【第一章 完】ドロップアウト・ツインズ   作:Hannibal

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【前回のあらすじ】
 パゼラは実戦テストでトリルを死闘の末に、勝利する。
 そしてパゼラはそのままトリルにトドメを刺そうとするが、六郎に止められる。
 試合後の保健室で治療を受けた後、パゼラと六郎は家に帰る。彼女はこの結果にあまり満足していなかった。


第十話

──あまり変わらない。

 

 実戦テストが終わってから四日が経ったが、パゼラはそう思った。

 目立った変化といえば周りの見る目に恐怖の念が込められるようになったことと、トリルが学校に来なくなったことぐらい。

 

 周囲の生徒のうわさ話によれば、トリルはあの日以来自室から一歩も出ていないという。

 それだけだ。それ以外は何も変わっていない。彼女の人生には依然、暗雲が垂れ込めたままだ。

 

 そしてその苛立ちは全て六郎にぶつけられた。

 どうしてあそこでトリルを殺させてくれなかったのか。彼女は何度もそう問いながら彼をいたぶった。

 

「そんなにボコボコにされてさぁ、本当に惨めだよね」

 

「そうだな」

 

 六郎は身体を折りたたんで咳をした。

 普段より長く続いたそれが終わった後に手の甲を見ると、血がべっとりついていた。

 

「大丈夫?」

 

 それを覗き込みながらパゼラが言う。

 まるで道端にうずくまる見ず知らずの人間に向かって親切心で声をかけているように見える。

 

「忘れないでよね、あんたはわたしに生かされてるの」

 

 六郎の額を指でコツコツと叩きながらパゼラはそう言った。

 

「死なないうちに直さないとね、それ」

 

 それからふと、パゼラが思い出したかのようにバッグの中身を探った。

 中から紙を取り出して、それをまじまじと見つめる。

 

「今日までなら……まだセーフか」

 

 そう言うと彼女はそれを再びバッグの中へしまい、カバンを肩にかけた。

 

「今日まで提出の課題があったんだ……いっしょに来る? ついでにその傷治そうか」

 

 二人は学校へ行く次第になった。

 パゼラがドアを開け放つと、目の前には人が立っていた。

 紫の前髪にニヤついた大きな口はネクラマだ。

 

「あれれー、二人してデートなの?」

 

「なにそれ。課題を出しに行くだけなんだけど」

 

「そっかぁー」

 

 パゼラの家を訪れる者はほとんど存在していない。

 そうでなくても、ネクラマは何を考えているのか分からない。警戒心をあらわにしながらパゼラは彼女に接した。

 

「そういうあんたは何しに来たのよ」

 

「え? えーっとね、何しに来たかっていうと……」

 

 二人が目の前にいることなど忘れたかのように、顎に手を当て考え始める。

 

「うーん、じゃあそうだ、パゼラちゃんの勝利を祝いにきたの」

 

 今この場で考えだした理由というのは誰の目にも明らかだったが、ネクラマはそれを隠そうともしなかった。

 

「なんでわたしにそんな絡むわけ? 友達いないの?」

 

「ふひひ、それはねー、他の人と話しているよりパゼラちゃんと話してる方が楽しいからだよー」

 

 そう言ってパゼラはネクラマを睨みつけるが、しかしその視線は紫色の前髪に遮られてネクラマの眼には届かない。

 

「それはそうとさ、じゃあ明日やろうよ、祝勝会。パゼラちゃんの家で」

 

「明日……まあいいけど」

 

 断ってもどうせしつこく迫ってくるのだろうと考え、パゼラは半ばあきらめたかのように言った。それに加えて、彼女は心のどこかで勝利を祝えば少しは変わるのかもしれないとも思っていた。

 

 それを聞いた途端にネクラマは踵を返し、来た道を戻り始める。

 

「また来るねー」

 

「なんなのアイツ」

 

 ネクラマにも聞こえるような声量でパゼラが言った。

 

「俺に聞かれてもな……あ、そういえば」

 

 半ば呆れる六郎だったが、ふと気になることを思い出す。

 

「前にあいつと出かけた時に……お前が誰と暮らしているかみたいなこと聞かれたな……」

 

「なんて答えたの?」

 

「男が一人いるって言っておいたが」

 

 彼は答えに細心の注意を払った。

 

 

ーーーーー

 

 

 それから二人は学校へやってきた。

 六郎は保健室へ、パゼラは職員室へと向かう。

 

 保健室にいたのはルビアールではなく、他の魔術師であった。六郎の傷を、多少は訝しみながらも特に質問などはせずにそのまま治療した。

 それから彼はパゼラと合流しようと、職員室へと向かう。中ではパゼラが取り込み中のようであった。向かいに座っているのはロベルトだ。

 

 時間はそれほどかからなかった。六郎が壁にかけられた勝手に文字が現れては消えていく掲示板を眺めているうち、パゼラが出てくる。

 

「なんか嬉しそうだな」

 

「そう?」

 

 二人が歩きだそうとした直後。

 

「あ、あの!」

 

 後ろからキンキンとした甲高い大きな声が聞こえた。

 パゼラはピクリとも反応せずに廊下を歩き続ける。

 

「パゼラさん!」

 

 そう名前で呼びかけられてからようやく足を止め、怪訝な顔で振り返る。

 

 彼女の頭一つぐらいの下には、緑がかった濃い黒髪をシンプルにふたつにまとめた少女が。

 かわいらしい丸い目はパゼラを真正面から貫いている。

 

「おめでとうございます! これを!」

 

 後ろ手に隠していた花束を、半ば押し付けるように力強くパゼラに差し出す。

 

 パゼラは受け取るつもりなど毛頭なかったのだが、その勢いの良さに思わず反射的に花束を手に取ってしまった。彼女の鼻先に花の甘い香りが漂ってくる。

 

「実戦テスト見てました! トリルさんを──」

 

 その言葉にパゼラが眉間にしわを寄せたことにはまったく気が付かず、少女は続ける。

 

「倒してしまうなんて! さすがです!」

 

 三人の間に微妙な間が流れた。

 

「……あんた誰?」

 

 少し困惑しながらパゼラが質問する。

 

「す、すいません! 自己紹介がまだでした! 初等部のアンナ・フロストと言います!」

 

 実戦テストを始めとした数々の模擬戦闘はこの学校で大きな娯楽になっており、特に有名な生徒にはファンが付くこともまあある。

 しかしそういったファンが付くのは主に高等部の生徒たちであり、中等部の、それも最初の実戦テストから押しかけてくるのは非常に珍しい。

 

「とにかくおめでとうございます!」

 

 アンナは一点の曇もない笑顔で、真っ直ぐな視線でパゼラを見据えている。

 パゼラは自分が責められているような気分になって目を逸らした。

 

「別に……めでたいことでもなんでもないし」

 

 そうひとりごちた後に目線をちらと戻す。

 アンナの目線は相も変わらず彼女を捉えていた。

 

「今度ぜひ部室に来てください! 毎週お茶会をしていて──」

 

 興奮気味にアンナが言葉を続ける。

 

「ちょっといい?」

 

 それが別の声に遮られる。

 パゼラが振り返ると、こちら側にゆっくりと歩み寄るピンクのツインテールが──リリアナである。

 

「ん、初等部の……」

 

 リリアナの目線の先にいるアンナは、怯え切った表情に切り替わっていた。

 

「ああ、トリルに部室を取られてた奴ね。こんなところで何してるの?」

 

 彼女はなんの気もなしにそう言った。

 

「ひ、他人事みたいに」

 

 両手を力強く握りしめながらアンナは言葉を続けた。

 

「あ……あなただってグルになって占領してたじゃないですか!」

 

「私はアンタのためを思ってやってあげたんだけどね、それにこっちにも事情があるの」

 

 そう言うとリリアナは手で払い除けるジェスチャーを見せる。歯ぎしりをしながら彼女は後ずさり、それから背を向けて駆けていった。

 

 彼女の影が見えなくなってから、リリアナはパゼラの方を向き直る。

 パゼラは苛立ちを顔に滲ませていた。

 

「何しに来たの? あんたみたいなのが一人で勝てるとでも?」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

 両手のひらを見せながら、できる限り柔和な声でリリアナが続ける。

 

「トリルが学校に来なくなったじゃない?」

 

「わたしのせいだって言うわけ?」

 

 ひと呼吸おく間にパゼラが割り込んだ。

 

「いや……こうなったのも全部私たちのせいだと思ってる」

 

 語るうちにリリアナの表情は悲痛なものに変わる。

 

「あいつも多分、コテンパンにやられて一人で反省してると思うからさ……」

 

 そう言いながら、彼女が右手を差し出す。

 

「なかったことにして……もう一回やりなおさない?」

 

 瞬間的にパゼラの左手が閃き、右腕を掴み上げるとそれを身体の外側の方向へ捻る。

 

「痛だだだだっ」

 

 リリアナは思わず両膝をつく。

 間髪入れず、その無防備な顔面に右足が炸裂する。

 その蹴りをもろに喰らったリリアナはあおむけに倒れた。

 

「今更何? 不愉快。私の前から消えてくれない?」

 

 肩で息をしながら、パゼラが言葉を紡ぐ。

 

「行くよ六郎」

 

 彼女は踵を返すと、リリアナを一瞥することもなく歩き出した。

 それに追従しようとした六郎を、リリアナの苦しそうな声が呼び止める。鼻血を垂らしている。

 

「……あんたはなんで止めないの?」

 

「別に……俺にそんなことする資格はないよ」

 

「……実戦テストで止めてたじゃないの。とどめを刺そうとしたのを」

 

──あれは思わず動いたのだ。あれは『なるがまま』だ。

 

 六郎はそう心の中で呟いてから、リリアナには声を掛けず振り向きパゼラの背中を追いかけた。

 少し離れたパゼラに追い付くように、彼は駆け足で彼女の隣に並んだ。

 

「イライラする……馴れ馴れしくやがって……何が反省してるだ……」

 

 そうブツブツ呟きながら早歩きをする彼女は、六郎の気配に気が付くと爪を立てて彼の右腕を強く握った。パゼラは六郎からなにか心地の良いものが流れ込んでくるような感覚を感じていた。

 

 それから今この瞬間に気がついたかのように、右手に握る花束を見る。

 苦虫を噛み潰したような嫌な顔をすると、それを六郎の身体に押し当てた。

 

「わたし、花は嫌い。六郎が貰って」

 

 受け取れ、といわんばかりに花束をもう一度押し付ける。

 

「そうか」

 

 そう言うと彼は花束を受け取った。

 

「適当に捨てるなりなんなりしといて」

 

 六郎は少し考えたが、パゼラにこれを渡してきた小さな生徒のことを想うと、捨てる気にはならなかった。

 

「少し寄り道していってもいいか?」

 

「別にいいよ、わたしは先に帰るけど」

 

 

ーーーーー

 

 

 六郎はふらふらと歩き続け、やがて工房棟にたどり着いた。

 それから、隅にうず高く積まれたガラクタの山に手をかけると一つずつ花瓶に使えるものがないか吟味し始めた。

 

 穴の空いた瓶、中から焦げ臭い金属の臭いがする木製の箱……それらを手に取っては隣の山に放り投げるという作業を続けていた。

 

 そうして六郎が漁っていると、後ろで物音がした。

 彼は思わず振り向く。

 

「よっこらせ……ふう、どうして私が肉体労働を……」

 

 腰に手を当てながらそう呟くのはルビアールだ。

 思いっきり伸びをしていたところで、六郎の視線に気が付く。

 

「あっ、あなたは」

 

 背を正し、口のあたりに手を当てて咳払いしてから話し始めた。

 

「あーっとその、こんなところで会うなんてとっても奇遇ですよね?」

 

 少し早口になってしまったことを自覚して顔を赤くする。

 その様子に困惑した六郎が会話を続けられないでいると、調子を取り戻したルビアが再び始めた。

 

「で……こんなところで一体何を?」

 

「これに使う用の花瓶を探していたんだが」

 

「ああ、それでしたら──」

 

 途中まで口にしてから、左右を見回し人のいないことを確認しててからまた口を開く。

 

「──それでしたら、わたくしの家に良い花瓶がいくつかございますわ。見ていきませんか?」

 

 

ーーーーー

 

 

 二人は学校を出て、すぐそばに停めてあった馬車に乗り込んだ。

 革張りの豪華な座席に居心地の悪さを感じながら向かい合って座っている。

 

「それにしても……どうしたんですか? その花は」

 

「押し付けられたんだ」

 

 その言葉を聞いてルビアははにかむ。

 

「また面白いことを言いますね、花束とは誰かに贈るものでしょう?」

 

 そんな会話をしている内、馬車は屋敷にたどり着いた。屋敷が乱立する、一等地のど真ん中だ。

 ルビアが門に手を触れるとオレンジ色の光が門を伝い、それから門が開く。

 

「さあどうぞ、倉庫はこちらです」

 

 手を引かれ連れられた先には、豪華な陶器の数々が博物館のように置かれていた。

 

「どうぞ好きなだけ手に取って見てみてください。これとかどうですか?」

 

「あ、ああ……」

 

 それらが高級品なのは誰の目から見ても明らかだろう。

 自分が場違いな存在であることをひしひしと感じながら、恐る恐る六郎は首を動かす。

 

「ほら、これとかどうでしょう?」

 

 ルビアがシンプルな翡翠色の細長い花瓶を手に取り六郎に見せる。

 凡百のそれとは明らかに一線を画する、美しい波打った模様が高貴さを感じさせる一品だ。

 

 もし落として割ってしまったら一体いくらになるのだろうかと考えた六郎は一歩後ずさった。

 

「あー、いいかもな……」

 

「あら、気に入ってくださいましたか。お近づきのしるしということで、どうぞ」

 

 満面の笑みを浮かべながらルビアが花瓶を差し出してくる。

 

「いやその、この花束……預かっておいて欲しいんだが」

 

「預かる……とは?」

 

「これはパゼラがもらったんだ。それで、あいつが俺に押し付けてきた。『捨てるなんなりしといて』っていってな」

 

「そうでしたか。では、預かっておきますね」

 

 六郎はダメ元で頼んだ願いが聞き入れられ、ほっと胸をなでおろした。

 

「ただし、預かるだけですから、枯れる前に受け取りに来てくださいね」

 

 それからルビアが人の名前を呼ぶ。

 音もなくメイドがやってくると、花瓶と花束を受け取りまた音もなく帰っていた。

 

「さて──」

 

 大きく息を吸い込み、緊張した面持ちで六郎に向き直る。

 

「この後予定はあります?」

 

「いや、特にないが」

 

「それは良かった! 二人でその……お、お茶でも、しませんか?」

 

 

ーーーーー

 

 

 六郎は庭園の真ん中にある椅子に落ち着きなく座っていた。

 

 改めて周囲を見渡す。

 色とりどりの花々が、ガラス張りの天井から降り注ぐ日光を浴びて輝いている。

 白を基調として金色の装飾が施された椅子と机は傷一つなく磨きあげられている。

 

──これじゃあ庭園じゃなくて植物園だな。

 

 やることも無く持て余していると、扉の方からカラカラと車輪の回る音が聞こえてくる。

 

 これまた美しい装飾の施された三段のワゴンを押して、ルビアが入ってきた。

 上には細かな装飾が施されたティーカップとポットが乗っている。

 

「……マナーも何も知らないんだが」

 

「そんなそんな。楽にしていてください。これも正式なそれとは程遠いですから」

 

 ルビアはそう言いながらセットをテーブルの上に置き、それからカップに紅茶を注ぐ。

 

「どうぞ」

 

 六郎はカップを手に取り、顔の近くまで近づけた。

 次にカップを軽く回し、香りを嗅ぐ。

 

 それから伺うようにルビアの顔をちらと見てから──彼女は相も変わらない微笑みを浮かべていた──口に流し込む。

 水で薄めた紅茶のような味、それからシナモンを鼻の奥に詰めたかのような痺れるような刺激を感じた。

 

「まあ、なんだその……飲めなくはない」

 

「あら、それは良かった」

 

 紅茶の香りで実際に心が落ち着いていくのを、六郎は堪能していた。

 その頃合いを見計らったかのように、ルビアが口を開く。

 

「私……その……心配なんです」

 

「何が?」

 

「貴方のことですよ! あの時見たあの傷は……パゼラさんに付けられたものでしょう?」

 

 問診の時。ルビアは六郎の身体に刻まれた痣の数々を見た。

 

「そうだが」

 

「……どうして彼女と一緒にいるのですか? 命の恩人とは言っていましたがそれだけで、そのような所業が許されるわけ──」

 

「あいつが俺のことを必要としているからだ」

 

 一人でヒートアップするルビアを諫めるように、強めの口調で六郎が割り込む。

 それと同時に、彼はあの満月の夜のことを彼は思い出していた。

 

──『どうしてかは分かんないけど、六郎を見てると安心するしイライラしてくる。わたしには六郎が必要なの……多分』

 

 幻想的な、眩いばかりの月明りに照らされた彼女の表情には憎悪も軽蔑もなかった。

 

「でも、だからって貴方が傷つく必要はないでしょう?」

 

 ルビアの言葉で現実により戻される。

 そう指摘されて、六郎は初めて気が付いた。

 

「彼女が貴方を必要としているのと同じように、貴方も安心できる場所を求めてもいいんじゃないですか?」

 

──本当に必要としているのは、俺の方かもしれない。この世界に落ちてからの拠り所を。

 

「……そう、だな」

 

 ルビアは六郎の言葉を待っているようだった。

 

「逆に聞くが、なんであんたは俺のことをそんなに気にかけるんだ」

 

 自分の心情から矛先を逸らすように、六郎は彼女にそう問いかける。

 

「それは当たり前のことじゃないですか。傷ついた人がいれば助けたくなるものですよ」

 

 答えはあっけなく返ってきた。

 

「そうなのか」

 

 それから六郎はひと呼吸おき、ルビアの眼を見据えてから再び口を開いた。

 

「俺には……分からない。そういう人の善意なんて……正直気味が悪い」

 

 決してルビア本人に対して言ったわけではなかった。

 そのことは彼女にもぼんやりと感じられた。

 

「だから俺はあいつの元にいるんだろうな。あいつが何を考えているかは分かりやすい。ある意味心地いいんだ」

 

「そう、ですか」

 

 ルビアが目線を手元に落とす。

 

「わ、私にはどうすることもできないから……」

 

 うわごとのように何度もそれを繰り返す。

 うろたえた様子で、落ち着きなく手を動かしている。

 

「パゼラさんの傍にいてあげられるのは六郎さんだけ、そう言うことですよね」

 

 見かねた六郎がカップに紅茶を注ぎ、それをルビアに差し出す。

 彼女はそれを一息に飲みほした。

 

「ありがとうございます。私としたことがお見苦しいところを……」

 

 六郎は何も反応しなかった。

 一息ついてから、ルビアは伏し目がちになりながら口を開く。

 

「本当はその、契約者がいる方と二人きりで会うだなんて、褒められた行いではないのです」

 

 それから赤らんだ頬で、伺うように六郎の目を覗き込む。

 

「だからこのことは二人だけの秘密ということで、お願いします」

 

 彼女の口から発せられるその言葉は、どこか背徳的な甘みを含んでいた。

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