ショタっ子魔法師は風魔忍   作:魔法非戦士

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4.なんか気づいたら一緒になった

 咲宗はじぃ~~っと見つめてくる少女の視線に、今すぐ逃げ出したい衝動に襲われていた。

 

 やや灰色がかった黒のショートヘアに、表情が乏しいも可愛らしい少女。

 

 間違いなく【ワンダーランド】で足を挫いて逃げ遅れ、咲宗が助けた少女だった。

 

(なんてこったい……)

 

 まさか同級生どころかクラスメイト。

 しかも咲宗の予想が間違ってなければ、自分の席はその少女の前の可能性が超高い。

 

 ちなみにその少女の傍には、不思議そうな表情を浮かべている栗色のツインテールのプロポーション抜群の少女。

 

 だが、ここで馬鹿正直に反応すれば、面倒事になりそうな気がする。

 

 ということで、

 

「あの……どこかでお会いしましたか?」

 

 困惑気な表情を浮かべて首を傾げ、惚けることにした。

 

「ワンダーランドで会った」

 

「ワンダーランド……? あのアミューズメントパークの? ボク、行ったことないんですけど……」

 

「あなたにそっくりだった」

 

「そ、そう言われても……」

 

 咲宗は演技に全力を注いでいた。

 そこに助け舟を出してくれたのは、傍にいた少女だった。

 

「雫。ちょっと落ち着いて。彼も困ってるじゃない」

 

「ほのか……。うん……」

 

「ごめんね? 私達、一昨日のワンダーランドの事件の現場にいたの。それで雫は誰かに助けてもらったみたいなんだけど……」

 

「それがボクに似ていたと?」

 

「多分……」

 

 ほのかも困惑気な表情で親友に顔を向け、雫は無表情なまま頷いた。

 もちろん、咲宗はそれに頷くことはない。

 

 そのまま惚け続けて、ほのかのフォローをうまく利用してその場は誤魔化し続けた。

 

 しかし、やはり咲宗の席は雫の前だった。

 座って端末にIDカードをセットして、インフォメーション等を確認するフリを始める。

 

 

 何故なら、今も雫の焼き付くような視線が後頭部に注がれているからだ。

 

 

(……まいったなぁ。まさかあの子とこんな再会をするとは……)

 

 中学生だと思っていた(自分の事は棚に上げる)のだが、まさかの同級生でクラスメイトになるとは。

 いや、あの時はまだ中学を卒業したばかりだったのだから、間違ってはいない。

 

 だが、ここで再会するのはあまりにも想定外だった。

 いや、任務遂行に気を取られていたので、また会う可能性を考えて声や顔を変えるなどの処置をしていなかった。間違いなく自分のミスだった。

 

 そして、更なるミスに気づいた。

 

(あれ? 別に惚けなくて良かったんじゃ? 通りすがりってことにしとけば良かったじゃん)

 

 別に決定的な場面を見られたわけではない。

 華凜に事情を説明して、一緒にワンダーランドに行って、あの騒動ではぐれたことにしてもらえば良かった。

 

 それに気づいた瞬間、咲宗は頭を打ち付けたくなったが、必死に耐える。

 

 未だ視線は後頭部に突き刺さっている。

 ここまで視線を向けられると、気配を消すわけにはいかない。

 

 その時、教室が大きく騒めいた。

 後頭部の視線も外れ、ほのかが動揺したのが気配で分かった。

 

 周囲の視線が向けられている方向を見ると、深雪がいた。

 

 深雪は優雅な足取りで、咲宗と雫が座っている列に進んできた。

 どうやら雫の背後が深雪の席のようだ。

 

(……嫌な席になったな)

 

 雫でも厄介なのに、周囲の視線が自分の近くに集まるというのは意識を逸らしにくい。

 ほのかや雫の意識が深雪に移ったのを感じ取った咲宗は、完璧にというほどではないが気配を薄める。

 

(……授業見学、華凜の方に合流しよう)

 

 咲宗は素早くメールを送る。

 しかし、

 

『例の首席さんの情報欲しいからガンバ! 来ても無視するから』 

 

 と、撃沈されたのだった。

 

 

 

 オリエンテーション込みのホームルームが終わり、10分後から授業見学となった。

 雫は咲宗に声をかけようとしたが、ほのかが男子に絡まれていた深雪に声をかけたので、数秒そっちに意識を向けた。しかし、すぐに咲宗に視線を戻したのだが、すでに席に咲宗の姿はなかった。

 数回パチクリと瞬きして、周囲を見渡すもやはり咲宗の姿はなく、首を傾げたところでほのかに声をかけられて授業見学に向かうことにした。

 

 だが、授業見学の場に咲宗の姿はなく、雫は眉を顰めるのだった。

 

 そして、その咲宗は……教室にいた。

 

 ちなみにさっきは雫の視線が外れた瞬間に、机の下に潜り込んで『隠れ蓑』を発動して身を隠していたのだ。

 

「やれやれ……こうなれば、開き直ってとことん逃げてやる」

 

 咲宗は教室ですることはないので、教室を出て校舎を回ることにした。

 習性として、早めに高校内の地理を把握しておきたいのだ。

 

 足音を立てずに校舎内を移動する。

 廊下にはところどころ生徒の姿が溢れていた。二科生も含めて授業見学だとしても、多すぎる気がした。

 

(授業時間だけど、思ったより自由に動けるのか? いや、二科生が多く見えるから、指導員がいないから授業を抜け出してる奴がいるってわけか)

 

 それほどに優秀なのか、それともすでに諦めているのか。

 

(まぁ、歩き回る分にはあまり目立たなくていいのかな?)

 

 そう判断した咲宗はフラリフラリと校舎内をあちこち歩き回る。

 時々実習授業を覗いたりしていたが、やはり実戦という視点から離れているため、物凄く単調に思えてしまった。

 

 もちろん、それが当たり前なのだが、すでに実戦を経験している咲宗からすれば物足りなさを感じていた。

 

 そうしている内に食堂が開く時間となったので、そのまま向かうことにした。

 食堂に入ってすぐにメニューを選択して注文し、4人掛けのテーブルに座る。

 

 手を合わせて食事を始める。

 

 すると、隣のテーブルに人がやってきた。

 

「工房見学楽しかったですね」

 

「結構細かい作業だったよな。ちょっと自信ねぇな……」

 

「アンタには無理に決まってるでしょ」

 

「んだと! ガサツなお前だって出来るわけねぇだろ!」

 

「誰がガサツですって!?」

 

「ちょ、ちょっと2人とも……!」

 

「目立ってるぞ」

 

「「う……」」

 

 座って来たのは、昨日咲宗達が注目した3人+1人だった。

 

 増えたのは濃いめの茶髪の男子生徒。

 恐らくクラスメイトなのだろうと、咲宗は推測して食事を続ける。

 

 その後、彼らが和気藹々と食事をしていると、深雪達A組陣が食堂にやってきた。

 深雪は突如咲宗の隣のテーブルに駆け寄ってきた。

 

「お兄様!」

 

「深雪」

 

(お兄様? 双子? いや、あまり似てないな。義理兄妹か早生まれ、か)

 

 咲宗は視線を向けずに今の会話から2人の関係を推測する。

 

 どちらにしろ妹と兄が食事を共にするのはおかしなことではないので、咲宗はそこで深雪達から意識を外したが、直後耳に信じられない声が聞こえてきた。

 

「ちょっと待ってよ、司波さん。ウィードと相席なんて」

 

「一科生と二科生のケジメはつけようよ」

 

「邪魔しちゃ悪いしさ」

 

「それか食べ終わってるアイツにどいてもらえばいいんじゃないか?」

 

 初っ端から差別用語が飛び出て、意味が分からないケジメに、誰一人邪魔と言っていないし、何故他にも席が空いているのにどかなければいけないのか。

 ツッコミどころしかない言い分に咲宗はもちろん、深雪の兄やそのクラスメイト達も呆れた表情を浮かべていた。

 

 それが馬鹿にされていると思ったのか、A組陣は更にヒートアップし始めた。

 

 それに明るい髪の女子生徒が苛立ちを顔に浮かべ、一触即発ムードになったその時。

 

「なにこれ?」

 

 華凜が現れた。

 その声は決して大きくなかったが、するりとその喧騒に響き渡り、視線が華凜に集中した。

 

 華凜は咲宗に顔を向け、

 

「なんでボッチでご飯食べてんの?」

 

 隣の席や集団から驚きの声や驚いた気配が広がった。

 誰も咲宗のことに気づいていなかったのだ。

 

「ボッチで動いてたからね。そう言うそっちこそボッチじゃん」

 

「同じにしないでくれる? アタシは友達と一緒に来たのに、ボッチで飯食ってる高校デビュー失敗した兄を見つけたから、わざわざ断ってきてあげたの」

 

「とりあえず、高校デビュー失敗は否定したいかな」

 

 ジト目を向けてくる華凜に、咲宗は肩を竦める。

 更にジト目を深める華凜は、横に視線を向ける。

 

「で? そこの騒動は? 主席さんがいるってことはクラスメイト達じゃないの?」

 

「そうなんだけどね。ちょっと主張を聞いて、関わりたくないなって」

 

「はぁ?」

 

「あのさ、ボクと華凜が一緒にご飯を食べようとしたらさ、A組とB組のケジメはつけようよ、とか言われて止められたらどう思う?」

 

「思考回路の仕組みから違うんだなって思う。気持ち悪い」

 

「うん、もうちょっとオブラートを大事にしようか。でさ、一緒にご飯を食べたいからって食べ終わってる人に席を空けろって言うのはどう思う?」

 

「一般的な価値観とはとっっても違う世界で生きてきたんだなって思う。気持ち悪い」

 

「うん、だからもうちょっとオブラートにね。じゃあさ、他人の家族に対して補欠って言って見下すのってどう思う?」

 

「頭狂ってるなって思う。自分の家族にも言ってるんじゃない? だったら、魔法を使えない人達が造ったものは使うなってぇのよ。気持ち悪い、ホントに死ねばいいのに」

 

「うん、せめて生きるのは認めてあげようね。それこそ、その頭狂ってる人達や人間主義と一緒になっちゃうよ?」

 

「ヤダ無理」

 

「でしょ?」

 

 咲宗と華凜は同時にA組の面々に顔を向ける。

 

 流れる様な会話に呆気に取られていたA組陣は、徐々にその内容を理解したのか、盛大に顔を歪めて赤くする。

 二科生陣は呆気に取られたり、噴き出して笑いだしたりと様々な反応を示した。

 

 華凜は、深雪とすぐ傍に腰掛けている黒髪の男子生徒を交互に見る。

 

「……兄妹なの?」

 

「らしいよ。というわけで、ちょっとね」

 

「理解した。ボッチ頑張って」

 

「うるさいよ」

 

「じゃあ、主席さん。ここ座る?」

 

 華凜は深雪に顔を向けて、唐突にそう言った。

 

 深雪を始め、騒動の当人達は目を丸くする。

 

「どうせ他に来る人いないし、こいつが場所ズレれば席が空くから、そしたらお兄さんの隣に座れるよ。あ、こいつが隣が嫌ならアタシが座ってあげるよ?」

 

「……うん、まぁ、いいんだけどさ」

 

 色々と複雑な心境に襲われる咲宗。

 

 そして、納得できない者達もいる。

 

「ちょっと待てよ! なんで俺達が引く話になってるんだ!?」

 

 A組の男子生徒が怒りを露にするが、華凜は心底馬鹿にした顔で、

 

「だって主席さんはお兄さんと食べたいんでしょ? だったら、そっちが諦めるしかないじゃん。一緒に暮らしてる兄妹に、一科生と二科生のケジメとか馬鹿じゃないの?」

 

「家ではそうかもしれないけど、ここは学校だぞ!」

 

「授業ならまだ分かるけど、昼休みまでケジメつける必要ないでしょ? それに主席さんが入学式で言ってたじゃん。『皆等しく!』ってさ。だったら、二科生だろうが誰だろうが仲良くするのはおかしくないじゃん。宣誓した本人が差別するわけには行かないと思うけど?」

 

「ぐっ……!」

 

「ちなみに、アタシ達にどけって言うのは無しね。そっちの理論でも一科生だから言うこと聞く必要性ないし? そもそも初対面の相手にどけって言われて、どく理由ないし」

 

「ぐぐっ……!」

 

 男子生徒は血管が切れるのではないかと心配になるほど顔を赤くする。

 後ろの者達も悔し気に顔を顰めている。

 

 咲宗は小さくため息を吐く。

 

「とりあえず、華凜も御飯買ってきたら?」

 

「あ、そだね。じゃあ、行こ。主席さん」

 

「え? あ、ちょっ……!」

 

 何と華凜は深雪の手を取って、引っ張って歩き出した。

 深雪は助けてくれた華凜の手を振り払うわけにはいかず、大人しく付いて行った。

 

 A組陣は唖然とそれを見送り、ハッとして慌てて追いかけて行こうとするが、先ほどの話を思い出して二の足を踏む。

 そして、咲宗や二科生組を睨みつけて、渋々とその場から去って行った。

 

「すまない。巻き込んでしまったな」 

 

 深雪の兄が咲宗に謝罪する。

 

「いいよ別に。うちの妹も搔き乱したしね」

 

「だが、今の話からすると、君はA組だろう? これから大変じゃないのか?」

 

「かもしれないけどねぇ。あの言い分を聞いちゃうと孤立したところで構わないって気になってるからいいよ、別に」

 

「それはあまり大丈夫と言わないんじゃないか? っと、すまない。1年E組、司波達也だ」

 

「A組、風火奈咲宗。よろしく。ちなみにさっきのは双子の妹の華凜。そっちは双子って感じじゃないね」

 

「ああ。俺が四月生まれで、深雪が三月生まれなんだ」

 

「なるほどね」

 

 納得したように頷いた咲宗の視界に華凜と深雪がトレイを持って、やって来ていた。そして、その後ろに何故かほのかと雫がいた。

 咲宗は僅かに頬を引き攣らせるが、華凜と深雪は楽しそうに会話しており、咲宗の様子には気づいていない。

 

 ほのかは深雪と華凜の様子を羨ましそうに見ていたが、雫は間違いなく咲宗をロックオンしていた。

 

 咲宗は素早く席を移動する。達也の隣から、対角側に。

 咲宗が座っていた場所には深雪が座り、隣にほのか、その隣に雫が座った。

 

 つまり、咲宗の正面に。

 

 そして、咲宗の隣に華凜が座る。

 

「……酷いかもしれないけど、一応訊いていい?」

 

「ん? ああ、そこの2人? 深雪の友達だからいいかなって。他の男子達は悔しそうだったけどね~」 

 

 ニヤニヤと華凜が咲宗を見ながら言う。

 

 それはつまり、咲宗は男子達の嫉妬の標的になっているということだ。

 

 先ほど達也が謝罪したのは、そのことも合わせての謝罪だったのだ。

 咲宗もそれを理解していたので、華凜の言葉に文句は言わない。

 

 すると、深雪が咲宗に顔を向けて頭を下げる。

 

「すいません、風火奈くん。ご迷惑をおかけしてしまって」

 

「いや――」

 

「いいよ~。こいつに謝罪なんて。ボッチや兄妹2人で食べるより、美人に囲まれて食べられるなんて役得だしさ。ねぇ?」

 

「囲まれてはないかな」

 

「それはアタシが美人じゃないと!?」

 

「端っこに座ってるからだよ。我が普通の美、()、女である妹よ」

 

「なんか意味合いが違う気がするよ! 美、小、年の兄よ!!」

 

「分かってんじゃないの」

 

「うっさい! あと普通のって何!? 普通のって!!」

 

「目の前の現実を見なさい。目の前の現実を」

 

 華凜は言われた通り、正面に顔を向ける。

 

 そこにいたのは、困惑気な表情を浮かべていても崩れることのない絶世の美少女。

 

「ふぐぅ……!」

 

「そして、他の方々を見ても、お前は美少女ではあるが、この中では普通だよ」

 

「くそぅ!」

 

 悔し気に右手を握り締めて唸る華凜。

 

 双子のやり取りに、深雪達も顔を見合わせて笑う。

 先ほどまでのぎこちない空気が一変し、深雪達も和やかな雰囲気で食事を始めたのだった。

 

 

 

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