Fate/Startic Heroes   作:星雷華傘

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聖杯戦争、って?

 

 次の日。

 学校へ少し早く到着したのだが、生徒達の間ではある噂が立っていた。

「よっ」

 友人が隣にやってきて、こちらに話しかけてくる。

「やあ、なんだかみんな少し早めに来てるんだな。で、なんだ?」

「いやあここだけの話なんだけどさ〜、なんとこのクラスに留学生が来るんだとさ!」

 留学生、ねえ。

 もう少し話を聞こうと思ったんだが、タイミング悪かったか先生がやってきた。

「着席!」

 こういう時にすぐ戻れるのはうちのクラスの良いところだ。

「みんな早めに来てるから、時間を取る為に少し早めにHRを始めるぞ〜。その表情だともう知ってるだろうけど、新しく留学生が来る」

 それと同時に、扉から入ってくるその留学生。

 金色のロングで、三つ編みもある。眼は青くまさしく外国人といった風貌だが、何より気になるのは右手の刻印。

「おはようございます。(わたくし)はセイラ・メイ・フェル。このような名前ですが、イギリスからやって参りました。皆様、宜しくお願い致します」

 美女の挨拶に呼応して湧き上がる男子陣の歓声、やっぱり美人は目の保養だ。でもやはり、昨日の一件から気持ちが乗らなくて自分も乗りたいが、気分が上がらない。

「百合〜、お前目が肥えてないか〜?」

 友人からのからかいが飛んでくるが、それでも気分転換が出来ない。

 そのまま見ていると、右手をゆっくり掲げてこう言った。

『君達にはこの令呪は見えない』

 一瞬、身体のパーツ全てがとてつもない重力を受けて悲鳴を上げた。

 何をしたんだ!?と言おうと思っても喉まで無理だと伝えてきては何も言えない状態になった。

 それが収まった時に声を出せそうになったが……皆は何事もなかったかのように“綺麗な人だ”とか“こんな美人と付き合いたいな”とか言っている。

 それに、オルトも“下手に魔術系の話題を振ると不利になる”とも言っていた。その注意に従うとするならば一回ここで何も言わずに、黙っている方が得だと言える。

 なんともまあ、もどかしい気分が続くものだ。

 その後はとりあえず授業とかは普通に受けて、午後からは先生が時間をとって地域の事とか教えるらしい。彼女の色んな表情を楽しみにするみんなの傍ら、昼休みになったので弁当を出そうと思ったが。

「あれ、無いな」

 何回見ても弁当がない、教科書をひっくり返しても箸の気配すら感じない。

「あっちゃー、やらかした」

 金はあるから良いかと思い、購買に行こうと席を立つ。

 硬貨握りしめて扉を開けると、友人がそこに立っていた。

「よっすー!あ、そういえばお前弁当忘れただろ。今そこに美人さんが来てたぜ、百文字君に弁当を渡しにきたって」

「知ってんならお弁当分けてく……なんだって?」

「ほら、教室出てみろよ」

 友人に手を引っ張られて出てくると、目の前にはオルトが居た。

 出会ったままの姿だが、なによりも印象的だ。というより胸の肉が見えてるとこんな場所ですら心臓が高鳴るからもう少し布面積増やしてほしい。

「やっほー、来ちゃった」

「来ちゃったって……ああ弁当の事ってかなんで居るんだよ!?」

「急いで出ていっちゃったから追っかけようとして見失っちゃって。それでご近所さんに地図もらったからそれを頼りにしてきたの。はいこれ」

 お弁当を渡される。

 箸もついでに入ってるから、ちゃんと食べれる。

「ありがとう」

「友人君……えっと、陽成(かげなり)君ありがとうね」

「いえいえ〜」

 照れてるし。

「ところでお弁当を少しかきこむなら、一つ話したい事があってね」

「いいぜ、屋上を借りよう」

 

 屋上には珍しく人はいない。

「で、あんな言いようで二人きりになったけど。その顔だと何かあったでしょ?」

「ああ、あった。令呪ってなんだ?」

 セイラが口にしていた、令呪という言葉を伝える。

「それね。

 聖杯戦争には7人のマスターって呼ばれる魔術師が居ることを話したよね。サーヴァントとの契約の証として、昨日の夜の儀式に右手に令呪が付けられたのよ。

 多分その子はマスターよ、サーヴァントの情報を探るには良い足がかりだと思うけど」

「どう近いたものかなあ」

 困った、という顔をすると階段から音がする。

「一回この話は切ろうか」

「ええ」

 急いで換気扇の近くにオルトを隠して、弁当を食べ始める。

 箸で一つ目の唐揚げを口に放り込んで噛んで飲み込んだジャストで出てきたのは____

 留学生だった。

「ごきげんよう」

「どうも」

 弁当を食べる手を止めずに、相手を見る。

「クラスの皆さんが昼休み中何をしているか気になって、こうやって見て回ってるのです。ただ一人百文字さんが見当たらなかったですが、陽成さんから『あいつは屋上へ行ったぜ』と教えてもらって、見つけました」

「初っ端から周りのことを知ろうとするのは良いことだ。まあ、かといって話せる内容も無いわけだが」

「ええ、何もありませんわね。

 ()()()()()()()()()()

 箸を止まる。

 止めたのではなく勝手に止まった。こういうことを言われた日には、どこで聞かれたのか分からないし警戒するほかない。

「あなたがあの時苦悶の表情を浮かべてたのは既にバレています。

 今弁当を届けたあの方はきっとサーヴァントなんでしょう。しかし、同じマスターだというのに凄く苦しい顔をしていてあら不思議、私格下なんですね」

「お前俺がマスターに見えるのかよ……!」

 文句を言う為に両手を上げて、手の甲を見せる。

 自分はそもそもマスターでは無いのだから、赤い令呪など入っていない。いや、そもそもそういうのすら知ったのが最近だから何も存じ上げないのが正直なところ。

「え……?いやでも、ではなんであの時……」

 そして勢いづいていたのに急に不安になっているセイラ。何を言うか、俺も不安なんだよと突っ込みたくなる衝動を抑えていると急に地面が透き通り始めた。

「水晶渓谷、答えはこうだよ」

 いや折角隠した意味!と思いつつ、見上げると水晶渓谷が眼前に広がっている。

「オルト!」

「魔術師は真理の探求者、故に抱える不安というのは現実の理論では永久に答えが出ないもの。そして人の性格というのは未知に対する不安に対してやや過剰な反応をする。つまり、魔術師が不安になったら暴走すると言うことだ。

 無論暴走した人間は手をつけられないことが多い。このまま隠れてて百合が死んじゃったらとても嫌なので、こうして参上したんだよ。

 ハロー、魔術師さん」

 気さくな感じで換気扇裏から出てきたオルトに、セイラは震えている。

「“水晶渓谷”だって……!?ふざけないでよ、そんなまやかし効くと思ってるのですか?キャスター!」

「ざぁんねん、私はただの魔術生物なんだ。水晶渓谷も、本物なんだよね」

「魔術師にすら御伽噺の一つだと言われてる存在を騙って何が楽しい」

「強気に出てるけど、実際はそう思ってないんじゃ?」

 何をいっているかさっぱり分からない。

 こちらにあるのは聖杯戦争の基本的なルール及びオルトが水星人最強というだけ。魔術の世界に関しては昨日今日でルールとか把握出来るわけないし、どんな界隈かも理解できるはずもない。

「“極限の単独種(アルテミット・ワン)”なんて居るはずない!地球の奥深くに居たとしても、何故こんな地上に!」

「____ふむ、信じてらっしゃらない?」

「あの余裕綽々で出てきたところ申し訳ないが、アサシンみたいにならないか?いやそうならなかったとしても現実の問題で俺が捕まるかもしれないぞ。屋上行って帰ってきませんでしたは流石に怪しまれるって」

「そうだぞ!」

「お前死にかかってる立ち位置ってお分かり!?」

 と、お嬢様に突っ込む。

 じゃあどうしろって言うの、と肩を上げて不満げそうなオルトを他所に交渉に持ち込もう。

「セイラ・メル・ヴェル。ここからは交渉というかお願いなんだが、今死にたくないなら聖杯戦争が終わるまで俺に協力してくれないか?こっちだって始まった直後にアサシンやってきて死にかかったんだよ」

「____で、そのアサシンは?」

「いやそれはもうミンチになったけど」

 こんなこと魔術師に言ったらキレられて当然なんだな。

 怒りかけてる彼女を宥めるように、続きを話す。

「信じるしかないな、アルテミット・ワン……それが居たら流石に」

「よかった。ここからもまあ脅しなんだが、使ってるクラスとその英霊の詳細頂戴?」

「はぁ!?」

「流石にそれはダメでしょ!」

 と勢いで相手の情報吐かせようとしたら、二人に怒られた。

 侮辱してるのかって怒るセイラに、呆れてるオルト。

「あのー、これは流石に説明不足じゃない。

 普通殺し合いしますってなった時敵にわざわざ情報を渡す?」

「いやそれは渡さないが……ああそうかそうだな。

 けどクラスだけなら情報があまりに少なくないか?大体脅しなんだぜ、もう少し派手に行こうよ。今腕時計覗いたけど、まだ30分あるんだし」

 しかしどうやって聞き出そうか?

 なんとか聞き出す為には、表現方法を変えるとか規模だけでも聞くのがいいが。

「じゃあ、こうしよう。

 アーチャーの強さはどんな感じだ?ソシャゲとかだと色々あると思うんだが、SSRとかURとか、星5とかさ!」

「それなら答えてあげる。

 アーチャー、星5。中国由来よ、まあ三国志ではないけど」

「良い聞き方ね、百合。中国由来で三国志じゃないって事は知る人はそんなに居ないわ。中国は三国志がメインコンテンツって言われてるから」

「ごめん分かった気がする」

 中国神話か封神演義のどちらかになるだろう。けど、そもそも弓に関してはあまり有名なやつは限られる。東西南北問わず知られてる神や英雄が召喚されるというなら、答えはほぼ一つ。

 誰かが置いていった鏡を持って見せる。

「オルト、水晶の反射を最大限に利用して“まるで太陽があるかのように”見せてくれ。目一杯高く投げるから、高さが限界に達したら伏せろ」

「いいけどそれ死なない?」

「グッドラックさ!」

 どうせガードしてくれるなら問題はない。

 そして捕まえたマスターを見ると焦ってる表情。

「そうだ、その顔が見たかったぁ……私に情報戦で敗れた未熟なマスターのその顔がぁ」

 散々に言ってくれた礼をここでして、そろそろ投げよう。

「ではやろう。マスターさんには、情報戦で負けたことを一生悔やむ権利をあげるわ!」

 息を整えて振りかぶる。

「嫦娥よ、見ているか!今からお前の夫に悪戯しちゃうぞ!」

 上に投げる。

 一番上に届いた瞬間、凄い音が山の方からする。

 鏡が一番高く、かつ目も当てられないほど輝き熱を放つ段階でものすごい勢いで鏡が割れる音と風が周りを覆う。

 しばらくは伏せていたが、それが収まった後に立ち上がると少ししか破片が残っていなかった。

「ビンゴ〜、お前のサーヴァントの正体見抜いたり!」

「バカな……!」

「え、ちょっと、え?」

 戸惑うオルトに自慢げに説明する。

「封神演義はゲーム化されたから正直太公望が出てないのであれば、メインから外れるだろう。バレる可能性高いからね。で、名だたる将軍はほぼ三国志から出てきたのだからこれもスルー……というなら情報戦で調べない限りバレ辛いのは中国神話からだろう。

 で、俺思ったんだよ。その中で一番強い弓使い(アーチャー)は誰だろうとね。お前は言ったのに失念してたんだよ、“俺が魔術師じゃなかった”ってコト。

 サブカルチャーなら、実はインターネットの話題といえばってくらい有名だった同人ゲームがあったんだ。うさぎさんが出た後のシリーズ作で丁度純狐が出てきてね。中国神話にはそこで縁があって調べたら、その界隈で有名な“嫦娥よ、見ているか!”に関連する人物に今回呼べそうな奴が居るではないか!」

 息を整えて、マスターに言う。

「お前のサーヴァントは、后羿だろ?」

 がっかりしたように肩を落としたセイラは、お手上げというように白状する。

「降参ね。はあ、なるほど。魔術師じゃないって意味を私は理解してなかったのね」

「騙し討ち出来るって自信もあったけど逆に仇になったな。魔術師ってのは不思議が好きだから隅々まで理論で出来上がったネットワークを使う事は一般人と比べて少ないだろう。

 だから、そこは俺の勝ちって事でどうかな?ここまでコケにされたら、流石に対処しようもないでしょ。最もこの街がどうなってもいいから破壊を繰り返すって言うなら別だけど、それは太陽を九つも落とした男がやる事じゃないでしょ?俺は命を取らないよ、今必要なのは協力者だからね」

 相手からわかった、と了承を得た。

 という事は魔術師という専門職に加えて、めちゃくちゃ強いアーチャーが手に入ったということになる。

「しかし、それだと不平等だよな。魔術師なりの倫理でなくてもギブアンドテイクは必要不可欠。抑圧されるだけ、という状態のままならいつか隙見て殺される」

「一緒に戦うって事で十分お釣りは来るわ。弱くなっても、それはアルテミット・ワン。水晶渓谷がこれほどまでに強いなら、それだけでもありがたい限りよ。

 ただ、一つだけやらせて欲しいことがある。オルトと言ったわね?貴女自身で一回使って欲しいものがある」

 取り出したのはある検査キット。肌に触れさせるだけで、何かが分かるものらしい。

「貴女が本当にアルテミット・ワンならば、この検査キットではクラスはわからないから」

 と渡されたキットを肌に当てるオルト。

 結果を表示するレンズには、ハテナマークが浮かぶだけで何も出ない。

「本物ね」

「じゃあ、解放しても大丈夫?」

 水晶渓谷から解放されたセイラは、ため息をまたついてこちらを見る。

「そろそろクラスへ戻りましょうか」

「そうしよう」

 解散するかのように、みんなで屋上からクラスへ戻っていくことにした。

 

 そして放課後。

 誰もいなくなった教室で、二人きり。少し話してみたい、と理由づけしてくれたのが効いている。

「____つまりお前は、聖杯に何も願う事はないと」

「戦争の結末が見たいだけ。だって、私は魔術なんて興味ないもの」

 凄い予想してなかったことが耳に入る。

 要約するなら、そもそもセイラの一族は魔術に秀でている。しかもロードと呼ばれるそのジャンルでトップのオタク直属の魔術師、で彼女はそのロードから目を付けられてる凄い強い魔術師ということになる。

 しかし彼女は、魔術の勉強をしたけど正直気が乗らないらしい。一応親の面目のためにここに来たけど、すぐ終わらせて帰りたい。けど出てきたアーチャーが神霊みたいな感じだから、手放すに手放せない。アサシンだったらこのレースをすぐに降りれたと、ぼやいている。

「あの時は流石に侮辱が過ぎて殺したくなったけど。貴方はそもそも関係なかったのに運悪くアサシンの探知に引っかかって、戦うことに?」

「大まかそう。だからオルトと協力して、戦争を終わらせようって話をした。実際強いし、あいつも元に戻れれば後はいいって考えだったし」

「そんなのでアルテミット・ワンが力を貸すとは思えない。何度も言うけど、サーヴァントより凄い存在なんですが」

「ところでアルテミット・ワンってなんだ」

 信じられないという顔で、彼女に見られる。

「直訳したら究極の一、貴方が言ってた最強な存在の事を魔術師の間では極限の単独種(アルテミット・ワン)と呼称されるわ。

 けどその存在なんて捉えられる筈もないし、それを知ってるのは魔法使いだけ。魔法使いなんて滅多に見られないから御伽噺程度に聞かされてたの」

「心とタイミングが合えば縁は出来る。知ってるか?今のヒーローは『今俺を見たな?これでお前とも縁が出来た!』って言うんだぜ。そんなもんさ____でちょっと待って。オルトもそうだったけど、なんで魔術と魔法って言葉を使い分けてるんだ?意味が違うのか?」

 ここまでくれば、呆れもせずに話してくれる彼女に感謝しないといけないな。

「知るわけないもの。しかし、細かい説明はパンクするので貴方の世界で分かりやすく言うなら魔法は地球の憲法、魔術は地球の法律よ。

 魔法は5個ぐらいのルールがあって、それが出来る人は凄いの。最高裁の裁判官みたいな立ち位置ね。

 一方魔術は広く普及してるルール。等価交換で成り立つ世界だから、あまり不正出来ないようになってる。魔術師は魔法界の弁護士や家庭裁判官みたいなポジションよ」

「つまり魔法使いはこの世界のルールを作ることもできるのか」

 飲み込みが早いわね、と褒められる。

「そういうこと。で、魔法使いはもう好き勝手に出来るからあまり表に出て行動しないけど……魔術師は世界の構造(ルール)を知らない。一人でも行ける道だけど、人生には限界がある。寝たきりだったら何もできないから……幾人か同業者を集めて聖杯という物を使ってこの世の構造を知ろうとする儀式がある」

「それが聖杯戦争か」

 待てよ?じゃあなんで殺し合いをしてるんだ……同業者の死すら厭わないのは自分勝手な魔術師にありがちだと言い切ればいいが、英霊はどこへ?大体、殺し合いをする必要はない筈だ。英霊に必要なエネルギーをそのまま聖杯に押し込めばいい、そうすることが一番楽だ。

 それができない、と言うのであれば何か事情がある筈。

「サーヴァントと魔術師が戦ったらどっちが勝つんだ?」

「それはもちろんサーヴァントでしょう。どんな形であれ、英雄なんですから。逆らわないように仕組みがあるに決まってるじゃない……急にIQ投げ捨てるのはやめませんか?手綱なき馬、手懐けてない獅子とどう戦えと」

「じゃあサーヴァントの方が魔力を持ってるってことだよな。で、アサシンが襲ってきたのは多分他のサーヴァントと違ってオルトが桁違いの魔力を持ってた」

「当たり前を確認することは良いことですけど、何故謎が解けていくような声色を?」

「サーヴァントは、ただのエネルギー源じゃないのか?」

 彼女の話をまとめるなら、聖杯戦争は聖杯というこの世の構造を知り干渉するための機械を英雄を召喚して奪い合う。けど、聖杯だってそんなすぐ起動したり動くわけ無い。もし即座に無制限で好き勝手に世の理を変更出来たら、そもそもマスターを集める意味はない。

 だから聖杯のエネルギー供給源かつその名目で強い英霊を召喚して殺し合うなら納得がいく。完璧に出来なかった出来レース、とでも言うべきか。

「何を言うのですか?」

「なんでわざわざサーヴァントを召喚するのか疑問に思わなかったのか?魔術師で協力して魔力を割り勘すれば良いだけなら英雄を現世に喚ぶ意味はない。

 今セイラはサーヴァントは基本魔術師に勝てる、と言った。だとすれば、サーヴァントってエネルギーを沢山持っていることになる」

「錯乱してるんですか?」

「もう一つ聞くけど、死んだサーヴァントはどうなるかお前は分かってるのか?」

 首を振る。

 じゃあ、やっぱり……そもそも大掛かりな儀式ならルールもあり構造もあり、死んだやつは聖杯の養分になっても。

「とりあえず、貴方は私の同盟メンバーです。

 今は、勝つことを考えましょう。どうせ殺し合えば、私の手に渡るんです」

「あ、あぁ____」

 戸惑いながら返事をすると、どうやら廊下が少し騒がしい。

 立ち上がってお互いに帰ろうと思った矢先、扉を開いて陽成が入ってきた。

「大変だ二人とも!補修終わったばっかなのに帰れそうにないっての!」

「どうしたんだよ?」

 外を指差すので、見てみると____

「なにこれ」

「嘘でしょう?」

 運動場が騒がしいどことじゃなかった。

 なんか死体っぽい人体が蠢いている。

「死霊術!?というより、なぜ魔術が!」

「言ってる場合じゃねえだろ!早く荷物まとめて行かねえと!」

「ああ、そうだな」

 3人で、非常事態となった教室からすぐ出て階段を降りる。

 幸い、いつも使ってる入口は塞がれてない。

 急いで出るが、傍目見た限りもはやゾンビ映画のワンシーン。

「一体誰がこんなことを!」

「知るかよ!てか男子の全力疾走についてこれるなんてセイラちゃんって健脚!」

「陽成言ってる場合かよ、あんなのが実在することに適応しやがって」

 と坂道を下ろうとするが、そっちも道が塞がれた。

「くそっ!」

「あらら、お困りですねえ」

 誰だ、と振り向く。

 ゾンビたちを引き連れて、女が一人やってきていた。

「いやあ、先日はお世話になりました。まさか、ウチのハサンが1時間後に消滅してるなんて……やってくれたな貴様!」

「ありゃ勝手に襲ってくる奴が悪いだろ!大体、聖杯戦争に参加してないやつに負けるなんてお前こそハサンに謝ってみたらどうだクソアマ!」

「魔術師なら神秘の秘匿を知っている筈です!何故、このような暴挙に!」

 女は高笑いしながら、キレ散らかす。

「ふざけるなよフェル家の娘!良いところに生まれたからと、好き勝手に正義を名乗って!」

「神秘は一人で追うからこそ人生になり得るのです!それすら心得ないで、魔術師を名乗るなんて笑わせる!」

「え、何言ってんだお前ら!?」

 友人の驚きも今は聞いてられない。

 女はゾンビを向けてきている。

「ウチにはもう神秘も関係ない!さあ、死に晒せぇ!」

「戦うしかないのか」

「神秘の秘匿は目の前に人がいて出来ないものだと」

 それでも魔術師の矜持を優先するセイラに苛立つ。

「今ここで、俺らの街で人が殺されてるんだぞ!殺し方が魔術もクソもあるかよ!」

「ですが……」

「ああもう!」

 仕方あるまい。

 周りを見渡して、一般人が陽成しかいない事を確認後声をかける。

「生き残りたきゃ今から起こることを口外しないと約束しろ!」

「カップルの秘密なんか口に出せるかよ!」

 やつらしい返事が返ってくる。畏まらず、言いたいように言えてるからきっと理性はある。

「早くパパッと逃げれるようにしてくれとのことだ、どうする?」

「____仕方ない!」

 セイラはバックを揺らす。

 こんな時にメルヘンチックな、と思ったがそろそろ他を気にしてられないので変身ベルトを取り出す。

「ははぁ、死ねぇ!」

『そーはさせないぞ!』

 バックから声が聞こえる。

 

 こちらに向かっていたゾンビは銃声と共に体液を噴き出しながら、そのまま倒れ伏す。

 日本で銃声聞くことってあまりないんだが、何より彼女にこう言う手があったかと驚く。

『ガンドール・ステイメン!』

「おお、おお……えぇ!?」

 着地した二頭身の人形は、手に拳銃を持っている。

 その近くにいる友人からの驚く声。同じ気持ちだから、今分かる。

「貴様ぁ!私には自身の魔術だけで良いと!」

「当たり前。誇りもないやつに、私の英霊を拝むなど言語道断!」

 女の戦いだと見惚れていたが、そんな暇はないと思い出す。

〈Planet Driver〉

 ベルトを巻き付けると、一回目と同じように流れる。

「なにそれ」

「アサシンを殺した時と同じ、手段ってやつだよ」

 パーツをくっつけて、ポーズをとる。

「変身!」

〈Type:Mercury Ready Go!〉

 そのまま、新緑と紺で構成されたヒーローに変身する。

 夕日に照らされると、ダークヒーロー感が増す。

『いきなり呼び出されたけど、どうしたの?』

「オルト。わかりやすく言えばゾンビパンデミックだ」

『なるほどね』

 自分の足元が透けていく。

 相棒お得意の水晶渓谷、今度はどんな効果がついている。

「なんだこれは……水晶?」

 相手も困惑している。

 まあ、わざわざアルテミット・ワンだと説明する理由もない。

『水晶渓谷:魔力帰還、ゾンビを操ってるエネルギーを浄化して回すわ』

「なんでもありだな」

 とりあえず弱ったゾンビを片っ端から殴り飛ばす。

 感染することはない、生物学は関係ないただの特殊なマリオネットならば安心して殴れる。

「待って百合、アルテミット・ワンを装着するってことありなの?」

「オルトのお墨付きでなあ!」

 力が漲ってくるが、流石にエネルギーの吸引率と相手の湧いてくる数がアンバランスになってくる。供給過多で元気なゾンビも蹴り飛ばしたりもしてるうちに出てきた。そうなると、一筋縄でいかない。常にフルパワーな相手の対処なんて昨日今日で出来るわけない。戦闘初心者であるゆえ、対処法に悩む。

 ステイメンに頼ろうにも、陽成の防衛で手も開いてないしそれはセイラも同様だ。

「あはははは!ウチのゾンビはそんなにすぐ減らんでぇ?さあ上級の死体となって、償え!」

「ごめん被りたいところだが!」

 何よりここまで押され続けるとまずい。

 この手のものはすぐに力を借りることがしにくい。ゾンビを一斉に消すのも同じく昨日から生まれた存在であるオルトにもできない。

 困っているが、どっかでゾンビを投げ飛ばした後に足元に何か転がってくる。

「つかえー!」

 声がすると上を見てみたら、屋上近くで小さい影。

「マーズか!」

「そーだよー!」

 マーズからパーツを渡されてる。

「数十分前にオルトに愛撫されて生まれたやつ、大切に使ってな!」

『身体の中に手を入れただけでしょ!?』

 誤解を招く言い方をしないでほしい、と抗議するオルトだったがそんなこと関係ない。

 一回パーツを引き抜いて、フォーム用のパーツを分離させて左腰のスロットに戻してマーズからもらったパーツを取り付ける。

「何をする気だ!?」

 相手のネクロマンサーも、こちらに注意を向けている。

「ヒーローによくある、フォームチェンジだァァァァァーッ!」

 合体させたパーツを、ベルトに挿入した。


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