僕は、あの神社から足早に出ると家に戻った。
玄関を開けると、親には大変驚いた顔をされた。
カレンダーを見るとどうやら本当に一週間、時間が立っているらしい。
すっかり充電が無くなってしまった携帯に充電器を繋いで見ると、学校の友達から沢山メッセージが来ていた。
返すのも面倒だったので僕はそのまま眠ることにした。
海のように穏やかな眠りだった。
###
次の日、体感は一日でも体の疲れは1週間分あったようで、一日ゆっくり寝て、その次の日に学校に行く事にした。学校に行くと色んな人に声をかけられた。
「誘拐でもされたのか」とか「神隠しにあったのか」とか様々。神隠しというのは近からず遠からずかもしれない。僕は「狐に騙されたんだ」と返した。皆は首を傾げて聞き返したけど僕は「そのままの意味だよ」と言ってそれ以上は言わなかった。
先生からも色んな事を言われて、学校が始まる前にだいぶ疲れてしまった。
放課後、僕は図書室に向かった。調べたいことがあったからだ。九尾について、そしてあの神社について。
市立図書館の方がいい様な気もしたけれど、少し遠いから初めに学校の図書室にすることにした。無かったら休日にでも行けば良い。
二、三冊程見繕って僕は椅子に座って本を読み始めた。
僕の前に一、二冊程本が積み重なった頃、僕は目の疲れを覚えて、読もうと思って傍に置いていた三冊と今読んでいる本を遠くへ退けて、軽く目を手で揉んで、ふぅと大きく息を吐いた。
取り敢えず収穫はあまりなかった。
前にも僕の地域では高校生くらいの一週間程の失踪事件があった事くらい。前とは言ってもお父さんが高校生の時くらい前なのだけれど。
僕はぼぉっと窓を眺めながら考え事をしていると、図書室のドアが開いた。
もう皆帰っていると思っていたけれどまだ居たらしい。
「一週間居なくなったのに何も言わずに図書室にいるのはどういうこと?」
「調べたいことがあったんだ」
「私に一言言う前に?」
「そう」
ドアにもたれ掛かりながら、はぁとため息をついて、彼女は腰まで伸びる夕暮れの光を受けて眩しく輝く白髪の髪を手で払うように動かした。彼女──久川由希との関係性はいうなれば友達なのだけれど、その友達に一言無いのは彼女にとっては苛立つらしい。
荒っぽく椅子を引いて、僕の隣に座って、絹のように細く美しい人差し指でトントンと机を叩いている。
「まず何で1週間居なかったの?」
質問と言うよりは僕を責め立てる様に僕をじっと睨みながら言った。
「妖怪に化かされたんだ、僕の家の近くの神社にいる」
「……私は貴方がそんな冗談を言うと思ってなかった」
彼女は呆れたように大きくため息を着いた。
「冗談じゃないんだけれど」
「えぇ、それが本当だとしましょう、それってどんな妖怪なの?何でも妖怪のせいにするブームがあったのはだいぶ前よ?」
「九尾」
「九尾?あの狐でしっぽが9本ある?」
「そう、その狐でしっぽが9本ある」
「これが本当の女狐って事ね」
彼女の小さい呟きは、片付けようと思って持った本が落ちてしまった音に紛れて聞こえなかった。
そして、その音で彼女は僕の前に積まれていた本を見た。
「確かに、貴方が読んでる本は全部九尾がいるものばっかりね。後は新聞」
彼女は僕の持ってきていた本と新聞のタイトルをよく検分してまた机の上に置いた。
そして彼女は突然、僕の首筋にくっ付いてしまう程顔を近づけて、クンクンと鼻を鳴らして嗅いだ。
その時に彼女の肩から髪がひと房ほど僕の喉辺りに絡み付くように掛かって、何だかとってもくすぐたかった。
「確かに獣の臭いがする。人とは違う匂い」
散々人の匂いを嗅いだ後、彼女は離れた。
「確かにこれなら九尾に攫われたって信じるわ。とても獣臭かったもの」
「そんなに獣の匂いってしたのかな」
僕自身の腕を自分で嗅いでみてもよく分からない。
でも、信じてくれたのだから良しとしよう。
「それで貴方が一週間何をしていたのかを私は聞きたかったの」
「僕が何をしていたのか?いきなり変な空間に飛ばされて、勝手に約束させられて帰ってきただけだよ」
「それを詳しく知りたいの」
僕はあの時の出来事を事細かに彼女に話した。
結婚の話をした時は僕に掴みかからんとばかりに近づいてきて、怖かった。
全てを話終えると、彼女は咳払いをした。
「今、君は私達の世界とあっちのその九尾ってやつの世界と結びついてるってこと?」
「そうだね、きっと今は綱引きみたいに両方と結びついていて引っ張り合われている」
「もしも、何か更に引っ張るものがあったら君は九尾の方にいくの?」
「行くのかもしれないけれど、今は分からない。でも今僕の身体は普通の君たちの物と妖怪の物が渦巻いていて、そのバランスが崩れたらきっと」
僕がそう言うと彼女は悪い考えを振るい払う様に顔を左右に振った。
「成程、大体分かったわ」
「それなら嬉しいよ」
そう言って僕は大きく息を吐いて外を眺めると、すっかり日が暮れてしまっていた。
そろそろ帰るかと僕は片付けを始めようとした時に彼女はその手を掴んだ。
「一緒に帰らない?」
「いいよ」
二人で帰るのも悪くないと思った。
片付けも終わって僕は荷物を纏めて帰ろうとすると彼女は僕の手を握ってきた。
驚きでその手を見つめていると彼女が理由を話してくれた。
「だって1週間もいなかったのよ?私は今だって信じられていないの、本当に今君がいるかどうか」
───そうだ、僕は一週間消えていた人間なのだ。
一週間、完全に変わるのには時間が足りないが、変わるきっかけを掴むのには十分な時間だ。
きっとそれで彼女は何かが変わったのだろう。
そして、僕も変わった。
「今日話を聞いて思ったのは妖怪なら妖怪の世界だけでやってて欲しいわね」
「僕もそう思う」
僕は、二人で歩いていた道の角に九本のしっぽが見えた気がした。
「ほう、早速約束を破るとはダメな旦那様じゃ」
───そして、声も聞こえた気がした。
今気づいたけど獣耳要素無くね