ショタっ子魔法師は風魔忍 作:魔法非戦士
昼休みとなり、雫達と合流した咲宗。
物凄く睨んでくる雫に必死に謝って宥め、何とか機嫌を
深雪は達也と共に生徒会室に呼ばれたらしい。
咲宗達はエリカ達とも合流して、6人座ることが出来るテーブルに座る。
「ある意味、これが一番平和的な解決法よね」
「だな」
「まぁ、達也は生徒会長と深雪さんと一緒に食事するってことで妬まれてるけどね」
「あ~そういう見方も出来るのか。達也の奴も大変だな」
「ホントにね」
「咲宗くんも人の事言えないと思うけどね~」
「「……」」
未だに不機嫌オーラを醸し出して、雫は咲宗の隣に座っている。
「えっと、今回は何しちゃったんですか?」
「午前中の授業見学の時、またいなくなっちゃって……」
「一緒に回れなくて拗ねてると」
「拗ねてない」
雫が即座に否定するが、どう見ても拗ねていた。
エリカ達はそれに苦笑して、
「で、今回逃げた理由は?」
「……はぁ。……生徒会長に呼ばれたんだよ。例のワンダーランドの件でね」
咲宗の言葉に全員が納得の表情を浮かべる。
「授業時間に呼ばれるとは思ってなかったし。いくら北山さんが被害者とは言っても、流石に十師族に会うことをそう簡単には言えないよ。話がどう纏まるか分からなかったからね」
「そりゃそうだ」
「けど、話したってことは特にお咎めなし?」
「小間使いを少し手伝えって感じかな。まぁ、一高関連でって条件付けさせてもらったけどね。……またうちの馬鹿馬鹿しい失態も聞かされたけどね……!」
「へ?」
「うちの家が十文字家に謝罪文を送ったらしいんだけど、それが簡略的文書だったそうでねぇ……!! あの、クソ叔父共……!!」
咲宗から雫以上の怒気が噴き上がる。
その様子にレオ達も流石に茶化せずに苦笑するだけだった。
「流石に風魔の意地で完全降伏はしなかったけど……。十師族上位2家に無礼を働いた以上、真面目に働かないといけないんだよねぇ。ホンットに頭痛い……」
「ご愁傷様。大変ねぇ、馬鹿な同門がいると」
「全くです」
「じゃあ次は私の話」
雫が空気と話をぶった切って話題を変えた。
咲宗は忘れていたわけではないが、出来れば忘れていて欲しかったので一瞬頬を引き攣らせた。
雫はポケットから情報端末を取り出して操作し、咲宗の前に差し出した。
咲宗は全力で逸らしたい衝動を抑え込んで、それを手に取って目を通す。
素早くスクロールして中身を呼んでいくほどに眉間に皺が寄っていく。
その様子にとんでもないことが書かれていることはエリカ達にも推測出来た。
「…………これ、本気?」
「お父さんもお母さんも認めてくれた」
「だからってボクを……忍術使いを君の専属護衛にするなんて正気の沙汰じゃない。血筋であったり、昔から協力体制や主従関係にあったなら分かるけどさ」
咲宗が告げた内容にエリカ達が目を丸くした。
ほのかも知らなかったらしく、同じく驚きの顔を浮かべている。
「けど、あなたは信用できると思った。だから、もし受けてくれるなら一度父が会いたいと言ってる」
「受けないから会う気はないよ」
「……なんで?」
あまりにもサラッと断られたことに、中々表情が動かない雫も驚きを浮かべていた。
エリカ達はもはや驚きすぎて絶句していた。
「風魔は金で仕えない。今は主君がいないから依頼を受けたりしてるけど、それでも絶対に受けない仕事がある。『護衛』だ」
「……」
「風魔は主君と定めた者のためにその力を振るい、主君のために死ぬ。それを成し遂げるために、風魔の一族は風のエレメンツ製造の被験体に志願した」
エレメンツは製造過程で、ある遺伝子操作を受けている。
それは『主君への絶対服従』。
製造が中断され、婚姻で続くエレメンツの血統であっても、その特性は『依存癖』として遺伝していることが判明している。
それは今でも高確率で遺伝することも。
「忠義に生きた風魔は、忠義に生きる定めを持つエレメンツとなり、忠義を捧げるべき主君を求めている。それはボクも例外じゃない。だから、風魔は護衛の仕事は絶対に受けない。悪いとは思うけどね」
咲宗は情報端末を雫に返し、席を立つ。
「申し訳ないけど償いは風魔に関わらないもので考えておくよ。じゃあ、先に行くね」
咲宗は答えも聞かずに歩き出す。
しかし、その背中を引き留める者は、誰もいなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
咲宗は屋上に出て、縁に胡坐を組んで座る。
「やれやれ……ちょっと熱くなっちゃったな」
「全くね。わ~カッコ悪ぅ」
「……うるさいよ、なんて言い返せないくらい正論ですね」
華凜がいつの間にか背後に立っていた。
もちろん咲宗は気づいていた。食堂で衝立を挟んだテーブルに座っていたことも。
「雫、落ち込んでたわよ~。いたいけな少女を何度も傷つけるなんて、妹ちゃんは感心出来ませんねぇ」
「はぁ……ちょっと気を張ってたからね。流石にあんな契約を北方潮が認めるとは思ってなかったし。まさか奥方まで受け入れるとは……」
「まぁねぇ。それに知らなかったとは言え風魔の根幹に関わる事柄だったし、サキの気持ちも対応も分かるけどさ。もぉちょっと言い方あったんじゃなぁいぃ?」
「……おっしゃる通りです」
「こればっかりは手伝わないからね。ちゃんと自分で仲直りしなさいよ」
「分かってるよ。……どんどん北山さん達に弱みを握られて行ってる気がする」
「恨むならクソ叔父と変装の手を抜いた自分にね」
「分かってるって。あのクソ叔父共、どうすり潰してやろうか……」
「お爺ちゃんも確認しとけってのよね。そういうところが付け上がらせるっていい加減学習……出来ないか。もうあの歳じゃ」
「……」
あまりの辛辣さに、咲宗は内心同意するも流石に表立って頷くことは出来なかった。
「うん、アタシの方からもちょっとお爺ちゃん懲らしめておくわ。お婆様にもちょっと手伝ってもらお。多分、お婆様も細かい事情までは知らないんじゃない?」
「まぁ、ボクの状況までは知らないだろうね。だって爺様に伝えてないし」
「……アンタねぇ」
「爺様に手を出されたらこじれると思ってね。八つ当たりした勢いで一高に関する指揮権をもぎ取った」
「あぁ、うん。なら仕方ないか。とりあえず、お婆様と連絡取ってみるわ」
「あまりやり過ぎないでよ? 爺様にはクソ叔父達を潰してもらわないといけないんだから。その前に爺様が倒れたら、それこそ大混乱だからね?」
「分かってるわよ。とりあえず、サキは雫をどう落とすか考えときなさい」
「落とすって何!?」
「うっさい。いいからさっさとデートの約束でもしてきなさいよ。お詫びの品なんて貰ったってウザいだけなんだからね?」
「う……」
お詫びの品で誤魔化そうとしたことを見抜かれて項垂れる咲宗。
双子の兄の考えていることなど、華凜からすれば簡単に思い至ることが出来る。
こうして、咲宗は再び逃げ道を封じられたのだった。
あっという間に放課後となり、深雪は生徒会役員に任命されたとのことで早速生徒会室に向かった。
それに「今日こそは!」と狙っていた森崎達はガクリと肩を落としていた。
そんな森崎達を尻目に咲宗はさっさと教室を後にしていた。
雫は話しかけたそうにしていたが、昼休みのことがあったからか声をかけることはなく、咲宗もいきなり誘うわけにもいかず今日はさっさと退散することにした。
と言っても、校舎から出ることはなく、校内を彷徨っている。
早速情報収集を行うことにしたのだ。
もちろん、そう簡単に何かが見つかるわけもなく、ただただ彷徨っていると覚えのある気配を捉えた。
咲宗は足早に移動すると、やはり達也と深雪がいた。
達也の手には見慣れぬケースがぶら下がっており、咲宗はそれがCADを収めているケースだと看破した。しかし、達也達が向かってるのは校舎の外ではない。
「やぁ、達也。今日は初めましてだね。深雪さんも先ほどぶり」
「咲宗か。こんなところでどうしたんだ?」
「ちょっと放浪癖があってね。自分の縄張りは隅々まで見とかないと落ち着かない性分なんだ」
「なるほどな」
「そっちこそ、何やら重苦しい空気だけど、何かあったの? CADまで持ち出してさ」
「ちょっと色々あってな」
「ふぅん……。深雪さんがいるってことは、生徒会に関係あることなのかな?」
「悪いが話すことは出来ない」
「服部副会長殿と決闘にでもなったかい?」
咲宗の言葉に達也は片眉が一瞬ピクリとしただけだが、深雪は驚きを隠せなかった。
言い当てた当の本人は顎に手を当てて、
「理由は……達也も生徒会に誘われた…は規約的に難しいだろうから、風紀委員辺りに誘われたってところかな? 昨日渡辺風紀委員長に目を付けられてたし、七草生徒会長は渡辺風紀委員長とは仲が良いらしいし。そして、2人の共通点は一科生と二科生の差別解消のきっかけを探していること。まぁ、これは部活連会頭の十文字殿もだけど、この2人は特に率先して動こうとしてる」
「良く調べているな」
「まぁね。ここで注目すべきは、達也の目。風紀委員の取り締まり活動に起動式を読み取れる達也の目は、標本にしたいほど欲しいと思うんだよねぇ。確か風紀委員の罰則は使用しようとした魔法の種類や規模で決めてたはずだし」
だが、昨日の真由美のように起動式を破壊してしまっては判別不可能だ。だからと言って発動させては本末転倒。
必ずしも風紀委員が魔法を相殺できるわけではないのだから。
故に起動式を判別できる達也の能力は喉から手が出るほど欲しいはずなのだ。
風紀委員の証言は基本的に証拠として採用されるのだから尚更。
「それにしても、やっぱり達也は騒動の種になってるね。まぁ、服部副会長殿は森崎達みたいに魔法力主義思想のようだから、達也みたいな魔法以外の技術で実力を補っている人は認められないのかもね」
「……」
「その決闘って非公開?」
「ああ」
今更誤魔化す必要性を感じなかった達也は否定することもなく頷いた。
咲宗は肩を竦めて、
「見学は無理そうだね、残念」
「覗き見ればいいんじゃないか?」
「冗談。達也に深雪さんだけでも誤魔化せる気しないのに、生徒会長と風紀委員長までとか無理だよ。これ以上色々と目を付けられるのは勘弁です」
咲宗はヒラヒラと手を振りながら、2人の横を通り過ぎる。
達也は警戒の色を隠さずに咲宗の背中を見送った。
廊下の角を曲がり、達也の視線が外れたのを感じた咲宗は小さくため息を吐いた。
(やっぱり覗き見は無理そうだな。少なくともボクの術は使うべきじゃない……。そんな気がする)
直感に従い、達也の決闘を覗くことは素直に諦めた。
今日のところは帰宅することにして、部下達からの報告を纏めることにした。
さっさと駅に向かい、キャビネットに乗り込んだ咲宗は携帯情報端末を取り出して、報告を確認する。
その中身を読んだ咲宗は目を細める。
「……『エガリテ』の証を身に着けた二科生が数名確認された、か。『ブランシュ』が最近派手に動いてるのは、一高から目を逸らすためかな? これに関しては生徒会長達も知ってるだろうし。となると、ボクが集めるべきは『感染源』と『病原菌』かな」
部下に次の指示を出して、今後の方針を考える咲宗。
「手が足りないか? けど、爺様の部下はまだ信用できないし、だからと言って爺様に頼るのは避けたい。他の組織と手を組むなんて論外だしなぁ。……九重八雲、はどうだ? ……取引材料がないな。達也にそれとなく伝えておく程度にしておくか。……華凜にも黙っておいた方がいいな。突っ込んでいきそうだし。はぁ……いきなり面倒事が出てきたな」
本当にワンダーランドでの失態が致命的だったことに頭を抱えたくなる。
これに雫の問題もとなると、全てを投げ出したくなる咲宗だった。