ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
それぞれに自己紹介を済ませた一同は、一部を除いて和やかに会話を楽しんでいた。
その一部とはずっと咲宗を見つめている雫と、
すでに食事を終えた咲宗はお茶をゆったりと飲んで、視線を達也達の方に向けて逃げ続けていた。
「そう言えばさ」
明るい髪の美少女である千葉エリカが、唐突に話題を変える。
「さっきの咲宗くんのアレ、魔法?」
下の名前で呼ばれているのは、華凜と同じ苗字だからである。
許可を出したのは、もちろん華凜だ。
ちなみに眼鏡の美少女が柴田美月。
残った男子が西城レオンハルトだ。
「何が?」
「気配隠す奴。いつ来たのか全然気づかなかったしさ」
「だって、君達が来る前からここにいたし」
「え、マジ? 全然気づかなかったぜ……」
「私もです……」
「あたしも……。達也くんは?」
達也はこれまで司波と呼ばれていたが、風火奈双子に合わせて、名前で呼ぶことになった。
こっちの兄妹は達也が許可を出したので、深雪も文句は言わなかった。
「俺も誰かいるなくらいの感覚だったな。咲宗、君はBS魔法師なのか?」
「まさか。影が薄いだけだよ」
咲宗は苦笑して肩を竦める。
「え~絶対嘘。だって……只者ならぬ気配を感じるんだけど? 華凜も、ね」
エリカは笑みを浮かべたまま目を細めて、華凜と咲宗を見据える。
それに華凜は微笑み返して、
「アタシは剣術習ってるしね。サキも体術習ってるから、そのせいじゃない?」
「へぇ……剣術か。どこの流派?」
「【火天御剣流】」
「えっ!? 火天御剣流!? 古式魔法剣術の名門じゃない!」
「そうそう」
「では、咲宗の体術も名門流派なのか?」
「いいや。体術は門下生が集まんなくて廃れたらしいから、我流って奴になるのかな。ただ古式魔法を組み込んでるらしいから、実家限定の武術なのかもね」
「……なるほど」
達也は頷いて、それ以上は訊ねてはこなかったが、明らかに納得はしてなさそうだった。
それはつまり疑うだけでの根拠を持っているということだ。
(やっぱり、油断出来そうにないね)
「ところで……」
達也が唐突に話題を変えた。
「北山さん、だっけ? 咲宗をずっと見ているが、何かあったのか?」
「……」
咲宗は頬を引き攣らせ、雫は無言のまま小さく頷く。
ほのかが困惑した表情を浮かべて、
「あの……実はこの前のワンダーランドで……」
ほのかが雫の事情を代わりに説明する。
ワンダーランドの事件の事はニュースになっていたため、達也達も知っていた。
華凜は呆れた眼で咲宗を見るが、咲宗は困惑した表情(演技)を浮かべて肩を竦める。
それだけで華凜は兄が何を考えているのか理解したので、何も言わなかった。
物凄く無駄な努力をと思ってはいるが。
「なるほどねぇ。けど、咲宗は行ってねぇんだろ?」
「そうなんだけど。何故か納得して頂けないようでして」
「だから授業見学から逃げ出したと」
「あはははは~」
エリカの容赦ない追及に咲宗は空笑いを上げる。
それに雫が目を細める。
明らかに不機嫌オーラが噴き出しており、親友であるほのかも頬を引き攣らせて深雪にすり寄る。
華凜はニヤリと小悪魔の笑みを浮かべて、咲宗の肩に手を置く。
「じゃあ、ちゃんと誤解を解こう」
「……と、言いますと?」
「午後からの授業見学はちゃんと一緒に回ればいいだけだよ」
「……ご、午後は」
「アタシも一緒に回ったげるからさ! 目指せ、ボッチ脱出!」
「……」
逃げ道を完璧に塞いだ華凜。どう考えても『逃げたらバラす』と脅しをかけていた。
更に雫からの視線の圧が強まり、咲宗は逃げ道がないことを悟った。
ガクリと項垂れて、
「……分かったよ」
「うむ。大丈夫だって、サキの顔と身長なら、大して思春期男子から妬まれないって」
「うっさい」
双子の身長は、この中で一番低い。
華凜は女子としても低い方に入るが、いないわけではない。
しかし、咲宗は間違いなく『低すぎる』範囲に入るだろう。顔つきも女っぽいから尚更だ。
カツラを被れば華凜と入れ替わってもバレないだろうなと、達也達が思うほどに。
それはつまり華凜の体つきもお察しなのだが、それは誰もツッコまない。
正直、今も男装した少女ではないのかと思ってしまうほどだ。
それほどまでに咲宗の外見は『男臭さ』がない。
だからこそ、見間違うのは確かに難しいと、雫に同意するのも無理はなかった。
その後、授業見学の集合時間が近づいてきたため解散となり、咲宗と華凜は深雪達と共に移動していた。
「で? どうするの?」
小声で訊ねてきた華凜に咲宗は小さく眉を顰め、
「どうしたもんかねぇ。正直、北山さんにバレるだけならいいんだけど……」
「達也くん達?」
「うん。やっぱりあまり近づきたくないね。余計な情報もこれ以上渡したくない」
「サキがそこまで言うなんてねぇ……」
「なんて言うのかな。達也からは同類の臭いがする」
「……忍術使いってこと?」
「完全に忍術使いって感じじゃないけど……佇まいや脚運びは近い。教わった人が忍術使いなのかもね。……どっかで突っついて開き直るのもアリかもしれないけど、それが判断できる情報がないから」
「なるほどね、了解。まぁ、でも……あの子から逃げるのは難しいと思うけどね~」
「……かもね」
今も時折チラチラ振り返ってくる雫。
「なんでそこまで執着してるのかな?」
「そりゃあピンチに助けられたら惚れるってもんじゃない?」
「そんな子には見えないけどなぁ」
「あ、それ偏見~。女の子はどんな子でも乙女心を秘めてるものでござるよ?」
「だとしてもねぇ……北方潮の娘ならあの程度の荒れ事は何回か知ってると思うけど」
「え。雫ってあのホクザングループの令嬢なの?」
「みたいだよ。まぁ、北方潮とその奥方はもしかしたらボクらのことも知ってるかもしれないけど、それもさっきと同じく判断できる材料がないから保留。そっちは爺様に訊いてもいいかもだけど」
「メンドくさいなぁ……。もう堂々と名乗っちゃえば?」
「爺様が当主である限りは無理」
「お爺ちゃんは古臭いのが好きだからねぇ」
「まぁ、忍術使いの強みは隠密性だからね。しょうがない部分もあるさ」
集合場所に到着した咲宗達。
先ほどのクラスメイト達もすでに来ており、深雪の姿を見つけて早速声をかけようとしたが、すぐ傍に立っている咲宗と華凜を見て足を止めた。
その隙を突いて、華凜が深雪やほのかに話しかけ、深雪達はもちろんそれをあしらうことはしない。
雫と咲宗は傍でそのやり取りを聞いていたが、相変わらず雫は咲宗を見つめており、咲宗は逆に会話のきっかけを失ってしまっていた。
深雪達の傍にいて当たり前のように見えた咲宗に、クラスメイト達、特に男子は嫉妬が噴き上がる。
しかし、指導員が来るまで一度として深雪と咲宗が話すことはなく、それに首を傾げることにもなるのだが。
やってきたのは遠隔魔法用実習室。
そこは現在、生徒会長である七草真由美が出席していたせいか、人で溢れかえっていた。
「無理じゃない?」
「うん。無理無理」
ちんまい双子には後ろから覗くことなど出来ず、前に出るのは面倒だった。
深雪達も流石に押し合いになるのは嫌だったようで、見学室の入り口から少し離れた場所で待機していた。
しかし、そこで深雪が声を上げた。
「お兄様?」
「「え?」」
ほのかと華凜が目を向けると、達也とレオの後頭部が見えた。
「ワァオ。最・前・列!」
「……これじゃあ午後の授業見学は駄目かな。先生もあの人混みの中でしょ?」
「う、うん……お、怒られないかな?」
「流石にあの状態はどうしようもないと思う。他のクラスの人も押しかけてるし」
「授業見学って明日もだっけ。……やっぱ自分で回った方がいいかもな」
咲宗の言葉に華凜が呆れた目を向けるが、内心同意だったので何も言わなかった。
深雪やほのかも苦笑して、雫は無表情で咲宗を見つめていた。
すると、雫が唐突に口を開いた。
「ねぇ、咲宗くん」
「ん?」
「あなた達ってエレメンツ?」
直球の質問にほのかと深雪は僅かに目を丸くする。
当の本人達は特に表情を変えることなく頷いた。
「そうだよ。父方が火のエレメンツの血統で、母方が風のエレメンツの血統」
「ほのかもそうなんでしょ?」
「う、うん……」
「あ、移動するみたいだよ」
ようやく指導員が抜け出してきて、そのまま移動を開始した。
深雪達はその後に続き、数名のクラスメイトは抜け出せずにそのまま置いて行かれてしまうのだが、誰も助ける者はいなかった。
その取り残されたメンバーの中に、食堂で先頭で達也達を侮辱し、華凜達に馬鹿にされた男子生徒がいたのは、喜劇なのか悲劇なのか。分かるのは本人のみであった。
「ねぇ」
「ん? どうしたの?」
雫がまたもや無表情で声をかける。
「帰り、ちょっと時間欲しい」
「いいよ!!」
それに応えたのは何故か華凜だった。
咲宗は手で顔を覆って項垂れるしかなかった。
どうやら雫はとことん、咲宗を逃がす気はないらしい。
続きは夜になります