ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
咲宗は一度自宅に帰って、本邸端にある林へと向かった。
林の奥にある大きな岩の上に座ったところで、
「集合」
そう小さく呟いた直後、咲宗の目の前に6人の男女が片膝をついた姿勢で現れる。
「お待たせ致しました、頭領」
「だから頭領じゃないって」
「我々にとっては頭領ですので」
咲宗は小さくため息を吐く。
彼らは咲宗の直臣、直属の部下だ。
この者達は風魔の中では落ちこぼれと位置付けられていたが、咲宗が直々に手解きして実力を伸ばした。
そのせいか、異常とまで言えるほどの忠誠心を
「……まぁ、今はいい。ところで、第一高校について何か探ってる?」
「頭領と華凜様がお通いですので。調査は始めております」
「調査対象から司波兄妹、七草真由美、十文字克人を外して」
「……十師族はともかく、主席入学した者とその兄も、ですか?」
「兄の司波達也には【今果心】九重八雲がついてる。下手に探って余計なことを知る必要はないし、九重八雲に敵認定されるのも避けたい。ただでさえ十師族や百家本流に目を付けられてるからね。これ以上余計な敵は増やさないように」
『承知しました』
「七草真由美はボクのことを知っていた。多分十文字克人にも知らされてると思うから、近い内に接触があるだろう。この前の失態もあるから小間使い的なことをすることになる可能性が高い。だから、お前達は一高を害する存在を探っておいてほしい」
『はっ!!』
「じゃ、解散」
「しかし、頭領。七草家は探っても良いのでは?」
「何を言っておるのだ、たわけ。頭領は火影となる御方。黙ってその御意思に従っておけばいい」
「誰が火影だ!? 頭領は我ら一番隊の隊長、
「里なんてないから火影にはなれないし、うちには十二個も隊はないし風魔は全員子忍になるから。いい加減昔の漫画の設定出すの止めようね。それと……さっさと行け」
「「「はい!! 失礼しました!!」」」
声色が低くなった咲宗に、部下達は慌てて頭を下げてその場から姿を消した。
咲宗はため息を吐いて、眉間を揉み解す。
「なんでクソ叔父達の部下は大丈夫だったのに、あいつらは爺様に汚染されてるのか……」
風魔頭領である祖父、
それを気に入った者達に読ませる悪癖があり、咲宗も読まされた。
しかし、所詮は漫画だ。
術の使い方も違うし、時代設定も政府の在り方も、そもそも忍者の立ち位置も違う。
咲宗的には参考書レベルでしかないのだが、何故か部下達は聖書扱いしており、その設定を咲宗に当て嵌めようとする。
優秀な者は時に変人な者が多いと言うが、部下変人率100%は流石に受け入れがたい。
「とりあえず……爺様に八つ当たりしよ」
報告ついでに祖父に八つ当たりすることに決めた咲宗は屋敷に向かう。
座敷で茶を飲んでいた祖父を見つけた咲宗は、
「おぉ、サキ。どうした?」
「爺様キライです」
「な、なんじゃいきなり!? ど、どうしたんじゃ? 儂なにかした?」
「キライになりました」
「うおお!? ゆ、許してくれサキよ! 何が悪かったのか分からんが許しておくれ!!」
「じゃあ第一高校に関することはボクの一存で動いていいですか?」
「いいぞ! 好きなようにやりなさい! だから嫌いにならないで爺ちゃん泣いちゃう!!」
「嘘だったら婆様と母さんに言いつけますからね。隠れて買った物色々」
「ひぃっ!? な、なんでそれを!?」
「うちの連中に見せたでしょ。自慢してきましたよ」
「あ奴らああ!!」
「それとちゃんと叔父上達を抑え込んでくださいね。七草の長女はボクのことバレてるみたいだから。次ヘマしたら終わりですよ。そしたら、華凜にも嫌われますからね」
「ぬおおお!? 許して爺ちゃん死んじゃう!!」
「じゃあお願いします。尊敬する爺様」
「うむ!! 爺様頑張る!!」
(よし。爺様チョロイ)
孫からの不意打ちに弱い團蔵を丸め込むのは咲宗にとっては朝飯前だった。
勢いそのまま碌に説明することなく、第一高校関連の実権を手にして、叔父達を牽制させる面倒な役を押し付けることに成功した咲宗は、胡散臭い笑みを浮かべたまま祖父の前を後にしたのだった。
「あ、北山さんのこと忘れてた。……まぁいいか」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日。
教室に到着した咲宗は席に座る。
その数分後に雫とほのかも教室に到着した。
雫は自分の席に座って、目の前の背中を見る。
咲宗は視線を感じ取ったが、端末を操作して気づかないフリをした。
ツンツン
軽く背中を突かれた。
だが、咲宗は反応しない。これは純粋に集中して気づかなかっただけなのだが、雫は無視されたと感じて目を細めた。
ツンツン トントン トントン!
トントン!! ズビシズビシ!!
「あの……北山さん?」
ドスドス!! ドドドドドドドドド!!
「イタタタタタ!?」
「無視した」
「してないしてない! ちょっと気を取られてただけだって!」
「……」
スビシ!!
「ごめんなさい!?」
反射的に謝罪した。
雫は不満そうだがとりあえず矛を収める。
ちなみに周囲は2人のイチャイチャに気づいていない。雫の攻撃に気づいた咲宗が認識阻害魔法を発動したのだ。
咲宗は身体を横に向けて、顔を雫に向ける。
魔法を解除すると、ほのかが近づいてきた。
「おはよう、咲宗くん」
「おはよう、光井さん。北山さんもおはよう」
「雫でいい」
「私もほのかでいいよ」
「……分かったよ」
「それで昨日父と話した」
「……本当に話したの?」
「うん」
淡々と頷く雫に、咲宗は頬を引き攣らせて、ほのかは苦笑いを浮かべる。
雫の父親は【北方潮】というビジネスネームを持つ日本有数の大富豪であり、敏腕の実業家だ。
経済界の大立て者とすら呼ばれており、前世紀から続く家系。
魔法師と結婚し、魔法師の娘を持ったからか、魔法関係のビジネスにも手を伸ばし始めているらしい。
まだ魔法師社会に進出したばかりだが、すでに多大な影響力をもたらし始めている。
それほどまでに北山家の資産とコネは強大なのだ。一般社会の十師族と言っても過言ではない。
「……それで?」
「契約書のデータは持ってきた。中身について話がしたい」
「……じゃあ昼休みでもいい?」
「構わない」
必死にため息を堪える咲宗。
雫は相変わらずの無表情でじぃ~~っと咲宗を見続けており、ほのかは空笑いを浮かべるしかなく、そこに現れた深雪が女神のように思ったのは決して大袈裟ではないだろう。
それほどまでに、ほのかはその場に居づらかったのだ。
ホームルームを終えて、本日も授業見学ということで指導員の先導の元、教室移動を始めた深雪達。
雫はほのかと深雪に意識が向き、咲宗の席に顔を戻すと、咲宗の姿はすでになかった。
不満げに顔を顰めた雫だが、ほのかに促されて移動を始めるしかないのであった。
そして、集合場所に到着したが、やはり咲宗の姿はそこにはなかった。
咲宗は教室を出て、1人で廊下を歩いていた。
今回は雫から逃げ出したわけではなく、純粋に呼び出しを受けたからだ。
呼び出し主は七草真由美。
場所は生徒会室。
(呼び出しは覚悟してたけど、まさか授業時間に呼び出すとは……。思ったより強引な性格をしてるみたいだな)
生徒会室に到着した咲宗は、インターホンを鳴らす。
返ってきた返事に挨拶し、歓迎の言葉が告げられると同時にロックが解除された音が僅かに聞こえる。
引き戸を開けて、中に入ると2人の人物を確認した。
1人は呼び出し人にして生徒会長の七草真由美。
もう1人は高校生とは思えぬ体つきと存在感を放つ巌のような男。
【十師族】が一つ、十文字家次期当主にして第一高校部活連会頭、十文字克人。
両者ともに第一高校3年生で、風紀委員長の摩利を含めて『三巨頭』と呼ばれている。
呼ばれた理由は予想していたが、十師族の2人がいる時点で確信を持つ。
(やっぱり十文字家にも伝わってたか……。まぁ、当然だよね)
咲宗はドア一歩手前で一礼して、その場で気を付けの姿勢で留まる。
生徒会室の真ん中には8人掛けのテーブルがあり、俗に言うホスト席が1つの計9つの椅子がある。
生徒会長である真由美はホスト席に、克人はその右側に座っていた。
真由美は微笑んだまま、左側、克人の正面側を手で示す。
「授業中にごめんなさいね。どうぞ、かけてください」
「……その前によろしいですか?」
「ええ、構わないけど?」
真由美は可愛らしく首を傾げる。
「呼び出したのは風火奈咲宗個人ですか? それとも、風魔としてですか?」
「そうねぇ……。私的には風魔である風火奈咲宗君をお呼び立てしたつもりなんだけど……」
「では」
咲宗は椅子に座らず真由美の反対側に立つ。
「こちらでお伺いさせて頂きます」
「それは……」
「風火奈。俺達はお前と話がしたいだけだ。座ってくれないか?」
「申し訳ありませんが、我ら風魔は七草家と十文字家に負い目がある身故。風魔として、そちらに座らせて頂くのは了承致しかねまする」
はっきりと拒絶を唱えた咲宗に、真由美と克人は顔を見合わせて眉尻を下げる。
しかし、咲宗はその隙を逃さずに一気に本題を進めることにした。
「先日のワンダーランドの件、現場に出た当事者の1人として両家を始めとする方々にご迷惑をおかけしたことを改めて謝罪致します」
深く頭を下げた咲宗に、真由美は軽く眉を顰めて小さくため息を吐く。
克人は表情を変えなかったが、どこかしら感心したような雰囲気を感じさせた。
「確かに今回はそれに関係する話ではあるけれど、すでに謝罪は御当主から頂いているし、当主ではない私達に謝罪されても困っちゃうのだけど……」
「十文字家にはまだなのでは?」
「いや、簡略的ではあるが事情を記した書状と謝罪文は貰っている。七草家と十三束家が苦情を出しているということで、十文字家まで出す必要はないと判断した」
「簡略的、ですか……。相変わらず礼儀知らずな……申し訳ございませぬ。後日、改めて文を出させます」
「もう終わったことを今更蒸し返すつもりはない。今の反応で、何が起こっていたのか推測出来た。お前にそこまで求めるのは酷というのも十分理解している」
「寛大な恩赦、感謝致します。それで、拙者に何用で御座いましょうか? 先ほど七草殿は風魔である拙者個人に話がある、ということでしたが」
全く座らせる隙を作らせてくれない咲宗に、真由美は困った表情を隠せなくなっていた。
「え、ええ。だから、座ってほしいんだけど……」
「風魔である拙者に何かを探らせたいということでよろしいでしょうか」
「無視!?」
「お断りしましたので。それで、何を調べればよろしいですか?」
「……」
真由美は拗ねたような表情を浮かべるが、咲宗は笑顔で無視する。
克人は小さくため息を吐いて、
「具体的に何か、というわけではない。お前のことだ。自主的に色々と調べ始めているのだろうが、その内容を我々と共有させてほしい」
「……なるほど」
咲宗は顎に手を当てて考え込む。
克人はその反応から咲宗が推測通りすでに一高内を調べていると確信を持つ。
ちなみに真由美は中学生のような美少年が大人ぶっているように見え、こみ上がってくる笑いを必死に堪えていた。
もちろん、2人にはバレバレだったが。
「ですが、やはりある程度具体性を頂きたいですね。一高生に危害が及ぶ類の情報、というところでしょうか?」
「そうだな。最優先はそれになるだろう。だが、基本的にはお前が気になった情報を挙げてくれればいい」
「ふむ……承知しました。では、一度明日にでも報告させて頂きます」
「え? 明日? そんなに早く?」
「何かしらは報告出来るかと思います。まぁ、すでに見知ったものかもしれませんが」
「構わない。見落としている情報があるやもしれんからな」
「承知しました。……しかし、最後に1つ」
「なにかしら?」
真由美が首を傾げ、咲宗が笑みを浮かべたその時、真由美の
「決して風魔は十師族に降ったわけではない」
真由美が肩を跳ねさせながら弾かれたように振り返る。
そこには笑みを浮かべた咲宗が立っていた。
克人も驚きの表情を浮かべていた。
「ということを、努々、お忘れなきよう」
「え、え……!? げ、幻術? いつの間に!?」
先ほどまで咲宗が立っていた場所に真由美と克人が目を向ける。
CADを使った様子はない。というか、生徒会役員と風紀委員以外はCADは校内では持てないことになっている。
真由美も克人も、咲宗が魔法を使った兆候は見つけられなかった。
だからこそ驚いているのだ。
そして、また背後を振り返るも、咲宗の姿はなかった。
「あれ?」
「では、拙者はこれにて失礼致します」
「え!?」
キョトンとした真由美が慌てて、また正面に視線を戻す。
そこには咲宗が胡散臭い笑みを浮かべたまま立っていた。まるでずっとそこに立っていたかのように。
「ど、どうやって……?」
咲宗はそれに答えず一礼して、そのまま身を翻してまっすぐ歩き出す。
その正面には壁しかないのだが、咲宗は迷わずに突き進む。
真由美は声をかけようとしたが、なんと咲宗はそのまま壁に吸い込まれて消えていった。
「えぇ!? す、すり抜けた!?」
真由美は衝動のままに咲宗が消えた壁に駆け寄って、ペタペタと壁を触りまくる。
しかし、もちろん何も見つからなかった。
真由美は克人に振り返って、
「今のは古式魔法なの?」
「恐らくな。認識阻害の術と幻術、と言ったところだろう」
「いつ使われたのか全く分からなかったわ……」
「これが古式魔法の恐ろしさなのだろうな。そして、あの歳でこれほどまでの術を使いこなす風火奈も」
「……さっきのはやっぱり……」
「その気になれば、いつでもどこでも背後から襲い掛かることが出来る…ということだろうな」
「はぁ……父が油断するなと言っていたのは、コレが理由だったのね」
「だが、あれだけの技量があれば、あのような失態を犯すとは考えにくいと思うのだが……」
「父が言ってたわ。風火奈君は『神童』と呼ばれているそうよ」
「なるほど……。あいつだけが特別、というわけか」
「先日失敗したのは彼の叔父が率いる一派で、その叔父は次期当主の座を狙っていたみたい。風火奈君はまだ子供だから、風魔の中でも割れてるのかもね。まぁ、少なくともその叔父は今回で失脚したも同然でしょうけど」
「大勢の人が集まる場所で、あれだけの騒動を起こしてしまったからな。それに根回しもしていなかったというのは致命的だったな」
「……そうね。実は騒動が起こる少し前に、【ワンダーランド】スポンサーの十三束家に風鳶家を名乗る者から連絡があったそうなの。声がかなり若かったらしいから、多分風火奈君だと思うわ」
「先ほどのことも合わせれば、十分当主になれる器ではあるか……。まぁ、古式魔法の家系は長い歴史がある。継承者の選び方は我々では理解しえない要素があるのだろう」
「そうね……。とりあえず、彼とは適切な距離を保つように気を付けましょう」
「そうだな」
「じゃあ、これで……って、そういえば、どうやって連絡してくる気かしら?」
「これだろう」
克人の視線を追った先には、アドレスが書かれていたメモ用紙。
そして、そのメモが置かれていたのは、真由美が座っていた席の目の前だった。
慌てていて気付かなかったことに気づいた真由美は、一瞬で顔が真っ赤に染まった。