Bang Dream! ~時空の叫びと星の鼓動~   作:ライノア

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七話 前編、どうぞ。


第七話:申し子の喧嘩 前編

NO SIDE

 

???『君の強さには少しは期待してたけど、やはりこの程度か』

バシャーモ『うっ、がぁ、あぁっ...!』

 

とある雪が積もる道端で、バシャーモは仰向けに倒れていた。

ただ仰向けになった訳ではない。左脚と右手が骨折している。

折れた胸骨の先端が肺に刺さり、呼吸はとても困難で今でも虫の息だ。

無数の切り口から鮮血が銀世界を真紅に染み込んでおり、胴体から腰の間までに広がっている。

バシャーモは自身に重症を負わせた巨体のポケモンを睨む。視界は朦朧(もうろう)としているが、姿は何となく確認出来る。

 

???『君のトレーナー...確か、沙綾とか言ったね。あのポケモンが倒したがっていた二匹のポケモンを誘き寄せるのにも、十分に利用価値がある』

バシャーモ『貴様!沙綾を、なつ達をどうするつもりだ!?一体何が...ぐあぁっ!?』

 

遠退きそうになった意識を無理やり覚醒させるべく突き立てられた爪が、痛みで目を見開いたバシャーモの腹部に喰い込む。

既に満身創痍となっていたバシャーモの苦鳴が響く。

覚醒させられた意識を利用したバシャーモは、力の全てを出し切ってでも突き立てられた鉤爪を押し出そうとするが、額にある赤い月模様にエネルギーが充填される。

 

???『まだ足掻き続けるのかい?全く、若いポケモンは良いね...羨ましい限りだよ。でも、安心しなさい。君のトレーナーの家族に危害を加えるつもりはない————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警告だ。ガルパ地方の悪夢について触れるのは止めたまえ。さもないと、再び私が君を鮮月に染め上げることになるから』

 

警告と共にエネルギーが放出され、バシャーモの意識は闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RIO SIDE

 

後日、バンド名は『Poppin'Party』に決まった。

ポスターの宣伝イラストはりみが書いたもので、ライブは文化祭当日である土曜日の15時の予定だ。

 

有咲「ううっ、何で私まで...!」

たえ「...任せて!」

有咲「ええっ!?うああああーーーーっ!!!?」

たえ「...御免。無理だった」

 

黒板に貼ろうとしていた有咲が花園が咄嗟に持ち上げようとしたが、力量が足りていなかったのか即座に断念した。

 

有咲「おまっ!?花園たえーーーッ!!」

 

自分を持ち上げられなかった花園の断念に、有咲は怒号を上げる。

俺と香澄はポスターの目前で(たたず)んでいた山吹に近寄る。

 

理央「バンド名は有咲が考えたそうだ。お前のアドバイスのお陰だな」

有咲「山吹さんが良いって言ったから、一応提案しただけだし...」

沙綾「うん。香澄達にピッタリな良い名前————」

香澄「さーやも!」

沙綾「...えっ?」

 

突然勧誘されたかの様に名前を呼ばれた山吹は振り返ると、ポスターの中心に描かれてあった星の先端にはメンドメンバーの名前が記載されていた。

その右下には山吹の名前があった。

 

香澄「さーやもメンバーだよ!」

沙綾「......」

香澄「あっ。ゆり先輩!りーちゃん先輩!」

 

香澄が偶然に見掛けたグリグリメンバーの所へ駆け寄る。

俺もそれに合わせてゆり達のところへ向かう...フリをしてロッカーの後ろに隠れた。

昨日と同様、山吹は暫くポスターを見ながら黙考していた。

山吹の過去を暴くためとはいえ、義理の姉である香澄を利用したのはホントに申し訳ないと思っている。

実はサルヒコもバシャーモのことを気に掛けていたので、二人が寝静まった頃に外での話し合いは昨日の内に済ませている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~回想~

 

サルヒコ『あいつは木に背中を付けて座る際に、右脚だけを曲げてフーズを食べる時は左手を使っていた...それだけじゃない、腹には傷痕(きずあと)の様なものが複数あった。これは俺の臆測かもしれないが...(かつ)てのバンドを脱退した日を機に、何者かによって重症を負わされたんだろう』

理央『...だな。すれ違い様で夏野に打つかるフリをして時空の叫びを発動させようにしても、過去の山吹からその理由を聞き出すことは出来ない』

サルヒコ『だったら、こっちも''奥の手''を使うしかないな』

理央『何だよ、''奥の手''って...』

サルヒコ『香澄を利用するんだ』

理央『!?』

 

当初はサルヒコが告げた事実に、俺は言葉を失った。

開いた口が閉じない程に目を見開いた。

それに構わずにサルヒコは続けた。

 

サルヒコ『時空の叫びを使用を目論(もくろ)んで待ち伏せしていたとしても、偶然に見掛けた人間から勘違いされる可能性が高い。だったら、唯一沙綾の心を開こうとしている香澄を上手く利用して、嘗て親交関係だった奴を誘き寄せる...所謂(いわゆる)、ハニートラップみたいなモンだ』

理央『...海野夏希のことか?』

サルヒコ『そうだ。クライブ前の日にお前は一瞬だけ目が合ったと言っていたな?その時は俺もモンスターボールの中にいたが、あれは何か裏がある...そう思ったんだよ』

理央『確かに良い考えかもしれないけどよ、俺が香澄を利用するなんて...そんなの絶対————』

サルヒコ『躊躇(ためら)う気持ちは分かるが、此処は大船に乗ったつもりでいろ。それに、今回の情報伝達はガマロクとアロウに任せてある。実行するなら今しかないぞ』

 

正直言って、俺はサルヒコが持ち掛けてきた取引に躊躇(ちゅうちょ)していた。

血の繋がりのない、戸山家の養子として育てられた俺が義理の姉を利用する行為は余りにも()(がた)いものであった。

それはサルヒコも同じ気持ちを表していた。外側では意地を張って堂々と言ってはいるものの、心の内側では一人のポケモントレーナーを利用しようしようとしていた自身の罪悪感に(さいな)まれている。

けど、今此処で腹を(くく)らなければ、山吹は一生過去の鎖に縛られながら生涯を終える未来が目に見えている。

俺の出す答えはただ一つ————

 

理央『...分かった。お前がそう言うなら、俺はやる。お前もバシャーモの心情が分からないままだろ?だったら、俺達の出す答えは一緒だ』

 

溶け出した泥舟に、ただ身を乗せるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

???「さーや?」

 

そして今に至り、回想に浸っていた俺の右側に声が飛んできた。

サルヒコは俺をロッカーの右側に隠れさせると、そのまま耳を澄ます。

山吹が振り返った矢先に現れたのは、有咲と同じB組の海野夏希。

まさかこんなところに現れるなんて一石二鳥だ。恐らく奴も貼っていたポスターを見たのだろう。

 

夏希「何か、久しぶり...って、同じ学校なのに変だけど」

沙綾「...うん」

 

小さく返事をした山吹。

海野は貼ってあったポスターに目を付ける。

 

夏希「バンドやるの?良かった!やる気になっt————」

沙綾「...やらない!」

夏希「えっ...!?」

 

やはり二人はバンド関係にあった様だ。

だが、そんな軽すぎる誘いは呆気なく断念されてしまった。

 

沙綾「友達が、間違って書いちゃって...御免」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OP主題歌『Busy/Be Somewhere』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄「ライブまで後三日!ふうぅ〜!!」

 

体育館のステージの様子を見ている際に、香澄はギターケースを持ちながら叫ぶ。

 

有咲「後、三日かぁ...」

りみ「緊張してきてきちゃったぁ...!」

たえ「トントントン。飲む?」

りみ「有難う...」

香澄「見て、ドラムだ!ドラムある!」

 

りみと花園が謎の遣り取りをしている間に、香澄はステージに配置されていたドラムを見て燥ぎ出す。

りみによれば、他のバンドも共有で使用するとのことだ。

 

香澄「私達は?」

りみ「えっ...?」

有咲「ってか、ドラムは誰がやんの?」

理央「あ、言われてみれば...」

 

有咲の言葉で、俺達は初めて自分達のバンドの中でドラム担当が居ないことに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

クラスメイトA「じゃあ、私は此処で」

沙綾「うん。これで決定!後は香澄だけだね」

 

一方、A組では沙綾はクラスメイト二人と喫茶店の当番表を確認していた。

他のクラスメイトに(ねぎら)いの言葉を掛けられ、残るは香澄だけとなった。

 

沙綾「どっかで休憩入れてあげなきゃね...まだ戻ってきてない?」

クラスメイトB「香澄なら、体育館のステージに行ったままだけど...」

 

クラスメイトの予測を頼りに香澄の様子を確認すべく、沙綾は体育館に(おもむ)く。

すると、其処にはドラムに座りながらギターを弾いていた香澄の姿があった。

 

香澄「ドラムギターの戸山香澄です!」

有咲「ドラム叩きながらギター弾く訳!?」

香澄「やっちゃ駄目!?」

有咲「出来るならやれば?」

 

ドラムとギターを同時にやろうとした香澄を、有咲はそのまま見守ることにした。

物は試しにランダムスターのヘッド部分でシンバルを鳴らすのを(こころ)みるが、やはりドラムとギターを同時にやるのは人間には難業である様だ。

 

たえ「カイリキーなら出来るかも!」

有咲「...香澄リキーには無理だろ。ライブは今回だけじゃねーし」

香澄「有咲、やる気満々?」

有咲「そんなんじゃねーし!」

たえ「二度あることは三度あるよ!」

香澄「あるある〜!!」

 

香澄達の遣り取りを見て、沙綾の脳裏に一年前の出来事がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~回想~

 

???『良かったね。お母さん直ぐに退院出来て!』

???『ホント、すっごく心配した』

沙綾『...御免。迷惑掛けて』

 

沙綾の実母である千紘は少し貧血気味で倒れることがある。

その事を心配していたバンドメンバー達は激励の言葉を投げ掛ける。

どうやら、夏祭りでのデビューライブは成功したらしい。

 

???『だから大丈夫だって!』

夏希『そうそう!ライブも何とかなったし!』

???『それは何とかなったて言う〜?』

???『そうだ、聞いてよさーや。夏希、ステージに上がったら思いっきりテンパっちゃって!』

 

背丈の高いセミロングの少女 川端 真結(かわばた まゆ)は沙綾を(なだ)め、おさげ髪の森文華(もりふみか)は夏希がステージで焦燥したことを揶揄(からか)いながら言う。

 

夏希『言うなよ!?』

???『足ガックガクで!』

夏希『だから御免って〜!』

 

談笑する三人を見て、沙綾の気持ちは少し和らいだ気がした。

だが、千紘が倒れた事については自分にとって不甲斐なさを感じていた。

 

夏希『今日だけじゃないよライブは。又一緒にやろっ!』

沙綾「...うん」

 

''一度はステージに出られなくても、又次のライブでステージに上がれる''。

夏希の励ましの言葉で沙綾は、自分の胸の内を明かさずにただ(うなず)くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

 

沙綾「お母さん...何やってるの!?何この量...!」

 

帰路を通り、帰宅した沙綾は自室に戻ると外のリビングで千紘が洗濯物を干していた。

戸惑った沙綾は心配の声を上げるのに対して、千紘は平然としている。

平然としているというよりは、無理を通していると言った方が正しいだろう。

 

千紘「天気良かったから!」

沙綾「やるなら言ってよ!」

千紘「心配性ねー」

沙綾「一人でやらないって約束...!」

千紘「はいはい...」

 

暫くして、洗濯物を畳んでいる千紘の背後で(うずくま)っていた沙綾に文化祭の段階について尋ねる。

 

千紘「文化祭、どう?」

沙綾「...どうって?」

 

曖昧な答えしか出せずにいた沙綾の頭にタオルが被さる。

 

沙綾「母さん————!」

千紘「こらっ!沙綾の悪い癖出てる。何でも一人で考えちゃ駄目」

沙綾「...うん」

 

優しく励ます千紘は沙綾の頭を撫でながら和ませる。

その様子を壁際で見ていたバシャーモは右拳を強く握ると、密かに一階へ下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RIO SIDE

 

文化祭まで後二日となり、俺達A組の準備はより(はかど)っている。

 

りみ「香澄ちゃん上手〜!」

香澄「えへへー」

クラスメイトC「花園さん、何描いてるの?」

たえ「パッチール」

クラスメイトC「ええっと?パッチールの分類が''ぶちパンダ’’...ちょっと待って。パン売るからパッチール!?」

たえ「...天才!?」

 

香澄とりみはコーヒーやホットケーキの絵を描いており、花園は黒板にパッチールを描いていた理由をクラスメイトに勘付かれる。

 

沙綾「......あっ!」

香澄「さーや、やるよ。もう帰んなきゃでしょ?はい!」

沙綾「...ちょっと待って」

 

山吹は浮かない顔をしながら掃き掃除をしていたが、其処へ香澄が気を遣う様にちりとりを取った。

二人で掃き掃除をしながら、香澄はバンド練習の進み具合を話題に出す。

 

香澄「この前さーやと考えた歌詞、いい感じに出来たよ」

沙綾「へぇー」

香澄「曲も出来てね、練習してるんだけど可笑しくてわぁーってなる!でもカッコいいの。聞く?」

沙綾「ううん。文化祭で聞く」

香澄「そう?えへへ。もう直ぐだねー」

 

一昨日と同様に山吹は間を置くと、視線を合わせて笑みを浮かべた。

掃き掃除が終わり、家の手伝いを優先すべく山吹は先に帰宅することとなった。

 

沙綾「それじゃあ、先に帰るね」

香澄「後は任せて!」

クラスメイトD「もう片付けるだけだし、香澄と理央だけでイケるっしょ!」

沙綾「ホント、大丈夫〜?」

クラスメイトE「大丈夫だって。いざとなったら私ら居るし」

香澄「酷い〜!」

沙綾「...んじゃ!」

「「「お疲れ〜!」」」

 

談笑が収まると、山吹を見送ったクラスメイト達は再度文化祭の準備に励んだ。

 

クラスメイトD「よぉーし、ささっとやるか!」

香澄「うん!りーくんも手伝って!」

理央「...ああ。今行く」

 

香澄に呼ばれた俺も、準備の仕上げに取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




TO BE CONTINUED...









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