ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
そして……ストック切れっす!
数話ほど閑話(忘れられてる雫ちゃんへの贖罪)など書いて、九校戦編に入ります
咲宗は黒ジャージに着替え、部下達と共にとある商業ビルの屋上に立っていた。
その向かいにある4階建ての小さなビルを見下ろしながら、咲宗は小さくため息を吐く。
「はぁ……逃げ出す様子は無し、か。とっとと出て行ってくれれば、残業なんてしなくて済んだのに」
「自分達のところまで手が届かないとでも思っているのではないですか?」
「だが、いくら何でも十師族を馬鹿にしすぎじゃないか? ブランシュに手が出せなかったのは生徒がいたからってだけだろうに」
「馬鹿にしてるから、あんなことをしでかしたんだろ。東京であれば四葉や九島は動かないとでも高を括っているんじゃないか?」
「九島はともかく、四葉がそんなこと気にするわけないでしょうに。所詮連中も大亜連合に踊らされたと言うことですかね」
「その可能性は高い」
「で、頭領。どう動くんスか?」
思い思いに話していた部下達は、主である咲宗に顔を向ける。
咲宗は腕を組んで眉間に皺を寄せる。
「……正当に真正面から行こうか。忍びとして、だけどね」
「へ? 真正面からっスか?」
「必要以上の幻術は使わないと?」
「うん」
「大丈夫なので? 確かに大した武装などは確認されてませんが……」
「問題は連中じゃなくて周り」
「周りですと?」
「十師族や公安に国防軍、そして各国の諜報機関やマフィアとかの非合法組織など諸々。そして九重寺。流石にあそこまで派手にやったんだ。ボク達のことを見てないと思う方が難しいよ」
「……なるほど。下手に手の内を見せない方がいいと」
「風魔の秘術はね。幅広く知られてる術は使ってもいいよ」
主の言葉に部下達は真剣な顔で頷き、装備を確認し直す。
咲宗は身体の調子を確認しながら周囲の気配を探る。
(…………ちっ。雑な奴が多すぎて邪魔だな。これじゃあ手練れを探り出すのは無理だな)
中途半端に気配を隠そうとしている者や未熟な結界を使っている者が多く、そちらに意識を取られてしまう。
咲宗は舌打ちして、呑気に潜んでいるつもりのベラルーシ再分離独立派の処分に意識を集中することにした。
「見張られてるだろうから、殺しは無しだ。あくまで撃退と捕縛。無力化した後、公安に引き渡す」
「「「「「「 はっ! 」」」」」」
「じゃ、行こうか」
言うと同時に咲宗はビルの屋上から飛び出し、部下達がその後に続く。
軽々と道路を飛び越えてビルの屋上に音も立てずに着地する。
その15分後。
ビルの近くで待機していた公安に、遥から連絡が入る。
『協力者より
――捕縛完了、後はお好きにどうぞ』
翌日の深夜。
色々と後始末を終えた咲宗は九重寺へと赴いていた。
明かり一つない暗黒に包まれた本堂の中に、咲宗と八雲は向き合って座り、まっすぐに見つめ合っていた。
「さてと……まずは、お疲れ様と言うべきかな?」
「まぁ、少なからずブランシュ日本支部とベラルーシ再分離独立派日本工作員は掃討出来たでしょう。両母体と大亜連合にまでは手が出せませんがね」
「そうだねぇ。流石に海の向こうにまでは無理だ。まぁ、そこは十師族や魔法協会、外務省に任せるとしよう。僕らの仕事はあくまで国内の守護だ」
「あなたの、でしょう。我らはまだ主無き身。今回は前回の尻拭いと友誼のためにすぎません。自分の縄張りにいたというのもありましたがね」
「風魔はまだ悲願を諦めてないのかい?」
「と言うよりは、結局求めざるを得ない、というのが正しいでしょうね。エレメンツの血は意外と根深いんですよ。特にこの身は」
「風と火のエレメンツか……。確かに遺伝子が強く出てもおかしくはないねぇ」
「それで? わざわざ事件を労うために呼んだわけじゃないでしょう。本題をお願いします。流石に他の忍びの拠点、【今果心】の懐にいては落ち着けませんので」
「あまりそうは見えないけどねぇ。まぁ、いい」
八雲は飄々とした薄笑いを浮かべたまま顎を擦りながら、小さく頷いた。
「君の事だ。大方予想は付いてるだろうけど……達也君達のことでね」
「……はぁ」
咲宗はため息を吐いて腕を組む。
「あの兄妹を探るつもりはありませんよ。部下にも徹底させてます」
「流石だねぇ。その方がいい」
「やっぱり碌でもないことが隠れてそうだ」
「僕の方から風魔
「感謝します。ま、少なくとも司波達也とは同級生でいる間は敵対する気はありませんよ。……線引きはさせていただきますがね」
「それは当然だ。僕だってあの兄妹とはあくまで契約関係のようなもので、協力するのは気紛れに過ぎないからね」
「……なるほど」
八雲の言い方で達也との関係をある程度察する咲宗。
「それで君はこれからどう動くつもりなのかな? まだ七草家と十文字家のお手伝いを続けるのかい?」
「……まぁ、仕方無き事とは言え、少々無理矢理で騙し討ちのような手段を取りましたからね。そこをツッコまれれば……少なくとも彼女達が生徒会長である内は今のままでしょう」
「ふむ……これは忠告ではないけど――」
「心得てますよ。どちらの下にも就く気はありません」
「助かるよ。流石に君が十師族の下に就くとなるとパワーバランスが崩れかねないから」
「そう警戒しなくとも両家に就く気はないですよ。今の七草家の当主は暗躍家を気取ってますが、核心的な部分で手を抜かる質で損得勘定が強いので信用出来ません。ご長男の次期当主殿も同様で、長女殿は性格的に忍びが使える質ではないですからね。十文字家も同じく、忍びを使うには性格がまっすぐ過ぎる。人間としては嫌いではないですが、忍びの主としては少々格が足りない」
「おやおや、これは手厳しい」
「それなら、まだ司波達也の方がいいですね。まぁ、貴殿がいるので売込みする気はないですが」
「それは助かるよ。僕も色々あってねぇ。まだあの兄妹から離れる気はないんだ」
「……
「……」
八雲は何も答えず、表情も変えなかったが、明らかに雰囲気が冷え込んだ。
それに咲宗は両手を上げて、
「口が滑りました。申し訳ない」
「……やれやれ。本当に君は優秀だねぇ」
八雲は褒め言葉を口にするが、纏う雰囲気は真逆のものだった。
この場合の『優秀』は『油断できない』という意味だと咲宗も聞き間違えることはなかった。
「一応……風魔も細々ではありますが繋がりはありますので」
「しかし、今回の一件で風魔の名は確実に魔法師社会で広がっていくだろう。それについてはどうするつもりだい? これまで風魔は陰で生き続けた正しく『
「それについては現当主と話をして決めるつもりです。正直、あなたを始め、藤林、服部など表に名を出している忍術使いもいますので、これ以上無理に名を隠す必要はない気もしています。……今の身内の腐敗を見ると尚更。ただし、そうなると火堂家にも話をしないといけないので、すぐにとはいかないでしょう」
「なるほどぉ……。うん、承知したよ。それなら、
「はぁ……感謝します。あぁ、そうだ。司波達也とは今回の件で貸しが出来ましたので、場合によっては貴殿にも何かしら話が来るやもしれません」
「ふむ……まぁ、それは内容次第かな?」
「もちろん。協力してやってくれなどと言う気はないですよ。ただ、まだ彼とは七草家など関係なく、繋がりを持ち、場合によっては協力し合うことになる、ということをお伝えしておきたいだけです」
「うん。了解した。それならそれで構わないけど、あまり踏み込むと嫌でも見たくないものが見えちゃうから気を付けなさい」
「心得ておきます。では、今日はこれにて」
咲宗は座ったまま頭を深く下げ、立ち上がると同時に姿を消す。
八雲は気配が消えたことを確認して、顎を擦り、
「いやはや……ホント、達也君の周りには面白い子が集まったものだ。今後も大変そうだねぇ、達也君」
そして、その翌日。
学校も再開し、一応は一高内は日常を取り戻した。
同盟は事件の関係者であった可能性があることから完全に沈黙、解散して学内で例のトリコロールバンドをする者はいなくなった。もっとも、あの襲撃事件など無くとも、討論会で完全論破されてしまったので、立場がなくなっただけなのだが。
しかし、トップである司一、その周囲にいた者達や壬生が入院したことから、エガリテは完全に活動を停止させられてしまった。
現在入院している面々は、暴れることもなく、むしろ反省の弁を述べて罪悪感に苛まれているらしい。
マインドコントロール下にあったとはいえ、自分達が恐ろしい事をしていた記憶は消えないし、その事実も消えることはない。
自分達はテロ組織に所属し、犯罪に協力していたというのは、あまりにも重く苦しかった。
幸いなのは、公安や警察は咲宗との取引を守り、彼らを罪に問うことはなかった。
学校側も被害届を出さなかったことも大きく影響している。学校側からすれば、ただの不始末の隠蔽工作に過ぎないが。
つまり外聞的には『ブランシュの襲撃と討論会が重なったのはただの偶然であり、ブランシュ関係者に一高の生徒は誰もおらず、図書館には機密文書奪取を止めに行った生徒以外一高生は誰もいなかった』と言うことになった。
これを大多数の生徒達は信じている。
真相を知っているのは、生徒会、風紀委員、部活連の一部、そして達也達と桐原のみ。そして廃工場で起きたことに関しては突入したメンバーのみしか真相を知らない。
真由美や摩利さえも、廃工場で何が起きたかは聞かされていない。何となく察してはいるようだが。そもそも廃工場に突入したことすら、知っているのは教職員、真由美、摩利、壬生、華凜くらいである。
ということで……咲宗は現在生徒会室にいた。
真由美と克人に呼ばれて。
摩利、達也、深雪も同席しており、一応報告会という名目で集められた。
「――ということで、壬生さん達ブランシュにマインドコントロールされていた子達は被害者ということでお咎め無し。退院したら、これまで通り学校に通えるわ」
「そうですか」
「良かったです……」
真由美の報告に達也は淡々と頷き、深雪は笑みを浮かべてホッとする。
摩利や克人も小さく頷いていた。
「咲宗君の方はどうなの?」
「……はい」
いつの間にか下の名前呼びになっていることに大いに疑問を感じながらも、咲宗はそれを押し殺して報告することにした。
「ブランシュは関東近郊に関しては判明している拠点は全て占拠。残党もほぼ全員確保しました。マインドコントロールされていると思われる被害者は順次保護して治療を始めているようです。と言っても、あくまでブランシュ日本支部の構成員は、ですがね」
「……つまり、まだブランシュ勢力が動いていると?」
「今の所、それはないですね。そこまで公安や内情、国防軍も無能ではないですから。外国の母体やその協力者達までは手が伸ばせないということですよ。ウクライナ・ベラルーシ再分離独立派も日本にいた連中は全員捕縛済み。現在公安を始めとする機関が協力者を捜査中ですが、あまり上手く行ってないようですね」
「なるほど。……お前達の方ではどうなのだ?」
「残念ですが同じく、ですね。今のところ網に引っかかる連中はいません。連中も馬鹿じゃありません。今は日本から距離を置くと思います。なので、しばらくは大丈夫かと」
咲宗の報告に真由美と摩利は僅かにホッとした顔を浮かべる。
「さて……これで拙者はお役御免ですかね?」
「……そうねぇ。そう言ってあげたいんだけど……」
「今回のお前の働きは大きいが、少々やり方に問題があったと思う」
「そうでしょうか。拙者はあなた方が望まれるであろう結果を出すために全力を尽くしただけなのですが……」
咲宗は胡散臭い笑みを浮かべて首を傾げる。
真由美と克人は僅かに眉間に皺を寄せる。
「情報共有の不備。特にブランシュ襲撃するタイミングと、壬生達への暗示に関する報告をしなかったことは看過出来ることではないと思うが?」
「それについてはすでにお答えしたはずです。下手にお伝えしたところで、満足に待ち構えることなど出来なかったと愚考していました。図書館に陣を張ることは簡単ですが、そうなると討論会をしていた講堂を押さえられていたか。もしくは、部活動などをしていた生徒達が殺害、または捕縛されて人質にされていた可能性が高かったと思いますよ?」
咲宗の反論に三巨頭は更に深く眉を顰める。
「壬生先輩達の暗示に関しても、判明したのは襲撃前日です。報告したところで出来たのは無理矢理捕縛することくらいでしょう。そうするとブランシュは逃げ、討論会は中止となり、更に同盟との軋轢は深まった可能性が高かったでしょうね」
「う……」
「まぁ、それでも盟約違反であることは事実。それに公安との取引に七草家と十文字家の名を勝手に使ったこともありますので、少なくとも七草会長の任期中はお手伝いを続けるとしましょう。馬鹿が報復に来る可能性もありますので」
そう言った咲宗は立ち上がって、達也に顔を向ける。
「貸し、忘れないでよ」
「分かってるさ」
「ま、今のところは手伝って貰うことはないけどさ」
肩を竦めた咲宗はそのまま生徒会室を後にする。
咲宗を見送った真由美は机に突っ伏した。
「はぁ~……疲れたぁ~」
「やれやれ……本当に扱いに困る奴だ。まぁ、まだ味方に繋ぎ止めることが出来たことは良しと思うしかないな」
摩利もため息を吐いて、椅子にもたれる。
克人は腕を組んだまま目を伏せ、
「あくまで協力体制であることを言いたかったのだろう。我々十師族の下に組したと周りから思われないようにな」
「だから、今後もある程度は勝手に動くってわけか……」
「はぁ……でも、私としてははっきり言ってくれてありがたいわ。うちの父から可能であれば勧誘しろって言われてたし」
「おいおい……そんなこと十文字やあたし達の前で言っていいのか?」
「良いわよ別に。だって十文字君もそんな気ないんでしょ?」
「ああ。確かに十文字家としてはあの諜報能力は魅力だが、今回の風火奈の動きを考えると、手綱を握り操れる自信はないとの結論に至った」
「うちも無理。絶対父と咲宗くんの相性悪いと思うし。ということで、このままの状態の維持が理想ってわけね」
「まぁ、お前達がそれでいいなら、こちらは構わんが……」
摩利は呆れた顔で小さくため息を吐く。
「とりあえず、これでブランシュについては解決ということで良いんだな?」
「そうね……。まだ油断は出来ないし、壬生さん達のアフターケアがあるけど、概ね解決と言っていいでしょうね」
「もっとも、この機会を無駄にせず、討論会で七草が打ち込んだ楔を活かさねばならん。むしろ、俺達の仕事はここからが本番と言うべきだろう」
「そうね。完全に取り払うことは出来ないでしょうけど、出来る限り差別意識を薄めなければ、壬生さん達同盟の子達が苦しんだ意味が無くなってしまうものね」
憂いに顔を俯く真由美の言葉に、摩利や深雪も力強く頷く。
この事件をきっかけに、一高も少しずつ変わっていくことになる。
その中心に達也がいるのは言うまでもなく、咲宗がそれに振り回されるのも、また言うまでもないのであった。
しばしお待ちくださいまし