さてひと口に『山』と言えど、種類がある。大きく分けるのならば、緑があるか否か。
イフウ村の傍にある山は基本的にどれもこれも森を内包したものだ。しかし、山の中でも一際高い一座は、途中から緑は疎らとなる。
これは、その一際高い山である『天風山』には「アマカゼ様」が住むと言われており、「アマカゼ様」の纏う風によって、木々は根付くことが難しいのだと言われている。
「アマカゼ様」とは、イフウ村にて信仰されている神。風を纏い雨を喚ぶ龍神。
アマカゼ様は清浄な風を齎し穢れを払い、喚ぶ雨によって恵みを与える。
だが、ひとたび怒れば嵐を吹かせ、三日三晩の災禍を巻き起こす。そんな神だ。
確かにイフウ村には、常に心地よいそよ風が天風山より吹き下ろしている。だから、イフウ村は海岸の村でもあるのに塩害に悩まされない。
さてその「アマカゼ様」のおかげか、イフウ村周囲の山の森にはそこまで凶暴で強い獣や竜は棲んでいない。
主に生息するのは蜂蜜を舐める青い熊や、盾虫を啄む怪鳥、競合する群れがほぼないためか大体昼寝している狗竜の群。
強くても、人に慣れているのかとても温厚な泡狐竜がいる程度だ。
そんな訳で、イフウ村におけるハンターの仕事は主に採取や護衛などになる。もしくは、近くの別の村の応援に駆り出されるか。近辺では精々、気がたちすぎた青熊獣を捕獲するくらいしかない。
そのため、ユウはアークに特に「採取の知識と技術」と「モンスターの痕跡の見つけ方・対処法」を教えていた。
「さて、実践だが……いくつかの物を集めてきてもらう。何を集めるかについてはここに書いた」
ユウはアークに畳まれた紙を渡す。アークは受け取り、その内容を確認する。
「ロイヤルハニー、バクレツアロワナ、怪鳥の鱗、泡立つ滑液?」
「ああ。手に入れる手段は問わない。私はここにいるから、全て集まったら戻ってこい。質問は受け付けん」
「ええ……」
アークは困惑した。前2つはまだしも、後ろふたつをどうしろと、と。
だが、ユウは無理難題のようなことを言えども、出来ないことを無理強いさせるような人物ではない。
仕方がなく、アークはそれらを集めに行くことにした。
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さて、先ず探しているのはロイヤルハニー。比較的見つけやすいと踏んだからだ。
「ロイヤルハニーか……確か、青熊獣の餌場によくあったはずだな」
アークは背負ったボーンホルンを確認しつつ、万一青熊獣……アオアシラが襲ってきても対応できるように心構えはしておく。
木々の間から、蜂の巣の多い場所をそっと覗き込む。アオアシラが満腹なのか、すやすやと眠っている。
足音を立てないよう、蜂の巣に忍び寄る。
眠り込んでいるのか、ロイヤルハニーを探し出してその場を去ろうとしても起きる様子はない。
(……ここまで深く眠ったっけ?)
まあいいか、と、アークはロイヤルハニーをなんとかみつけて瓶に詰める。
その場を去ろうとした時、なにかきらりと光るものがアークの視界に入った。
それは銀色の粉のようなものだ。彼はなんとなく、かつて扱っていた黒い粉……つまり鱗粉に似ている気がした。
変な虫でもいたのだろうか?と、あまり気に留めず、彼はその場をあとにする。