叩き込まれ、男は顎を跳ね上げて口から数本の歯が折れ飛ばしながら、両足が地面から離れて真上に吹き飛ばされる。
「ぐごっ――!?」
男は口から血と歯を吐き出しながら白目を剥いて背中から落下する。
華凜は鉄刀を振り上げながら宙高く跳び上がり、足を止めて驚愕の顔を浮かべる襲撃者達を見下ろす。
「火天御剣流――」
華凜の身体が薄くサイオンに包まれる。
その直後、華凜が急に猛スピードでスタンバトンを握る男に向かって落下を始めた。
「【竜槌閃】」
男はギリギリでスタンバトンを頭上に掲げたが、猛スピードで落下する状態で振り下ろされた鉄刀は驚異的な威力を発揮して、スタンバトンを圧し折って男の右肩に思いっきり叩き込まれ、更に押し潰されて顔から地面に叩きつけられる。
華凜は後ろに数歩下がって鉄刀を左脇に納め、左手で刀身を挟む様に掴んで腰を落とす。
その左手は黒いグローブで覆われていた。
「火天御剣流――」
鋭く男達を見据え、居合を繰り出すかのように左手で刀身を勢いよく擦りながら鉄刀を抜き放つ。
すると、一瞬左手辺りから火花が散ったかと思うと、油でも仕込んでいたかのように鉄刀の刀身が火に包まれた。
「【飛竜炎】!」
炎の斬撃が三日月状に放たれる。
CADを起動したような素振りもなかったのに、突如飛び迫る炎に男達は驚きを浮かべて両腕で顔を覆う以外に抵抗する術はなかった。
「「「ぎゃあああああ!?」」」
男達は炎の斬撃に呑み込まれ、全身を火に覆われながら吹き飛んで悲鳴を上げて地面を転がっていく。
華凜が鉄刀を振って火を払い、肩に担ぐ。
「もう終わり? もうちょっと気合見せてほしいんだけど」
全然疲れたように見えない華凜に、雫やほのかを含むバイアスロン部女子達は茫然と見つめていた。
男達は火が消えても立ち上がることなく、結局ただただ倒れ伏して呻き声をあげたままだった。
華凜は不満げに小さく舌打ちしたが、ほのか達へと振り返る時はいつもの人懐っこい雰囲気に戻っていた。
「ほのか、怪我はない?」
「あ、うん……。ありがとう、華凜」
「お礼は全部終わってからでいいわ。ところで、ここの責任者は?」
「わ、私だけど……」
女子部長が手を上げる。
「あら、部長さん。他に怪我人はいませんか?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、助かったわ」
「ほのかにも言いましたけど、お礼は全部終わってからで。この先の校舎傍に十文字先輩を中心に部活連と風紀委員が防衛陣を組み始めています。林の近くでは敵が隠れているかどうか分からないから、そこに移動しましょう」
「十文字会頭が……! 分かったわ。皆! すぐに移動しましょう! 一塊になって、周りを警戒しながらね!」
「「「はい!」」」
女子部員達は力強く返事をして、他の部員達に声を掛け合いながら移動を開始する。
華凜もほのかと雫の隣で一緒に移動する。
「あ~あ、流石に今から実技棟に行っても、もう終わってるだろうしなぁ。他に襲撃者が襲ってて手が足りない場所ってないかな?」
「そ、そんな怖い事言わないでよ……!」
「だって、このためにサキに言われて準備してたってのにさ~」
「咲宗くんに? でも華凜、お昼休みの時に――」
「サキに言われたのは、この鉄刀と道着を持って来いってだけ。でも、それだけ言われれば、前に話してた連中が襲ってくるんだろうって分かるでしょ? だから放課後になってすぐコレに着替えて、屋上で待ってたのよ」
「お、屋上って……」
「そしたら、ほのかと雫が見えてさ。場所が場所だったから、一応すぐに駆け付けられるように警戒してたってわけ」
「なるほど」
「で、飛び降りる直前に十文字先輩達が見えたの。流石に十文字先輩も生徒防衛を優先せざるを得なかったみたいだね。ま、実技棟も他も、先生達や生徒達でほとんど制圧出来たっぽいけど」
華凜は携帯端末を取り出して、学内ネットの情報を確認して退屈そうに言う。
「討論会してた講堂も生徒会長と風紀委員長が防衛してるから参加してた生徒達は余裕で無事。一番危なかったのは部活動してた生徒と、実技棟や実験棟、図書館周辺で戦ってた生徒と先生達かな。で、十文字先輩が生徒達ばかりの部活動方面に応援と指揮に来ちゃったから……実験棟と図書館辺りがかなり怪我人が出たっぽいね」
「だ、大丈夫なの?」
「ダイジョブダイジョブ。制圧は終わってるみたいだから」
「じゃあ、もうほとんど終わってるの?」
「まだ潜んでる奴らはいるだろうし、もしかしたらこれから本隊が来るかもしれないから油断は出来ないわよ」
「そっか……」
「ま、サキのことだからお馬鹿さん達の目的は潰してるでしょうよ。そのために朝早くから準備してたんだろうし」
華凜は携帯端末を懐に仕舞いながら肩を竦める。
それでもほのかは未だに不安げな顔を浮かべたままだった。やはり達也や深雪、咲宗が大丈夫なのか心配なのだ。
しかし、雫は別の事が気になっていた。
「ねぇ、さっきのって魔法なの?」
「そうよ。火天御剣流の古式魔法。【剣の魔法師】と呼ばれる千葉家の『千刃流』が現代魔法剣士の名門なら、火天御剣流の火堂家は古式魔法剣士の名門ってわけ」
「でも、さっきの動きって自己加速魔法に自己加重魔法だよね?」
「現代魔法で言えばね。正直、古式魔法って細かく分類されてないし」
「あの火は?」
「あれはただの手品。この鉄刀には特殊な油が染み込んでて、この着物や手袋に仕込んでる火打石で着火させてるだけ。そこからこの鉄刀の中に仕込んでる杖と身体の動きで魔法を発動するってわけ」
「身体の動き?」
「『剣舞』って奴よ。剣の型や剣を振る動作を神や精霊への祈禱にしてたって昔話、聞いたことない?」
「あの伝統芸能の能みたいな奴?」
「まぁ、それに近いわね。うちはそれを魔法発動のプロセスに組み込んでるってわけ。この鉄刀の中に仕込んでる杖には不完全な起動式が記されてて、それをサイオンを流しながら特定の構えを取ることで起動式が完成するってわけ」
「へぇ~……」
ほのかは華凜の話にいつの間にか不安と恐怖を忘れて感心し、雫も声を出してはいないがほのかと同じように感心した表情を浮かべていた。
そんなこんな話している内に、バイアスロン部一行と華凜は部活連と風紀委員によって作られた避難場所に到着した。
「風火奈」
到着早々克人が華凜に声をかけてきた。
「はい?」
「お前も防衛要員に参加しろ。先ほどお前が暴れたことはすでに聞いている。今回は自衛が認められるが、お前はやり過ぎる可能性があるから、俺が許可したことにする」
「あら、いいんですか?」
「お前の兄から、こうなった場合の対処法として先日教えられていたからな。この現状では防衛戦力が多いに越したことはない」
「サキの奴……」
「相手を殺したりしなければ、正当防衛として認めさせることが出来る。そこは守れ」
「は~い。と言っても、もうこれで終わりだと思いますけどね~」
色々とぶっちゃけた克人の言葉に、華凜は気の抜けた返事をして、先ほどほのかに言ったこととは真逆の事を言う。
克人は気を抜く華凜の態度に眉を顰めるも、内心では同意しているので特に何も言わなかった。
その時、華凜の胸から着信音が響く。
「ん? ………あ~あ、やっぱり」
「どうした?」
「一高周囲に潜んでいたブランシュは
「……そうか。では、校内の侵入者の掃討に集中するとしよう」
克人は華凜の報告に顔を引き締めて頷くと、後ろを振り返る。
「部活連の者達は引き続き、この場の護衛を! 風紀委員は校外にいる生徒達をここに誘導し、避難してきた者達を事務室まで護衛し、個人のCADを返してもらうように教員達に伝えてほしい! 部活用CADでは自衛にも限界がある者がいるだろうからな。避難してきた者は自分のCADを取りに行くのであれば風紀委員に付いていけ! 事務室に行かない者はここで待機だ!」
「「「はい!」」」
克人の指示に部活連はもちろん、風紀委員も避難してきた者も逆らう者はいない。
それぞれに動き出した者達を見た克人は、華凜へと振り返り、
「これから侵入者が暴れた実技棟や図書館の方に向かう。風火奈、お前も付いて来い」
「了解でーす」
「飛ばすぞ、付いてこれるか?」
「多分大丈夫でーす」
克人はそれに答えず、素早くCADを操作して高速移動術式を発動する。
華凜の鉄刀を型に担いだまま、克人が高速で飛び出した直後に同じく高速で飛び出して、克人の隣を並走する。
あっという間に見えなくなった2人を、ほのかと雫、他の者達は唖然と見送った。
最も戦闘が激しい図書館に向かった克人と華凜。
図書館の前ではまだ戦闘が続いており、先頭に立って殴りかかっているのはレオだった。
「おぉらぁ!!」
侵入者の顔面に拳を叩き込んで殴り倒す。
そのレオの周りにはナイフやスタンバトンを握る男達が囲んでおり、レオの後ろには息を切らして片膝をつく生徒や教師達がいた。
レオも肩で息をして、拳を構えていた。
それを確認した華凜はスピードを落とすことなく、右肩に担いでいた鉄刀を両手で掴んで振り上げ、刀身を背中に回す。
そして、軽やかに跳躍し、一気に男達の真上を取る。
「火天御剣流【竜槌炎】!」
振ると同時に鉄刀の峰で背中を擦って火を点け、一気に燃え上がった鉄刀を振り下ろし、真下に向かって炎がまるで竜がブレスを吐いたかのように放たれる。
突如真上から襲い掛かってきた炎に侵入者達は躱す余裕もなく、滝のように叩きつけられた炎に悲鳴を上げて地面に倒れ伏す。
「な、なんだなんだぁ!?」
突然の炎に驚いて数歩後ずさるレオ。
その目の前に華凜が居合の構えで着地した。
「うおっ!? か、華凜!?」
「火天御剣流【竜巻炎・旋】!」
華凜は未だ燃え盛る鉄刀を振り抜きながらその場で回転する。
放たれた炎は渦を巻いて炎の竜巻となって、最初の一撃から運よく逃れた男達に襲い掛かる。
「ひぃ!? ぎゃああああ!?」
「あづああああ!!」
炎に纏わり付かれて悲鳴を上げる男達。
しかし、華凜は鉄刀の炎を振り払いながら、自己加速術式を発動して高速で炎を消そうと動き回る男達に迫る。
そして、駆け抜けざまに男達の急所に鉄刀を打ち込みながら、侵入者の集団の合間を高速で縫うように縦断した。
「火天御剣流…【竜鱗閃】」
集団を抜けたところで鉄刀を水平に振り抜いた体勢で技名を呟き、後ろを振り返る。
男達はその場に崩れ落ちて、痛みと熱さにただ呻くのみしか出来なくなったが、突如突風が吹いて炎が消し飛ばされる。
「やり過ぎるなと言ったはずだ」
克人が右手を突き出しながら眉を顰めて華凜を注意する。
しかし、華凜は表情一つ変えることなく、
「敵を倒す時に手加減なんて
克人はため息を吐いて、それ以上何も言わずにCADを操作して右手を振る。
男達の真上に光の壁が出現したかと思うと、勢いよく落下して侵入者達は一人残らず地面に圧し潰されて一瞬で制圧された。
「これで終わりだな。怪我人は保健室へ! 無事な者は侵入者の拘束を!」
克人の号令に生徒はもちろん、教師達も迅速に動き出す。
華凜は不満げな顔を浮かべて鉄刀を肩に担ぐが、レオが歩み寄ってきたことで不満顔を引っ込めた。
「助かったぜ、華凜。思ってたより数も多くてしぶとくてよ」
「まぁ、ここら辺は主力が揃ってたらしいしね。怪我はないの?」
「おう。そこまで無様にやられたりはしなかったぜ! これでも硬化魔法が得意だからな!」
ニカッと爽やかに笑うレオに、華凜は感心したような顔を浮かべる。
服の汚れ方や体力の消耗具合からかなり戦っていたことは見て分かる。だが、それでも傷一つないことや他の一科生や教員と比べてまだまだピンピンしていることから、それなりに実力を有しているのが窺える。
(喧嘩慣れしてる感じはしてたけど……思ってた以上だったみたいね。……やっぱり達也くんの周りって面白い♪)
「ところで、達也達が図書館に入ってるはずなんだが、華凜はどうする?」
「ん~……いや、アタシは遠慮しとくわ」
「はぁ?」
レオはまさか断られると思っていなかったので、驚きに変な声を上げてしまった。
エリカそっくりな華凜の性格上、喜んで突っ込んで行くと思っていたのだ。
華凜はそれに気付いて、ジト目をレオに向け、
「……まぁいいけど。あの中には達也くんもそうだけど、深雪さんにサキもいるんだもの。争ってる気配も感じないし、もうほとんど終わってるんじゃない? そんな所に行ったって面白くないじゃん」
「面白くないって……オイオイ」
「終わってるとこにノコノコ行って話聞くだけだったら、外でまだ隠れてるかもしれない敵を叩きのめす方がマシ。レオくんだって、行ったら全部終わってて達也くんとエリカに侵入者の捕縛手伝わされるだけかもしれないわよ?」
「あ~……そりゃメンドクセェな」
「でしょ? それだったら、まだ敵を探すか、自分が倒した奴ら縛る方が良くない?」
「オーケー、俺の負けだ。エリカの奴も中にいるから、ホントに雑用を押し付けられそうだからな」
レオは両手を上げて降参の意を示した。
「まぁ、俺もサイオンギリギリでこれ以上戦うのはキツイから、駆けつけて足手纏いになったらそれこそエリカにどんだけ馬鹿にされるか分かんねぇしな。俺は倒したアイツらを縛る手伝いしてくるわ」
「行ってら~」
華凜はヒラヒラと左手を振って、レオを送り出す。
その後も華凜は克人やレオと共に周囲の警戒に努めたが、結局先ほどのが最後の戦闘となったのであった。
本日はここまで