ショタっ子魔法師は風魔忍   作:魔法非戦士

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25.拠点襲撃

 先行していた咲宗は達也からのメールに首を傾げた。

 

「剣術部の桐原先輩? 確か壬生先輩と険悪な仲だったんじゃって……まさか好きな子に悪戯するって奴?」

 

 咲宗は呆れ顔を浮かべながら高速で移動していた。

 

「……まぁ、十文字会頭や達也がいいって言うならいいか。そこまでフォローする必要はボクにはないし」

 

 最短距離で移動していた咲宗は廃工場傍の森に到着して、先に潜んでいた部下と合流する。

 

「お疲れ様です」

 

「連中は?」

 

「襲撃に失敗したことはすでに気付いているようです。ただし逃げ出す様子はなく、待ち構えるつもりのようです」

 

「まぁ、一高襲撃に関してはニュースですでに流されてるから、そりゃ気づくよね。GPSとかも仕込んでただろうし。でも……待ち構えてるのか……。アンティナイトがあるから魔法は恐るるに足らずってことか」

 

「恐らくは。かなりの数の銃器も装備しています」

 

「どうせ連中はもう指名手配されるテロリストだからな。逃げ出したところでスポンサーやパトロンに始末されるだけだろうし、せめて十師族や一高の生徒を殺して手柄にするってわけか。ホントに小物になったなぁ……」

 

 咲宗は小さくため息を吐くも、すぐに顔を引き締める。

 

「もうすぐ十文字克人と司波達也一行がここを襲撃する。お前達は公安や警察が介入してこないように、突撃と同時に結界を発動しろ」

 

「「御意」」

 

「ボクも中に入って、司波達也達のフォローに回る。先に忠告しておくが、司波達也と司波深雪に余計な目を向けるな。特に司波達也は異能と思われる眼を持っている可能性がある。【今果心】の弟子であることも含めて最大限警戒しろ」

 

「「はっ!」」

 

「行け」

 

 咲宗の号令と共に部下達は音も立てずに所定の位置目指して飛び出していった。

 

 咲宗は廃工場の正面入り口近くに潜んで、達也達がやって来るのを待っていた。

 

 10分ほどすると、猛スピードで迫るエンジン音が耳に届く。

 視線の向けると、時速100kmほどで迫る大型オフロード車が閉じられた門扉目指して突っ込んできていた。

 

「……まさか」

 

 咲宗が何をするのか気づいたのと同時に、オフロード車にサイオンが纏わり付く。

 

 直後、オフロード車は門扉に突撃して、門扉を吹き飛ばして敷地内に飛び込んだ。

 

 しかし、オフロード車は大破するどころか凹み一つ作ることなく、ドリフトしながら停車した。

 

「やれやれ……宣戦布告ってわけかい?」

 

 咲宗は小さくため息を吐いて、木の上から飛び降りて、車から降りた達也達の傍に下り立つ。

 

 車から降りてきたレオが息を切らしていたことから、今の硬化魔法はレオによるものだと理解した。

 

「随分と無茶させるね、達也……」

 

「レオなら出来ると思っただけだ。無茶とは思っていない」

 

「あ、そう」

 

「おい、司波兄。コイツ、あの風火奈の双子の兄だよな? なんでコイツがここにいるんだ?」

 

 桐原が独特な呼び方で達也を呼びながら、訝しみながら咲宗について訊いてきた。

 

「ここのことを調べて教えてくれたのが咲宗だからです」

 

「コイツが?」

 

「まさか桐原先輩が来られるとは思っていませんでしたよ。壬生先輩の敵討ちですか?」

 

「なっ……!?」

 

 ニコリと笑みを浮かべながら先制パンチを放った咲宗に、桐原は目を丸くして動揺を露にする。

 それに全員が桐原の参戦理由を理解したが、露骨に反応を示したのは面白そうな顔を浮かべたエリカだけであった。レオと深雪は純粋に感心したような表情を浮かべていたが、エリカに比べれば薄い反応だった。

 

「桐原先輩のフォローは、達也達に任せていいんだよね?」

 

「それは俺が引き受ける。桐原の同行を許可したのは、俺だからな」

 

 克人の言葉に咲宗は小さく頷き、

 

「了解しました。ちなみに連中はすでに待ち構えています。アンティナイトと銃器を持ち出しているようなので、無策での特攻はお勧めしませんが」

 

「司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」

 

 克人が指揮を達也に押し付ける。

 達也はそれに驚くことも、戸惑うことも、尻込みすることもなく頷いた。

 

「レオ、お前はここで退路の確保。エリカはレオのアシストと、逃げ出そうとする奴の始末を頼む」

 

「……捕まえなくていいの?」

 

「司一を捕えれば十分だ。他は余計なリスクまで背負う必要はない」

 

「了解」

 

「会頭は桐原先輩と左手を迂回して裏口へ回ってください」

 

「分かった」

 

「……まぁいいか。逃げ出す奴は斬り捨ててやるぜ」

 

「咲宗は……好きに動いてくれ。俺達はこのまま正面から突入するから、逃げ出した連中を仕留めるも良し。会頭やレオ達のフォローに回るも良し。証拠の品を探し出すのも良しだ」

 

 さりげなく『自分達のフォローはいらない』と言い放った達也に、咲宗は肩を竦める。

 

「了解。なら、ボクは上から行くよ」

 

「分かった。……では、各自健闘を」

 

 桐原が駆け出し、その後ろを克人が威風堂々と続く。

 

 咲宗は一瞬で姿を消し、エリカとレオはその場で自然な足取りで工場内に足を踏み入れる達也達を見送った。

 

 

 

 咲宗は難なく廃工場内に忍び込んだ。

 

 達也と深雪を追いかけることも出来たが、流石に敵地で警戒しているであろう達也に下手な行動を見せるわけにはいかなかった。

 

「ま、今後も機会はあるだろうから、今は大人しく馬鹿共を潰すとしよっか」

 

 咲宗は足音も立てずに駆け出し、工場内を移動する。

 すでに廃工場内の地図は頭の中にあり、ある程度は敵の配置も把握していた。

 

 風の如く廊下を駆け抜ける咲宗。

 その前方にサブマシンガンを構えながら周囲を警戒する男達を捉えた。

 

 咲宗は素早く両手で印を結び、

 

「風魔忍術『空手裏剣』」

 

 手刀にした両手を素早く広げるように振るう。

 同時にその両手から小さな風の刃が数枚放たれ、高速で飛翔して男達の首筋を一瞬で切り裂いた。

 

「がっ――!?」

 

「な、なん……!?」

 

「う、そ…だ……」

 

 男達は何が何だか分からないと言った顔のままサブマシンガンを落として崩れ落ちる。

 

 咲宗は見向きもせずにその上を跳び越え、その後も次々と視界に捉えた男達を仕留めていく。

 

「……殺し過ぎるのも問題かな」

 

 周囲に気配を感じなくなったところで独り言を呟く。

 

 すると妙な冷気を感じ、首を傾げた咲宗は印を組んで精霊を通して、下の階の様子を窺うことにした。

 

 そこで目にしたのは不気味な氷像の群れを見据える深雪の姿。

 深雪の身体から凄まじいサイオンが噴き出していることから、この極寒地獄は深雪が生み出したのだと誰もが確信するだろう。

 

「おやまぁ……もしかして『ニブルヘイム』? 何とまぁ恐ろしい魔法を……。やっぱり深雪さんも只者じゃないか」

 

 そして、もう1つ。

 咲宗は異様な光景を見逃さなかった。

 

「連中の足元に散らばってるのは銃の部品……? ……壊れたって感じでもない。綺麗に分解されたみたいだな……。これも深雪さんか? ……達也はもっと奥かな?」

 

 精霊を操って、廃工場の奥に移動させる。

 

 少し先にある広い部屋に、達也は自然体で立っていた。

 その右手には拳銃型CADが握られており、達也の向かいには肩や太腿から血を流して倒れる男達と、狼狽して後ずさる司一がいた。

 

 男達の周りには先ほどの部屋同様バラバラに解体された銃の部品が散らばっていた。

 

「達也の魔法か……。まさか『分解』? 二科生の達也が?」

 

 馬鹿にしているわけではなく、純然たる事実として咲宗は呟く。

 見下しているわけではない。純粋に客観的に魔法実技と魔法力に劣る二科生がそこまで高度な魔法が使えるのは普通であればあり得ない。

 

「……【今果心】の弟子であるのはただの偶然ってわけでもなさそうだな……。やれやれ……本当に困った兄妹だなぁ」

 

 咲宗は術を解いて、ため息を吐いた。

  

「実戦もかなり経験してるのに、大した情報はない……。あ~駄目だ。調べたら絶対ヤバイモノが出る」

 

 嫌な予感がビンビンするため、達也達に探りを入れることを潔く諦める咲宗。

 

 気を切り替えて移動を再開し、軽やかなステップで素早く一階に下りる。

 そして2分もせずに達也と司一がいる部屋に到着すると、そこには桐原もいて、司一が悲鳴を上げながら右腕を押さえて蹲っていた。

 

 桐原は大きく肩で息をしながら、憤怒の表情で司一を見下ろしていた。

 僅かにサイオンノイズを感じることから、キャスト・ジャミングが使われたことに咲宗は気づいていたが、刃引きされた刀であることから、キャスト・ジャミング下でも魔法を発動して腕を斬り落としたことに咲宗は純粋に感心した顔を浮かべる。

 

「くたばれえええ!!」

 

 桐原が刀を振り上げて、雄叫びを上げながら更なる追撃を放とうとする。

 

 達也はそれを無表情で見つめていたが、その時突風が吹いて桐原に叩きつけられた。

 

「うおっ!?」

 

 桐原は体勢を崩して尻もちをついてしまう。

 

 達也は顔を横に向け、桐原に向けて右腕を突き出す咲宗を見る。

 

「……後輩の身で申し訳ありませんが、桐原先輩。感情に任せて人を殺すのは、あまりお勧めしませんよ」

 

「……てめぇ」

 

 

「そのへんにしておけ、桐原」

 

  

 咲宗を睨みつける桐原に、切り裂かれて穴が開いた壁から現れた克人が重苦しく声をかけて制止する。

 

 克人の叱責で頭が冷えた桐原は、僅かに顔を顰めるも小さく頷く。

 

 克人は未だに呻き苦しむ司一に視線を向け、僅かに眉間に皺を寄せてCADを操作する。

 その直後、ほぼタイムラグもなく、司一の右腕の切断面から煙と肉が焼ける匂いが立ち上がる。

 

 乱暴な止血を施された司一は更なる激痛に襲われ、失禁しながら意識を失った。

 

 最後に克人は周囲を見渡し、

 

「……お前達。……やり過ぎだ」

 

 と、苦言を呈するのだった。 

 

 

 

 『ブランシュ』リーダー司一とその一味を制圧した達也達は、後始末を十文字に押し付けることになった。

 

 咲宗は部下に連絡して結界を解き、二階の死体を始末するように命じた。

 その後に遥にメールを送り待機している公安達を動かすことにした。

 

 克人も実家に連絡して、十文字家の人間を呼び寄せていた。

 と言っても、あくまで魔法の痕跡の後始末と、司一達を公安に引き渡すためであり、咲宗の話を聞いた通りに公安に手柄を譲るつもりであった。

 

「咲宗」

 

「ん? なんだい?」

 

 形としての聞き取りを終え、廃工場から引き上げる直前、達也は咲宗に声をかけた。

 

「中でのことなんだが」

 

「誰にも言わないよ。会頭からも口止めされてるしね」

 

 咲宗は肩を竦めて、達也達の力について口外しないと約束した。

 

「やっぱり達也達のことは首を突っ込むとヤバそうだって勘が言ってる。だから、【今果心】と繋がってる君達に敵対する気はないさ」

 

「酷い言いがかりな気がするが、ありがとうと言っておこう」

 

「どうも。じゃあ、ボクはここで」

 

「へ? まだなんかあるの?」

 

 妙に落ち込んでいる深雪を元気づけようとしていたエリカが、首を傾げながら咲宗に顔を向ける。

 レオや達也、そして少し離れた場所に立っていた桐原も咲宗に顔を向けた。

 

「連中の後ろにいた奴らをちょっとね」

 

 咲宗の言葉に達也は目を細め、桐原達は顔を鋭くする。

 

「ウクライナ・ベラルーシ再分離独立派か? それとも……」

 

「独立派の方だよ。ブランシュのパトロンだからね。近くに独立派の人間が潜んでると思うんだよ。まぁ、もう逃げてるかもしれないけど」

 

「なるほどな」

 

「って言うか、よく分かったね、達也。奴らの後ろ盾」

 

「『邪眼』はベラルーシが開発した魔法だからな。それにアンティナイトの入手先と一高を狙った理由を考えたら、自然とそこに行きつく」

 

「普通は行きつかないから。ボクはもうこれ以上ツッコまないよ」

 

 咲宗はジト目で達也にツッコみ、背を向ける。

 

「多分、もう大丈夫だと思うけど。しばらくは周りに気を付けときなよ」

 

 忠告した咲宗は返事も聞かずに跳び上がったかと思ったら、そのまま空気に溶けるように姿を消した。

 

 一瞬で姿が見えなくなった咲宗に、桐原は目を丸くする。

 

「……おい、司波兄。あいつは一体何者なんだ?」

 

「裏工作が得意な一科生ですよ」

 

「……アイツの妹も同類か?」

 

「華凜のことですか? 華凜は違いますよ」

 

「ちっ……今年の兄妹はつくづく変なのが揃ってやがる」

 

 桐原の酷い侮辱に達也は反論しようと思ったが、残念ながら現状が普通ではないことは達也にも理解できていたのでギリギリのところで耐えた。

 

「あ、そういえば、剣術部って少し前に華凜にボコボコにされたんだっけ?」

 

 エリカが思い出したように呟く。

 

 それに桐原が顔を顰め、

 

「言っとくが俺はやられてねぇからな。司波兄にやられた騒動の反省ってことで他の新入部員の指導や用具の手入れとかしてて、練習には参加してなかったんでな」

 

「じゃあ、華凜に勝てる自信はあるんですか?」

 

「それは……ねぇな」

 

 悔し気に苦々しく顔を歪めるも正直に答えた桐原に、達也達も正直に意外感を顔に浮かべた。

 

 それを見逃さなかった桐原は更に顔を顰めながら、視線を地面へと向ける。

 

「あの妹の剣の腕は壬生にも引けを取ってねぇ。それにアイツの動きに剣筋は……間違いなく人を斬った経験がある奴のもんだ。お前みたいにな」

 

「……」

 

「あのチビ兄もお前側だな。昔海軍にいた俺の親父や親父の戦友達に似た空気を纏ってやがる。ったく……お前みたいな奴が二科生とかどんな冗談だって話だぜ」

 

 桐原はくつくつと自虐的に笑い、達也達に背を向ける。

 

「安心しな。俺もお前らの、というか今回のことは誰にも話さねぇよ。会頭に言われたってのもあるが、話したところで誰も信じねぇだろうしな、()()

 

「……ありがとうございます」

 

 達也は礼儀として礼を言ったが、桐原はそれに何も答えることなく、車の方へと歩き去って行った。

 

 

 こうして、達也達のブランシュとの戦いは終わりを迎えたのであった。 

 

 

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